ふと目が覚めると、見知らぬ部屋の中にいた。
ここに至るまでの記憶の大部分が失われている。自分の名前も、年齢も、ここがどこなのかも、なんでこうなったのかも、全くもって分からない。
急いで身の回りのことを確認する。自分はベッドの上に横たわっていて、部屋の中に明かりはない。薄暗い部屋だということが分かった。部屋には窓はなく、扉も外から鍵が掛けられている。外界と接続している部分は天井にある換気扇だけだということが分かった。空調の音が耳に入ってくる中、私はただ呆然と、部屋の一点を見つめていた。
部屋に備え付けられているテーブル、その上にあるノートパソコン。そこから発せられている淡い光に、走光性を持つ羽虫のように惹かれていた。気が付いたらベッドから出て、そちらへと足を動かしていた。そっと、パソコンの画面を覗き込む。
画面上には「自己問答のすゝめ」というウェブサイトが表示されていた。ウェブサイトは簡素な作りであり、対話相手となるであろうチャットボットのアイコン、メッセージのやりとりをするであろうチャット画面しか存在していない。試しに、私は適当な単語をチャット画面に打ち込み、送信した。
しかしながら、何を打ち込んでも帰ってくるのは「返信不可」というメッセージだけ。どうしたものかと悩んでいると、床に一枚の紙が落ちていることに気付いた。この紙にもしかしたら自分に関する情報や、もしくは「自己問答のすゝめ」のヒントが書かれているかもしれないと思いながら、紙を拾い上げ、その表面を見てみた。
そこには「おかえりなさい」および「加藤螺良」という文字が書かれているだけだ。
意味が分からなかった。何故、おかえりなさいなのだろうか。そもそも、加藤螺良とは誰なのだろうか。何も分からず、混乱のあまり頭がショートしそうになる。ただその一方で「これを『自己問答のすゝめ』に打ち込むのはどうだろうか」という疑念が渦巻いていた。
入力を目的として、キーボードに両手を載せて、指を動かした。









