企画案2024-125: アメリカを映す鏡: あなたの反射像
タイトル: アメリカを映す鏡Mirror to America: あなたの反射像A Reflection of You by ダレン・イヴリス
必要素材:
- キャンバス 題材1人につき1枚 (所有済)
- 油絵具、絵筆、その他異常でない画材 (所有済)
- 対象者の血液または毛髪のサンプル (購入済)
- ベラドンナ、ハイチ産ナンヨウアブラギリ、セージ、ギンバイカの葉と茎 (ヨルゲンが所有済)
- 100米ドル紙幣 1枚 (所有済)
- 芸術空間処理を施したナイフ (所有済)
要旨: 一連の絵画をバジル・ホールウォード様式で、可能な限り写実的に制作する。絵画の題材には政治家、メディア関係者、CEOなどの人物を含めるものとする。
今回の企画はヨルゲン・エリクセン氏との合作であり、彼は肖像画の裏面にハイチ式統一円を描き、8日間の儀式を通して血液 (または毛髪) サンプルの力を吹き込む役割を担う。統一儀式に使用する100ドル札を絵画の対象に捧げることで、意図した通りの効果を得られるであろう — 描写された題材が金銭を稼ぐごとに肖像画は歪曲し、ドルの額が大きいほどに歪みも大きくなる。ホールウォード画法は、肖像画の変容が絵具の剥離ではなく、老化や肉体的負傷に似たものとして現れるのを保証する。
更に、鑑賞者は用意された特殊なナイフを使用し、肖像画に危害を加えることを推奨される。これらのナイフはキャンパスを傷つけず、描写された題材のみに作用する。ホールウォード画法には限界があるため、題材の肉体的な反応は観察できない。
意図: 現代のアメリカは、資本家たちが政治に影響を及ぼし、政治が市場に干渉することで衰退の一途を辿っている。新自由資本主義という名の亡霊が全てを支配するシステムを転覆させねばならない。本作は、もし下層階級が上層の物事を変えられたならば、一体何が達成され得るかを表す野心に満ちた象徴的ポーズに過ぎない。アメリカの理想の芯が腐敗し続けるのを見過ごすことはできない。我々は下層の人々に語らせるべきだ。
13枚の肖像画から成る最初の連作には、元アメリカ大統領4名 (ビル・クリントン、ジョージ・W・ブッシュ、バラク・オバマ、ドナルド・J・トランプ) 、政治家 (オリバー・ノース、デニス・ハスタート、ヒラリー・クリントン、ディック・チェイニー、ロッド・ブラゴジェビッチ) 、企業経営者 (ロブ・ウォルトン、イーロン・マスク、ジェフ・ベゾス、ボブ・アイガー) を描く予定となっている。最初に選ばれた人物は、現代アメリカの衰退と、脱希少性経済の世界で生きることの自己満足を表象するうちのほんの一握りに過ぎない。
今回の連作はかなり人気が出ると思われるため、将来的にまた別の連作か、他の異常芸術家アナーティストとの合作を手掛けるかもしれない。
絵画の非異常な複製はオークションや商品化企画に利用できる可能性がある。
From: 批評家クリティック
To: ダレン・イヴリス
件名: Re: アメリカを映す鏡
ああ、また君か…
今回はもう少し優しく接する余裕がありそうなので、ひとまず私に企画案を持ち込む前に他のアナーティストたちと相談することを学んでほしい。我々は数ヶ月ごとに、君のような新入会員からドリアン・グレイ企画案を受け取っている。内容はいつも同じだ。何処ぞの金持ちの肖像画に、財政反転条件を付与した拘束儀式を執り行って、完成! 君の作品は数年前に流行った奇跡術による肉変性を含まないだけだ — あれは絵画を、子供たちが大好きな血を噴き出す臭い汚物に変えるためによく使われた。
AWCYに短い間だけ在籍した無政府主義者や社会主義者は数十人いるし、私自身や私の苛烈な批評を嫌って袂を分かった者たちも大勢いる。私が過激すぎると思っているか、腰抜けだと思っているかのどちらかだ。彼らのギャラリーを何処か1ヶ所選んで行けば、私に対する不満を山ほど聞けるだろう。いずれにせよ、君は現代の反資本主義異常芸術アナートがどういうものかを理解するためにも、彼らのギャラリーに足を運んでみてはどうだろうか。彼らにもまた、全ての新入りからこの種の企画案が届いているのはほぼ間違いない。
オークションと商品化に関する最後の補足だが、自分が送っているメッセージについてしっかり考えたか? 君は自分でも何をやっているか全く分かっていないようだ。理解していない学術用語を投げ散らかしているに過ぎない。アナートの大半は現代社会が抱える数多くの病を論評するものだが、君の見解は率直に言って古臭くつまらない。
この企画案は却下する。次回はオスカー・ワイルドの丸パクリを控えるように。
From: ダレン・イヴリス
To: 批評家
件名: RE: Re: アメリカを映す鏡
ミスター・クリティック、
本作は確かにドリアン・グレイを参考にしていますし、好評を博しているテーマであるのも驚くべき事ではないでしょう。しかし、私のアプローチは新規かつ類例の無いものだと考えます。失礼ながら、これはオスカー・ワイルドのパクリではなく、オマージュです。それに加えて、アプロプリエイションは芸術界と異常芸術界の双方に深く浸透しています — 私は単純にデュシャンとレディメイドの足跡を辿っているに過ぎません。
肉変性の提案をどうもありがとうございます、立案中は検討していませんでした。ヨルゲン・エリクセン氏はこの技法についても私を支援できると語っています。
敬具、
ダレン・イヴリス
From: 批評家
To: ダレン・イヴリス
件名: Re: RE: Re: アメリカを映す鏡 [返信無用]
少年、悪く思わないでほしいが、いつか普通の美術史の教科書を開いて、君が使っている用語の意味を調べてくれ。君の“レディメイド”という言葉の使い方が如何に誤用甚だしいか、無料で講義をするつもりは無い。君が“オマージュ”という言葉を貼りつけても、これが (悪い意味で) 検討の甘い派生作品であることの言い訳にはならない。成程アプロプリエイションは芸術界に深く浸透しているが — 私はシェリー・レヴィーンの大ファンなのだよ — 君はオリジナルを大きく変化させていないし、むしろワイルドの小説よりもメッセージ性に欠けている。
君はあの小説を実際に読んだかね? Wikipediaの粗筋だけをなぞったように思える。バジルが肖像画に心血を注ぎこんだのは、彼がドリアンに心酔し、いつの日か悪影響がその美男を破滅させるのを恐れたからだ。だからバジルは、自分が見た無垢な美しさを保存するために肖像画を描いた。勿論、我々は皆その後の顛末を知っている。無修正版を読めば、如何にあの小説が同性愛的であるか気付くだろう。政治家たちの肖像画を描く時、君の心は彼らへの愛に満ちておらず、良心の呵責を欠いた放埓者として人生を送ることの危険性を子供たちに警告しようともしていないはずだ。
デュシャンには二度と言及しないでもらいたい。そしてこのメールにも返信しないでくれ。
From: ダレン・イヴリス
To: 批評家
件名: RE: Re: RE: Re: アメリカを映す鏡 [返信無用]
ミスター・クリティック、
失礼ながら、あなたは芸術において許されるべき事の最終決定権をお持ちではないはずです。それに加えて、私は奇跡術方面でヨルゲンの助力を必要としており、彼は来月多忙であるため、私が責任者として決定を下した次第です。正確な肖像画を描くのに予想よりもかなり時間を取られてしまったので、ディック・チェイニーの肖像画しか完成していませんが、これがプロジェクト全体の推進力となります。
原案からの修正点: 肉変性を追加したおかげで、逆転印章は作品をヴードゥー人形のように機能させることができます。即ち、ギャラリーの来客たちが描写された題材に実際の影響を及ぼせるようになったのです。今では肖像画を傷付けると本人にも危害が及ぶので、私にとって初めての公共アナート・パフォーマンスで肖像画を破壊し、ディック・チェイニーの略式処刑を執行することで、それを実証するつもりです。
恐らくあなたもまた “ドリアン・グレイの肖像” をお読みになるべきでしょう。きっと序文を覚えていらっしゃるはずです! “芸術のための芸術”と俗に言うではありませんか。
あの本でワイルドはこう述べています。 “芸術が真に映し出すのは鑑賞者であり、人生ではない。ある芸術作品に対する意見の多様性は、その作品が新しく、複雑で、活気に満ちていることを表している。批評家たちが異議を唱える時も、芸術家は自分自身と調和している。” あなたが私の視点を徹底的に誤解していらっしゃるのに感謝すべきかもしれませんね! 私の作品の芸術的価値は、あなたがそれを理解しないからといって、損なわれることはありません。
来月には企画案の制作とパフォーマンス “アメリカを映す黒い鏡: 上の部屋を叩き壊す我がはらわたの内の火の祈り” の上演に移ります。AWCYへの私の参加を検討してくださり、ありがとうございました。しかしながら、私たちの目標は相反しているようです。今回の企画が成功した場合、次のパフォーマンスが “炎上する批評家の肖像” になっても驚かないでいただきたい。
敬具、
ダレン・イヴリス
From: 批評家
To: ダレン・イヴリス
件名: アメリカを映す黒い鏡
肉ベースの奇跡術による暗殺は、出生時の対操肉術カルノマンシー保護が広く普及し、平凡なワクチンや薬を通して乳児に施されるようになった数十年前から成功しなくなったのだよ。多くのアナーティストが操肉術を好まなくなった主な理由の一つだから、ヨルゲンも間違いなく知っていたはずだが、恐らく君が大失敗するのを見届けたかっただけだろう。
君が焦げた肉や灰の後始末を楽しんでくれたならば嬉しい。私は来月号で君のパフォーマンスの批評を書くのを大いに楽しみにしている。
実に面白かったから、やはり君を引き留めることになるかもしれないな。