いつもと変わらない朝、いつもと変わらない景色、いつもと変わらない教室、いつもと変わらないこの場所が私は好きです。だって、隣に貴方がいるから。
貴方はいつでも真面目に接してくれました。初めは消しゴムを落としたとき、拾ってくれたことから始まりました。
私はあまり人付き合いが上手くないから、「ありがとう」もうわずってろくに言えなかったのに、「どういたしまして」とキチンと返してくれたことが嬉しかったです。
そこからいつも見ていました。誰に対しても真面目で、私だけが特別だったわけじゃないことは知っていたけれど、対等に接していてくれるだけで嬉しかったんです。
いつでも真面目な―
「ああ、ダメだ。」
台所のテーブルに向かい進めていた鉛筆を転がし、少女が呟いた。
彼女がこうやって机に向かって3時間が経っている。書き直した文章は指では数えられない数で、どれもくしゃくしゃに丸めてゴミ箱に詰められていた。
どうやったらこの気持ちを伝えられるんだろう。ここ数日こうやって恋文を書き続けていたが、どうにも文字で表そうとすると装飾されてしまって素直に伝えられないような気がしてしまう。かと言って自分に口頭で告白する勇気なんてない。
「文学部なんだし、恋文を書いてみたらどう?」
自分がシャイで告白する勇気を出せないことを心配して先輩が提案してくれたのがこの恋文を書くことだった。その時は私も文字なら大丈夫かもしれないと考えていたが、思ったよりも難しいものだった。
「もう夜遅いよ?寝たらどう?」
近くで様子を見ていた母が心配そうに話しかけてきた。
時計を見ると深夜12時。こんなに時間が経っていたのかと驚きつつ、私は母に軽く返事をして寝室に入った。
授業は上の空だったと思う。自分でもよく思い出せない。
放課後になると同時に部室まで逃げてきてやっと正気に戻った様な感覚だった。早く来たこともって先輩たちはまだ誰も来ていなかった。
このところこんなことばかりで授業にも気合が入らず成績が落ちてしまうかもと不安もあった。だからこそ早くこの気持ちに整理をつけるかなにかしらのアクションが必要だと感じていた。
そんな時、部室の机の上に一つの封筒があるのを見つけた。
封筒は丁寧にジップロックされた袋に入っており、近くには1枚の紙が落ちていた。誰かの忘れ物だろうか、そう思いつつ落ちていた紙を拾った。
その紙にはこう綴られていた。
恋愛をしたいと思っているけれど失恋をするのが怖いと思ったことはありませんか?そのような悩み事は誰しもが思っているはずです。さらに、実際に会って告白するなんて恥ずかしくてできない!といった恥ずかしがり屋な乙女もいることでしょう。
そのような方々の悩みを解消したい!という理念のもと完成したのがこの『ラブレター』です。
恋文というのはご存知ですね?昔から自身の気持ちを伝えるために使われてきた手法です。この『ラブレター』はその恋文を基につくられたもので、貴方の気持ちを簡単に想い人に伝えるものです。自分が恋愛したいというときにも使えます!
使用方法
この封筒を触らないように好きな人に送ってください。自分で使う場合は何もしなくてOK!
あとはこの封筒の中身を確認するだけです。この封筒は手に持った人に対して恋をしている人物の恋文が現れるのです!これで自分の想いを簡単に伝えられることができます。また、自分に対して好意を持っている人物が簡単にわかります。
注意点
この封筒は最大4枚まで恋文が封入されます。4人以上から好意を持たれている人物に対しては、想いが強さ順に上から4人選ばれます。もし、自分の想い人がモテモテだとしてもこの『ラブレター』を使い自分の想いの強さを証明しましょう!
「なに…、これ」
とても現実的とは思えない説明書のようなもの。しかし、これは今私が一番欲しているものそのものだった。
困惑しながらも封筒の入ったジップロックを持ってみた。封筒の中身はどうやら何も入っていないようだ。ジップロックを開け、中の封筒を出してみようか。そう思った矢先。
「お!早いじゃん!」
後ろからドアの開く音と共に先輩の軽快な声が聞こえた。私は咄嗟に紙と封筒を後手に隠して振り返った。
「せ、先輩も早かったですね」
声が変にうわずってしまう。
「あの…実は、今日はちょっと調子が悪くて部活を休むってことを伝えに来たんです…そ、それじゃ!」
うわずってしまったことを必死に隠すように先輩の横をすり抜けようとした。
「ちょっと待った!」
すると先輩は私を引きとめるように扉の前にふんぞり返った。
「恋の悩みはいつでも聞くから、あんまり一人で悩まないようにね」
先輩は驚いていた私を見て優しく声をかけてくれた。その後ポンと頭に手を置き、一通り頭を撫で、扉の前を退いてくれた。
急に頭を撫でられた私は恥ずかしくなり、先輩に軽くおじぎをしてそそくさと部室を出た。
結局封筒は持ち帰ってしまった。悪いとは思いつつも試してみたいという好奇心と、この状況をどうにかしたいという気持ちの方が勝った。
とりあえず試してみよう。そう思いつつ封筒の入っているジップロックを開けた。
記録640-JP 200█/██/██ : SCP-640-JP回収記録
SCP-640-JPは██高校の女子生徒が所持していたところを発見、同生徒の自宅にて回収。回収時、既に使用したとみられる便箋が確認され、同時に回収されました。内容は以下のようなものでした。
私ね。██ちゃん(最後に所持していた女子生徒の本名)のことが好きなの。おかしいかもしれないって思われても、嫌われたとしてもいいの。██ちゃんから相談を受けたときは泣きそうだった。でも、██ちゃんの恋が応援したいっていう気持ちもあったし、██ちゃんが頼ってくれるだけでとてもうれしかった。だけど、それと同じくらい辛くて、告白なんか成功しなきゃいいのにってずっと思ってた。嫌な先輩だよね。ごめんね。私、どうかしてるよね。でもね?██ちゃんのこと好きだっていうのは変わらない。だから、どうかこのラブレターを使って。ずっと応援してるよ。████(女子生徒の先輩とみられる生徒の本名)