新橋詰 ███ █氏を迎えて
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石榴倶楽部 会報

新橋詰 ███ █氏を迎えて

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【お食後】
ザクロのフラッペ




フラッペとは飲み物とミルク、クリームなどを氷とともにミキサーにかけた飲料のことです。
今回は骨を柔らかくなるまで煮込んでから細かく砕き、よく冷やすことで氷の代わりに。
『Carol di prosperità』を基盤として、滑らかな脂肪分の多いザクロのペーストを混ぜ合わせたクリーム、
数種類の天然香料も手伝って芳醇な香りの漂う、当倶楽部の全く新しい甘味としてお出ししました。

来る十二月六日、京都は六条にて新橋詰███ █氏を囲む歓迎の晩餐会を執り行いました。

ご存知の通り、当倶楽部にはザクロを嗜む様々な同好の士が集っております。
彼らが何故これなる美食を志したかは多種多様、その多くを語られない方も勿論いらっしゃいますが ― ここでは私の存じている範囲での動機を述べることで、新橋詰歓迎の言葉と代えさせて頂きます。

まず思い出されるのは倶楽部に加入された時節、既に余命を一年としていた方の事で御座います。
中国の薬膳には「同物同治」なる言葉があります。体の不調な部分を治すには、それと同じ部位のものを食べるが良い ― という意味ですが、彼はそれを直向きに信じ、ザクロを謂わば薬膳料理として味わっていたのです。
美食の楽しみを得た喜びか、ザクロの魔力がそうさせたのかは判りませんが、彼の体が見る見る健やかに変わった後も、彼は自らの美しい命を永らえる為に、若く新鮮なザクロを多く味わっていらっしゃいました。

食材元の人間をひどく愛し、ザクロを食し始められた方もいらっしゃいました。キュートアグレッション ― 愛おしいものを締め付けたくなったり、噛み砕きたくなったり ― 例えば嬰児などを見てそういった衝動を覚えられる方もいるかと存じますが、彼女はそれが殊に強いのだと仰られていました。
あらゆる人間が愛おしくて堪らない。故に言葉では言い表せないほど、その肉に歯を立てて噛み締め、飲み干したくなってしまって仕方がないのだと。

― さてこのようにザクロというものは、当倶楽部の会員に限らず、実に長い間人々を魅了して参りました。新橋詰を襲名された███ █様も、無論その一人でしょう。
しかして当倶楽部とは、ザクロを食したいという欲のみで交われるものではありません。気品や家格、ザクロへの心緒等も見るべき箇所ですが、そこにはまず何より大切な資格が御座います。

当倶楽部に加入され、初めて口にされましたザクロのフラッペの御味はどうでしたでしょうか。
本来ならば人の肉とは筋張って生臭く、到底調理のし辛いものです。肉料理であるならば兎も角、このような甘味とは相性の悪い食材に御座いましょう。
実際に倶楽部外の人間がこれを口にしたならば、一口に味が悪いと断ずることは無くとも、口には合わないと感ぜられる事かと思います。

けれども███ █様がそれを口にされた先日、そのかんばせが美しく綻ぶのを、私どもは確かに見ました。
そこに受け取ったのは、舌が震えるほどの喜びだったでしょう。下顎が痺れ、味蕾は諸手を上げ、太陽を腑分けにして食するがごとき甘露と感じました事でしょう。
それこそが当倶楽部の会員の資格なのでございます。生まれついて ― 若しくは後天的に、ザクロを美味と感ずる鬼の舌の素質を、我らは持ち得ているのです。

当倶楽部の新しい時代を築いていく貴方を、私どもは衷心より歓迎致します。
この現世に溢れる七十億ものアムリタを、心ゆくまで味わいゆきましょう。

改めまして新橋詰を襲名されました███ █様 ― この度は石榴倶楽部への加入、誠にお慶び申し上げます。

(記・秋津)


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