すききらいすききらいすききらいすききらい
-今日もわたしは占い続ける。
すききらいすききらいすききらいすききらい
-あの人はわたしのことが好きなのか、それとも違うのか。
すききらいすききらいすききらいすききらい
-これがほんの気休めにしかならないことぐらいわかってる。
すききらいすききらいすききらいすききらい
-でもどうしても期待しちゃうの。
すききらいすききらいすききらいすききらい
-今日こそは「好き」って結果が出るんじゃないかって。
資料室から廊下に出ると、あの音が微かに聞こえてきた。“彼女”はまた“花占い”に徹しているらしい。まあ、あんなに物騒で過激な花占いなんて、誰ひとり真似は出来ないだろうけれど。
何しろ恋焦がれる相手のハートを奪うどころか、命まで奪ってしまえそうな勢いなのだ……実際アレの威力は普通の銃弾となんら変わりがない。
すききらいすききらいすききらい……
収容ユニットのある区画に辿り着くのとほぼ同時に音が鳴り止み、あたりはしんと静まり返った。
どうやら、今日の“花占い”は終わったらしい。
「今日は1分も続かなかったなあ」
新しい花弁を補充しに来ていた同僚が、怪訝な表情で首を傾げていた。
「確かに終わるのがいつもより早い気がするよ」
「一体どうしたんだろうなあ……」
傍の監視モニターを2人して覗き込む。鋼鉄製の箱の中に置かれた防弾素材の箱は、少し歪んでいるように見えた。
-今日の花占いも「きらい」で終わった。 ガツン
-なんでよ。なんでなの。 ガツン
-いつもわたしに優しくしてくれるし ガツン
-目が合った時は必ず笑いかけてくれるじゃない、 ガツン
-それなのにどうして、 ガツン -どうしてきらいだなんて ガツン ガツン
「おい!やめろ!」
-また、いかつい格好のお兄さん達が邪魔しに来た。これで何回目だろう?わたしがこうしてるのがよっぽど気にくわないみたいで、こっち来ないで!って言っても聞いてくれないし、何度も何度もやってくる。
-邪魔しないで、わたしにかまわないで、 もうほっといてよ!
-わたしはお兄さん達を振り切って、
-また壁を殴りつけた。 ガツン
“彼女”が突然動かなくなってから2週間程経った頃。横倒しのまま、ぴくりともしなかった“彼女”は前触れもなく起き上がり、何事もなかったかのように平然と“花占い”の準備を始めた。延々と壁を殴り続けたせいだろうか、以前と比べてボディの傷が随分と増えているものの、それ以外の異常は特に見当たらない。
真っ赤なリボンを跳ね上げ、藍色の布をひらひらと揺らしながら、“彼女”が銃口から花弁を吸い上げていく様子がモニター画面に映し出される。“彼女”が完全に無力化しているかの判別ができかねるので、念の為に……と用意していた花弁の山は、“花占い”の準備が始まった途端、みるみるうちに小さくなっていった。
しばらくすると“彼女”は花弁を吸い上げるのを止め、音もなく浮き上がると、いつものように“花占い”を始めた。こもったような銃撃音が鼓膜をかすかに震わす。
わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]
-ああ。……何度やっても何度やってもうまくいかない。
わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]
-最後はいつもあの女の名前で終わる。何度繰り返したって結果は変わらないまま。
わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]
-あの[女性への罵倒語]……わたしからあの人を奪っていきやがった、
わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]
-わたしのほうがあんなヤツよりずっと可愛いしいい子だし、わたしのほうがあの人のことをすきだしずっとずっと愛し続けられるにきまってるのに、なんであの人はアイツなんかを選んだの、
わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]
-あの[女性への罵倒語]、絶対に許さない、ゆるさない、ゆるさないゆるさないゆるさない
わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]
“彼女”は今日も“花占い”をしている。
きっと苦しい恋なのだろう。多分報われることはない恋なのだろう。それでも一縷の望みに賭けているのか、あの日以来も“彼女”は“花占い”を止めない。今でも週に3、4回程、ふと思い出したように“花占い”をしている。
占いの結果は相変わらず“彼女”の望むものではないようだが。
恋はうぬぼれと希望の闘争だ -誰の言葉だったか忘れたが、“彼女”にはこの言葉がしっくりくるような、そんな気がする。
ゆるさ……な……い……
わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]わたしあの[罵倒]……