怪物のバラード
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アイテム番号: SCP-XXX-JP

オブジェクトクラス: Safe/Euclid/Keter (適切なクラスを選んでください)

特別収容プロトコル: [SCPオブジェクトの管理方法に関する記述]

説明: SCP-XXX-JPは高度認知能力を持つ約50kgの肉塊です。組成はヒトに由来すると推測されますが、未知の生物群に由来すると推測されるものも確認されます。体色は薄桃色であり、末端組織の崩壊が確認されています。この崩壊が継続した場合、SCP-XXX-JPは████に無力化されると推測されます。

SCP-XXX-JPは2対の触腕及び口吻を持ち、それらを用い攻撃対象を抉り取ることで攻撃を行います。この攻撃はヒトの視認速度を超えているため、SCP-XXX-JPへの接触には適切な装備の着用が義務付けられます。また、これらの攻撃は捕食行為を兼ねていると推測され、攻撃対象の筋肉を積極的に狙うことが確認されています。

SCP-XXX-JPは生物由来の蛋白質を摂取することにより、声帯にあたる部分が存在しないにもかかわらず、摂取した生物の鳴き声を99.99%以上の精度で再現することが可能です。この異常性を用いてSCP-XXX-JPは会話を行います。

この異常性は哺乳類や鳥類を初めとした脊椎動物に限らず様々な生物種に対し有効で、昆虫であれば形態学的特質に関連して生じた音声発生を鳴き声として模倣することが可能です。その原理は解明されていません。

SCP-XXX-JPの崩壊はヒト由来の蛋白質を摂取することで停止、治癒することが確認されていますが、SCP-XXX-JPの激しい抵抗により現在は延期されています。

インシデントXXX-JP以前、SCP-XXX-JPは日本人女性である██ █氏と同様の容姿をとったうえで財団において雇用されていました。SCP-XXX-JPのオリジナルである██氏は19██/10/██、SCP-███-JPに曝露し死亡しており、SCP-XXX-JPは██氏としてのアイデンティティを有していると自称していましたす。



般若瞳は報告書を打ちこむ手を止める。SCP-XXX-JP、異常存在でありながら財団に雇用されて"いた"1人。宇喜多やユーリカ、イァグトゥイルなど、財団は正常性保持機関でありながらその特性や資質が有効と見なされ、忠誠心を認められればれば雇用を許可される。だが、同時に少しでも瑕疵があればその権利は剥奪され、"研究対象"へと戻される。その是非については過去現在問わず問題のタネであり、一種アンタッチャブルな領域でもあった。

かく言う般若も異常性を持った一人である。顔の露出面積により印象を変える、変えすぎてしまうという単純なものではあるが、財団による雇用審査を受けるには十分だ。影響を抑えるための般若面を少し上げながら般若は続きを打ちこんでいく。

指が止まるたびに脳裏に浮かぶ一人の少女。
いや、もはや少女とは呼べなくなっただろう"研究対象"の姿を振り払うように。



インシデントレポートXXX-JP-01 - 日付 20██/██/██

インシデントXXX-JPは20██/██/██、旧GoI-2722"鉄錆の果実教団"残党(以下、教団残党)により複数の財団職員が拉致されたうえ暴行、殺害されたことに端を発するインシデントです。同教団が財団により解体されたことへ対する報復措置として該当インシデントを引き起こしたと推測されます。財団がこれを察知し、教団残党の拠点を襲撃したところ、SCP-XXX-JPにより、全員が捕食され死亡していることが確認されました。この時点をもってSCP-XXX-JPの特別雇用を解除、収容が決定されました。なお、SCP-XXX-JPの外見は当インシデント後現在のものに変化しました。

拠点内の調査により、殺害された職員は教団残党により儀式的に解体、摂食されていたと推定されています。このような儀式的行為は教団存在時には確認されていないため、別団体による影響が及ぼされた可能性が示唆され、捜査が続けられています。このインシデントにおいて死亡した職員は以下の通りです。

  • 伊吹 阿高 (エージェント/機動部隊も-29 "濡烏"隊員)
  • 梓川 幹也 (エージェント/機動部隊も-29 "濡烏"隊員)
  • 木間塚 円 (研究員/機動部隊も-29 "濡烏"隊員)
  • 四方 尊大 (研究員)
  • 津軽 みのり (研究員)
  •  



報告書に記載される名前は墓碑銘だ。財団では骨の1つも残らず火葬されるのが通例。財団を知らない人間にはダミーの遺骨が提供され、知る人間はその事実をただ記憶するのみ。死が現実から乖離されていく世界に対し、財団は冷たい墓穴に半分埋もれているようなものだ。般若は自嘲する。この墓碑銘に友人の名が書かれていたとて、私は涙1つ零さないだろう。ましてや、相手を殺すほど荒ぶることはないだろう。

そんなことをしてしまっては収容されてしまうのだから。

異常性持ちの職員にとって"信用"は大きな盾だ。収容され、人間として生きていくためにそれは必要不可欠なものだ。たとえ過去の選択が私を苦しめようと、現在その信用を喪おうという選択肢を選ぶ人間はいないはずだ。誰だって人間でいたいと願うのだ。収容されないでいたいと、正常でいたいと願うのだ。

自身を客観的に人でないと判断し、信用をその担保にしてしまった矛盾を抱えたとしても、人として生きていく道を疑いながら唯々諾々と進んでいくしかないのだ。荒ぶることは求められず、感情のままに動くことが望まれることは無い。

そうなったときが、人としての最期なのだ。

人は人のまま怪物にはなれず。怪物に幸せは訪れない。

般若は少なくとも、そう思っていた。



以下は、SCP-XXX-JPに対するインタビュー記録の抜粋です。インタビューは安全の観点上、遠隔により行われました

インタビュー記録XXX-JP-01(抄) - 日付 20██/██/██

対象: SCP-XXX-JP

インタビュアー: 般若博士

<再生開始>

般若博士: SCP-XXX-JP、あなたは何故あのようなことを行ったのですか?

SCP-XXX-JP: うーん、私が怪獣だから? がおー

般若博士: もう一度問います。あなたは何故あのようなことを行ったのですか?

SCP-XXX-JP: 真面目に答えてますよ。私が怪獣だったからです。怪獣なら人を踏み潰さなくちゃいけないし、人を食べなくちゃいけないからですね。怪獣が人を食うのは当たり前だけど、人が人を食べるのは異常でしょう?

般若博士: では何故あなたは現在人を食べることを止めているのでしょうか

SCP-XXX-JP: 怪獣になったけど、やっぱり楽しくはなかったからです。私はずっと楽しいことがしたかった。いろんなことをやって、いろんなものを食べて、いろんなところに行きたかった。だからずっと怪獣になることはやめてたんです。こうなったときに、もっと色んなことはできたけど、色々と諦めて

般若博士: その意思があったなら別の選択肢はなかったのですか? あなたは財団の本部にカルトの行動を連絡し、収容を選ばない形で行動することもできたはずです

SCP-XXX-JP: ありましたよ。でも、ここで生きてしまっている自分から逃げちゃったら、怪獣にならなかったとしても私は██ █じゃなくなると思ったので

般若博士: 財団への忠誠心より自己を優先したと?

SCP-XXX-JP: それが私だったんです。怪獣は望むままに進んでいって、帰り道までぶち壊して、誰も助けることはできないのです。結局こういうことになっちゃったし悔いは残りまくってますけど、好きなことができたからいいかって。許せないものは許せなかったし、みのりちゃんや阿高さん達を──



インタビューの再生を停止し、般若は目頭を強く押さえる。まだ番号の決まらないあのSCiPとの会話により疲弊したはずの神経は、何故か昂り休息を許してくれなかった。

食ったのだ。SCP-XXX-JPは人を食ってしまったのだ。人であることを自らの意思で今更に止めたのだ。友人を傷つけたから怒り、相手を殺すなどありえない。信用を失う予想はできたはずだ、それは"正常な"自身の最期になる。
もう戻ることはできない、収容されるべき怪物になってしまう。

彼岸と此岸の境目には橋が架かる。知らず知らずのうちに超えてしまうのに、分かってなお、橋を越えていくのは人にできることだろうか。

肩を伸ばす。温めた牛乳を注ぎブランデーを一滴垂らした。
ゆっくり飲み終えると1つ大きく息を吸い、再生ボタンに指を伸ばす。



般若博士: 最後に質問します。あなたはまだ自身を萌里菻であると認識していますか?

SCP-XXX-JP: はい。だから私は収容されることを選びました。私は怪獣であり萌里菻でありたいと思っています

般若博士: 分かりました。インタビューを終了します

<再生終了>

このインタビュー終了後、SCP-XXX-JPに対するインタビューは許可されていません。



インタビュー記録の音声ファイルを添付する。いくつかの固有名詞は検閲を受けるかもしれないが、これで報告書の作成は終わりだ。あとは収容スペシャリストからあがってきたプロトコルを挿入し、SEK分類の決定を受け査読部門へ提出すればいい。ひどく疲れていた。一旦休暇を取り、また仕事に戻ろう。なんだかすべてを忘れたかった。あのSCiPにもいつかナンバーが付く、そのナンバーを見て思い出せばいい。

保存し、モニタの電源を落とした画面に映る自分の面。般若面は狂い、人ながら鬼になってしまった女の面だ。
ヒトの形を捨てた蠢く肉塊を思い出す。
般若は抱えていた昂ぶりが怒りだとようやく気が付いた。崩壊するまでの間、あの肉塊は悔やむだろうか。

「悔やまないでしょうね」

インタビューの最後に笑っていたようにも思う。
少女のまま怪物になって、それでも───、そう、幸せでいられるなら。

般若は萌里の最期がそうであってほしくはないと願ってしまった。

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