Mr.スパイの財団生活調査報告書
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郷に入っては郷に従え
新しい土地に来たら、その土地の風俗や習慣に従うべきだということ。
また、組織に属したときは、その組織の規律に従うべきだということ。


 

 

郷に入ったら郷に馴染みすぎた話。

 


 

 
Side Main

 俺があまり人には言えない手段で財団に入り、しばらく経った。

 何だかんだ言いつつ、俺たちのような他組織の人間にとって、一番の驚異、かつ謎なのは財団なのだ。
 最も古く、最も謎。そして、最も危険な異常と関わってきた組織。───くらいしか俺は知らない。
 装備も人員も内情も、徹底的に機密、秘匿、隠蔽。巧妙な隠れ蓑と精巧な工作で、結局その影は捉えられない。
 分かるのは、ベールの隙間から見える少しばかり───ざっくりとした組織図と、中身が伴わない理念ぐらいだ。
 とりあえず持てるだけの予備知識を叩き込まれて、理解できる分の思想を学んで、後は一発勝負。習うより慣れろ。

 かくして真名もなきGOC工作員は、「エージェント・飯沼いいぬま」という役を与えられ、財団に入る事になった。
 
 
 
 
 結論から言えば、俺はこの財団という組織がいたく気に入っていた。
 個性豊かな人間がいる。狭い人間関係と信頼で成り立つGOCには無い、開かれた活気がある。
 仕事だって(多少の時間外労働と、多少の命の危険がある事を除けば)そこまで待遇は悪くはない。
 
 フィールドエージェントという役割が、俺の性に合っているのも大きかった。
 手練手管で情報を集める、財団の目であり耳であり、手足。もしくは蜥蜴の尾。
 機動部隊のような絵面の派手さはないし、博士のような知的かつ高尚な行為でもない。人格の切り売りと二枚舌をフル活用する、地道な仕事だ。

 "日常"に紛れ込んだ"非日常"を、確証なく手応えもないまま、探り、集め、繋ぎ合わせる地味な作業。
 その実、この工程がとても大切なのだ。

 財団の目となり耳となり、手足となって働くのは大変だが、俺は相応の達成感を感じていた。
 GOCにいた頃は、異常に対し、ただ言われるままに対抗していただけだったのだ。手の中の道具を銃からペンに変えただけではあるが、新鮮なやりがいである。
 自慢と言える程でもないが、これまでだって口八丁銃一丁であらゆる仕事をこなしてきた自負がある。財団でもGOCでも、波風立たせず完璧に立ち回るくらい、俺にとっては容易い事だ。

 
 GOCには適当に情報を流しつつ、俺なりの財団生活を謳歌していた頃の事。
 
 
 
 
 
 
 
「お前、GOCに接点あるか?」
「………………は?」

 
 気配を消して背後を取られ、からのこれである。
 ひっくり返った心臓がくうに舞い、宙返り三回転を決めて定位置に戻ってきた。
 
「ないですよ。というかどこで作るんです接点なんて。」
「…だよな…うん。お前じゃない。」
 
 黒縁眼鏡の奥に鈍く光った金色の視線が、少しこちらを見た後また外される。

「GOCがどうかしましたか?」

 呼吸を整えるための少しだけの瞬きと、動揺を肚の底に押し込めるための、少しばかりの笑顔。
 相手の中でこの話題は一区切りがついたようだったが、話を蒸し返すような俺の態度を見ると、一つため息をついてこちらを向いた。

「今回俺たちが調査してたアノマリー、あるだろう?」
「ああ…あの廃工場ですね。元々は肉の加工してたっていう。」
「そうだ。そこなんだが、どうやらGOCの連中も同じモノ狙ってるらしくてな」

 もっとも、目的は真逆だが。面倒げに吐き捨てられた言葉に、笑顔が少しだけ引きつるのを感じる。
 ───俺がバラしましたなんて、口が裂けても言えないな。

「今回の推定収容クラスはEuclid。正直、GOCの連中如きに人手を割いている場合ではないんだが。」

 少々苛立ったように眉をひそめた相手───俺の上司、に、俺は内心おざなりな謝罪をする。

 財団で初めて知り合い、上司として俺と共にいくつかの仕事を行う職員、エージェント・四宮しのみや
 主だった仕事はエージェントだが、名が通るのは研究者としての立ち位置だ。異常性とも取れるレベルの認識災害への耐性と、生物と地学に対する豊富な知識、明晰な頭脳。
 その対価に、あらゆる人間性を悪魔に売り捌いたような人間。

 俺より十数センチ低い顔に目線を合わせ、俺はなるべく事務的、かつ普段通りな問答をする。

「今後GOCと鉢合わせする可能性を考慮し、上から何か追加の武装について言われてますか?」
「いや?ただ、最低限自分の身を守るための道具は持っておけ。…最低限だ。民間人に見つかったら、色々と面倒臭い。」
「了解です」

 財団所属者は、日本政府から銃の所持を許されている。だが、そんな話が民間人に言えるはずもない。
 武器類の所有が一般人に見つかり、何も知らない警察を呼ばれでもしたら───後の事は想像に容易いだろう。

 へらりと笑った俺に一瞥をくれた四宮が、深々と陰鬱なため息をついた。

「ただでさえ機械系アノマリーは食指が動かんというのに、GoIの連中まで関わってくるなんて最悪だ。クソ、上にはもう一度話を通し直さないといけないな…。」
「機械系オブジェクト嫌いですもんね四宮さん。遺憾なことに、一切の同情が湧きませんが。」
「絶対残念だと思ってないだろお前。…とりあえず、GOCとこっちじゃ武装も任務の気合いも違うんだ。まず第一に逃げる事、報告する事を念頭にな。」
「勿論です」

 「ま、お前なら大丈夫か」言い残した四宮が踵を返す。

 
 翻った白衣が完全に見えなくなったのを確認し、俺はどんよりとため息をつく。
 吐き出した息は空中に溶け込み、やがて音にならぬまま消えていった。

 


 

 俺、四宮、あと一人───後述───が調査していたのは、とある工場型の異常物体だった。

 現時点で分かったのは、主に次の4点。
 1、大規模な認識災害を起こす可能性がある。
 2、数十年前に停止されたはずだが時々動いているような音がする。
 3、「探検」と称し中に入った民間人が戻って来ず、行方不明扱いになっている。
 ───その他、細かい事象が幾つか。

 
 元は、県を中心に仕事をする食肉加工場だった。
 最初は順調だったらしい。しかし、その後同県にできた巨大企業のせいで、工場の経営が傾き始めた。
 その採算を取るため、後期はよろしくない事にも手を出していたらしい。

 『「解体しに入った業者もみんな帰って来ないか、帰ってきてもすぐに出てっちゃうのよねえ」』

 近所に住む話好きの工藤さん(58)の談である。
 工場が行っていた行為も相まって、関係者からの評判は良いとは言い難かった。

 
 壊せず、かと言って完全に封鎖する人員や予算の余裕もなく。
 近隣住民からの多くの不審と不信を抱え、ずっとここに建っていたらしい。

 今回、こうして財団が収容(完全に収容する事は出来ないので、調査のち完全封鎖)する事になった訳…だが。
 
 
 
 
 
 
[聞こえるか、"────"]

 通信機左耳のピアスから流れる音声に、気分が急降下するのを感じる。少しだけ眉をひそめながら、俺は周りに聞こえない程度の声で返事をした。

 電波に乗ってでも聞き取りやすい、低く滑らかな声。
 GOCの方の俺の上司であり、今回俺を財団に寄越した張本人だ。
 ずっとこちらが一方的に連絡するだけだったので、向こうから通信を寄越すなんて珍しいかもしれない。

[潜入捜査、報告ご苦労だった。君に提供された異常物体に対して、我々は独自に排撃班を派遣した。そろそろそちらに着くはずだ。]
「そういえば今日あたりでしたね」
[排撃班"████"には、君の任務に差し障りのない程度に事情を伝えてある。もし何かあれば、助けになってくれるはずだ。]
「お心遣い痛み入ります」
[心にもない世辞などいらん]
「なんならたまにはご自分で前線に出てみればいかがです?」
[この連絡履歴は自動的に削除される。健闘を祈ろう、"────"]

 ブチッ!と音を立て、一方的に通信が切られる。ため息すら出やしない。
 適当に言った嫌味も黙殺されるし、酷く短調かつ事務的で、簡潔だ。何の感慨も湧かない。
 いや、元々GOCだって誘われたから入っただけで、特にこれといった思い入れなんてないのだけども。
 
 閑静な街、人通りもまばらな道。爽やかな風が頬を撫でる。
 一番近くに見えるポジションに陣取ったお陰で、工場はとてもよく見える。
 
 古びたコンクリートの外観が視界に収まり、輪郭が青い空に溶けて───溶け───
 
 溶け て?
 
 見間違いかと目を擦る。が、景色が異常を示したのはあの一瞬だけだった。
 驚きと共にじっと見つめた俺を嘲笑うように、工場は変わらぬ顔で立っている。

 ───釈然としない思いで瞬きをしたのと、ポケットの中のスマホが着信を示すのが、ほぼ同時だった。

 電話アプリが示す「桂木」の二文字に指を滑らせ、電話を取る。

「もしもし」

 エージェント・桂木かつらぎは、四宮と共に、この工場を調査している同僚だ。
 元機動部隊員とだけあって、正確に鍛えた体と、冷静な思考力は信頼に値する。
 共に四宮を上司とするという関わりもあったが、それ以上に個人間で気が合った。気づけば、二人で共に飲みに行くような仲である。

[飯沼、藪から棒にすまない。手持ちの武器には何がある?]
「本当に突然だな、理由は想像つくが。拳銃一丁と小型ナイフ一本だ。」
[今四宮さんから連絡が来たのだが、GOCの制服を着た奴等とすれ違ったらしい。例のアノマリーを破壊しに行くんだろう。]
「機動部隊へ連絡は?」
[先ほど行ったが、一番近くの機動部隊でも結構距離があるようだ]
「そうか」

 財団からの邪魔が入らない事は結構だと言いたいが、素直に良い知らせとは言えないのが辛い。
 最悪の結末としては、アノマリー内で衰弱死か、財団の手で終了処分だろう。大人しく死んでやる気はないけども。

 いた言葉とは裏腹に、桂木の声音にそこまでの緊張感はない。

[こちらは精々、手榴弾が少しと銃が数丁。向こうはフル装備。立ち向かう覚悟はあるか?]
「ないな…お前は?」
[ない。…が、まあどうにかなるだろう]
「お前、その根拠のない自信どこから来るんだよ」
[ある程度予測のできていた危機だ。時間はないが情報はある。]
「3人寄れば文殊の知恵?」
[文殊とまでは行かなくとも、大団円の案が出れば良いだろう]
「そうだな」

 電話口から溢れる声に相槌を打ちながら、俺は密やかな決断を笑い声に押し込める。
 

 場違いなほど平和な街の沈黙を盛大に破ったのは、俺の視界に映るアノマリーから聞こえた爆発音だった。
 


 
 解体に見せかけ破壊しようと言ったのは俺だが、思わぬ先手を取られてしまった。

 仕事の事しか考えられないあの馬鹿上司め。こちらは活動の時間を言ったのだから、それに合わせた到着時間ぐらい考慮して欲しい。こちらは排撃班が侵入する前に、とりあえず話をしようとか思っていたのに。
 認識災害があるから、迂闊に入ればまず、脱出は容易ではないだろう。

 ───ため息をつきかけて、ふとスマホの電話アプリを開く。

[はい。もしもし?]
「四宮さん、今どちらに?」
[工場から約200メートルってとこだ。お前はそこから動くな。合流するぞ。]
「よく俺が言いたい事がわかりましたね」
[一ヶ月かそこら、四六時中付き合えば大体の人間の思考パターンくらい把握できる]
「怖」
[桂木にも連絡を入れておく。そちらの近況を報告しろ。策を講じる。]
「3人寄れば文殊の知恵」
[軽口叩ける余裕があるなら大丈夫だな]

 
 認識災害に耐性のある上司と、その上司をここに送り込んだ財団に感謝しよう。
 一方的に切られた携帯画面をしばし眺めた後、俺は一人、これからの計画に頭を巡らせる。

 


 
 とりあえず様子を見に行こうと話をまとめ、3人で閑静な街を歩いている。
 …はず。

「工場を発破解体?奴らが考えそうな事だな」
「おそらく扉が錆びて開かなかったので、扉を爆弾で壊して侵入したのでは」
「だとしたら本格的に時間がない」

 コンクリートの道をまばらに踏む、3人分の足音

 数分前からずっと、首筋あたりがピリピリと違和感を訴えている。
 ───この感覚には覚えしかない。所詮勘とかそういうやつだが、昔から嫌な予感だけは当たってきた。

 結局、最後は自分の思考と感覚に従うしかないのだ。

「なかなか着きませんね」
「…そうだな」
「何らかの力が働いているのでしょうか」
「かもな」

 集合場所から工場までならば、10分足らずで着ける。
 はず。
 はずだった。

「…不思議ですね。既に15分は歩いてますよ俺たち。」
「先程から測っていたが、あそこから歩き始めて現在20分程度といったところだな」
「なぜ、こんなにも長いのでしょうか」

 ぽつぽつと会話がなされ、そしてまた沈黙が下りる。

 本当はわかっている。
 三人とも、似たような状況下で、同じような知識を共有して、過程は違えど似たような経験を積んでいる。言いたいことなど伝わる。

 単に、現実を認めたくないだけだ。 

「コンクリートで足音って鳴りましたっけ?」
「例え鳴ってもここまで目立ちはしないな」
「…金属音が」
「言うな」
「風、吹きませんね」
「黙れ」
「四宮さん、あの」
「俺は悪くないからな」

  カツンと音を立てて 、三人分の靴音が止まる。

「これ、認識災害の類ですよね。四宮さんならとっくに気付いてるかと思いました。」
「…ちょっと騙された」
「認識災害以上のものが働いていると」
「異常性の根底として、外部の人間を中に引きずり込もうとしてる感じがする」
「そんな事もあるんですね」

 辺りを少し見回した四宮が、長い長い長いため息を吐く。

「…飯沼、桂木、これは単なる俺の仮説だ。だから、聞き流してくれて構わないのだが。」

 俺は試しに一度立ち止まって、靴の爪先を地面に打ち付ける。
 大抵のコンクリートでは有り得ない、軽い金属音が空間に響いた。

「扉が境界の役割を果たしてたんだろう。それを GOCの連中どこかの馬鹿共が無理やり壊したせいで、工場と外部の境界が揺らいだ。───そしていつの間にやら、このざまだ。」

 三人分の靴音が鳴っている。

 元々排撃班の連中と会うつもりではあったが、割と最悪な形になってしまった。
 これ、破壊方法提案した俺にも責任があるんだろうか。あるな。多分。
 ならば、しっかりと責任は取らないといけない。

 
「現実改変が」
「起こってる痕跡はある」
最初から工場にいたと」
「かもな」
「いつから?」
「さあ…俺たちが工場を認識したあたりからじゃないか?」

 
 俺たちが正しい現実を認めたせいだろう。周りの景色が変わっていく。
 青い青い空が見下ろす町は、冷たい壁へ。舗装された道は、金属音のする黒ずんだ床へ。

 
「…完全に、これは」
「くそ!俺に超過勤務をさせた補償は、GOCの馬鹿共にやらせるぞ…!」

 
 吐き捨てるような四宮の声が、重々しくそびえる金属の壁に反響するのを感じた。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
 
 遅かれ早かれ機動部隊は来るという事実は、一体俺にとって救いの手か、地獄への足掛かりか。
 とりあえず入ってしまったものは仕方がない。仕方ないが、脱出がとんでもなく面倒な予感がする。
 
「中は少し古いタイプの工場…閉鎖期間にしては埃が薄い。ここ半年内に誰かが内部に侵入したと見た。…ああ、右手奥に階段があるな。」
「…?俺には壁と、積み上がった資材袋しか見えません。随分と汚れているようですが。」
「それは誤った見識だ。やはり認識災害が動いてるな。俺から離れたら終わりだと思え。」
 
 外部と連絡が取れない事は簡単に推測できる。今更たじろいだりはしない。
 ただ、電波は通じないにしろ電子機器は扱える事、中に入った者同士で連絡ができる事はわかった。

 動かしっぱなしの録音機器の電池残量を気にしつつ、言葉で内部の様子を構築していく。
 
「脱出の手がかりを探すか、GOCを探すか。どちらが良いと思います?」
「個人的には前者の方を取りたい。が、GOCの方を放っておくわけにもいかないしな…。」
 
 
 ───ここで少し、GOCの立場として、これからの行動決定の情報を開示しよう。

 GOCにおいて、財団職員は「なるべく交戦するな」と言われている。
 相手がどのような装備を持っているのか、どのような戦闘力を秘めているのか、全くわからないからだ。
 今回この前提を考慮した時、面倒な点が二つある。
 
 その1。
 「GOCに俺たちの存在財団エージェントが関わっているのがバレている」事。 
 装備はあまり持たないって、(俺が)言ってしまった。「どのような装備かわからない」問題は解決してしまっている。
 GOC側は今回、自分たちが完全に優位と知っているのだ。
 こちらが攻撃すれば、向こうだって容赦無く反撃してくるだろう。
 
 その2。
 「GOC職員が破壊しようとしている異常物体が、財団にも目をつけられている」場合、GOC側は「財団によって脅威存在を捕らえられるよりも前に、脅威存在の破壊を優先する事が奨励」されている事だ。
 今回GOCは、異常物体に財団側も関わっていると(俺のせいで)知っている。
 なるべく俺たち財団に奪われる前に処理をしようと、最短ルートを選んでくる可能性がある。
 
 
「時間がない…」
「?確かにやる事は多いが」
「あっ。いや、こっちの話だ。気にするな。」
「大丈夫か、顔色が悪いぞ」
「窓にも大分埃が積もっているようだからな。光の加減だろ。」

 こちらを気遣う桂木に笑顔を返そうにも、多難な前途への不安が、俺の表情筋を阻害する。
 結局ため息ばかりを表に出してしまった時、俺の視界が一瞬
 
ぐにゃりと揺らいだ
 
 先ほど見た、工場の輪郭が溶ける光景。あの時の景色と同じ感覚だ。

「…なんだ、今のは」
「わからない…が、嫌な予感がする。自分の位置を見失うな!」
「二人にも分かったのか?」
 

  チーン
 

「…おい、今何か音が」

 
 ガコン、という音と共に、視界が揺れる。

 


 

 Side Another:Agt.四宮

 
 後ろを振り返ったら誰もいない───なんて。B級ホラーじゃあるまいし。笑えるな。いや、笑えないか。
 自分で別れたら終わりだと言った癖に、数分経たずのこのざまだ。

 俺がはぐれたのか、向こうがどこかに行ってしまったのか。
 自分の後ろにあった、二つ分の影はもうない。首筋を伝う嫌な汗を感じながら、俺は辺りを見回す。
 
「見える景色全体が違っている。俺たちは工場の入り口らしき所にいたはずだが、今いるのはどうやら、加工した肉を出荷するため包装する場所のようだ。大量の袋やパックが見えるな…いずれも埃を被っているが。上部には手入れのなされていない、切れた蛍光灯。随分と薄暗いな、視界が悪い。」

「先程階段があった場所だが、そこには何もない。…部屋全体に認識災害の痕跡が見られる。大方、耐性が無い者が見ればここには包装済み、もしくは包装されるべき肉があるのだろうが。」
「ん?………おっと、音が聞こえる…梱包した肉を運ぶための台車か。音は聞こえる、横を通り抜けていったが、音の出所には本来何もない。」
 
 これでも場数は踏んでいる方だ。工場に与えられた異常性の大方の目処はつく。

 意図せず別行動になってしまった、飯沼と桂木は無事だろうか。
 あの二人の精神力や戦闘力に不安がある訳ではないが、多勢に無勢という言葉もある。何よりあの二人は、このアノマリーを支配する認識災害に囚われてしまうだろう。

 本来の景色を見失い彷徨う疲労に、高く閉塞的な壁、自分一人聴覚を支配する反響音。特異な環境と切羽詰まった状況は、その気がなくても精神を蝕む。
 それに今回はGOCという不穏分子余計な荷物もあるのだ。

 部下の心身を気遣うのも、出来る上司の務め。
 俺としてはなるべく負担を減らし、良いコンディションで確実に仕事をこなせるようにしてやりたいのだが。
 
 録音装置の正常な稼働をもう一度確認し、俺は言葉で周囲の様子を構築する。次に調査に来るであろう機動部隊や、報告書を書く研究員が正しく理解できるように。
 側から見れば、今の俺は一人でぶつぶつ独り言を呟く不審者だろう。
 
「何かしらの現実改変により、工場内の部屋がランダムに入れ替わる、もしくは部屋自体が再構築されるのか?先程のメーターのような音が気になるな。大方、あの音で部屋が切り替わるのだろう。…面倒な事になった。」
 
 これでは脱出するまで───いや、あの二人と合流するまで、一体どのくらいの時間がかかるのだろうか。
 最悪のパターンとしては、おそらく先に進入しているであろうGOCの連中と鉢合わせる事だ。それだけは避けたい。

 「GOCの連中だって無能じゃない」きっと、この異常性には早々に気付く。そして、相応の対処をしてくるだろう。

「おそらく、団体行動」

 …多勢に無勢なんてもんじゃない。
 自転車でF1レースに出るような無茶だ。
 
 俺はまだまだ命は惜しい。勇気と無謀を履き違える馬鹿でもない。
 "財団から給料だけぶんどって定年退職、どこかの街のマンションの一室で平和な余生を過ごす"───俺が考えた最強の人生プランである。
 少なくとも、こんな薄暗い工場の中で野垂れ死ぬなんて未来設計はないのだ。
 
「クソ、なんで俺がこんな目に…いや、今は現状に不満を言っている場合じゃないな。脱出方法の目処を立てよう。メーターが何かしらのきっかけになっているのなら、それを破壊…それはGOCの脳筋共と一緒か。何かしらの手順、方法で一時的にでも停止させる事が出来たなら…」
 
 思考、声、言葉がシンクロする感覚を味わう。僅かに滲み出した恐怖と不安を振り払い、止まりそうになる頭を回転させる。
 内部で連絡を取れるのが不幸中の幸いだ。こまめに二人とは連絡を取りたい。
 場所なんてコロコロ変わるから当てにならんが、それでも出来ないよりはずっとマシだ。
 

   チーン
 

 足を一歩踏み出したタイミングで、忌まわしきメーター音が耳に響いた。

 


 

Side Main

 認識災害に耐性がある四宮と別れたのは、思った以上に痛かったかもしれない。
 隣の桂木を見ても、何が起こったかよくわからないという顔をしている。(取り立てて表情に大きな変化がある訳ではないが)
 離れたら終わりだと言った舌の根も乾かぬうちに即刻バラバラなんて、まるでギャグ漫画だ。当事者になってみると心底笑えない。
 ───まあ、俺は最初から頃合いを見て別行動するつもりだった、ということは置いておいて。

「どこだここ」
「あの場所から動いたりとかは」
「してないよな」
「していない」
「…じゃあ、何故こんな場所にいる?」
 

 目の前にあるのは肉。大量に吊り下げられた肉肉肉肉肉肉肉肉。
 

 皮を剥がされ、識別用の札を下げ、おそらく足であろう部分に紐を付けられて、天井の金具から垂れ下がる肉。
 未加工の肉が大量に並ぶその姿は、色々なものに目を瞑ればある意味壮観と言えなくもない。
 目をこらして見ると、肉一つ一つに印が押されているのがわかった。どの印も不揃いで、ぐちゃぐちゃで、文字はおろか、元々どのような形を持っていたのかもよくわからない。

 ああ───ただ───致命的な問題は───俺にはその肉が、どうしても───牛や豚には見えない事だ。

 切れた電球のように、チカチカと不揃いな輪郭を現す肉の羅列。
 正常な場所なら絶対に見られない、奇妙な光景。
 ───昔、食肉加工場に行った事があるが、その時はこのような不快感は感じなかった。

 異常物体に接する時に感じる、つくりもの特有の違和感。

「何十年も前に閉鎖されていたんだ。こんな大量に肉が並ぶ訳ないな。」
「これが認識災害の部分だろうか」
「そう考えると辻褄が合う」
「仕掛けが解っても圧巻だな。部屋一面とは。」
「どの肉も、新鮮とは言い難い見た目してるけどな」
「とりあえず四宮さんと合流してから、ここからの脱出方法を探すぞ」
「ああ、……………」
「飯沼?」

 突然動きを止めた俺を不審がるように、桂木が言葉を切る。

 
 相手がこちらを振り向くより、俺が銃を取り出す方が早かった。

 
 銃の角で後頭部を思い切り殴りつけると、微かな呻き声を出して床に崩れ落ちる。
 まずは通信機器の遮断だ。ついでに俺の分のスマホの電源も落とす。
 桂木が意識を失っている事、二人分の録音機器が完全に沈黙を貫いている事を確認してから、俺は立ち上がった。

 目線は、先程見えた先客の方へ。

 本来、人間の後頭部を鉄の塊で殴りつけるというのは、あまり褒められた行為ではない。
 せいぜい実戦で、弾の節約のために使う行為だ。───つまり、殺しても良い相手に使うもの。

 まあ、桂木の頑丈さを考えて、そこまで深く考えなくたって良いだろう。俺はたかを括る。
 不意打ちで昏倒させられたが、次はこうもいかないだろう。俺が自由に動ける現在の猶予はせいぜい10分。…長くて20分かそこらといったところか。

 金属の上を歩く自分の足音が、聴覚を支配する。一歩進むたびに感覚が研ぎ澄まされていく。
 並んだ肉の反対側に見えた人影───おそらく、俺たちを見て咄嗟に隠れたのだろう───こちらを見ると無言で銃を構えた相手の銃口を逸らし、俺は至って落ち着いた態度で声をかけた。

「コードネームを言え」
「寄るな財団!」
「言ってる事がわからないのか?コードネームだ」
「…っ、近寄るな、お前は」
「"チェイサー"に言われて来たんだろう?」

 上司の名前を出せば、驚いたように目が見開かれた後、じっと押し黙られる。
 警戒しながらも下された銃を目で追いながら、俺は自分のコードネームを言った。
 相手は僅かに躊躇った後、「コードネーム"トリスタン"」と名乗る。

 装備のせいでくぐもってはいるが、声が若い。20代前〜中盤といったところか。
 この若さで前衛を任されてるあたり、有望な人材だと見做されてるんだろう。

 「話しづらい。顔の装備ぐらい外せ。」少し強めの語気で命じれば、しばしの逡巡の後、装備の留め具に手が掛かる。
 ごてごてしい黒のメットの下から現れたのは、重装備に似合わないうら若い顔だった。緑の双眸はじっとこちらを睨んでいるが、声をかけた最初に感じたような明らかな殺気はない。

労働者トリスタン?響きだけなら悪くはないな、円卓の騎士。」
「貴方が合流しろと言われた工作員ですか」
「事実だけ伝えるならばそうなる」
「事実のみで結構です。話は聞いています。他に内部に侵入した財団エージェントは何名ですか?」
「俺含めて3人」
「何か対応策があれば」
「さっき殴ったアレ…俺と一緒にいた奴だ。アレは機動部隊出身だから、舐めてかからない方がいい。確実に息の根止めにいかないと、地獄を見るのはこちらだぞ。」
「あと一人は?」
「知らん」

 四宮の姿を思い出し、俺はわずかに眉をひそめる。
 小柄な体ならば扱える武器も限られてくるし、体力はないがそこまで戦闘力に期待はできないだろう。多分。戦闘や訓練を見た事ないので知らないが。

 さらさらと仲間の情報を売っていけば、どうやら信用に足る相手だと判断したらしい。さっきまでピリピリと向けていた警戒が少し緩まった。先ほどまで床に置き手を添え、いつでも構えられるようにしてあった銃が、今はホルダーの上に落ち着いている。
 こんな所に一人でいるという事は、こいつも俺たちのように異常性に巻き込まれはぐれたのだろう。
 ここに来た経緯を簡単に伝え、俺はわざとらしくため息をついてみせる。

「定期的に部屋が切り替わっては、効率的な破壊どころか部隊の合流すらまともに行えなそうだな。」
「はい。とりあえず連絡は取れる事は判明しましたが、向こうに行くにもこんな具合で。」

 眉を潜めた相手に肩をすくめて、俺は無意識にポケットの中のスマホを手で押さえた。
 電源を切った後の着信量、それに比例する説教。…考えるだけでも恐ろしい。
 

 先程の感覚からみて、そろそろあのメーター音が鳴る頃だろう。
 そして、おそらくこれが、工場に付与された異常性発露の引き金となる。

 
「とりあえず連絡先教えろ。通信機器の予備あるか?」
「はい。とりあえずこれ渡しておきますね。」

 トリスタンが、装備に組まれたポーチの一つから通信機を取り出す。

「よし、これでお前らの部隊と連絡を───

 
 俺とトリスタンの後ろで、あってはいけないはずの音がする。
 

 目の前の事象に気を取られていた俺は、後ろで昏倒させた人影が動き出すのに気付かなかった。

「───、!」

 焦ったような面持ちになったトリスタンが、俺の向こう側に向けて銃を構える。
 乾いた発砲音と、僅かだが聞き慣れた声が聞こえ、俺は焦って後ろを振り返った。

「───馬鹿野郎!」
「なんで俺が責められるんですか!」
「こっちにも色々事情があるんだよ早とちり!」
「任務遂行に財団職員は邪魔です!」

 向こう側に聞こえないように声を抑えて、それでも強い語調で言い争う。
 とにかく、桂木に俺がGOCと接しているのがバレるのはまずい。とてもまずい。
 不満げな顔で銃を持ち直した相手を突き飛ばすようにして、俺はとりあえず桂木の元に走った。

 
   チーン
 

 ここで話を切りたくない。
 どうか間に合ってくれ。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
 
 会話の様子を見せては良くないと思ったが、杞憂であったらしい。
 いやに焦った様子を見せた俺を特に気にする様子もなく、桂木は既に止血作業を始めていた。

 対人戦がある事は予期できていたため、事前に準備しておいたのか。それとも常持ち歩いているのか。
 銃創対応の医療セットを見ながら、俺はどうでも良い事を考える。
 ちなみに俺も持ってなくもないが、ここまでちゃんとしたやつじゃない。

 周りは先程の肉処理場と違い、たくさんの机とトレーが並んだ場所だ。
 トレーの上には、なんだかよくわからない肉。机の前に人影らしきものが見える気がしないでもないが、そこは敢えて気にしない方向でいこう。

 微妙に肌寒いような気温を感じ、捲った袖の裾を下ろしながら、俺は桂木の側に座った。

 今回の収穫。相手の体の一部に触れていれば、飛ばされても別れる事なく同じ空間に存在出来る。
 「体を縄で繋いどくか?」冗談めかした言葉はすげなく断られ、俺は良い反論も思い付かずに口を閉ざした。

「…大丈夫か?怪我」
「このくらいならば経験があるし、そこまで大した傷じゃない。お前が心配するほどでもないだろう。」
「いや、銃槍って大した傷だと思うけど。…あの、銃で昏倒させられた事に関してはどうお思いで…?」
「お前の隣にいたGOC職員がやったのではないのか?」
「…えーっと…あいつが原因であるという点において否定はしない」
「そうか」

 傷口からは未だ痛々しく鮮血が垂れているが、桂木が痛みで支障をきたしているような様子もない。
 事務的に最効率に進んでいく作業を見ながら、俺はかねてより思っていた疑問をそのまま口にした。

「ないのか?」
「は?」
「だから…銃で撃たれたんだ。痛いだろう。あと熱とか。何とも感じないのか?」

 俺の疑問に、桂木が手を止める。
 紫紺の双眸を暫しまばたかせ、困ったように視線を逸らした。

 
 俺はこの顔を何度か───相手はこいつではないが───見た事がある。
 答えは持っているが、口に出すか否か、躊躇っている者の顔だ。

 こういう時はあまり下手に急かさない方がいいと、俺は過去の経験から学んでいる。
 相手の方から話を切り出すのを待とうと、俺は手と道具が触れる音をBGMに、桂木の鮮やかな処置を眺めた。

 
「先に言っておくが、今悠長に昔話をしている余裕がない。詳しい質問は生きてここを出てからだ。」

 
 たっぷり数十秒の間を取って、ぽつりと言われた言葉。
 躊躇いなく動いていた手を一度止めて、桂木はじっとこちらを見つめた。

「わかった」
「…結論から言うと、ない。───いや、薄い、と言った方が正しいか。」

 桂木の目線が俺から外されて、再び傷の処置に戻る。
 案外淡々と言われた解を、俺は特に大きな反応をするまでもなく受け入れていた。
 
 それが本当ならば、程度や原因によっては、異常性に該当してもおかしくはないだろう。
 というか、それ以前に生物として色々と弊害が大きい。
 ───明日をも知れぬような戦いをする者ならば、悪くはないかもしれないが。
 
「熱い、冷たい、痛い───本来生物が持っている感覚───が俺は薄い。熱湯に触れても生温いとしか感じないし、冷水に触れても常温程度にしかわからない。痛みもそうだ。軽い怪我は視覚するまでわからないし、今のように銃を使われても動ける程度の軽い支障で済む。神経は正常だ。脳にも疾患はない。───財団で言うところの、異常性というやつだ。」
「昔何かの異常物体に?」
「子供の頃から人より感覚が薄かったが、大学時代にとあるオブジェクトに関わった所為でな。最近は味覚まで鈍くなってきた。」
「それはなんというか…難儀だな」

 触覚が鈍い者の話は聞くが、味覚まで薄いのでは色々大変だろう。生活習慣的な意味で。

「放っておけば、俺はやがて身体中の感覚を失うのだろう。もしくは本来痛みという形でもたらされる警告に気づかぬまま損傷で死ぬか。いずれにせよろくな未来は見えていない。」
「それはそれは…」

 生命として危うく、人間として恐ろしい───世のことわりから外れた超常。人間に付与された異常。
 単に「感覚が薄い、もしくは無い」人間は探せば見つかる。
 ただ、多分この異常の根底部分はもう少し違うのだろう。そうでなければ財団が異常性認定する筈がない。

「…機動部隊を外されたのは、 生命いのちの危険に鈍いからか?」
「わからない。ただ、俺が機動部隊を辞めるとき言われたのは、『死に急ぎすぎるな』だった」
「俺みたいに四六時中生存方法考えてる人間には一生縁のない言葉だな…」
「危機管理と生存欲求は生物の基本にあるものだ。あって悪い事はない。」
「こんな仕事してると、綺麗に命投げ出せる方が羨ましい、なんて思っちまうけどな。」

 ひどくおそろしいものだが、それでも少しだけ手を伸ばしてしまいたくなるのは、俺が普通じゃない人間だからか。

「死ぬのが怖くないのか?」
「わからない。自分が死ぬと感じた事が一度もないな。」
「ははっ…流石」
「死が怖いのか?」
「お前死ねって命令されたら死ねるけどな。ただ、常に死にたくないと願ってる。」
「難儀だな」
「俺から見ればお前の方がよっぽど面倒だって」

 俺の言葉には何も返さず、桂木は傷口に包帯を綺麗に止める。
 銃弾は桂木の右腕を掠っていったが、利き手を封じられているにも関わらず、もう片腕で綺麗に処置が行えるのは流石だと思った。

「…あー、桂木」
「待て、着信だ」

 言いかけた言葉を遮るように、タイミングよく着信が来る。
 点滅するスマホを操作し、桂木が通話をスピーカーモードにした。

[ビックニュースだお前ら…悪い方にな]

 端末から溢れ出したのは、いつになく嫌な感じのする四宮の声だった。
 送話口の向こうでは、いつもの嘲るような笑顔を浮かべているのだろう。容易に想像がつく。

[桂木、お前飯沼と一緒にいるか?]
「隣にいます。…具体的にはどのような事に?」
[俺が認識災害に耐性があるのは知ってるだろう?]
「まあ、はい」

 スマホの向こう側なのでわかるはずもないが、俺はなぜかこの時、四宮の度の強そうな眼鏡のレンズが鈍く光るのが見えた気がした。

[その認識災害だが。どうやらこの建物、時間の経過と共に段々と認識の齟齬が強くなっているらしい。]
「それってつまり」
[今はまだ正しい光景を認識できるが、ぐずぐずしてると俺まで帰り道を見失うな]
「…」
[そうだな、この様子だと…最低3時間。保って5時間てとこか。それ以内に弱体化、もしくは無力化させて脱出しないと、見事に任務中行方不明が三人。出来上がりだ。]
「………」

 背筋に嫌な汗が伝う。

 沈黙を理解とみなしたのか、締めの一言も残さず四宮が電話を切る。
 黙り込んだ二人分の沈黙の中で、規則正しく発されるスマホの電子音だけ、やけに大きく目立っていた。

 
   チーン
 


 

Side Another:Agt.桂木

 
 どうやらまた移動らしい。

 歪む視界に慣れたと言えば嘘にはなる。ただし最初の時より負担が少なくなった。
 不快さは消えないので、嫌だと言えば嫌なのだが。

 先程までは飯沼と共に行動出来ていたが、今回は正真正銘の単独行動だ。
 ぐずぐずと居座る訳にもいかないが、二人と合流する前に、最大限の情報は集めておきたい。アノマリーの調査に役立てるのもそうだが、そもそもの脱出の手がかりを見つけたい。
 この部屋を調べ終わったら、メーター音が鳴る前に別の場所を見るのも良いかもしれないだろう。あたりを見回した俺の目に映った、大きな机と埃を被った本棚。
 

 そのタイミングで俺は、嫌な事に気づいてしまった。
 
 ・認識災害がある以上、基本的に視覚情報には頼れない。
 ・本来ならば、壁などに手をついたり、感覚を頼りに進むべき。
 ・ただし、俺は異常性のため、触覚に頼る事はできない。
 ・つまり、必然的に視覚が大きな要因となる。
 ・最初に戻る。
 

 …この時俺は初めて、少しばかり、自分の異常性が面倒なものなのだと感じた
 

 多分まだ、ある程度は現実であろうものを見られているだろう。
 ただし、認識災害がどんどん強くなっているのを考慮し、なるべく早く脱するに越したことはない。

 落ち着くために一つ息を吐いて、俺は肚に力を込め立ち上がる。
 扉を開き横を見ると、煤けた「副社長室」の札がかかっていた。
 部屋の中心の机に近づくと、置いてあったのは古新聞。横には一冊のノート。

 

食肉偽装認める 首謀は副社長か?

 

 何度も手に取って読まれたのだろう。経年劣化も相まって新聞はたくさんの皺が寄っていた。
 他の物と同じように埃を被ってはいるが、よく見れば少しだけ薄い。動かした時期に差があるようだ。
 内容を流し見した俺は、書かれた工場が今いるこの工場である事、食品偽装を副社長の命により行っていた事などを把握する。

 個人的な意見ではあるが───食事は体の資本だ。機動部隊にいた頃から、体作りとそれに伴う健康的な料理法は叩き込まれてきた。

 新聞では、消費者の怒りの声のような意見が載せられていた。
 まあ怒るのも無理はないだろう。栄養バランスの取れた健康的な食事は、生活に大切なものである。
 安心して体に入れていた物の信頼が嘘であったのなら、散々怒りたくもなる。それは俺もだ。

 とりあえずスマホで一度紙面を撮影してから、俺は横にある古びたノートを開いた。
 背面に書かれていたのは、新聞の中で鎮痛な面持ちで頭を下げていた副社長の名。

 

 恐ろしい事になった。
 私たちは一体何をしている?社長は今まで築いてきた信頼を壊さないためだと言っている。私には彼が言っている事が理解できない。これこそ我が社を信じ、愛してきてくれた人への酷い裏切りなのではないか。
 ここ最近は社員にも勘付かれているようだが、彼らは何も言わない。ただ黙って仕事をするのみだ。

 

 副社長の日記だろう。ボールペンで書かれた几帳面な文字が、真っ直ぐな罫線に沿って綴られている。
 文字の密度から、長くなりそうな予感を感じ取り、俺はぱらぱらとページを捲った。

 右腕の違和感に先程撃たれた傷の事を思い出し、利き腕の使用を諦めた俺は、左手でページを持ち直す。
 

 恐れていた出来事が起こってしまった。
 偽装に腹を立てた社員が警察に通報すると叫び、口論と揉み合いの末社員が大怪我を負ってしまった。ミンチ機に手を挟まれてしまったのだ。
 あの右手はもう使い物にならないだろう。保険は効いたようだが、損害賠償を訴えられては堪らないと社長は唸っている。
 最後に聞いた彼の長く尾を引いた悲鳴、あれが今だ耳にこびり付き離れない。
 我々は犯罪者だ。彼は正しい事をしただけなのに。
 ああ、明日彼の両親になんて顔をして会えば良いのだろうか。

 今日もまた薬剤が届く。
 社長は「どこもやっている事だから」と言う。そう言って自分を落ち着かせているようだ。水と油を混ぜる、薬で着色をする、別の種類の肉を混ぜる。それだけで生産コストは下がる。その分たくさんの肉を売れる。儲けも増える。
 おぞましい。我々は何をやっている?
 最初は一部の者たちだけでやっていたが、最近は規模が増え"作業"にかける人手も増えた。
 いや、社員だって分からない訳ないだろう。我々は専門家だ。「消費者はラベルだけで判断するので」自嘲気味に笑った社員の顔は青白く、やつれていた。我々だって食べていくのに精一杯なのだ。薄利多売の大企業に、地域の一中小企業が敵うはずがない。
 例え明日を生きるための糧を偽っているとしても、ただ、食べて生きていたい。

 
 日記を捲り、最後の方のページまで飛ばす。
 ボールペンのインクが切れかけていたのか、先ほどまでより薄く読みにくい。
 最初からは考えられないほど乱雑な文字を目で追い、途切れ途切れの言葉を繋ぎ合わせる。
 

 責任を取らなければいけないのだ。そう、誰かが。
 社長は昔から顧客を取るのがうまかった。ああ、口が上手かった。
 のらりくらりと言い逃れしていくうちに、いつの間にか私が首謀者であり、全ての命令をしたのは私だという事になってしまった。
 社長に対して怒りがないと言えば嘘になる。ただ、その行為を見て見ぬふりをしてきたのは私だし、立場的に私が一番罪を押し付けやすいのだ。
 社長も責任を取って辞任すると言っていた。工場も閉鎖だ。
 契約を取っても  ていた顧客から、使っていた消費者から、連日のよう  絡が届く。自宅にも電話の音が鳴り止まず、妻と子は私の事を軽 し、そして迷惑に思っているようだ。
 私は素直に法によって罪を償わ   べきなのだろう。ただ、私にそのような勇  ない。結局最後まで罪を告白する事が出来な  たように、素直に罰を受ける意気  ない。

 
 ペンの文字が掠れてよく読めない。
 

 本当にすまない。私は臆病  。この  な形で責  取る事、本当  本意ではあるし、申し訳ないと思っ  る。
 この 記 もし見た者が ても、  社長を責めないでくれ。彼はいつ  て会 と社員のこと  番に考 て た。
 愛 い妻  、可 い子  、   不甲 な 父を許し くれ。
 そし いつ 、罪を負 者が誰もい く  た世 で、この真 を白日 元に。

 
 
 ノートの上に落ちた不自然な影に、ふと顔を上げる。

 
 一度瞬きをした俺の目に映ったのは、目の前にだらりと垂れ下がる人間の足だった。
 

 伸びきった首、天井から吊り下がったネクタイ。
 靴は床に落ち、黒いスーツはずり落ちて、ベルトは金具が外れている。

 
(落ち着け。大丈夫だ。これは、本当にここにはいない。)

 一瞬跳ね上がった心拍を整えて、俺はなるべく上を見ないよう作業を続ける。
 今までどこか俺たちを誘い込むように存在していた工場が、急に明確な悪意を向けてきたように感じた。
 手の中のノートの境界が、不自然に脆くなったようだ。

 
   チーン
 

 新聞とノートを鞄に入れたタイミングで、音が鳴る。
 


 

Side Main

 正真正銘の一人であり、手詰まりだ。

 四宮、桂木と離れ、トリスタンもあの肉倉庫で別々になった。
 離れたいと思っていたところから、自分でも予期しないタイミングで突然、背中を突き飛ばされたような感じだ。

 単独行動は慣れている。が、あくまで所属する集団あってこそ名乗れる「単独行動」。財団とGOCの間でどちらにも愛想を振りまく俺は、現在固定の属する集団を持たない。
 
 つまりこれは単独行動なんかではない。
 ただのぼっちだ。
 
 どちらを選んでも、これまでの俺の日々は書き変わらないし、これからの生活も変わりは起きないだろう。
 ただ、選ぶ前に死ぬのだけは避けたい。具体的には、このアノマリーから脱出できず衰弱死、みたいな。
 心は既に決まっているが、決定と選択は工程が違う。

 財団支給の録音機器には、もう少し休んでいてもらうことにして。
 何か手がかりはないかと周りを見回していると、GOCの方の通信機器から、ぞんざいな機械音が零れた。

「どちら様で」
[その声、"トリスタン"ではないな。"チェイサー"殿が言っていた財団の者か?]
「ええ、まあ」

 低い男性の声だが、微妙に聞き取りにくい音声だ。
 声を遮るフェイスメット、それに工場内部という、通信に適さない場所のせいだからだろうか。

[丁度良かった。君にはなんとか連絡をつけようと思っていたんだ。今どこに?]
「ミンチ機のようなものが。加工ハンバーグでも作っていたのでしょうか。」

 入ってから結構時間が経った。視覚情報なんて、どこまで当てになるか知れたものではないが。

[分かった。私は排撃班"████"の隊長、"クーパー"だ。こまめに連絡を取り合流を図るぞ。]
「貴方のところの隊員が、一人はぐれていたようでしたが」
[既に連絡を取りつつ、なるべく合流できるよう建物内を探索している。最優先事項は異常物体この建物の破壊だが、部下全員を生存させ帰還させるのは、隊長の役割だからな。]

 反射的に脳裏に閃く言葉。GOC、任務の五大柱───「生存」「隠蔽」「保護」「破壊」「教育」。
 生存が一番最初に入っているあたり、GOCの人員に対する考え方が窺えるというものだろう。
 資源であってもモノではないのだ。人材を無駄にしてはいけない。

「隊長殿は今どこに?」
[肉の熟成庫のようだ。…装備があるとはいえ、やはり少し寒いな。]
「そちらの手数は」
[私含めて3人だ。実は、君が会ったであろうトリスタン以外にも何人か離れてしまってな。]
「それは大変です、ね ……………」
[どうした?]

 耳障りなノイズと共に声が溢れる通信機を、ゆっくりと耳から離す。
 自然と動き出した足の先は、大量に積まれた資材の向こう側、僅か見えた人影へ。
 
 銃の撃鉄に手をかけそろそろと近寄れば、視界の中に見慣れた影を捉えた。
 
「…四宮さん?」
「飯沼?」

 なるべく警戒心を与えないよう声をかけると、怪訝そうな顔でこちらを睨まれる。
 「会えて良かったです」後ろ手で銃の撃鉄を引き上げ、俺は人好きのする笑顔を作った。

「なんで電話に出ない」
「すみません」
「謝罪は良いから理由を話せ」
「少し面倒な事態が起こってしまいまして」
「それは今お前がしてた連絡と関係があるのか?」

 後ろ手に握った鋼鉄の感触を握りしめて、肺の中の息を長く吐き出す。

 「ええとですね」ほんの一時、少しだけ目線を逸らして。

 不満げに声を荒げて名前を呼ばれたので、少し瞬きをしてから顔を上げた。
 俺の目的のために、この勘の良すぎる上司には、少しばかり犠牲になってもらわなくてはいけない。
 本当に微か、俺の気配の変貌を感じたのか、四宮の目がすぅっと据わる。

「通話内容の録音を出すか、素直に何考えてるか白状するか、どっちが良い?」
「どちらも願い下げです」
「ふざけるなお前」

 今まで興味や疑念は与えられど、これは多分初めてだ。この上司から明確な殺意を向けられるのは。
 寸分違わずこちらに放たれる、ピリピリとした殺意に、肌が焦げるような感覚を覚える。

「…そろそろ部屋が変わりますね。迷子は勘弁です。」
「話をはぐらかすな!」
「嫌ですね。俺は一刻も早く脱出してここから帰りたいんですよ。」
「、飯沼」
「という訳で、さっさと仕事を終わらせないといけませんので」
「おい待て、一度話を」

 通信機器から漏れるノイズ、そこに微かに混じる人の声を耳が拾う。
 体中の感覚が、急速に研ぎ澄まされていくのがわかる。

 この感覚は嫌というほど馴染みがある───そうだ、確か、初めて現実改変者タイプ・グリーン殺した処理した時からだ。
 死にたくなければ殺せと囁かれ、自分の指で引き金を引いたあの時から、俺は完全にあちら側ヴェールの向こうの人間になってしまった。
 
 手袋の下の手が冷たい。
 最悪だ。よりによってこんなタイミングで、昔の事を思い出してしまうとは。

 
「申し訳ありません。全て終わったら、ちゃんと脱出しておくので。」
「話を聞け!」
 
「時間切れです」
 
 
 焦燥に彩られた金の双眸を拳銃越しに見ながら、俺は引き金を引く。

 
 
   チーン 
 
 
 
 
 
 


 

 扉を開く、という行為を長らく忘れていた気がした。

 やや緊張しながらノブを回すと、何て事はない。ごく普通に廊下と呼べるものが敷かれている。

 敵対存在はいないか、罠はないか、手がかりはあるか───銃は手の中に収めたまま、慎重に廊下を歩く。
 おそらく強まっているであろう認識災害から、確実に逃れなければいけない。片手は壁に手をつき、その感覚を確かめながら進んでいく。
 時々目の前の景色と壁の感覚に齟齬が起きるせいで、方向や視覚認知の感覚がおかしくなりそうだ。

 
 さて、とんでもないやらかしをしてしまった訳だが。これからどうするのが最適解なのか。

 目標はただ一つ、「生き残る」。これでとりあえずは良いだろう。俺がどこにいようと。

 
 ・工場から脱出できなければ衰弱死。
 ・このまま財団に戻っても、(バレたら)反逆罪で終了措置。
 ・GOCだって、俺のこれからの事と次第によっては即時処分。
 

 「色々と手詰まりじゃねーか」
 
 
 裏切り者に優しい現実なんて、そう簡単に作れる訳じゃない。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
 
 時々人影とすれ違うが、先程よりもずっと、気配が強くなっている気がする。
 四宮が言っていた、認識災害の時間強化だろう。本当に厄介だ。

 下手をすれば全員まとめてこの工場に取り込まれ、脱出なんて夢のまた夢になる。
 
 
 
 窓から見える景色からおそらく二階であろう階段を上がり、おそらく三階である場所へ。

 否応なしに示される視覚の齟齬は、最初の時とはもう比べ物にならない。
 ここにはない、ここにはいない足音と人のさざめきに聴覚が支配される。
 
 一段一段階段を上がるたび、より強くなる違和感。
 上の階へ近づくたび大きくなっていく、認知と感触の齟齬。

 目線は下へ下へと向かっているのに、足は上への階段を登っている。
 遠ざかっていたはずの足音は、いつの間にか側にあり、常に俺の真横を踏み鳴らしている。
 
 歪む五感に崩れそうになりながら、やっとの思いで、おそらく三階であろう場所へ辿り着く。
 
 
 
 三階に着いた途端、今まで俺の感覚を狂わせた認識災害は、不気味なほどにその鳴りを潜めていた。
 てっきり、階と時間を上れば、より強くなるものかと思っていたのだが。ほっとしたような拍子抜けしたような思いを抱え、廊下に収まった数々の扉を検分する。

 数分の探索の後、奥に足を踏み入れた俺は、明らかに異質な扉の部屋を見つけた。

 雰囲気が今までと明らかに違う。
 一様に煤け、デザインもシンプルだった今までの扉と違い、どう見ても異質だった。
 艶々と磨かれた飴色の扉は汚れひとつなく光り、周りの景色を映し込む銀のドアノブは、今まで一度も手を触れられた事がないと錯覚するほどに輝いている。
 
 作りたて───嵌められたて。
 まるで建てられた当初のように美しく建つドアは、この空間の中であまりにも異常と違和感を持っていた。
 それ故───こんな場所に来る者ならば確実に気付くような、避けられない引力を持つかのように。
 
 いっそわざとらしいほどに、異彩を放つドアのノブに手をかける。

 今までよりも強烈な視界の歪みに襲われ、俺は思わず壁(おそらく壁)に手をついた。
 平静を保つため少しばかりの瞬きをしてから、とりあえず扉の異常を調べ始める。

 不自然なほど真新しい理由を少しだけ考えて、俺はおもむろに銃の安全装置サイレンサーを解除した。

 乾いた銃声一発、ドアに押し付けた銃口、ゼロ距離で放たれた銃弾。
 訓練はしたとはいえ、今だ撃ち慣れない銃の感触に少し顔をしかめながら、俺は本来ならば弾痕が残るドアを調べる。
 

 ……───何もない。
 文字通り、全てが無かったことにされている

 
 …
 

 …勝手な俺の仮説ではあるが。

 
「このドア、自分に向けられる全ての影響を無効化するのか?」

 
 例えば、埃や黴のたぐいだとか。
 例えば、攻撃、物理の衝撃なんかだとか。
 例えば、これは流石に突飛すぎるだろうが───経年劣化。
 時間の流れによる変化、だとか。

 
 認識災害の類なら、触れれば弾痕を感じるだろう。ただし、このドアにそれはない。
 仮に、現実改変の類だと仮定する。

 
 そこまで大切なものか。
 そこまで見せたくないものがあるのか。
 それとも、中にあるものが傷つかぬようにしているのか。
 そこまで大切にしていつか見せたいものがあるのか。
 

 頭を使えば予測などいくらでも立てられるが、あくまでも推論の域を出ないものだ。やはり、確証を得るには実測しかない。
 口だけしかない俺が言うのも何だが───口だけで生きてきた俺が言うから説得力があるのかもしれないが。結局、実地と経験に勝る説得力なんてないのだ。多分。
 
 とりあえず、銃のセーフティーロックをかける。
 部屋の内部へ足を向けた俺の動きを止めたのは、背後に感じた、自分のものではない人間の気配だった。

「───どっちだ?」
「GOCだ」

 覚えのある声を背に聞き、俺は張り詰めた息を吐き出す。

「隊長殿ですか。通信機からの音声はどこまで拾ってます?」
「銃声が聞こえた。その様子だと、財団側のエージェントを一人始末したのか。」
「貴方がそう思うならそうなのでしょう」
「煮え切らん返事だな」
「財団側のエージェント1名を撃ちました」

 何ともない仕草で振り返り、にっこりと向ける愛想笑い。今日何度か見たGOCの制服に目を合わせる。
 ──嘘は言ってない。嘘は。

 どうやら俺が味方だと知り安心したのか、隊長が顔に付けていた装備を外した。やや硬いながらも笑顔を浮かべた、40代後半ほどの顔が現れる。

 「先程の銃声は」言いかけた隊長が、俺が握った銃に目を止めた。
 「ああ、既に破壊措置を取ろうとしていたのか」少し表情を緩めた隊長が、俺に賛美の言葉を送ろうと口を開く。俺は「GOCとして当然です」みたいな顔で笑い、謙遜するように手を振った。

 少しだけ止まりかけていた頭を回し、これからの最短ルートを思考する。

「初めまして隊長殿。私は」
「いや、自己紹介は結構だ。前述の通り、君の事はチェイサー殿から聞いているからな。」
「良かった。手間が省けました。」

 握手のために伸ばしかけた手は、首を横に振った隊長により黙殺される。俺は固めた笑顔のまま腕を引っ込めた。

「私たちは今、君がノブに手をかけている部屋に入ろうと思っていたのだ」
「何故?」
「計器の反応が一番強い。あの忌まわしきメーター音の出所はそこだろう。」
「そうなんですか」
「気の無い返事だな…。異常性のせいで、この工場の破壊は容易ではなくなってしまった。とはいえ、異常性の大元を破壊さえしてしまえば、その後の任務遂行は容易いだろう。」
「そうですね」
「退いてはくれないのか」
「いえ、そういう訳では」

 ゆっくりと瞬きして、怪訝そうな顔をする相手にもう一度焦点を合わせる。
 主な装備は防弾チョッキ。それに、認識災害を阻害するフィルター付きサングラス。
 目視でまず目に入るのはこのくらいだ。それでも、他にどんな武器を装備しているか、容易に想像がつく。

 俺は特定の排撃班に所属している訳ではないので、装備や事情に関しては今一歩知識が浅い。が、同じ組織に所属して似たような仕事をしている。
 それに追加し、今回は俺も目的を共有しているのだ。持ち込む荷物の察しはつく。

「そうですね…。私がここに先に入って、中の様子を見ます。なので、隊長殿はここで一度待機して頂けますか?」
「む…君一人で行かせるのもどうかと思うが、君の実力は"チェイサー"殿から予々伺っている。下手を踏む事もないだろう。」
「はい、それと」

 俺は自分が考えたこの扉の事情を、隊長とその後ろの隊員たちに対し簡単に説明する。
 隊長は難しげな顔で唸っていたが、俺の説明を聞き終え、深々とため息をついた。

「実は、我々が入口を破壊しようとした時、手榴弾一つでは完全に破壊する事ができなかったのだ。あそこだけでもう一つ余計に、手榴弾を消費する事になってしまった。」
「なるほど。…元々丈夫に作られてはいるでしょう。ただそれ以上に、建物全体が異常な耐久力を持っている。」
「今回の任務、発破解体ならば簡単だとたかを括っていた。が、完全に破壊するのならば中々に面倒そうだ。君の装備は?」
「先程拳銃の弾が切れてしまいまして。隊長殿が持っている高火力の拳銃、お貸し頂けませんか?防弾の服も一撃で破壊し、心臓にまで到達するくらいの。」

 大嘘だ。

 俺が今使ったのは銃弾2発。今回持って来ている───というか、一般に流通する大方のオートマチック拳銃は、最低でも10発前後は弾が装填できる。今回は一応マガジンも持ってきたので、派手に暴れなければ簡単に弾切れなんて起こさない。

 「そうか、君は我々仕様の改造拳銃を持っていなかったな」後半部分を冗談だと思ったのか、笑いながら隊長が俺に銃を渡す。
 「あとこれも」財団に渡された物よりもやや重い鉛と共に手に沈む、2、3個の手榴弾。

「拳銃だが、威力はそこらの銃の比じゃない。これならば大体の防弾チョッキを破壊し、弾は相手の命まで届くだろう。…ただその分、反動が少し大きい。必ず両手で撃つように。装弾数は───そうか、このモデルなら、君は使った事があるかもしれないな。」

 自分の手柄でもなかろうに。自慢げに銃の説明をしていた隊長は、俺の気の無い視線に気づいて言葉を止めた。

「昔何度か。 現実改変能力者タイプ・グリーンを仕留める時に。」
「ああ、奴らへの対抗策としてはこれが最高だ。…などと言ったが、私はタイプ・グリーンを相手にした事がないのだがね。」
「いないのが一番ですよ」

 悪戯めいて笑う隊長に、俺も軽口を叩く。
 いないのが良いのか、発見されていないのが悪いのか、その議論はGOCでも財団でも幾度か見てきた。それに、別にGOC職員だからといって、みんな現実改変能力者に関わるわけでもない。
 人も道具も扱い方が大事なのだ。適材適所というやつである。

「手榴弾も一応預けよう。この球状のは、爆発力より殺傷力重視だ。爆発時に舞う粉塵が、相手の視界と聴覚を奪う。万が一生き延びても、その体に深い爪痕を残すだろう。単純な威力ならばその横の筒状のが良い。学校のグラウンド分くらいは更地に出来る。」
「ありがとうございます」

 笑顔と共に手榴弾をポケットに仕舞い、銃の弾数を確認したところで、俺の背後からあのメーター音が鳴った。

 
「「───!」」
 

 瞬間的に場に緊張が走る。が、いつまで経っても、部屋が変わるあの不快感や、目の前の隊長が視界から消える様子もない。
 何も起きない

 部屋の内部を確認しようとしても、閉じた扉の隙間から覗くのはほんの僅かだ。
 おそらく中にあるであろう、メーターの様子を確認する事もできない。

「何も起きませんでしたね」
「何故だろうか?」
「この部屋から動かしたくないのでは」
「そうか」
「私としても、二人ともここから動かなかったのは好都合です」

 少しだけ引っかけるような俺の物言いに、隊長が怪訝そうな顔をする。

 ───もう一度。きちんと最後に、弾の確認を。
 マガジンの規定分だけ弾が詰められている事を確認してから、俺はおもむろに安全装置セーフティーを外した。

 は、という顔になった隊長に、今日一番の笑顔で笑いかける。
 俺は無造作に砲身を隊長の眉間に向けると、笑顔のまま引き金に手をかけた。
 
 
 
 生存という目標。その逃げ道が今、ここで一つ消えた訳だ。
 隊長の体が、スローモーションのように崩れ落ちる。それを視界の端に収めながら、俺は後ろの二人に向かって銃の引き金を引いた。

 
(反逆の狼煙と言えば格好はつくが…やっぱりちょっと派手すぎたな)
 

 こうして俺は、自分から可能性を潰し、自らの退路を叩き切る。

 
 本当に、適材適所とは大切だ。
 命令無視以外のあらゆる行為に躊躇いのない人間を、今の場所より快適かつ有望な場所に自ら送り込んでしまったらどうなるか───なんて、大体予想はついていただろうに。
 まあ、そこを悟れなかったGOCに、深層も真相も悟らせなかった俺の大勝利って事で。
 
 
 
 銃の発砲音に痺れる鼓膜と、対照的に急速に冴えていく脳を感じながら、俺はたった一つ残した退路命令を確実に遂行するための方法を考える。

 
 


 

Side Another:Agt.桂木
 

 息を吐く。周りを見回す。
 鞄の中には、先程しまった新聞とノート。右腕の包帯が、今までの俺の行為を突きつけてくる。

 肉倉庫と同じような雰囲気だが、吊られた肉の形が違う。
 確証は持てないが、例えるならば最初、飯沼と共に行ったのが豚肉庫。今回は牛肉庫といったところだろうか。
 ここが何かを特定しようにも、どうにも輪郭が不明瞭だ。部屋の目的を示す物もない。

 
 四宮さんは───あれから連絡が来ない。
 だが、そう簡単に下手を打つ人ではないだろう。あの様子ならば、GOC職員との無用な戦闘は確実に避けるはずだ。
 性格に難があるので財団内では敬遠されているが、職員としての技量は本物だ。元研究職という経歴が幸いしてか、俺たちには出来ない考えを出してくれる。

 石橋を叩いて壊すような性格だが、叩いても壊れない石橋に乗った時の信頼度は高い。
 建物全体にかかった認識災害に惑わされず、正しい脱出経路を導いてくれるはずだ。

 
 …飯沼はどうだろうか。
 本人には絶対に言えない事だが、俺はずっと、飯沼に猜疑のようなものを抱いていた。
 最初───四宮さんに紹介されて飯沼と会った時から。脳内でずっと警鐘が鳴り響いているのだ。

 異質なものを、身のうちに取り込んでしまったような。
 首筋にずっと、やいばを当てられているような。
 ただし、それが白か黒か判別のつかないような。
 行き場のない、漠然とした、奇妙な違和感。

 一番不信感が色濃かったのは、今回のアノマリーの調査計画を立てていた時だ。
 だが、先程───GOCからの攻撃の傷を処置していた時───に会話した時は、そのような違和感は少し薄れていた。

 
 今の俺に示された情報だけでは、「多分何かある」くらいしか分からない。
 多分四宮さんの方も、まだ俺たちに言っていない何かがある。多分。
 ただ、そこに深入りするのはもう少し信頼度を上げて、落ち着いてからだ。
 俺自身、好き好んで人の立ち入った話を知ろうとも思わない。

 飯沼には「異常性の質問は出た後で」と言った。
 多分、その頃には全てが解決しているだろう。そんな気がする。

 息を吸う。吐く。呼吸を整える。心臓に意識を向ける。
 鼓動が一定の速度で伝わってくる。

 
「『示されたものだけを信じるな』」
 

 記憶の中の音と、自分の声が重なった。
 俺は俺の信じたものを見て、進んで行けば良い。
 
 
 
 
 
 
『示されたものだけを信じるな。自分の頭で考えろ。目を開き、耳をそばだて、鼻を使い、頭を回せ。使えるだけの神経を研ぎ澄ませ、考えられる限りの方法を使い、用いられるだけのものを利用しろ。何でもいい。例え他人から、みっともないだの不快だの卑劣だの言われても、構うな。自分が信じたものだけを信じろ。』

 
 自分がまだエージェントの職に就く前の事。
 自分を可愛がってくれた上司は、俺を含めた部下たちに向かってこう言った。

 多分、割と大きな任務を終えた後だったと思う。
 それぞれに大なり小なりの傷を負った。回収任務は遂行できたが、満身創痍、という言葉が正しかった。
 

『命令と命を両天秤にかける生き方は否定しない。俺たちが生きているのは、そういう場所だ。生殺与奪の手綱を握られ、ただ組織の手駒と動く。ただ、判断するのは向こうだが、動くのは俺たちだ。常に最大限とは言わない。が、どんな窮地にも的確に対応できる程度の体と心はいつも持っておけ。』

 
 真剣な瞳で滔々と語られた言葉は、あの時の任を退いた今でも、心の深いところに刻み付けられている。

 
『上下の礼まで知らぬとは言わせないが、自分が信じた仲間に背を預けられるくらいには心を許せ。肩肘張るのは良くないが、常に緊張はしていろ。動けなくなるのは本末転倒だが、最悪の事態を見据え慎重に動け。無茶や無謀は許されないが、行動は時に大胆に行え。人に任せきりではないが、共に動く事を覚えろ。命を無駄にするような命令は反抗の意を示せるが、規律を乱さず判断には従え。』
 

 一言一句違わず。あの時の早さよりも些か早回しで、俺は頭の中の録音を再生する。
 

『矛盾しているように聞こえるか?俺はお前らにこれら全てをこなせと命ずる。勿論俺にだって、全部が全部完璧に出来る訳じゃない。理不尽な命令に怒りたい時も、前に進むのが恐ろしく足が竦む時も、足を引っ張る仲間を置いて、より円滑に任務を進めたい時も、自棄を起こして何処かに突っ込んで、そのまま消えてしまいたい時もある。だが狼狽えるな。今一時の激情に任せ過去を、未来を無にするな。』

 
 息を吸う。吐く。動ける。
 立ち上がる。腕は止血処理をしたので、激しく動かさなければ出血が悪化する事はない。

 
『人は生まれた時点で自分一人分の命を負う。子供が生まれれば子供分の命の責を背負う。仕事をするならば、自分の行動に責任を負う。心に留めておけ。仕事の前にはいつも思い返せ。お前たちが預かるのは自分の責任と、世界の責任 だ。』
 
 
 
 
 
 
 あの頃の自分より、俺は強くなれただろうか?
 脳裏に浮かんだあの時の上司に問いかける。

 ああ、そうだ。反省は生きて帰った後。
 任務の途中では、ひたすらに目の前の事をこなせと。そう言われ続けた。

 
 生きている。五体は動く。
 命令もはっきりしている。
 やるべき行動も。
 ならば、何も案ずる事はない。

 
「確保、収容、保護」
 

 口に出した合言葉に背中を押されるように、俺は立ち上がった足を、廊下へ続く扉へ向ける。
 


 

Side Main

 脚、肩、眉間、計3発×2。
 案外弾を使ってしまったが、装備と人数差の都合上、必要な消費と割り切ろう。

 綺麗に眉間に穴が開いた、隊長の死体の脇に膝をつく。ゴソゴソとポーチを漁り、探り当てたのは予備の銃弾。

 内心、少しばかり安堵の息をつきながら、空になったマガジンに入れる。 
 ───本当に、部屋が変わらなくて良かった。そう思っていた俺は、何人かの不穏な足音に気付き、一度手を止めた。

 背中に伝う冷や汗を感じながら、ゆっくりと顔を上げる。
 数メートル先に見える、俺の命をしっかりと狙う銃口。その数4つ。

「工場ごと塵になりたくなければ、武器を捨てて投降しろ」
「…バレたか…」

 ここの場所は部屋が変わらなくたって、離れれば普通に部屋の改変は行われる。───基本的な事を失念していた。

 せっかく弾を満タンにしたが、まあ仕方ない。ゆっくりと立ち上がると、銃を相手に向かって滑らせた。
 床を這い回転した拳銃が、相手の足によって動きを止められる。

「裏切り者め」
「吐き捨てるように言うな。俺が一番良く分かってる。」
「この二人を殺したのもお前か?」
「俺以外に誰がいると」

 のらくらと笑いながら、俺は後ろに手を回す。
 触れた金属の感覚に少しだけ、口角が吊り上がるのがわかった。
 
 慎重かつ迅速に。
 失敗したら俺もただでは済まない。
 
「これ以外に、財団に渡された武器もあるだろう。それも寄越せ。」
「ああ、…はいはい」
「早くしろ!」

 先程よりは軽く小さい銃が、同じように俺の手を離れていく。
 笑顔を崩さないまま相手を見据え、俺はノブにかけた後ろの手を離した。
 指先はポケット、先程よりも重く冷たい鉛の方へ。

「甚大な命令違反だ。覚悟はできているな?」
「命令違反で消えていった、"戦友"とやらなら、今まで掃いて捨てるほど見てきたが?」

 例え視界は違っていても、慣れ親しんだ手先は、脳の処理なく容易く動く。
 元々、手先だけで行う作業に関して、個人的に練習を積んでいた。───手癖が悪いなどと散々怒られていた技術が、こんな所で俺を助けるとは。

 隊長に言われた説明をもう一度反芻。
 大丈夫。ちゃんと合っている。

「…まだ武器を持っているのか。後ろの手を出せ!」

 カチリとピンが外れた事を感じ、俺は脳内でカウントダウンを始めた。

(5)
「貴様、早くしろ!撃たれたいのか!」
(4)

 もう片腕を伸ばし、開きかけの扉へ。

 この壁一枚が、俺の命を守る盾となり得る訳だ。───やっぱりこういう類は、何事も試しておく方が良い。知るだけで行動の幅は広がる。
 まあ、知が全て良い事だと、言い切れない自分もいるのが悲しいが。

「3」
「っ、おい」

 感触で物体をもう一度確かめ、俺は手の中の武器を、相手に向かってカランと転がす。

(2)
「は……」
「1」
「まて!」
 

「…貴様ァ!!!」
 

 俺が扉の中へ体を滑り込ませるのと、爆発音が響いたのが、ほぼ同時だった。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
 
 …あと0.5秒遅かったら、半身吹き飛んでたかもしれない。
 寿命が縮まる思いを感じながら、俺は扉の隙間からそっと外を伺った。

 隊長がドヤ顔で言っていただけあって、手榴弾の威力は凄まじいものだった。
 聞いた威力と音からして、あの距離ならば失明と鼓膜の破壊は免れないだろう。

 とっさに耳を塞いでいたって、聴覚を襲うその威力からは逃れられない。酷い耳鳴りを感じながら、視界の先に映る肉塊が4つとも、既に動かない事を確認した。

 そろそろと部屋から出る。まずは武器の回収だ。オブジェクトを調べるのはその後でいい。
 

 膝をつき、拾い上げた銃の点検をする。
 爆発のせいで傷がつくかと思っていたが、相手が持っていた予備の銃は、どうやら正常に稼働する。
 
 銃の点検に意識を向けていた俺は、側の肉の塊がゆっくりと動き出すのに気付かなかった。
 

 乾いた銃声一発。
 耳鳴りの中で微かに確かに拾い上げた、断末魔の罵声。
 

 ───まずいと思った時にはもう遅い。俺の左腕から音もなく、手の中の拳銃が滑り落ちた。
 


 

side Another:四宮

 メーター音が鳴った。
 鳴ったのが、聞こえた

 俺は生きている。

 痛みで上手く呼吸ができずとも。綺麗に貫通した右腿から溢れた鮮血が、俺の体温を奪おうとも。先程から何故だか、視界が薄暗く歪もうとも。とりあえず生きてはいる。

 泣きたいほどの痛みが感じられるのでまあ、俺はまだこの世界にいられているんだろう。

 生きてはいるが、状況は最悪だ。
 このままだと、上司を撃った部下の叱責もせず、日の目も見ず、財団に報告もせず、悲鳴を上げそうな痛みを道連れに、失血で野垂れ死ぬ事になる。

 思わず罵声が口をついて出てきそうになったが、口を開くと悲鳴ばかりが出てきそうだ。
 喉まで出かかった声を飲み込み、鞄から救急セットを取り出した。

 一応対人戦も想定した治療器具を持ってきて良かったと俺は思う。使う原因が味方だとは思わなかったが。
 
 …味方。
 

 連絡はとっくにつかなくなっている。
 あの馬鹿のことだ、どうせ電源切ったか、本体ごと破壊したかだろう。
 

 一通りの処理をし包帯を巻くと、徐々に出血は収まってきた。が、とにかく血が足りない。頭が回らない。
 とりあえず、動けるまで体を回復させないといけないだろう。持ってきた食料に鉄分を補給できるものはなかったかと思い返していると、不意に携帯が震えた。

「…ぁ?」
[もしもし…四宮さん。そちらの様子は。]
「様子も何もあったもんじゃない…こちとら右足撃たれて失血死寸前だったんだぞ」

 電話の主は桂木だった。
 ああ、声すらぼんやりしてきやがる。

「止血の処理はしておいたから、あとは時間との勝負ってとこだな。そっちはどうだ?進展は?」
[この工場に関わるとされる人物の手記と、新聞を手に入れました。それとGOCの工作員らしき人物に左腕を撃たれましたが、掠った程度なので可動に不便はありません。現在下に降る階段を移動中です]
「お前も怪我したのか!下手を打ちやがって馬鹿野郎…いや、俺が言えた立場じゃないな…。手記と新聞に関してはよくやったと言おう。報告書の補記とかにまとめてもらえ。」
[はい]

 スマホの音量を少しだけ上げて、俺はなんとかぽつぽつと言葉を吐き出す。
 時々体が揺れ、その度に這い上がる痛みに唇を噛めば、代わりに出るのは張り詰めた息ばかりだ。

[そちらは今どのような部屋ですか?…無理をせず。伝えられる範囲で。]
「あー…、包丁が見える…」
[包丁?納品用に、肉を切るところでしょうか。]
「だろうな… …」

 桂木の声がだんだんはっきりしてくる。さっき飲んだ止血剤が功を奏したのだろうか。

[私はそろそろ地下に着き…………これは………]
「どうした。何かあったか?」
[私は確かに下への階段を降りていました。金属製の螺旋階段です。実際、階段は下へ下へと続いていました。…しかし、今私の目に映っているのは、屋上なのですが]
「…ええと…それなら…異常性は部屋だけでなく、建物全体にかかってるって事か…?」

 ああクソ、血が足らない。頭がうまく回らない。

[飯沼と連絡が取れない事、左腕の負傷以外は特に取り立てたトラブルもありません。これ以上痛手を負う前に、即刻ここから脱出しなければ。]
「そうだな。あー…お前は引き続き手がかりを探せ。くれぐれもGOCと鉢合わせるなよ。」
[了解しました]

 電話が切られる。
 完全に呑み込まれる前に、なんとかここから脱出しなければいけないが。
 すぐに動くには、傷が深手すぎだ。とりあえず、少し───最低五分。時間が欲しい。

 大きく息を吐いて、少しだけ瞬きをする。

 
 桂木はあの様子だとまあ、大丈夫だろう。
 ただあいつの「平気」ほど信頼できないものはない。帰ったらとりあえず医務室直行だ。気付いてないだけで、体のどこかに損害を受けている可能性がある。

 片腕の制約がある以上、無駄な戦闘は避けるだろう。自分の身の丈に合わない事はしない、出来た部下だ。
 胆力はあるが特攻はしないというのは、こちらとしても非常に扱いやすい。

 ただ、時々冷静に見せかけて、とんでもない行動をしでかす。

 何も考えないならまだ良い。こちらに有用な思考力を植えつければ良いだけだ。
 ただあいつは、"考えた上で"
 "何が最善かを思考した上で"

 自爆特攻をやらかす。

 「俺は苦痛を感じない分、多く戦えるし盾にもなれますので」真顔で言い切って、真っ先に死の淵に飛び出していく大馬鹿野郎だ。
 この世で一番扱いが面倒なのは、思考できる馬鹿だと俺は思う。馬鹿なだけで愚か者ではないのがまだ救いだろうか。

 
 足が痛い。
 
 鞄の中を雑に漁ると、休憩時間にでも食べようと思った煎餅があった。
 バキバキに割れているが、この際文句は言えない。体を癒すには好物が必要だ。

 
 飯沼。アレはどうだろうか。俺を撃つだけ撃って逃げたが、どうしているだろう。

 いつも大体笑顔。
 場に合わせた最も適当な答えは出せるが、正しい解には触れたがらない。───現状の俺の所感だ。

 最初から───具体的にはこのアノマリーに関わり始めた頃から。
 なんとなく違和感はあった。ただ、明確に形を持てないでいた。
 普段から持つ、のらりくらり、ふわふわと掴み所のない空気が、敵も味方も煙に巻いて、欺いていく。

 多分、最後まで結局一人で良いところだけ持って、笑顔で逃げていくのだろう。
 それを実現できる精神力と弁舌は評価に値する。
 ただ、絶対に使い所を間違えている。そんな違和感が拭えない。

 何にも踏み入らず。
 誰も立ち入らせず。
 誰かを巻き込みはすれど、核心は一人で押さえ込み。
 破滅も一人で。

 
 痛む足を庇うように立ち上がり、俺は部屋の外へと這いずるように歩く。
 足の腿は、銃を撃とうとした場合、人体で一番生命に支障がない場所だ。拷問の脅しなんかで撃たれる場合もある。

 あいつがどのような意図でここを撃ったのか知らないし、興味もない。
 だが、俺の口を素直に封じなかったあたり、まだ対話の余地はある。

 
 ───いや。
 俺の口を封じなかったことを、心の底から後悔させてやる。

 
 だいぶ落ち着いた失血に、少しだけ安堵の息を吐く。
 貧血は仕方ないが、ここから財団までの移動は車だ。途中の道で、適当に血と肉を補給できるものでも調達しよう。そうすれば、戻った後ゆっくり英気を養う事ができる。
 …いや、その前に桂木共々医務室行きか。

 脱出後のやるべき事を考えながら、壁を伝って扉の外へと向かう。

 
 そこで見つけてしまったのだ。
 認識災害でもなんでもない───ただそこにある、錆びの付いた包丁に裂かれた、人間一人分の死体を。

 


 
Side Main
 
 
 
 
 
   チーン

 
 …腕が痛い。
 痛いってもんじゃない。正直今すぐ悲鳴上げたい。

 銃創なんて作るのいつぶりだろうか。少なくともここ半年は撃たれた記憶がない。
 浅くなっていく息を感じながら、俺は何とか無事だった右腕を伸ばす。

「(…あった)」

 排撃班の連中からあれこれ失敬していたが、今回取り出したのは治療器具だ。
 特別頑丈に作られた治療器具セットは、箱こそ歪んでいるものの、中身は爆発にも耐えていた。
 久々に感じる痛みに顔をしかめながら、俺は消毒と止血処理をする。

 利き腕ではなかった事と、弾が掠っただけだったのが、まだ不幸中の幸いだ。
 俺を撃った部隊員は、発砲時点で力尽きたらしい。銃口は心臓を向いていたが、反動に耐えきれず銃口は逸れた。そして、俺の腕に当たったようだ。
 いや、絶対死んでるって微妙に油断した俺が悪かった。今回ばかりは自分のミスだ。

 
 何度撃っても、何度撃たれても、銃に作られた傷の痛みには、どうしても慣れない。
 

 GOCに与えられた武器の中で、一番俺の手に馴染んだのが拳銃だった。
 威力は高い。訓練次第でいくらでも上達できる。
 当初は外れてばかりだった弾が、だんだんと的の中心に向かうのが楽しかった。
 「これが人間を守る」上司の甘言を鵜呑みにした昔の俺は、暇さえあれば射撃の練習をしていた。

 だんだんと綺麗になる風穴。
 それに伴い、積み上がっていく死体の山。

 今の俺なら多分、甘かった昔の俺を全力で殴ってるだろう。
 これは、人を守るための道具じゃない。

 人を殺すための道具だ。

  
 止血を終えても痛みを訴え続ける左腕に、小さく舌打ちをして立ち上がる。
 桂木はああ言っていたが、やっぱり痛みなんてない方が良いだろう。その方が楽だし、やるべき事に集中できるし。
 心の中で言い訳のような悪態をつきつつ、側での爆発にも一切動ぜぬ扉を開く。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
 
 最初に視界に映ったのは、大きな机。
 と、そこに乗った小さなアナログメーターだった。
 肉用温度計というやつだ。台の上に棒が乗っていて、棒を肉に差し込み、計器で温度を確認する仕様になっている。

 計器部分は白、棒は金色。デザイン的には悪くはない。が。
 昔ならば、綺麗な白の塗装に動物のイラストだったのだろう。だが今は古び、錆び、所々塗装が剥げている。
 笑顔が崩れた牛や豚のイラストに、昔の愛らしさは見る影もない。

 (精肉関係で牛や豚や鶏の絵見るたび思う。死ぬ側がこうして可愛らしく笑っているのって、どうなのだろうか。
 この笑顔は屠られる事への諦観と、せめて役に立ちたいという願望と、せめて最期は笑って逝きたいという思いからくる、哀しみの笑顔なのではないか。色々と余計な事を考えてしまう。)

 
 中央部分付近で針がぐらぐらと揺れて、一定の角度を保つ、不安定な弧を描く。
 陳腐な赤に塗られた針が揺れる。揺れる。揺れる。

 振り切れる。
 
 
   チーン
 
 
 音が鳴る。
 

 気のせいだと思いたいが、最初にここに侵入はいった時に比べ、メーター音が鳴る───つまり、部屋が切り替わる、現実改変が起こるスパンが短くなっている気がする。

 これからどんどん頻度が高くなっていけば、どんどん部屋は入れ替わる。
 元々かかった認識災害と重なり、比例してどんどん俺たちの出口が遠くなっていく。

 (とりあえず、この針を止めれば良いのか?)

 言う事は簡単だ。しかし、再び動き出した針を止めるにはどうしたら良いのかわからない。
 多分手で物理的に止めたってそこまで意味はないだろう。

 まずは手がかり探し。解決策を求め、とりあえず俺は机から離れてみる。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
 
 あれこれ検分してみた結果、ここは社長室のようだった。

 埃の積もった大きな机と、綺麗に収められた椅子。棚にはいくつかの賞状やトロフィー。
 華々しい賞の数々も、称える者称えられる者がいないせいで、どこか空虚な印象を受けた。

 机の手前にあるのは、小さなテーブルを囲んだ小ぶりのソファだ。多分来客のために使うのだろう。
 元は黒く艶光っていたのだろうが、経年劣化と埃に埋もれ、もう見る影もない。

 とりあえず、机の上にはメーター以外の不審な物は無し。
 テーブルやソファの下まで見たが、メーターを止められそうな物は見つからない。
 
 あと見ていないのは棚だけだ。が、棚は天井一歩手前まで届いている。一番上のところに手を届けるためには、椅子か脚立を使わなければいけない。
 ため息をついて上を見上げた俺はふと、部屋に飾られた一番大きなトロフィーの下に、何か紙が挟まっているのを見つけた。
 
 手を伸ばし、紙を引き抜く。
 乱雑なボールペン書きだ。筆圧も弱々しい。
 

 私が全て悪かったのだ。今更懺悔が許されるならば、私はこう言おう。

 
 地域に根差した企業?長年の信頼と実績?そんなものはまやかしだ。
 結局金と力のある大企業が現れれば、客は皆そちらへ行く。向こうのほうが安く、より多いからだ。全てにおいて劣る、私たちのような会社が太刀打ちできるはずもない。
 力で劣る分、頭を使うしかないのだ。少し悪い事だったとしても。ただ私は、自分たちの周りのため、完全に悪に染まる覚悟も、真っ当な方法で勝負する発想力も、諦めて次に進む潔さもなかった。
 恐ろしかったのだ。いつだってずっとずっと。明日の食事に事欠くようになったら。ある日山積みの借金に殺される日が来たら。そして、もし自分たちがしでかした事が明るみになり、世間の後ろ指さされながら、惨めに生きていくようになったら。生きていくようにしてしまったら。
 副社長には本当にすまない事をしたと思う。こうして今謝ったところで、私の罪が消える訳でもないが。
 彼が自殺したと聞いた時、私の胸に例えようのない後悔と、安堵が浮かんだのだ。
 そう、安堵だ。このタイミングで死ぬという事は、自分が全てやりましたと言ったようなものだ。世間は私ではなく、一斉に副工場長を謗った。糾弾されたのは私ではなかった。
 責任感が強い男だった。昔から会社を支えてくれていた。きっと私の思いも全て理解した上で、全ての責任を取ったのだろう。そう、彼が警察に行くことはない。彼の罪はただ、私を止めなかっただけなのだから。

 
 私は苦しんだ。悩み抜いた。
 ただ、一生この思いに苛まれ生きていくならば、いっそ全てを白日に晒し、相応の罰を受けるべきだと思ったのだ。
 素直に人に言えれば良かったのだろうが、世間は既に副社長非難の一辺倒だ。そこで私は考えた。工場に入ればきっ、と私がやったという証拠があると思ったのだ。人の目を盗んで既に封鎖されていた工場に入った。
 本当に、どこで歯車を嵌め違えたのだろうか。工場を彷徨っていた私の耳に、あの音が聞こえたのだ…あの懐かしき、そして忌まわしき音が。

 
 もし誰かがこの文章を読んでいるならば、きっと私の部屋に辿り着いたのだろう。そしてあの計器を見たはずだ。
 可愛らしいだろう?いや、人知を超えた現象を引き起こす、おぞましい物と思ったか。
 この温度計は、私がこの工場を立ち上げた時、知人から貰ったものだ。大きな工場を持ち、たくさんの人を使い、より多くの製品を扱うようになっても、肉一つに向ける真摯な思いは、いつまでも忘れぬようにと。
 一つだけあったとて使わない。向こうもそれを分かっていただろうが、それでも戒めと祝福を込めてこれを贈ってくれた。このメーターは常に私の机の端にあり、顔を上げれば視界に映っていた。
 メーター音は、肉の温度が正しく計測できた時鳴る音だ。
 音の後部屋が自分が知っているものと違う事に気づき、私はパニックを起こした。怯えた。叫んだ。証拠どころではない。出なければ命に関わるのだ。
 探し回って、歩き回って、私が辿り着いたのは結局、ここだった。
 部屋の中心で佇む温度計を見た時、私は悟ったのだ。これは、これが、私への罰なのだと。
 

 次のメーターが鳴ったら、私は筆を置き最後の出口探しへ行こうと思う。
 もう体が衰弱しきり、頭も朦朧としている。出られてももう長くは無いだろう。
 この工場。私の夢。私の過ち。私の罪。私の後悔。私の希望だったもの。
 最期を共にできるなら…と思わなくもないが、ここで美しく終わるには、私が背負うべき咎は大きすぎる。
 ああ、本当に、本当にすまなかった。
 もしこの文を見つけた幸運もしくは不運な人間がいたら、この文章と共に必ず外へ出て、そして日の元へこの事を明るみに出してくれ。
 冷たい金属の中に埋もれさせないでくれ。日の光の下で生きる事に必死だった、あまりにも愚かで悲しい私たちの事を。

 
 
 片腕のみという制約に難儀しながら、紙を丁寧に畳んで鞄にしまう。
 鞄の中に紙片が収まったのを確認し、俺はもう一度メーターを見た。

 今回の異常性の原因は多分、このメーターだと考えて良いだろう。

 「日の下に、この事を明るみに、か」

 誰かにこの事を知って欲しくて、人間を中に引きずり込んでいた。
 

 時に、人の強い思いが、正常道理を歪ませる事だってある。
 その感情に引っ張られて、工場はその姿正常性変質変えて、一番思い入れのあるメーターが異常性を持った。

 ただ勿論、全てが綺麗に噛み合うなんて事は決してない。
 後ろめたさからか、それともより奥に入って欲しかったのか。現実を歪ませて部屋は入れ替わった。ありし頃の栄光をなぞるためなのか、それとも真実をはぐらかし、人を惑わせるためなのか、認識を書き換えて幻影を作り出した。 

 
 大体こういう場所系異常物体の類は、元凶を破壊すれば一時的または恒久的に無力化できる。
 が。

 俺はもう一つやり方を知っている。
 昔似たような異常物体と遭遇した事がある。

 息を吸う。吐く。
 腹に力を込めて、何が起きても屈せぬ覚悟を用意する。

 
 
 俺は満身の力を込めて、机からメーターを引き剥がした
 
 
  
 ───視界が曲がる。歪む。
 

「お、…あ!?」
 
 文字通りひっくり返った眼前、言葉にするならば「強烈な目眩」。

 せっかく食べた昼食まで丸々戻ってきそうだ。そんな不快感に襲われ、俺は机に手をつき座り込んだ。
 かひゅ、と鳴った喉を押さえて、ひっくり返る臓腑を抑えつける。

 
 "決まった場所、もしくは決まった法則により異常性を引き起こすならば、その法則をズラしてやれば良い"。
 即時破壊が出来ない異常物体への対処法の一つとして、GOCから教わった方法だ。

 一番手っ取り早いのはそう、原因異常な場所から離してやる事だろう。
 
 
 
 這うようにして壁をつたい、窓を開ける。
 緩やかな投擲のもと投げ出されたメーターが、太陽の光を浴びてキラリと輝いた。
 
 
 
 ◆ ◆ ◆
 
 
  
 廊下の外に一歩踏み出し、血の匂いに籠もった廊下の窓を開けた。
 視界の霧が晴れていくような感覚がある。今まで建物全体を覆っていた、異常性というものが、ざぁっと引いていく感じだ。

 
 さて、これからどうするのが正しいのだろうか。 

 
 俺は少しだけ躊躇った後、鞄にしまった携帯の電源を入れた。
 ブォ…ンという音を立てて息を吹き返したスマホに息を吐き、俺は何も言わずに立ち上がる。

 心の中で聞こえたのは、枷が外れた音か、もしくは新たな鎖が付けられた音か。

 今日から正式に、処刑人改め看守。
 いや、牢と道の間に格子はない。俺はこの二箇所を行き来し、狩人となり餌となる。どちらかといえば門番とかか。
 割と満更でもないあたり、だいぶこっち側に染まってきている気がしなくもない。
 
 我ながら強引なやり方だったとは思うが、破壊で解決するのは財団らしくないだろう。
 あくまで感覚的なあれだが、多分この工場は無力化Neutralizedしていない。せいぜい弱体化。
 異常性の原因、もしくは異常性に深く関与しているものを異常物体から出したは良いが、そのうちワープかなんかでまたこの机に戻ってくる気がする。
 その時はまた、元の異常性が戻ってしまうだろう。その前に脱出する事が最優先だ。

 トリスタン含むGOCの奴は…まあ、運が良ければ脱出できるだろう。
 俺は俺なりに、ずっとやるべき事をやってきた。正直、今更知った事じゃない。
 

 眩しい日の光に目を細め、錆のせいで嫌な音を立てる窓を閉めたところで、スマホが着信を示す。
 実際には数時間も経っていないが、このスマホはだいぶ久々に見たような思いだ。

 液晶に映っていたのは、自分の顔より見た顔の上司の───財団に来る前、おそらく自分の名前より見た名前だった。
 待っているのは脱出の命令、それに叱責と罵倒だろう。
 正直、これからのGOCや財団からの言及より、そっちの方が怖い。

「確保、収容、保護」

 脳裏によぎった言葉を口に出す。
 酷く耳通りのいい言葉だ。綺麗すぎて、本当はもっと汚れているのではないかと疑ってしまうくらいに。
 でも、決して悪くはない。俺もこの夢を一緒に見て良いのだと、そう思える。
 
 
 電話口から聞こえた声にわざとらしいほど明るい声を返して、俺は一人、日に照らされた部屋の中で笑っていた。
 


 
 

 


 
 
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