ニクデンシャ属の種間形態的差異から見る進化概念歪曲現象の圧力
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ニクデンシャ属の種間形態的差異から見る進化概念歪曲現象の圧力




執筆者: 真柴晃、黒金鉱

The Abaxial Journal寄稿

















前文

2017年に発生した東京広域災害事象は歴史的に見ても類を見ない規模の異常災害である。日本の最大人口密集地である東京全域を対象として、概念震災を引き起こした。これまでに出した死者数は350万人以上、行方不明者は600万人以上であると言われている1。これは経済や政治の分野においても大打撃であり、今後100年にわたって跡を残す被害を本邦に齎した。米国政府の算出によれば、今日本国が国家としての体裁をなしているのも奇跡的であるという。

東京全域を対象として発生した通称「大災」であるが、これらの影響は生態学的・言語学的・文化人類学的に隔離された環境を作り出した。異常現象の被災者の集団の一部は、東京に張り巡らされ地下鉄道の空間に避難したことが知られている。それらの住民は一度も地上に出ることなく一生を終えた。そこでは世代交代が幾度となく繰り返され、その結果、元々地下にあった動物相の生態系と共に独自の言語、文化が発展した2。本稿は地下東京住民の主な主食であるニクデンシャの考察を進めると共に、それ以外の文化的な側面についても言及することを目的としている。

地下東京基礎知識

「地下東京」は東京の地下に張り巡らされた地下空間の全般的な呼称である。主に東京地下鉄株式会社の運営していた地下鉄道の東京メトロおよび、東京都が管轄していた東京都営地下鉄の駅と一部の路線で構成されている。また、上述の地下鉄道に加え、JR東日本の東日本旅客鉄道の一部駅なども対象となる。これらの範囲基準は、「地上への移動手段に乏しい地下東京住民が移動可能なほど隣接し合っているか」であり、駅から直接アクセス可能な建物なども地下東京の範疇である。

地下東京は、概してどこも薄暗くて狭く、温度はある程度一定であると言われている。駅構造保持力の影響であらゆる駅のライフラインが整備されていた。水や安定した光源には事欠かなかったようであり、少なくとも安定した生存が可能な空間ではあった。それぞれの駅に避難住民が定着し、定住生活を送るようになった。初期の生活では一時避難的な状態であったものの、脱出不可能性が明らかになっていくとともに定住化していった。

概要

トウキョウニクデンシャ(学名:Kiliamanibus tokyoanus)を始めとした地下東京に分布するニクデンシャ属の形態について調査を行い、種ごとの進化概念歪曲現象の圧力の差異を考察した。

ニクデンシャ属はその繁殖形態と地理的な隔離からいくつかの生物学的種概念に分類されることがこれまでの研究で指摘されていた3。分子系統学的な解析によれば、ニクデンシャ属の起源は事変発生直後の鉄道の内部にいたヒト(Homo sapiens)である4。ニクデンシャのミトコンドリアゲノムは古い様式をそのまま残している。それらの分析はニクデンシャ属の分類に大きな基礎を築いたが、それでも厳密にどのように分類するかについては今も議論が続いている。

本稿では分子系統学的な観点をあえて減らしつつ、論の立脚点をニクデンシャ属の形態的差異に置いた。当初同じ単一の種で誕生したと考えられているニクデンシャが、その後どのような進化概念歪曲現象の影響を受けて進化したのかについて論じる。

研究対象

以下のニクデンシャ属の生物を対象とする。

  • トウキョウニクデンシャ (学名:Kiliamanibus tokyoanus)
  • マルノウチニクデンシャ (学名:Kiliamanibus marunoutinus)
  • ナンボクニクデンシャ (学名:Kiliamanibus nanbokuanus)

マルノウチニクデンシャ、ナンボクニクデンシャ、そしてトウキョウニクデンシャの3種を本項では扱う。一般的に、進化概念歪曲現象の影響は隔離された個体群同士で顕著に現れる。ナンボクニクデンシャは主に生息する南北線が乗り換え駅の少ない路線であることも関係して、独自の身体構造や性質を持つ。マルノウチニクデンシャはナンボクニクデンシャほどではないが、固有の種であり独自の「毒胞」を有することで特徴的である。

  • ハダカニクデンシャ(学名:Kiliamanibus domusnudus)

東京駅の構内で発見されたトウキョウニクデンシャの家畜種。事変初期に発生した進化概念歪曲現象を逆用した家畜化の影響を受けている。東京駅の住民が進化概念歪曲現象を改変する技術を持っていたとは考えられていないが、地下内財団5はそれに関する文献を残している。ハダカニクデンシャがどのような過程で家畜化されたのかは不明。家畜化の過程で毒胞が欠落し、移動能力が大幅に退化している。

以下は他の調査に回される不明な種である。

  • トデンニクトラム (詳細不明。文献でのみ知られている)
  • スカイツリーニクデンシャ (詳細不明。文献でのみ知られている)

トデンニクトラムとスカイツリーニクデンシャの2種は、生息範囲が地上部に及ぶため詳細が判明していない。一説によれば両種とも現実改変能力を有しているとされている。スカイツリーニクデンシャは"空の王"もしくは"スカイゴッド"なる存在と関連した伝承が残されており、「不潔な肉体を運んだ」「天使と戦って敗走した」などと言われている。

研究手法

以下に示す記録を参照した。重要度が高いものから順に記載。

  • サイト-81GB報告書 (文献)
  • 「CYCLE MAP」 (映像/主観記録)
  • 赤坂見附手記 (文献)

サイト-81GB報告書は財団が研究のためにパブリックソースにしているものを用いた。これは、トウキョウニクデンシャの形態的な構造について最も良く観察された文献であり、さらにはマルノウチニクデンシャやナンボクニクデンシャにも言及している。

「CYCLE MAP」はマクスウェリズム教会の宗教的プロジェクトである。一部が研究用として公開されているが機密部分もある。筆者の知古に関係者がいるので交渉はかなり有利に進んだ。そのプロジェクトの根底には宗教的な情報網羅思想があり、彼らの派遣した有機的エンジェロイドは事変下にある東京でも映像記録を残した。ニクデンシャの内部構造の映像記録も多く残って残存している。また、地上部の映像が残っているわずかな記録媒体の1つである。この記録にトデンニクトラムやスカイツリーニクデンシャの情報がないか財団やその他の研究機関がマクスウェリズム教会と交渉しているが、あまり芳しくない。

赤坂見附手記は赤坂見附駅のホームで発見された一連の文書である。国立帝都博物館所蔵のものを閲覧した。「赤坂見附のヤナ」との名前で知られる人物が書き残したものと見られ、地下東京諸方言の丸の内線方言で第一次駅間戦争の詳細を記述している。第一次駅間戦争に関する記述の他に、赤坂見附駅の日々の生活なども日記の形式で記載されており、毒胞を有するマルノウチニクデンシャの言及なども見られる。一部しか残っておらず、意図して破棄されたと思われる部分は未だに捜索されている。

これらの資料は形態的な構造を明らかにするのに用いた。CYCLE MAPの主観記録にはDEGo(無心描述社 日本, 北海道)を用いて描述し、それによって得られた主観体験の最大公約を導出した。それらの映像をサイト-81GB記録や赤坂見附手記と比較検討した。

  • ニクデンシャ触手標本群
    • トウキョウニクデンシャ標本
    • マルノウチニクデンシャ標本
    • ナンボクニクデンシャ標本
    • ハダカニクデンシャ標本

国立帝都博物館が保有する標本サンプルのうち1部を取り寄せた。

サンプルはエッペンドルフチューブに入れた状態で液体窒素により凍結した。凍結したサンプルはバネバサミで取り出し、滅菌水で洗浄した。RNA単離にはNucleoSpin(基因地縁社 中国, 湖北省)を、qPCR解析はANOGEN(新都心ジーン社 日本, 群馬県)を用いた。各組織サンプルは電気式自動ホモジナイザーを使用して均質化し、デオキシリボヌクレアーゼ(DNase)でサンプルとして処理した。それらの中でRNAを調整し、市販の分光光度計(新都心ジーン社 同上)を用いて230nm、260nm、280nmで定性的・定量的に解析した。BIモジュールを用いて系統間比較を行い、統計的有意性を算出した。一部の遺伝子データは財団データベースからダウンロードした。

ニクデンシャ属概要

ニクデンシャ属は異常現象によって発生した属で、属以上の分類群は未だに設定されていない。ヒトが起源であることから各個の形態が持つ局所的機能はおおむねそれと良く似ているが、体毛をほとんど持たず、形態的にはむしろ環形動物門のそれに近い。これらは哺乳綱に分類できない。また、本稿は属以上の分類群を提案するものでもない。

一部のものを除くニクデンシャ属はおおむね次に共通する特徴で構成されている。

  • 体組織が電車殻に覆われている。

電車殻とは、ニクデンシャの外殻を構成する電車の車体である。二次的に電車殻を喪失したハダカニクデンシャ以外のニクデンシャ属の種はこれを有しており、肉株と完全に一体化している。一定の成長期間の後ではこれらの肉株と電車殻は不可分である。車体の種別によっても若干の差異がある。マルノウチニクデンシャは2000系車両、もしくは分岐線02系80番台を良く好むが、トウキョウニクデンシャでは特定の電車殻を選択するようには見られない。

  • 電車殻に完全に依存した「肉株」が存在する。

「肉株」はニクデンシャの個体構成の最小単位である。およそ15cmから30cmほどで、中腹部が膨らんだ紐のような形態をしている。それぞれは独立しているが、他の肉株と連結粘液層を通して栄養交換やガス交換を行う。連結粘液層はオルトパラミンやムチンなどで構成された薄い皮膚同士の接着面である。これによって肉株は接続し、盛んに酸素や栄養を交換する。連結粘液層によって毛細血管同士は他の肉株のそれと接しているが、互いに血液が混ざり合うことがない。これは連結粘液層の中間地帯にあり選択的透過性を持つK-1領域が空間を分け隔ているからである。肉株は互いに連結し合って全体を構成する。地下東京方言ではこの肉株の一連の集まりを「触手塊」もしくは「しなめ」6と呼ぶ。肉株単体としての生物学的機能は不完全なものであり、循環器として背行血管と腹行血管が体を通っているものの、ほとんどの肉株では消化器や呼吸器を有していない。1つ1つの肉株が固有の生物であるというよりも、電車殻に包まれた1つの単位を持って生物個体として捉える方がより適切である。単体でも皮膚呼吸によるガス交換は行えるものの、これは十分な酸素供給量を満たすことができず、ニクデンシャ全体の単位から剥がされた肉株は長く生存することはできない。

肉株がどのように電車殻に生えているかを「触手様式」と呼ぶ。これには、肉株が電車殻の容積の8割以上を満たす「満肉型」、肉株が電車殻の容積の5割ほどを満たす「半肉型」、床を這う肉株から大半を構成する「床肉型」の3タイプがある。触手様式は種類によっても異なるが、個体差も多く見られる。トウキョウニクデンシャはその個体差が最も顕著であり、もっとも多い触手様式は半肉型であるが、床肉型の個体もよく見られる。マルノウチニクデンシャは現在確認された中では満肉型がほとんどである。赤坂見附手記では、マルノウチニクデンシャを食用とする駅住民の食生活が詳細に記述されており、これには「三叉の槍で一面の肉壁から触手を掻き出す」とある。CYCLE MAPの主観描述記録もそれを支持する。

また、成長方針も触手様式によって異なってくる。床肉型では、吊革部に伸長してそこを中心に成長していく「床肉型伸長成長」、座席の側に盛り上がって肉株を形成する「床肉型偏部分成長」がある。半肉型、満肉型では、成長の初期において床肉型と似た触手様式を取るが、5ヶ月ほどでそれぞれの個体の持つ触手様式に到達する。その場合「全体成長」の形式を取り、肉株は偏りなく成長する。

  • 特殊肉株

特殊肉株は、他の肉株とは違う構造的役割を持つ肉株である。捕食器や呼吸器の役割を持つものが多い。全体の1割ほどが特殊肉株に相当すると言われている。「消化株」は電車殻内に存在する有機物を吸収する特殊肉株である。体内には消化器官と腹部神経節を有しており、多数持つ連結粘液層を通して栄養を他の肉株に分配する。消化器官はヒトで言う小腸の形状に似ているが、胃ならびに大腸に相当する器官は確認されない。「分泌株」は体表面に分泌腺を多数有している特殊肉株である。これは低濃度の塩酸とペプシンが混ざった液体を一定の周期で分泌し続ける。分泌株のみならず、肉株はこれらの分泌液の影響を受けていないと見られる。「生殖株」は楕円形の肉株で、補助肢を背部に有している。これは後述するが、体表の皮が他のものと比べると非常に薄い。

以上が、映像/主観描述記録の解析を通して確認された形態的な特徴である。

種間差異

トウキョウニクデンシャは複数の個体群に分かれている。個体群によって成長方針や触手様式などが異なる。個体群はおおむね以下のようにして分けられている。

  • 中央個体群

もっとも概念震災の影響が激しい地域の個体群。新宿線、半蔵門線、大江戸線の一部(汐留以西)、三田線、有楽町線、東西線のごく一部を含む。基本的に乗り換え可能な駅同士で個体と個体の接触が起きる可能性が高く、これらは新宿線を中心に頻繁に繁殖が起こる個体群を構成する。

触手様式は先述したように半肉型がもっとも多く、床肉型の個体も見られる。床肉型の個体数は2割ほどにも満たない。希少な床肉型の肉列車に関する伝聞記録が赤坂見附手記の一部に記録されており、半肉型のニクデンシャが現れるのは"駅神"の怒りが原因である、との記述がある。

以下は赤坂見附手記の該当部分である。

東京駅の駅長を怒らせてから1日目7

私たちは怒り狂う東京駅の駅長の兵から逃げ出して、茅場町駅までたどり着いた。茅場町駅は、東京駅から歩いて10時間ほどの場所にある。8

日本橋駅は私たちのことを嫌っていたのに対し、茅場町駅の人々は暖かい。

「茅場町駅の人々は何を食べるのですか?」

と私が問うと 

駅長は

「肉電車を食べる。駅神が怒ると肉の恵みが少ないこともある。そうした時、私たちは我らの子を捧げているよ」

と答えた。

  • 浅草線個体群

浅草線は直接新宿線に乗り換え可能な駅が存在せず、中央個体群の個体と浅草線個体群の繁殖が起こることがなかったと考えられる。これらの路線個体群の触手様式は床肉型がほとんどで、全体的に肉量の少ないものが多い。生殖株が細長く、長い物では全長20cmほどある。

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figure.1 画像左、財団機動部隊φ-1("ASMO")が撮影したマルノウチニクデンシャの電車殻。赤い車体が特徴である。figure.2 画像中央、マルノウチニクデンシャのLED式行先表示器(地下東京方言: しめし)。灰色に発色し、本来の行先表示器の色とは異なっている。figure.3 画像右、有機的エンジェロイドの主観描述(筆者による加工済み)で、確認されたマルノウチニクデンシャ毒胞特殊株の体表面図。膜物質を除去し、緑色で分泌孔の位置を示した。

マルノウチニクデンシャは単一の個体群のみが確認されている個体数の少ない種であり、ほとんどの個体が満肉型の触手様式を、全体成長の成長方針を取る。特筆すべきこととして、マルノウチニクデンシャは毒胞と呼ばれる特殊な器官を有している。 figure.1は東京メトロ2000系電車の電車殻を持つニクデンシャである。財団の報告書に記載された、数年に渡って継続的な観察が成された個体の1つとなる。この画像の撮影後も観察が継続されたが、およそ写真撮影から2年後に東京駅住民に討伐され観察は終了した。この個体(財団表記の末尾に従ってM-1と呼称)は、一車両に毒胞を平均5300以上有していた。これは他の個体のそれが平均して2500だったことを考えると非常に大きな数値である。

毒胞は連絡粘液層に類似した膜物質で囲まれた特殊肉株である。この特殊肉株はポリ塩化ジベンゾパラジオキシンやポリ塩化ジベンゾフランを分泌する。これらダイオキシン類は発癌性、生殖毒性、免疫毒性の観点から言って毒性が高いが、マルノウチニクデンシャ自体がどのようにして耐性を持っているかは不明である。また、ダイオキシンがどのように分泌されているかも不明である。

figure.2はマルノウチニクデンシャのLED式行先表示器を示した。白い発光は特殊肉株の触手が侵入して電車の発電系統に影響を与えているというのが多く支持されている説であるが、実際のところ不明である。これは一種の指針であるとも見られ、成長と共に白黒に発色するため「ニクデンシャの成熟を示すサイン」として広く地下東京で知られている。

figure.3は毒胞特殊肉株から膜物質を除去した状態の写真である。緑色の枠線の内側には多数のダイオキシン類分泌孔が多数存在している領域がある。毒胞の存在からマルノウチニクデンシャは食用に用いられないと誤解されがちであるが、丸の内線の駅集落に住む住民はニクデンシャを主な主食として利用していることは赤坂見附手記などの文献によっても明らかである。しかしながら、ダイオキシンの発癌性などの影響を多少なりと受けていたのは間違いがないようで、霞ヶ関駅で発見された貴人の集合墓地で発見された骨からもその痕跡は見つかっている。9地下東京住民はマルノウチニクデンシャの毒性を理解していなかったと言われている。10

ナンボクニクデンシャは半肉型の触手様式を一定して持つ。伸張した特殊肉株は吊り革に結びつき独自の形態をなす。これは南北線駅住民に「つりて」と呼ばれているものであり、非常に高級な食材として扱われている。その理由の1つが体内に塩類を溜め込むことで奇妙な味になることである。地下東京の食文化は味の多様性に乏しく、用いられる食材もニクデンシャの乾燥した肉や昆虫のタンパク質、ごく僅かな野菜類などに限られる。安定した塩類の供給はなされておらず、ニクデンシャをすり潰して作る肉団子の煮込みは基本味付けの無いものである。

ハダカニクデンシャは例外的に電車殻を有さないニクデンシャ属の種で、地下内財団の技術によって「家畜化」されたと考えられている。分厚い肌を有しており、本来他の種では電車殻が有する機能を一部補完している。また、触手様式は外側の「親肉株」が内側の「子肉株」を取り巻くものから構成され、親肉株がある意味で電車殻の機能性を有するようになっている。その証拠に、子肉株の肌は形態的に他の種のものと類似している。

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figure.4 八重洲地下街の通路。人口は3派閥合わせて60人ほどである。八重洲地下街の3派閥はそれぞれの血縁的な出自を別々のものであると主張するが、実際は3派閥が定期的に婚姻関係を結んでいることが遺伝学的な見地から判明している。詳しくはAndou, Hibiki (2032) “People of Yaesuchikagai's three houses ”, The Abaxial Journal.を参照。

主な生息地点はfigure.4で示された東京駅に隣接する八重洲地下街である。遺伝的変異からはハダカニクデンシャは単一の種から進化した家畜種ではなく、トウキョウニクデンシャとマルノウチニクデンシャ、ナンボクニクデンシャが別に交雑して生まれたものであるとわかっている。その混入の割合は生肉電車繁殖地の3系統でそれぞれ異なる。正確には、元々1つの租ハダカニクデンシャが別々の進化概念歪曲現象を受けて分裂したと見るのが正しい。

八重洲地下街には3つの派閥が存在し、それぞれが肥育しているハダカニクデンシャも異なっている。これらの派閥はニクデンシャの交雑を許さないほどに険悪であり、別の進化概念歪曲現象の影響を受けていた。

  • ローソン系(東系統)

八重洲地下街の東部に存在し、主にローソンの中でハダカニクデンシャを飼育してきた氏族「タナの家族」が管轄している。タナ家は地下内財団の庇護を受けており、ハダカニクデンシャもその力を受けて家畜化したものである。事変初期に盗難されたタナ家のハダカニクデンシャが残りの2つの家の下で隔離され分岐したのが他のハダカニクデンシャ系統である。

ローソン系のハダカニクデンシャの特徴は、肉量が非常に多いという点である。天井の高さの制約からこれ以上伸びなかったものの、記録ではこれは2mほどの高さを持っていたと言われている。これは他のハダカニクデンシャ系統ではあまり見られない特徴である。遺伝的にはマルノウチニクデンシャのDNAが多い。SNP(一塩基多型)をDNAマーカーとして遺伝的背景を調べると、主に連絡粘液層の関連酵素を分泌させるAEHL遺伝子が他のニクデンシャと異なって欠損していることがわかった。マルノウチニクデンシャも同様であるが、これは二次的に別の理由で欠損した可能性なども考えられている。

  • ファミリーマート系(北系統)

八重洲地下街の北部に存在し、主にファミリーマートの中でハダカニクデンシャを飼育してきた氏族「カトの家族」が管轄している。カト家は天井にパイプを張り巡らせそこからぶら下げることで、ナンボクニクデンシャの特徴を真似しようとしたと言われている。この系統はナンボクニクデンシャの遺伝子が多く含まれる。

ファミリーマート系のニクデンシャの特徴は、親肉株の頂上部に特殊な構造を有していることである。「肉ツル」と呼ばれるこれが飼育下では天井に結びつきパイプに絡み合う。なお、他の系統も肉ツルを多少なり有しており、ファミリーマート系ではそれが発達したものである。

  • セブンイレブン系(南系統)

八重洲地下街の南部に存在し、主にセブンイレブンの中でハダカニクデンシャを飼育してきた氏族「ヤマの家族」が管轄している。ヤマ家は血液をニクデンシャの肥育に利用することで知られている。赤坂見附手記では、一行が八重洲地下街に赴いた時にその風習を目撃した衝撃が記載されている。これには全く科学的な根拠はなく、ハダカニクデンシャの生育に血液が役に立つことはない。

セブンイレブン系ハダカニクデンシャは3系統の中で1番最後に分岐したと言われている。重量が軽く、50%以上の個体が60kg未満である。

繁殖形態

ニクデンシャ属の繁殖形態は生殖株を介した有性生殖に該当する。ニクデンシャは共通して生殖株と呼ばれる特殊肉株を有している。1つの個体は基本線路から外れて動くことができない。そのため、ニクデンシャ属の種が取り得る繁殖形態は、一部の生殖株を分肢させて他の個体と結合させるしかない。

生殖肉株は雌雄の区別を持つ単体で繁殖可能な特殊肉株である。雌の生殖肉株はおおむねS字型の袋状の構造を有している。これはヒトの生殖器に相同で、雄の生殖肉株の生殖器を挿入することで交雑する。

補助肢は18節で、右9節、左9節のそれぞれ同じ数の長さ3cmほどの可動な触手類似部である。生殖株補助肢は波動運動を繰り返して一定の決められた場所へ移動する。ニクデンシャはそれぞれ決められた繁殖スポットを有しており、おおむねそれは駅の構内や通路になることが多い。また、一部の車両基地は線路の構造上ニクデンシャの繁殖スポットになりやすい。

今回はトウキョウニクデンシャの九段下に存在する繁殖スポットを例にして詳述する。九段下駅は東西線、半蔵門線、都営新宿線が乗り入れる。これらの路線が一駅に重なる場所であるため、さまざまな路線のニクデンシャが合流する地点となっている。

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figure.5 九段下駅の改札口。おおむねここが3路線に生息するニクデンシャの繁殖地点である。地上に近いため駅住民は近づかず、環境が安定して保たれている。これについて詳しく言及した文献は、Nagashima Ajiki (2032) “トウキョウニクデンシャの論考” 翰林書院 などがある。

figure.5は繁殖スポットの具体的な地点を示した。この地点に至るまで半蔵門線の個体は階段を最短で二度登らなければならず、そこで個体間の生存率の差が出てきている。サイト-81GBの統計では駅に到着した生殖肉株の8割が死亡する。駅住民は途中で力尽きた生殖株の死体を拾うにとどまっており、意図的に生きた生殖肉株を捕獲しようとしない。これについて赤坂見附手記は、「ニクデンシャは一部の駅では神聖なものとして扱われ、それが仔であればなおさら」と述べている。

繁殖スポットに到着した生殖肉株は繁殖の準備を開始する。雄の生殖肉株は普段皮の下に収められている雄性生殖器を皮を突き破って露出させる。この不可逆的な繁殖様式のため、繁殖を終えた生殖肉株は長い時間生存できない。雄性生殖肉株は雌性生殖肉株の生殖孔を自身の生殖器で埋めるようにして繁殖する。その際に雄性生殖肉株は精液を抽送し、1分間で繁殖を完了する。雌性生殖肉株はその後、空の電車殻の適当な車両に回帰するが、雄性生殖肉株はそのまま死亡する。

考察

ニクデンシャ属の形態的差異は触手様式などの点で現れると説明した。触手様式は成長にかかるコストに直結しており、満肉型の触手様式はより多く肉株を必要とするため要するコストが非常に高い。逆に床肉型はそれだけで他のことにエネルギーを割けるほどコスト面で優れている。満肉型が優れているのは主に駅住民との共生の面である。その駅の文化にもよるが、駅住民のほとんどがニクデンシャにヒトの死体(もしくは生きたヒト)を捧げていた。満肉型が走る路線の駅には、駅住民が多く集まる傾向にあるのでその関係が成立しやすい。

毒胞はニクデンシャ属の共通の祖先で持っていた器官であると見るのが妥当である。マルノウチニクデンシャ以外の種では二次的に退化し、無くなったのであると考えられている。その理由はマルノウチニクデンシャ以外の種ではヒトによる淘汰圧、すなわち人身御供や狩猟行為の中止が行われたことに起因する。マルノウチニクデンシャでそれが起きなかったのは、丸の内線の駅住民が毒胞を肉株の中から取り除く方法を知っていたことや進化概念歪曲現象の圧力が弱かったことなどが挙げられる。丸の内線では、東京駅の周辺では圧力の影響が非常に強いが、同じ路線の南阿佐ヶ谷まで行くとある程度収まっていく。これはトウキョウニクデンシャ中央個体群の主な生息地である新宿線などでは見られない固有の環境的特徴である。ナンボクニクデンシャでは種のもっとも大きな繁殖地が王子神谷駅と志茂駅の間にあることが進化概念歪曲現象の圧力差に関与している。

路線図の北西部にある進化概念歪曲現象の影響が比較的薄い領域(ホワイトスポット)には、大江戸線、丸の内線、有楽町線、副都心線、三田線などがある。これらの路線のニクデンシャ属の種は共通の祖先種に近い形質的特徴を有する。ナンボクニクデンシャは王子車両基地をホワイトスポットに近い位置に有しているので、同じような特徴を持つ。

ホワイトスポットの反対側の領域、東京路線図における北東部の千代田線、銀座線、日比谷線などを含む領域はブラックスポットと呼ばれ、こちらは進化概念歪曲現象の影響が弱くない。そのため、毒胞の退化や床肉型に触手様式が近づいていくなどの現象が見られる。

結論

ニクデンシャ属の種間の差異は野生種のみならず、家畜種のハダカニクデンシャでも進化概念歪曲現象の影響下にある。これは通常数千年単位で行われる家畜化が、ハダカニクデンシャにおいて10年ほどで完了したことからも明らかである。進化概念歪曲現象は通常さらに長いスパンで起こる進化という現象を短縮する。

進化概念歪曲現象下における、環境と生物種の形態の具体的なつながりはまだ未解明であり、それを直接的に理解することはできない。しかし、毒胞を有するマルノウチニクデンシャやハダカニクデンシャの中でも特にファミリーマート系の品種が肉ツルを有することなどからも考えて、何かしらの圧力の差があることがわかる。また、そのまま「進化概念歪曲現象の圧力はどれも同じであり環境の差によって形態や特徴に変化が出る」という論も同時に有効である。

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