もうながらくこんな嵐は見たことがないな。もしくは見たかもしれないが、私は報告書を書くのに忙しくて、風が木を根こそぎ倒すだけのことにかまっていられなかったよ。とにかく、私はここでこの悪天候を眺めていたくない。カフェテリアに行くか。私は仕事のし過ぎで腹が減ってる。お前もそうだろう。あぁ!おそらくテーブルの上をたたく耳障りな音が迎えてくれるだろう。聞こえるかね?正確に9回だ。いつも同じだ。これはMateuszだな。私もいくつかこういうクセを持ってる。時々、私は眉を痙攣させる。こんなチックは、セキュリティクリアランス4以上の職員には一般的なことだ。
ティキのようだな!Adamは壁際の席に座ってるやつだ。彼はある実験の際に片手を失い、それいらい洗濯機のようなものに対してトラウマを持っている。それ以来彼は、中世のように、洗濯板と桶で衣服を水洗いしている。私は彼が片手でどうやってそれをこなしているのか知らないが、そんなことに興味はない。わたしは、高所恐怖症と、クモに対する恐怖症、その他いくつかの恐怖症を抱えている。なにもそれは特別なことではない。私の上司は閉所恐怖症だし、私の助手は、指でスナップするという厄介なクセを抱えてる。彼は、白樺や犬をみるといつもそれを始める。セクターC、ブロック1。我々が何を抱えているのか聴かないほうがいい。君には必要の無いことだ。恐怖症、うつ病、パラノイア、強迫神経症、躁鬱…。我々はそんなフリークのオンパレードだ。きみはおそらく、我々がいったいここで何をしているのか知りたいだろう。なぜ正気の人間を働かせないのか?答えは、もうここには誰も正気のやつが居ないからだ。"セキュリティクリアランス4以上が必要"とかかれたオブジェクトに触れれば、誰だってすぐおかしくなる。それが普通だ。
私は君がここにきて14年で、順調に昇進していることを考えればこんなことを言うべきではないだろう。ただ、それを見てみないフリはできない。私はこれから付き合っていくに当たって、この問題に対して誠実にありたいと思っている。君はこれを聞いておいたほうが賢明だ。財団には、この環境に耐えられない職員のための、独自の精神医療施設があることはあまり知られていない。もちろん全ての狂人がすぐに精神科に行くわけではない。自分自身や周りに危害を加えない狂人というのは、その普通でない発想によって、有益な職員となることはままある。結局、病んだ心って物は病気なら病気なりにうまく状況に対処するものだ。驚くべきは、天才と狂人の境が如何に曖昧であるかということだ。そうであるにもかかわらず、職員の精神の変成を完全に防ぐ必要があるかね?それが、わたしたちが世界でもっとも多くの抗鬱剤と睡眠薬を使用している理由だ。毎月、トラックでこういったものは数トン単位で運ばれてくる。一部の施設はもはや薬なしではまともに機能しないだろう。彼らは、麻薬中毒者のように、そう言った薬を服用している!取締役会と、O5理事会によって、一部の違法薬物さえ使用許可が出ている。彼ら自身も、特にO5理事会は、そう言ったものを服用しているだろう。結局、やつらも聴聞会でそういった情報に目を通さなくてはならないからな。それらが無ければ、とっくに橋の上から飛び降りるか、自分の頭をブチぬいてるだろう。
財団の原動力がなにか、知りたいか?職員の職務に対する、最大のモチベーションはなんだか知りたいか?宇宙を悪から救いたいという感覚を忘れ、義務感覚を忘れ、好奇心を忘れ、これらの憎むべきものを全て理解したいという気持ちを忘れた。これら美しい話を、全て。キャリアと金への願望もない。じゃあなにか?職員の最大の原動力は、恐怖だ。閉鎖された地下6階の収容室に居座るものへの恐怖、あらゆる角に潜むものへの恐怖、ケージの中にいる、確保、収容、保護し、レポートを書くために必要な、あいつらへの恐怖だ。ここのやつらは皆、致命的に恐れている。お前にはそれを見ることはできない。誰もが恐怖を完璧に隠す方法をマスターしている。彼らは、それを落ち着かせ、それをおぼれさせ、それを心の奥底に隠された、ひとつの貯蔵室に閉じ込めている。しかし、確かに恐怖はいまだ、そこにある。やつはただ、おまえが行って、全てを受け入れるために、安全装置をはずすのをまっているだけだ。