今日の気分はとっても墓荒らしな俺 (『呪いのビジョン 特別版vol4』収録; 1996年)
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今日の気分はとっても墓荒らしな俺 (『呪いのビジョン 特別版vol4』収録; 1996年)


今日の気分はとっても墓荒らしな俺

映像作品

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発見された映像内の1シーン
制作 - 久怨株式会社
発表 - 1996年頃
ステータス - 部分的に発見

今日の気分はとっても墓荒らしな俺 は、久怨くおん株式会社が1996年に発表したとされる短編ホラー作品。7分9秒1の映像作品であり、同社の代表作『呪いのビジョン』シリーズの派生ビデオ作品である『呪いのビジョン 特別版vol4』に収録されていた。

『特別版vol4』は過去作の未公開映像やメイキングシーンを収録したファンアイテム的な側面が強く、会員限定の通信販売という形式による流通数の少なさと、翌年の久怨株式会社の倒産が重なり、現在もその大部分が失われたままとなっている。

中でも収録作の『今日の気分はとっても墓荒らしな俺』が当サイトを含むロストメディア捜索グループにしばしば取り上げられるのは、内容そのものよりもこの作品に関わる都市伝説と、後述する「3度失われた」特殊な経歴を持つところが大きい。

背景

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久怨株式会社

本作を発表した久怨株式会社は、特にホラー、オカルト、心霊、都市伝説といった題材のメディア制作で知られる和歌山県の中小企業であった。大衆的な知名度こそ低いものの、同社の作品はオカルト的描写の緻密さと擬似ドキュメンタリー(モキュメンタリー)やファウンド・フッテージの手法を駆使した低予算ながら臨場感の高い恐怖演出により、マニアの間では一定の評価を得ている。

しかしながら、久怨株式会社は撮影中に行われた数々の違法行為でも悪名高い。「同社の作品にワンカット長回しで撮られた場面が多いのは、土地・建物の所有者の許可を得ていない状況でそれらの撮影を強行しなければならなかったためである」という逸話が好例だろう。

無断撮影や不法侵入、器物損壊により撮影地の住民とトラブルになったケースも多く、口論になり怒号を浴びせかけられる様子さえも作品内に組み込んだ『死穢ヶ塚』はその過激さから話題を呼んだ一方、公開後には裁判にまで発展している。久怨作品の評価点であるリアリティと描写へのこだわりは、多くの場合モラルや法の軽視と表裏一体になっていた。

やがて久怨株式会社は厳しくなる規制と批判の目から逃れるように、会員制通信販売という形でより好事家向けの需要に特化した映像作品を発表するようになっていく。その1つとして1996年に発売されたのが、『呪いのビジョン 特別版vol4』であった。その販売形式上、当時いくつかの雑誌に掲載された広告以外に詳細な情報は残されていない。

翌年の1997年、制作スタッフ・幹部役員らの失踪により久怨株式会社は倒産に陥った。失踪の理由は役者とのトラブルや資金繰りの悪化によるものとの見方が一般的ではあるが、上記のような久怨株式会社に関する逸話から、後年にはそれらの失踪が過去の撮影にまつわる「祟り」や「報復」であったという都市伝説が自然と囁かれ始めた。

2011年頃には、Youtube上で複数の都市伝説系配信者が(いくらかの脚色を交えて)散発的に取り上げたことで、この「呪われた映像制作会社」にまつわる噂はネットに広がることとなる。その結果、細々と維持されていた久怨株式会社のファンコミュニティには多くの新規が流入し、散逸した久怨作品の捜索がにわかに活発化した。

そうした動きの中、あるネットユーザーが本作と思しき映像を偶然発見する。

発見場所はWebサイト「paranoiac-BB」。久怨株式会社の作品が日本国内ですらマイナーであることからこれまで捜索の対象になっていなかった、海外のアングラ系動画共有サービスである。そこへ2005年にアップロードされた『grave robber?』というタイトルの動画には、投稿者コメントとして以下のような文章が英語と日本語を併記する形で記載されていた。

父の遺品から見つけたビデオテープの映像です。恐らく誰かから譲り受けたもので、ラベルには「今日の気分はとても墓荒しな俺」と手書きされていました。どうか、詳細をご存じの方がいらっしゃればご連絡ください。

それまで本作は『今日の気分はとっても墓荒らしな俺』というタイトル以外の詳細は明らかになっていなかったため、この発見報告は驚きをもって迎えられた。本編映像の発見により、本作は発売から15年越しに再び日の目を見ることとなったのだ。

ひとまずのところは。

内容

断片的な目撃証言をもとに再構成された『今日の気分はとっても墓荒らしな俺』の内容は以下の通りである。全編ワンカット撮影であり、画質などから手持ち式のビデオカメラで撮られたPOV形式の作品だと思われる。


タイトル表示などは存在せず、荒い息とともに激しく揺れる映像から始まる。夜間であるためか画面全体が暗く、ビデオカメラのライトに照らされて鬱蒼と茂る下生えと撮影者のものだと思われる足が時折映る。撮影者は草むらのような場所を走っていると思われる。

やがて草が開け、ある程度地面が露出した場所で画面の揺れが収まる。撮影者は呼吸を整えるために立ち止まったと思われ、カメラは正面に向き直った後、周囲を照らすように左右に振られる。周囲は森であるが、撮影者の前後には雑草が刈られた道が存在する。

人の声2が聞こえる。恐らく声のした方向にカメラが向けられると、暗闇の中に何か光るものが映る。カメラがズームしていくと、それがステンドグラスのような装飾があしらわれた何らかの建造物であることが判別できる。

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建造物 (オリジナルの映像)

光の中に影が写り込む。逆光で詳細は判別できないが、それは大まかに人の形をしているように見える。更にもう1つ人影が現れ、カメラのライトに気が付いたかのように撮影者の方に向かって腕を伸ばす。

カメラが建物から外れて画面全体が大きく揺れ出し、撮影者が再び走り出したことが判る。そのまま数十秒に渡って地面を映す似たような映像が続くが、撮影者の息遣いと嗚咽、砂利を踏む足音に混じって、やがて複数人のものと思われる同様の足音が聞こえ始める。

カメラが振り向くと、撮影者を追いかけて来る複数の男女の姿が映る。それらの人物は全身黒い服を着ており、全員同じ紙製のお面のようなものを被っている。お面は頭頂部が禿げた中年男性の写真を切り抜いて作られており、それら全てに落書きのような眼鏡と髭が書き加えられている。

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証言をもとに作成された再現画像

撮影者は悲鳴を上げ、「おなじおなじ3」と叫ぶ。直後に画面が上方向に振れ、ガサッ、ボキッと形容される音とともに映像は大きく乱れる4。カメラのレンズが塞がれているか、転落の衝撃によってライトが破損もしくは消灯しているため、画面は暗いまま撮影者のものだと思われる痛みに呻くような声だけが続く。

しばらくすると、ガサガサという茂みを掻き分ける複数の音が聞こえる。撮影者の「うあっ、あー」といった叫び声が上がるが、それはすぐにくぐもり、遠ざかって行く。その後はカメラのバッテリー切れを知らせる警告音が2回ほど鳴るが、変わらず森の中の環境音と暗闇が続き、そのまま映像は終了する。

2度目、そして3度目の喪失

この発見が最初に共有されたのは、「南関東奇譚会」という名のネットコミュニティだった。実話怪談や都市伝説の蒐集を行っていた彼らは「奇譚会界隈」と通称される多くの関連グループを抱えており、その中の1つに久怨作品を追う捜索フォーラムが存在していたのだ。発見の報告に住民は歓喜の声を上げ、しばしの間フォーラムは本作の内容についての感想交流や考察に沸き立った。

2011/09/21 21:03
タイトルの"俺"ってのは撮影者のことでいいのか?墓荒らしをしたから追われてるってことか? ― Gyukushii

2011/09/21 21:09
追って来てる奴らの服が喪服に見えるんよな。建物の中で葬式でもやってた?付けてるお面は遺影なんかね ― 乱kill龍

2011/09/21 21:12
葬式で写真に落書きして遺族に追われてるって話なら筋が通るけど、「墓荒らし」とはズレてる気がするんだぜ! ― ペデストリア

2011/09/21 21:20
ズームの時に映った建物っぽいのは宗教施設っぽさがあるよね。全体的にカルト教団モチーフっぽい感じはする、前年の95年には地下鉄サリンとかのオウム関連もあったし ― ああ言えば豪遊

2011/09/21 21:27
ステンドグラスに日の出らしき意匠がありますね。何度でも昇る太陽、基督教的な「復活」の概念、土葬と夜と墓荒らし。繋がりは見えますが、単なる撮影地でしかないならどこまで考察に入れていいものか。 ― アナテマ

2011/09/21 21:29
そもそもみんなはこれを作り事だと思ってるのかしら?私にはそう思えないのだわ。ここにはきっと何かが映ってるはずなのよ、久怨を潰れさせたおぞましい何かが。 ― アネ宮@24h貧血

2011/09/21 21:33
アネさんの意見には半分賛成。クオンを見るなら「真実が混じっているか?」って問いは論外。「どこまでがフィクションなのか?」が問題。 ― 河童の質流れ

そして、数時間後に彼らの声は阿鼻叫喚へと変わった。

2011/09/21 23:14
話題になってた例の動画リンク、見に行ったら削除されてないかこれ ― 煙道

2011/09/21 23:15
「Oops!! This video does not exist.」としか出ないな。 ― 奥村

この書き込みの通り、発見から一夜を過ぎずして当該の動画ページが削除されていたのだ。paranoiac-BBのサイト管理者直々に行われた削除の理由は「悪質な要素が含まれていたとの報告があったため」と掲載されていた。アンダーグラウンドなサイトの性質上、ここでの"悪質な要素"とはエログロ的なもの以上、サイト閲覧に悪影響を及ぼすブラクラやマルウェアなどを指している。

管理者の気まぐれが多いサイトであったのもあって、こういった唐突の削除自体は珍しいことでは無かった。『今日の気分はとっても墓荒らしな俺』が発見されたその数時間後の、あまりにも狙いすましたようなタイミングでさえなければ。

この衝撃的な展開に最も過敏な反応を示したのは、最近コミュニティに流入した新規ユーザーたちであった。動画の発見を主導した彼らにとっては、自分たちが熱意を傾けて得た成果を目の前で奪われる形となったためだ。そのやるかたない怒りはやがて「何者かが捜索妨害のためparanoiac-BBの管理者に虚偽の報告を行い、動画を削除させた」という陰謀論へと発展する。

一方で以前から久怨作品の捜索を行っていた旧来のフォーラム住民は、あるユーザーのコンピューターがウイルスに感染したことをきっかけに「動画の発見報告自体がウイルスに感染させるための罠だったのではないか」「あいつら(新規ユーザー)はただ俺たちをかき回そうとしている」といった疑いの声を上げた。話題性に乗じて"にわか"が雪崩れ込んできていた現状に不満を持っていた者たちは、すぐにその肩を持った。

以前から僅かずつ軋みを上げていた旧フォーラム住民と新規ユーザーの関係はここに来て完全に決裂し、捜索フォーラムは真っ二つに分裂することとなる。やがてヒートアップした暴言と水掛け論と荒らし投稿で埋められたフォーラムは2度の大量アカウントBANを経て閉鎖され、久怨株式会社とその作品に関する話題は暫くの間、奇譚会界隈のネットフォーラムにおける"暗黙のタブー"として扱われることとなった。

更にはこのフォーラムの運営母体であった「南関東奇譚会」そのものでさえも、主要メンバーの痴情のもつれや不祥事に関する告発などが相次いだことで、翌2012年には会の解散が発表される事態となったことを付け加えておくべきだろう。これらの不名誉な顛末により残っていた僅かなフォーラム住民たちも散り散りとなり、今もその行方は明らかになっていない。

『今日の気分はとっても墓荒らしな俺』は久怨株式会社の倒産によって1度失われ、ネット上へと密かに転載され残っていた動画も削除されて失われた。そして、動画を見たことでその内容を詳細に語ることができたであろう数少ないユーザーたちさえもフォーラム上の内輪もめで去った時、本作はついに3度目の喪失を迎えることとなったのである。


(追記)コメントの指摘で分かったことだが、本作の転載動画が掲載されていたparanoiac-BBは後にドメインが買収され、現在は映画会社ザ・シリーキャット・ピクチャーズのホームページへとリダイレクトされるようになっているようだ。買収の意図に関して陰謀論的な憶測が飛び交っていることは承知であるが、これでまた1つ、本作にまつわる時代の証人が失われたという事実だけはここに記しておきたい。

可用性

捜索フォーラムのWebアーカイブには本編映像を切り抜いたと思われる数枚の画面キャプチャと、その内容に関する断片的な言及が残されている。それらと当時の広告をつなぎ合わせることで大まかなプロットを想像することは可能であるが、『今日の気分はとっても墓荒らしな俺』の本編映像は2011年以来未だに再発見されていない。いくつかの発見可用性について以下に記す。

  • 本作が収録された『特別版vol4』は会員限定で通信販売された。1996年当時会員がどれだけ存在していたか不明であるが、後に転載動画が発見された事実からも一定数の流通があったことは確実視されている。媒体であるVHSビデオテープの耐用年数はおよそ20年とされているため、他の未デジタル化ロストメディアと同様に再発見が急がれる。
  • 当時の広告やパッケージ写真等に記載が無いため、本作のキャストは特定されていない。そのため撮影関係者へのインタビューという形で本作の内容を知ることは難しいだろう。ただし撮影者の顔が映らず、また他の人物も仮面を被っているということから、本編映像が再発見された場合においても同様に特定は困難であると思われる。
  • paranoiac-BBに本作の映像を転載した人物(アカウント名: shige26)は、少なくとも2005年まではその映像データと原本であるビデオテープを所持していたと思われる。「父の遺品」という記載があることから、何らかの形で現在もそれらを手元に残している可能性があるとして期待されているが、現在まで同氏へのコンタクトに成功したという報告は無い。なぜ情報を求めていたのかについての詳細も不明なままである。
  • 本作の大まかなあらすじが判明した後、2011年以前に同様の動画を目撃したことがあるという報告が増えている。あるいはshige26が父親の遺品についての情報を求めてparanoiac-BB以外の動画サイトへも転載を行っていたのではないかという説や、倒産後も久怨株式会社を名乗る何者が同様の作品を発表し続けているのではないかという噂までもが存在するが、多くは記憶の混同によるものだと思われる。
  • 本作が7分9秒であるという情報はparanoiac-BBへ転載された動画の再生時間より推測されたものであり、タイトル表示などが無いとされることから、実際には本作はより大きな作品の一部なのではないかとの考察がある。『呪いのビジョン 特別版vol4』のファンアイテム的性質上、いずれ発表する作品の予告編のような形で先出しされたのが本作だったのではないかというものである。
    • あるいはその作品こそが、久怨株式会社を破滅させるに至った「最終作」であったのだろうか。本作という1欠片を失ったことで、我々はその全体を推測する手がかりすら失ってしまったのかもしれない。

脚注

メインライター: j (𝕏/Jonnys_nightmare)
◎Lostmedia searcher QuoVadis?


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