LTE-9202-Blue-Blackbuster
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脅威存在データベースエントリ

脅威ID:

LTE-9202-Blue-Blackbuster "亡霊ジェフティ"

認可レスポンスレベル:

3 (中度脅威) N/A (破壊確認済み、記録書庫入り)

概要:

LTE-9202-Blue-Blackbusterは、エジプト国カイロ郊外に本部を置き「プル・アンク・ン・ジェフウティ」(別名、ジェフウティの図書館)を標榜していた超常団体に所属するタイプブルーの集団であった。当該脅威存在は、2019/09/13に二大陸正常回帰事件の発生とともに消滅した同名の団体をベースとした複製、あるいは準時空間軸より生じた4次元同位体であると推測されている。オリジナルの当該団体は連合の発足当初から108評議会に加盟しており、古代エジプト文明の勢力圏における神学的脅威存在の管理および抑制を主要な使命としていた。LTE-9202-Blue-Blackbuster団体もまた同様の歴史を有しているかのように振る舞っているが、1998/07/12に発生したヴェール崩壊以降の団体史および世界史の自認に明確な差異を有する - 構成員らは一貫して、ヴェール体制が2019年まで存続していたとの主張を崩していない。

LTE-9202-Blue-Blackbusterが使用する奇跡術は古代エジプト文明を起源とし、その上に世界各地で開発された超常技術を組み込む形で発展したものであると見られている。これはオリジナルの「プル・アンク・ン・ジェフウティ」が保持していた武装と近似しているものの、1998年以降の技術進化の方向性は異なっている。より具体的には、当該脅威団体の持つ技術にはヴェール崩壊以降に一般社会の中で急速に進展したタイプブルー制御技術はほとんど認められず、ヴェール体制のもと正常性維持機関の管理下で開発された旧来技術の延長線上に生じたであろう、小規模な呪術制御のみが適用されていたものと考えられている。

沿革:

1998年のヴェール体制終焉後、かつて古代文明が存在していたギリシャ・ローマ・エジプト・メソポタミア等の地域では、文明に根ざす種々の伝承部族らの「再発見」がなされた。当初は連合および財団の監視の目から漏れた少数の亜人が人類社会に接触を試み、それらはホモ・サピエンスによってのみ形成される世界の在り方に疑念を投げかけた。さらに2001年、マンハッタン次元崩落テロの収束に伴い締結されたハドソン川協定は、伝承部族を含む多数のパラヒューマンが正常性維持組織のコントロールから解放される結果をもたらした。ヒトに比肩する知性を有する伝承部族らは国連に対し使節を派遣し、それまでの人間国際社会との正式な交流を樹立していった。メンフィスのピラミッドとその周辺に勢力を有していた猫ベースの伝承部族であるパシュトは、その第一人者であった。

エジプト・アラブ共和国における伝承部族の社会進出に大きな影響を与えたのは、超常国際企業としてヴェール崩壊以前から活動を継続していたトリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション社(以下、Ttt社)である。副社長のトート氏はエジプトを出身地に持つ伝承部族であり、ヴェール除去後のエジプトに対して数々の事業を連続して展開し、伝承部族の雇用確保ならびに人類社会に対する馴化を高効率で実行していった。結果としてエジプトに居住するパシュト族を含むパラヒューマンの大半(Ttt社および系列企業の社員を含む)は、非脅威存在(NTEs)に分類可能な水準まで危険性が低下したと見做された。伝承部族による超常経済活動がエジプト国の主要な財源としてカウント可能な規模まで活発化したことを受け、ホスニー・ムバーラク政権は2004年に「伝承部族平等法」を成立させ、国際社会に対する亜人人権活動先進国家であることをアピールした。

ヴェール消失後の世論が受けた不可逆的な変質を鑑みて、第63回GOC決議において、連合は一連のエジプト情勢変化を脅威と見做さない判断を採択した。一方で、20世紀におけるエジプト伝承部族に対する主要な抑止力として活動していた「プル・アンク・ン・ジェフウティ」は、幾度かの組織改革(および組織の小規模化)ののちに伝承部族に対する支援を行う方針へと転換した。しかし、この際に脱退した構成員の多くは伝承部族の権利を認めない姿勢を崩さず、21世紀に入り世界各国で着実に勢力を増していたナツドリズム思想団体へと流入し、連合との対立を深めていった。

2019年、規模不明の過去改変現象の発生およびその阻止の失敗に伴い、エジプトを含むアフリカ大陸全土がヴェール崩壊を経験しなかった状態へと置換された。先述した伝承部族との融和路線を採択していた旧エジプト国の本土とその住民は改変によって全てが抹消され、当時アフリカおよび南米大陸以外の土地(および超常区域)に滞在していた住民のみが消失を免れる結果となった。代わって出現した新エジプト国は、クーデターによる一時的な軍事政権発足とその後の大統領制への回帰などの事件こそ生じていたものの、概ね1998年以前の政治体制を維持しており、国民のほぼ全数が非異常性のヒトであった。大陸置換の発生後間もなく、中東各国および東欧諸国のナツドリズム主義者による非正式な軍隊が「正常な土地」を求めてアフリカ各地へと流入し、エジプトを含むアフリカ北部の広汎な区域が占領を受けた。2019年末には「サハラ夏鳥臨時軍事政府」の成立が宣言され、国連に対して国家主権を認めるよう要求した。

一方、伝承部族側は社会進出を推進していた勢力が大陸正常回帰の犠牲となり、新たに発生した個体群はヴェール崩壊以前に近いごく小規模な集落を形成するのみに留まった。そしてそこから溢れ一般住人と接触せざるを得なくなった者たちが、「プル・アンク・ン・ジェフウティ」と入れ替わったKTE-9202-Blue-Blackbusterの標的となった。特に、2022年4月にメンフィスの複数のピラミッドが破壊され、パシュトを含む多数の伝承部族が殺害された事件は、当該団体による伝承部族排斥行為として最大のものである。当該脅威団体はサハラ夏鳥臨時軍事政府、ならびにその中核を構成する軍事集団の一つ“アルタイル”と結託して、エジプトほかアフリカ北部における超常民族の掃討と外部からの流入抑制を主目的に行動していたものと推測されている。

粛清:

人類との共生の再開に関して、二大陸正常回帰後のエジプト伝承部族が抱く意見は概ね統一されていた。神界の次元ポケットに滞在しており正常回帰による消失を免れた勢力は、2019年以前の国体を取り戻すことを志向した。パシュト族においては、部族再興運動の一環として「猫の手」が結成された。一方、正常回帰によって新たに出現した勢力は、自身らが先述したKTE-9202-Blue-Blackbusterによる過剰な攻撃を受けたことに反発し、報復の機会を伺っていた。

旧大陸の国際社会における世論は、エジプト神族の社会復帰を推進すべきであるという意見が大勢であった。国連の非営利組織、Ttt社、プロメテウス・コンツェルン、マナによる慈善財団など複数の組織がアフリカの超常民族に対する包括的な支援を行うことを表明し、一部はその過程でサハラ夏鳥臨時軍事政府と対立した。これらの社会趨勢を背景として、ギリシャを筆頭とした種々の伝承部族が義勇軍を結成、伝承部族連合軍としてサハラ砂漠へ進軍し、2025年初頭には西側沿岸部より臨時軍事政府からの拠点奪還が開始された。国連の非超常連合軍もこれを支援した。

108評議会は、サハラ夏鳥臨時軍事政府内における超常技術兵器の運用を一手に担っていたKTE-9202-Blue-Blackbusterに対する粛清を実施することの是非を動議し、賛成46-反対33-棄権(出席不可能)29で提案は可決された。2025年1月下旬、KTE-9202-Blue-Blackbusterとの戦闘がカイロ郊外のギーザおよびメンフィスでそれぞれ発生し、同日中に当該脅威団体の主要なメンバーが捕縛された。尋問後の処遇に関しては評議会内で意見が割れたものの、最終的には通常の脅威人物と同様、粛清が選択された。

LTE-9202-Blue-Blackbusterの撃破と前後して、プロメテウス・コンツェルンから軍事的な支援を、Ttt社から後方物資の支援をそれぞれ受けたエジプト伝承部族は、旧大陸の伝承部族連合軍との合流に成功。2025年2月までにサハラ夏鳥臨時軍事政府の首都・カイロを陥落させ、パラヒューマンの存在を拒む勢力をアフリカ北部から放逐した。

解放後のエジプト国は大統領制へと復帰し、2019年以前の状態に近いヒトと伝承部族の融和政策が取られるようになり、国際連合からも歓迎された。108評議会は、エジプト伝承部族の管理を主要な業務とする団体を評議会内に再び設ける必要性は乏しいと判断し、「プル・アンク・ン・ジェフウティ」の後継団体を組織しないことを決定した。

PSYCHE部門の記録

事務次長局
送信者 コヴァルスキ特任使節 受信者 Veena事務次長補佐
件名 二大陸における108評議会加盟団体の動向
深くお詫び申し上げなければならないことがあります。1年間にわたるプル・アンク・ン・ジェフウティとの交渉は最終的に決裂しました。彼らは我々と道を違えることを選択しました。

彼らの行動規範は、1998年以前の我々のそれを遍く保全したものです。即ち、人類およびその構成する社会を維持するために、異常存在を破壊することです。彼らは人類の定義を拡張することを認めませんでした。ヴェールに包まれている期間が20年長かったアフリカ大陸では、神族を古代遺産の石積みの下に幽閉し、太陽の元に出たものを弑するのが依然として真っ当な営みであったのです。

108評議会の所属団体のうち29団体が“正常化”して以来、その定数は未だ充足されておりません。二大陸に現れた過去の同胞は我々が予想していた以上に信念が固く、彼らと再び共同戦線を張ることは今や現実的ではありません。連合が成立以来保ってきた数字に意味を持たせ続けるのであれば、私たちは現大陸へと戻り、評議会加盟歴の無い新興団体らとのコネクションを構築する必要に迫られることとなるでしょう。 

108評議会記録 2022/07/12より抜粋

メンバー:

  • 精神部門特任使節 ミハウ・コヴァルスキ
  • 硅のノルニルの従者 "トールビョーン" ミソロク・フガク
  • 猫の手 外交部門長 バスト・エル・シャマール
  • バヴァリア黎明結社 人心教導啓明者 アリステラ・チェラム
  • 世界超保健機関 疫学部門長 クリンゲン・シュバイツァー

[前略]

コヴァルスキ: では、次の議題です。えー、これは今回の会議における最も重大な決定を行う場となります。

フガク: 勿体ぶらないでいただきたい。何を論ずるべきか、この場にいる全員が既に把握している。

シャマール: そのとおりだ。これは喫緊の課題であり、今後の人類社会の方針を決定づけるものとなる。

コヴァルスキ: では簡潔に述べましょう。みなさん既にご存知のことだと思いますが、国連総局は2024年10月22日を以て、エジプトをはじめとするサハラ北部の夏鳥臨時軍事政府に対する武力介入を行うことを決議しました。そして我々世界オカルト連合の事務次長局は、国連の下部組織として、この決定を批准することを既に決定しています。

チェラム: つまり、間もなく我々は暗黒大陸との戦争に駆り出されることとなる。

シュバイツァー: 人間と人間の戦争はいつの世も忌むべきものです。我々は粛清する対象を慎重に吟味すべきであると主張しています。

フガク: まあ、今に始まった話じゃないな。ここ20年、「世界の守護者」たる者達にスケジュールの空きなんて無かった。

コヴァルスキ: ええ、ただし今回は戦闘範囲の規模が今までの比になりません。相手は概念でも虚構でもなく、現実に存在する国家です。それも、何百万とも知れない人口を擁する単一思想の集団です。

チェラム: 夏鳥思想を単一と表現できるかは論を分かつ可能性があるが、彼らの目指すものが現在の国際社会の通念からは許容し難い結果を招くことは共通している。そうだな?

フガク: 二大陸の主要国家は主要なパラテックの導入を拒絶する姿勢を崩しておらず、あまつさえその存在すらも信じていない。故に、未だに次元路も跳躍路も接続することは不可能だ。これは国連が奴らと事を構えたとき、戦線の迅速な展開を阻む大きな足かせとなる。

シャマール: そして、彼らはその持ち前のカタい石頭でもって、私たち伝承部族を強硬に迫害し続けている。彼らがいる限り、エジプトに私たちの居場所は戻ってこない。

シュバイツァー: シャマール氏が属するパシュト族の人口は2019年を境に数百分の一まで激減しました。当時に大陸外に居て難を逃れた方々は、新大陸で以前から細々と生活していた同族と連携を取ろうとしていますが、これを阻害しているのが数々の夏鳥思想家たちです。

コヴァルスキ: この問題は我々108評議会にとっても課題となります。2022年のメンフィスで起こった事件を皆が記憶しておられるでしょう。この事件の下手人は、かつて我々の同胞だったものでした。

シャマール: 「プル・アンク・ン・ジェフウティ」。奇跡論の優れた体系を創り、伝承部族とのコネクションも確立したオカルト連合の模範的存在でありながら、夏鳥思想に魂を売り渡した連中。そして、私の多くの仲間達をピラミッドの下敷きにしてくれた。唾棄すべき敵だ。

フガク: 彼らは既に我々がかつて知っていた存在ではない。国際世論に背き破壊活動を連続させるのであれば、この団体は正式な既知脅威存在として見なすことができるだろう。

チェラム: 彼らが説得し難い相手であることは、いみじくもコヴァルスキ氏がご自身で証明してくださっている。

コヴァルスキ: 非常に残念なことでありました。私は彼らと再び手を取り合う時が来て欲しかった。

フガク: 思うに、この団体の存在は国連軍がアフリカ北部に進出するためには高い障壁となる。パラテックのないサハラ夏鳥軍は取るに足らぬ烏合の集だが、この明らかな弱点を「プル・アンク・ジェフウティ」の亡霊たちが的確にカバーしているためだ。

シャマール: 奴らを率先して討伐することができれば、伝承部族がこの地で旗揚げするための決定打となるだろうな。これは国連軍や伝承部族義勇兵にはできない、オカルト連合ならではのミッションじゃないか?

シュバイツァー: 賛成はしかねます。夏鳥思想家でもタイプブルーでも人間は人間です。我々の日々の目標とは相容れない。

フガク: かのハドソン川協定にはこうある、「人間型脅威存在は正常性ならびに現実性を毀損しない場合に於いて、可能な限りその生存と自由意志の存立を擁護する」。新大陸の連中は伝承部族の生存権を積極的に侵害している点で保護の対象とは見なし難い。

チェラム: 同意する。世界の守護者が弓引くべき対象として適切なのではないか。

シャマール: これは単なる仇討ちじゃない、世界の進路を背負った闘いだよ。

コヴァルスキ: 精神部門としては、事務次長局のご判断を尊重したいところです。

シュバイツァー: 仕方がありませんね、皆様の賢明な判断が来年の世界死因統計に反映されないことを祈らせていただきますよ。

[後略]


附記: 以上に抜粋した論戦を含む議論により、世界オカルト連合は「プル・アンク・ン・ジェフウティ」を既知脅威存在 KTE-9202-Blue-Blackbusterとして分類し、国連軍によるサハラ夏鳥臨時軍事政府への攻撃に前後して、当該脅威存在の排撃を計画することとなった。

PTOLEMY部門の記録

需品課-AOD-9202
番号 指定 機材名 数量
1 +1Gen-APC GOC装甲人員輸送車 オーディアン 8
注: 悪路走破性・対戦闘車両防御性能ならびに輸送人員に対するEVE還元機能を高水準で両立することから、サハラ夏鳥臨時軍事政府の占領地を突破して排撃班を展開する目的で使用された。
2 +2Gen-PCT プラズマ凝集砲戦車 Mk.Ⅷ 2
注: 1988年、LTE-0851-Cetusの粛清に用いられた武装に端を発する。当モデルは2020年に開発され、確率論的なプラズマ生成機構を搭載したことでエネルギー効率の著明な改善による継戦能力の向上に成功した。巨大・重武装でないヒト集団脅威に対する拠点破壊用途には充分な投射火力を有すると判断された。
3 AltGen-OWP オグドアド軽水増殖紋様 60(copy)
注: 過去改変現象発生以前の「プル・アンク・ン・ジェフウティ」より供出されていた装備。排撃班の維持のための飲料水生成、濁流による敵拠点の破壊、野戦における周辺環境整備などの用途。
4 +2/AltGen-CG マークⅡ 戦闘強化服 12
注: ST-2025 “Southern Cross” 隊員12名に支給。KTE-9202に対する直接戦闘に使用。作戦中に1着が回復不能な損傷を受けたため自壊処置を受けた。
5 +1Gen-TKB 7.62mmソーマトキル弾頭 240
注: プロメテウス・メタロジーより購入したソーマトキル合金をジャケットに使用した弾丸。銀弾の最大15倍に及ぶ信頼性の高い奇跡術抑制力を有する弾頭であり、有効な殺傷力が得られない射撃であっても標的のEVE流速を著明に低下させることが可能である。

PHYSICS部門の記録

AT/ST探査報告(デブリーフ)

関与した評価/排撃班:

ST-2025

提出した工作員:

"B-Crux" 46139247/2025

任務(場所/目的):

モロッコ東端より旧アルジェリア・リビア領を突破し、旧エジプト領へと進入する。

遭遇報告/敵対存在の概要:

ST-2025を輸送中のオーディアン8両および各種同行車両は、モロッコ領メクネスを出発してから旧エジプト領進入までの10日間で、合計28回の襲撃を経験した。敵勢力は砂漠の要所にバリケードと検問を築いていたサハラ夏鳥臨時軍事政府軍の兵士が中心であったが、野盗の集団であったり、食料補給予定地の小集落の住人たちであったり(国連の非超常軍がアルジェリア中央部までの進行ルートを整備していた)など、サハラ領の住民の大多数が我々に明確な敵意を向けていた。パラテックが一切含まれていないであろう彼等の攻撃手段(これには5件の自爆行為が含まれる)がオーディアンに致命打を与えることは一切なかったため、我々は敵対勢力を踏み越える形で強引に進軍を継続した。

結果:

2025/01/22にST-2025は旧エジプト領に到達。2グループに分かれ、ギーザとメンフィスに存在する2ヶ所のKTE-9202拠点へと目標を定める。

職員条件:

損耗0人 (死傷者0人、負傷者0人)

結論/提言:

武器すら持たぬ単なる民衆にまで敵意を吹き込み、蟷螂の斧を掲げさせているのは一体何者なのだ?ナツドリズム勢力に与する超常団体はKTE-9202を含め小規模なものばかりで、サハラ砂漠全域の人間を統率するなどという大それた作戦が実行できると考えるのは非現実的だ。何か裏に巨大な異常存在が潜伏しているのか、さもなくば…本当に単一の思想のみがこの状態を現出させているのか?

AT/ST探査報告(デブリーフ)

関与した評価/排撃班:

ST-2025

提出した工作員:

"G-Crux" 33812929/2025

任務(場所/目的):

旧エジプト領メンフィスに布陣していたKTE-9202の主力軍を排撃する。

遭遇報告/敵対存在の概要:

エジプト到着から一夜明けた2025/01/23、ST-2025は"G-Crux"の率いるメンフィス隊と、"A-Crux"をトップとするギーザ隊の二手に分かれた。メンフィス隊が行動を起こしてまもなく、隊員らは進路の各所でメンフィスの野生動物と遭遇した。鷹は空を舞って敵の伏兵の存在をいち早くST-2025に知らせ、甲虫の群れはKTE-9202構成員の攻撃をST-2025隊員から離れた位置へと誘導した。ナイル川から現れたワニや水牛がプタハ神殿の遺構へと突撃していったのを皮切りに、メンフィス隊は壁を破壊された敵陣めがけて総突入を仕掛けた。本来のプル・アンク・ン・ジェフウティと同様、KTE-9202も動物を奇跡の媒介とする戦法を好んで用いるようであったので、動物の自発的な協力により図らずもそれを先制して封じる形となったのが圧勝の切っ掛けとなった。

結果:

2025/01/24にST-2025はメンフィスのプタハ神殿に築かれたKTE-9202拠点を陥落させることに成功した。

職員条件:

損耗3人 (死傷者0人、負傷者3人)

結論/提言:

今回の作戦で我軍が受けた被害がこれほどまでに少なく済んだのは、メンフィスに生きる土着の多様な生物が我々に加勢したことが理由として大きい。その激しい暴れっぷりは2003年にオーストラリア大陸で経験した地獄の様相にも劣らないが、当時とは逆に今回の野生生物は確かに我々の味方であった。動物たちの行動は個別に見るといずれも生得的な行動として説明可能な範疇に留まっていたようなので、あたかも集団意思を持つかのような統率性の源がなんであったのかは、これも当時と同様、永遠に謎のままとなるだろう。しかし白状するが、倒れたKTE-9202構成員に群がる子猫の群れを見たとき、私はある種の薄ら寒さを感じたと言わざるを得ない。彼らは確かに肉食動物の一員であり、そして我々と犠牲者との共通点は他ならぬその肉にあるのだから。

AT/ST探査報告(デブリーフ)

関与した評価/排撃班:

ST-2025

提出した工作員:

"A-Crux" 01329986/2025

任務(場所/目的):

旧エジプト領ギーザの大ピラミッド、およびその地下空間に存在したKTE-9202の本拠地を占領する。

遭遇報告/敵対存在の概要:

大ピラミッドの地下には、KTE-9202が本拠地とする図書館が隠されていた。ピラミッド部分を含めた内部構造は1998年当時の「プル・アンク・ン・ジェフウティ」が使用していたものと大差なく、ST-2025にとっては既知であった。グリフハザードや乾燥有機体操作などの古典的な奇跡術を用いるKTE-9202の本隊は、ST-2025が撃ち込んだソーマトキル弾とオグドアドの洪水によって殆どが直ちに沈黙した。最後には"A-Crux"が敵の首長との一騎打ちを申し込まれ、予めホワイト・スーツのリミッターを解除しておくことで余裕を持ってこれを制圧した。

結果:

2025/01/24をもって、ST-2025はKTE-9202組織の排撃を完遂した。加えて、組織の主導者であったタイプブルーの一人、「アブル・ハウル」氏の身柄を拘束することに成功した。

職員条件:

損耗5人 (死傷者0人、負傷者5人)

結論/提言:

かのナポレオンの言を借りるなら、この戦いは大ピラミッドの頂上からエジプト4000年の歴史に見下ろされた状態での開戦となった。しかし、我々の装備はその4000年の歴史のうち最後の25年のみで培われたものであると言って良い。ヴェール崩壊による人類の総合知の飛躍は我々の想定を超えるものであった。即ち、不可視の幕が上がることのなかった世界での25年で拵えられた敵軍との戦いは、さながらピラミッド建設当時の現場作業員であった奴隷にナポレオンのグランダルメが総突撃を仕掛けるようなものであり、旧態と化したロストテクノロジーの群れを轢き潰すだけの行為に等しかった、ということだ。排撃対象のトップの首に関しては、必要な尋問が済んだ後、最高司令部の元に引き渡すこととする。

PSYCHE部門の記録

尋問記録: 2025/02/09

対象: "プル・アンク・ン・ジェフウティ"指導者 アブル・ハウル


[前略]

シャマール: 単刀直入に聞く。なぜお前たちは我々伝承部族を虐殺したんだ?

ハウル: 虐殺だと?単なる粛清任務だ。貴様らなら粛清の何たるかは知っているよな?怪物はいつだって人類の敵でしかありえない。まして、爪と牙を持ってるうえに毎年のように五つ子以上を出産して際限なく増えるヒトモドキが神界ポケット宇宙から溢れ出してるとなれば、なおさらだ。

フガク: 30年くらい前までなら、俺たちもそうだったよ。でも時代は変わったんだ。今では知性あるものはみな人間さ…これは少し盛ったかな?

コヴァルスキ: 決して誇張ではないと思います。たとえ二足で歩く猫の姿であろうとも、バスト君は立派な人類の一員です。

ハウル: ふん、悍ましい光景だな。世界オカルト連合の意思決定部を自認する奴らが、化物の肩を持つようになったとは?やはりまともなのは俺たちしか残っていなかったんだ。

フガク: コヴァルスキも以前に言っていたが、今の我々とお前には埋めがたい断絶があるのは間違いない。だが、世界オカルト連合の活動目的が人類社会を保全することにあるという点においては、きっと意見を同じにできるものと思う。

ハウル: いかにも、俺たちの任務は世界の守護だ。だがな、その世界は「正常」でなければなんの意味もないのだ。認められる異常は邪径のみ、それ以外は何もかもが人類を誑かす悪魔どもだ。貴様らがそれを忘却して、あまつさえ俺たち奇跡術士でもない正常な人類に屠殺の限りを尽くすまでとは夢にも思っていなかったが…。

シャマール: …これは正当な報復だよ。きっと。

フガク: 我々が仕事を終えたあとにエジプトに雪崩れ込んだ国連正規軍たちの行いを全面的に肯定するかといわれると、あいにく俺も首を縦には振れない。公言はし難いがな。

コヴァルスキ: 得てして、大衆の安寧を得るために闇の仕事を粛々と務めるのが世界オカルト連合の責務です。それは私達も貴方も変わらなかったことでしょう。

ハウル: 言いたいことはわかる。だがな、怪物に仕えている以上は貴様らもまた怪物の誹りからは逃れられんぞ。貴様らが言う二大陸正常化ってのは、俺にとってみれば四大陸異常化なんだよ。貴様らが守る世界とやらがあるのと同じで、俺にも守る世界があった。それが互いに衝突して、そして俺は負けた。それだけだ。力量が逆なら、立場が逆になっていただけのことだ。

シャマール: ホモ・サピエンスしか人間と認めない社会が、色々な種族を人間と認める社会に技術発展で勝てるわけないだろ?ヴェール崩壊のない、産業革命もない世界のロストテクノロジーなんかに、我々は負けないんだよ。

フガク: 正直、同情の余地はある。だがこれは戦争なんだ、理不尽な結末だってある。分かるだろう?

ハウル: 捕縛された脅威存在が最後には殺されることなんで常識だ。俺は逃げも隠れもしねえよ、一足先に地獄に行かせてもらうさ。この様子だと、遠くないうちに世界中の人間が化物に殺られて俺の後を追ってくるだろうがな。ジェフティの名に誓って、賭けてもいい。

シャマール: そうはさせないよ。我々は新たな人類として、お前の想像もつかないような立派な社会を作ってみせるさ。二大陸正常化まではできてたことだ、今からでもやり直せる。

コヴァルスキ: 願わくば、貴方とも未来の社会での幸せを分かち合いたかったものですが、めぐり合わせの良くないときもあったということでしょう。我々は貴方の犠牲を決して無駄にしないと約束します。貴方が異常として排撃するしかなかった存在とも、必ずや協調を作り上げることができると、我々は、人類は信じているのです。

ハウル: 御託はもう十分だ、話が終わったならさっさと出ていくんだな。俺はもう誰とも会いたくない。

フガク: ああ、そうだそうだ、一つ忠告がある。

ハウル: なんだ。

フガク: 地獄、今だとニューヨークから日帰りで来る観光客でごった返してるぞ。プライバシーにはあまり期待しないことだな。

ハウル: は?この野郎。

[後略]


附記: この尋問記録の作成後、ハウルの銃殺刑が予定通り執行された。これをもってKTE-9202を構成する全てのタイプブルーの粛清は完遂されたものと判断され、当該脅威存在はLTEへと再分類された。

音声記録: 2025/05/30

附記: 当該音声記録は、ヘリオポリス近郊のカフェを訪れていた精神部門職員のシャマールが、同店内に居合わせたTtt社の執行部役員を含む数名の伝承部族と会話した際の音声の一部を書き起こしたものである。


[前略]

シャマール: ううん、やっぱり私にはミイラの干物は口に合わないですね。白身魚の風味は食欲をそそると思うのですが、どうしても見た目が。

カフェの店員: いえいえ、お気になさらず。エジプト観光にいらっしゃる方々には好評ですが、エジプト出身の伝承部族の方々には、ミイラを食することに抵抗感をお持ちになられる方は珍しくありません。

ヘルメス(Ttt社社長): しかし、トートはなんだってこれを売り出そうと思ったんだい?

トート(Ttt社副社長): 理由は大きく分けて3つあります。まず1つ目はミイラ自体が持つ優れた風味ですね、これは本家アヌビス水産の皆様の類まれなる技術の粋です。彼らと出会えて本当に幸運でした。

シャマール: 冥府にまつわるアヌビスなら、この味の食べ物をミイラの形にするって発想を思いつくんでしょうかね。どっちかというと彼らはミイラを作って守護する側だと思うんですけど。

トート: そこで重要になるのが次です。2つ目は我々のような神話にまつろう者が、伝承の構成によって顕現の容姿や特徴に多くのバリエーションを得ることです。これは少々難しい概念ですが、簡単に言うと大衆が神話に持つイメージが多様化すればするほど、対応する神界ポケットから伝承部族として基底世界に出現することができる人々の数も増えます。それは巡り巡って我々が活動する市場の拡大に繋がるというわけです。

ヘルメス: なるほど?ミイラを守るアヌビスのほかに実はミイラを食べるアヌビスもいて、そっちはミイラの干物ブームに乗して現世に出てこれるってわけなのか。面白いアイデアだね。

シャマール: あれ、そうなるとオリジナルのミイラの干物は、ミイラを食べるアヌビスより先に生まれたんですよね?それはどこから来たのでしょう。

トート: 3つ目、これが一番大事です。ミイラのオリジナルは、遥か彼方の宇宙にあるのです!ミイラの食文化は地球外文明の流行を地球上で取り入れる初の試みです。

ヘルメス: 何!?それは僕も初耳なんだけど!?

トート: 私がこれを発見したのは放浪者の図書館経由です。原則、この世界では我々が宇宙に行くのは難しい。

シャマール: 神格工学の対象になる神話は太陽や星空の下に広がる青天井の天界が舞台であって、暗黒の宇宙で信仰を持てる神が居ないから、ってのが理由なんでしたっけ。

トート: そのとおり。現世では人々は主に近隣の並行次元や余剰次元の開発に勤しんでいますが、それらの次元探索技術や神格工学の概念がない世界だと、人々はむしろ宇宙へ行きたがります。中でも財団は宇宙の超常物品をいち早く発見する任務のために世界最速の宇宙開発を行っていました…その最中に、彼らは有限会社「本家アヌビス水産」を発見したのだそうです。未知と既知には大きな隔たりがあります…存在さえ知ってしまえば、私なら簡単にこの世界の彼らにも会いに行けました。

ヘルメス: 流石だねえ!君と一緒に仕事ができて、僕も鼻高々だよ。

シャマール: トートさんがすごい方なのはわかりました、ミイラの素晴らしさも。…ですが、やっぱり僕にはミイラは無理です。トラウマがあって。

トート: ふむ、もし差し支えなければ、今後の事業発展のためにも、ぜひお聞かせ願えます?

シャマール: …この前のサハラ戦争のとき、私は「猫の手」の代表として参戦していました。世界オカルト連合の皆様から支援を得て、私達は勝利を得ることができた、のですが、その後にちょっとした事件があったんです。私と同じ種族の人々が、「人間の味」を感じることがある、って話をし始めて。

ヘルメス: 人間の味ねえ。人間って美味しいのかな?トートは知ってる?

トート: …続けてください。

シャマール: はい、それで、みんな、子猫たちから「人間の味」を教わった、って言ってて。あの戦争ではナツドリストたちの方に多数の犠牲者が出てましたから、野ざらしになった彼らに子猫たちが群がって、だって仕方ないじゃないですか、彼らは肉食動物なんですもの。

トート: お気持ちはよく理解できます。アフリカクロトキも、色々なものを食べますから。

シャマール: それで、私、怖くなったんです。私達が、猫のからだを持つパシュト族が、人間の味を覚えるって、どういう意味なのかなって。そんな状態で、人間と共生なんかできるのかなって。人間を見たときに、彼らを「味わおうと」したり、本当にしないのかなって。…それで、ミイラみたいなものを見ると、なんだか過敏になっちゃうんです。僕…私って、変なんでしょうか。ごめんなさい、社長さんの前でこんな話をしてしまって。

トート: …なるほど。これは、貴方、なかなか重大なことを私に教えてくれたかもしれない。社長なら、私が何を言おうとしているかわかりますかね?

ヘルメス: 「人間の味を覚えたネコの神」ね。居るんだ、これが。しかも、君たちと同じ名前。

トート: バスト神…パシュト、バステトとも言います…のことを、一部の宗教では本来のネコの神や音楽の神であるとみなさず、全く別の存在を司る神であると考えるのです。すなわち、ブバスティス。図らずも、アラブ圏に出没するグールたちの間で祀られている、人食いの神です。

シャマール: 人間を食べる、神。

トート: この名で呼ばれる神は、既存の神話体系からこぼれて地球を追い出された者たちとも繋がりを持つと言います。もしかしたら、火星からやってきたアヌビスたちも、何らかの別名を持つのかもしれない。貴方に気付かされました。

ヘルメス: なるほどね。これは、どうするんだい?

トート: 貴方に私から言うことがあるとすれば、たとい伝承部族が様々な顔を持ちうる存在であろうとも、貴方は貴方である、ということです。貴方は猫を礼賛し音楽を愛でる美しき文化人としてのバストであって、人を喰らい社会を破壊するようなバストではないということです。

シャマール: …そんなに簡単に割り切ってしまって、良いのでしょうか。

トート: ええ、私だって、場所と信仰が違えば世界中の人間を鳥アタマにしたりする暴動を平気でやらかす神ですからね。その辺りは気を使わねばならんのです。今も、これからも。

ヘルメス: ま、色々な自分と話をする機会があるってのも悪いことじゃないと思うよ。良かったね、悩みを打ち明けられて。

シャマール: …ありがとうございます。

[後略]


附記: シャマールらパシュト族、およびTtt社をはじめとする伝承部族団体の構成員に対し、NTE分類指定の見直しを求める意見が評議会団体内から寄せられるようになった。シャマール当人はパシュト族が人間に害意を抱いている可能性を否定している。


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