メモ: ペトリコールで思い出した事
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別名: 一目連、またはヒトツメノムラジ

概要: 妖怪、もしくは神。だったものだろう。

片目の無い巨大な龍であり、嵐を纏いながら空を駆ける。
纏う嵐は全てを壊すのでは無く、その通り道一本だけが綺麗に削がれるのが特徴的、らしい。(案内人の河童から教えて貰った)

◎私用で遠野妖怪保護区へ出向いた際に遭遇した。
◎コミュニケーションが可能。
妖怪も彷徨かないデンデラ野の深い森を超えた、開けた海岸の様な場所に寝そべっていた。かなり怖かった
◎とにかく大きい。全身を覆う岩の様な鱗の一つですら私の顔よりも大きかった。
◎常にペトリコールが周囲を香っている。


脅威:
その荘厳な巨体から、私も最初は途轍もない脅威を前にしていると覚悟した。
だが、どうやら違う。

◎まず、龍から「人がいるのか?」と問いかけられたのはかなりびっくりした。次に「何故こんな所にいるんだ」と怒られる。当然と言えば当然か。
◎私については心配いらない事、貴方に興味がある事を素直に伝えた。納得は行ってなさそうだった。
◎思ったより温和な性格。
彼は自分の事について素直に答えてくれた。

◎彼は老いていた。もう、碌に動けない程に。

◎かつては「神」とも呼ばれ嵐と共に暴れ回る事ができたが、今は体がもたないとの事。
◎次嵐を纏った時が彼の「死」であると彼は言った。
→妖怪にもどうやらその概念はある様だ。

◎彼の体は確かに傷だらけだった。まさしく瀕死の龍の様だ。

疑問:嵐を纏った暁にはどうなる?→彼に質問。
彼は「身体が消滅する様な物と思ってくれ」と答えた。成程、想像に難くない。

疑問: 何故そこまで衰弱した?→訊いた所、彼は重い口を開いてくれた。優しい。





◎どうやら話はこうだ。
かつて、この土地に安寧を見出した妖怪達による大規模な避難……「百鬼夜行」が行われた。その時、彼は暴風によって妖怪達を護る役割を買って出たらしい。
だが当時の正常性維持機関はそれを許さなかった。いつの時代も奴らは厄介極まり無い五行結社による攻撃を一心に受けた彼は命からがら逃げ切ったものの、その傷は深かった。

時間が解決してくれる物は少ない。この件も例外では無かった。それだけの話だ。

◎これ以上深い詮索はよそうと思う。互いの為にも。
◎私も正常性維持機関に追われた事があると話すと、彼は喜んで話を聞いてくれた。龍の奇妙な友ができるとは、人生何があるか分かった物じゃない。


備考: 彼に会う前に案内役の河童に一目連の事を聞いた結果、かつての資料を見せてもらった。
◎台風の写真。写真からでも凄まじいパワーを感じる。
確かに「美しい」と形容されるに値する力があった。
希望した所二百円でコピーを買えた 帰宅時に見たら葉っぱに変化していた。騙された?

計画: 別れ際、彼に一つ頼まれた事がある。

近々彼は、外界で最後の嵐を轟かせるらしい。

その時はどうか、ささやかに弔ってくれないか、と。


いやちょっと待て
疑問:何故死ぬと解っていてそんな事をする?→質問。
彼は「それが俺の存在意義だからだ」と答えた。

「俺はそうする事しかできない存在なんだよ。最後まで、俺は誇り高く、"一目連"でありたい」と。

……存在意義。
私には無い物。私には見つけられない物。
その言葉で、私は閉口せざるを得なかった。

「それじゃあな。浄土があるなら、そこで逢おう」
そう言いながら彼は浮かび上がり、よろよろと宙を泳いでいく。

もう輝きを忘れた彼の鱗が。
私には、酷く眩しく見えた。

追記: 遠野妖怪保護区を出て本拠地に帰還。1日かかった。暗澹とした天気に気分が下がる。
空を覆うどす黒い雲は、ここ一週間居座るようだ。



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追記: 帰宅してから四日が経った朝。一つ思う事があったので、ここに記そうと思う。

◎私は帰ってきてから、それなりにゆったりした時間を過ごしていた。
日本のアニメ文化は最高だが、時間という物の儚さを見せつけられる。

それでも心の奥で、彼の存在が微かに渦巻いている。
彼は確かに存在する意味を持っていた。意義があった。
何よりも、彼は最後までその歯車の上で走りきろうとしていた。私はどうだろうか。

表面上は忘れていても、深い所で澱は溜まっていた。

私は何者でも無い。

何者でも無いから、私は存在している。

そこに意義はあるのか。そこに意味はあるのか。
私は意味を求めているのか。
何もかもが不明瞭なまま、それは胸を掠めている。

そうこうして浪費した3日目の夜。私は、やけに風の音がうるさい事に気がついた。
雨音は変わらず響いているし、窓からは時折微かに閃光が走っている。ふと気になって窓の外に目をやった。

雲をも飲み込まんとする巨大な嵐が、そこには渦巻いている。


雨粒を旋回させながら。雷鳴を遠くで鳴り響かせながら。
写真とはまるで違うような、荘厳な景色だった。


◎そして翌日の朝、私はこの文章を書いている。

ラジオは朝からずっと同じ事を垂れ流していた。
「昨夜、過去最大級の突発的暴風雨が発生致しました。その規模にも関わらず、家屋の被害は奇跡的に通り道のような極細い範囲だけであり──……」

なんとも平和な朝だ。3日振りに玄関を開ける。

そこには確かにペトリコールと、燦々とした太陽が広がるだけだった。

私に存在する意味があるかは分からない。
意義があるかは分からない。

それでも、とりあえず、今は。
小さな酒と花でも、買いに行こうかと思う。

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R.I.P.


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