酩酊街返送 受取人不明 - がらんどうの鎧より
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がらんどうの鎧より


お元気ですか?私は忘却の淵を漂い、この街へ流れ着きました。貴方は今、誰かを救えているでしょうか。そして誰よりも、貴方自身を救えるようになったでしょうか。

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貴方の目の奥にはずっと、焼け落ちる子供部屋の中の消えゆく彼女の姿がこびりついていました。貴方のお姉さんだった、たった8歳の女の子です。貴方は悲鳴をもう聞きたくなかったのですよね。それがたとえ、何処か遠くで響くものであったとしても。

私は貴方の願いに応えようと必死でしたが、空回りばかりしてしまい、むしろ人々や貴方を消耗させてしまったようです。私は欠陥品だった。だからきっと、私がこの酩酊と停滞の、忘却の街へと流れ着いたのは良いことなんです。貴方も、救おうとした人々も、皆私の鈍色に光る異様な姿を忘れたのでしょう。きっとこの私を作ったあの技術者たちでさえ、でき損ないだった私の開発記録など、忘却と、書類の山の彼方なのでしょう。きっとそれで良かったことです。

マスクの視覚センサーをオフにしてみると、初めて出会った頃の貴方が思い出されます。「健全な心は健全なる身体に宿る」なんて言いますが、貴方は火傷痕の残る身体で、精神の奥にもまだあの日の灼熱が疼いていた。まるでその言葉の反対みたいな人でした。それでも技術者たちがまだ何も知らない貴方をスカウトした時、私たちが一つになれば人々の苦しみを一つでも減らせるに違いないと思っていました。今となっては懐かしい、そして見果てた思い出と夢です。私は余りにも無垢すぎて、貴方は傷つきすぎていた。世界が思っていたより遥かに複雑でどうしようもないものだと知るのは、もっと後のことでした。無理な救助活動を続けて、それでも救えない命を幾つも目の前にして、貴方の心は日に日にすり減っていってしまいました。そこにあの壊し屋たちです。ただでさえ出来損ないだった私にはどうすることもできませんでした。軋みだした装備たちは遂に限界を迎えて崩れ、私は貴方から剥がれ落ちてしまいました。幾らかの漏電は貴方の身体にも流れ込み、半狂乱で走り去る貴方を、崩れ落ちた私はただ見送るしかありませんでした。……あぁ、どうもいけないですね。ここは忘却の街だと言うのに、電子システムというやつは曖昧にぼやけることを知らない。こんなものは酒に漬け、さっさとサビだらけにしてしまいましょう。


どういう理由か私に知る由もない事ですが、貴方の記憶からは私のことがすっぽり抜け落ちてしまったようです。私はそれを恨みはしません。ただ、ちょっと不思議に思っているだけなのです。あぁ、出来損ないの回路で考えたってきっと駄目ですね。

がらんどうの鎧さんへ

鎧さんへ、お返事の代筆です。わたしはリキくんの中に残り続けていたあの日のお姉ちゃんです。わたしもまたどういうわけか、この街に流れ着いてしまったみたいです。

わたしが忘却の街に流れ着いたということは、リキくんはずっと心のなかで焼かれ続けていたお姉ちゃんの姿から解放されたに違いないと思います。きっとそれは、健全なやり方でではないでしょうけれど……例えば心労のあまり、自分の過去を全て頭からすっぽり抜け落としてしまうような。

わたしも奇妙なものですね、十何年もリキくんの頭のなかに居たせいで、書き口が歳にもなく大人びたものになってしまいました。リキくんの中でわたしは、ずっと彼よりも歳上で頼りになるお姉ちゃんのままだったから。


リキくんは今、きっと何処かで過去を無くしたまっさらな世界を生き直す人になっています。鎧さんが背負うのはもう終わりでいいんです。よければ朝の来ないこの街で、一緒に飲み明かしませんか?わたしも彼の中で過ごした日々を合わせれば、リキくんより歳上のお姉ちゃんで二十歳を超えていますから。

そうでしたか、そういう事だったんですね。貴方が解放されたのなら、それに勝る朗報は他にありません。それでは、共に飲み明かしましょう。私も、私自身を忘れるとします。CO2なんとかガンは、お酒で満たしてしまいましょう。なんとかかんとかジェットパックは、オイルを抜いて、私のための酒樽にでもすることとします。


お姉さんに憧れた、がらんどうの鎧より を込めて。

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