私立探偵マーフィー・ロゥ - 今回のマーフィー・ロゥは██████████
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屋内. マーフィー・ロゥ探偵事務所 - 朝

色白の男が汚れた窓に向かい曇った空を見上げている。陽光の元で彼の横顔を見ることは珍しい。その口元にタバコが咥えられていないことも。机の上にはまだ煙を立てる浅煎りのコーヒー、頂点の割れたゆで卵、そして無造作に広げられ皴の寄ったデイリー紙。

彼は窓の桟を指でなぞり、猜疑心と好奇心をないまぜにしたような顔で扉へ向き直る。彼の名はマーフィー・ロゥ、誰かに助けられることを嫌い、誰かに手を貸すことをほんの少し好む男。その顔はハンサムで怜悧 — 横顔はあなたがやっかいな税務署からの封筒を切り開けるのにピッタリだ。

彼は私たちのナレーターでもある。彼の声は夜に響く口笛のように耳障りな唸り声だ。箱一杯のチョークを飲み干しても子山羊を誘いだせないほどには。

ナレーター

たまには休暇も必要だと、世の善人たち — 悪人ではないだけの人間 — は笑って言う。全くもってその通りだ、悪人は休暇に仕事をする。それを取り締まる人間も同様に。しかし、日曜日の朝は仕事をする時間としては悪くない。いつだってスモッグの下でドブネズミみたいに走り回ることを俺の仕事とあんたが勘違いしているのでなければ。

事務所のドアが品よく叩かれる。

ナレーター

そしてまた、こんな日にわざわざ仕事を頼む人間は悪人に違いない。

マーフィー

どうぞ、鍵はいつも空けてるんだ。

扉を開いて細身のが入ってくる。白衣は皴一つなく、政治家のような笑みを顔に張り付けている — マーフィーの記憶には残っていないだ。彼もまた、マーフィーの助けを必要と

私は異常実体TSおじさん!

マーフィー

は?

の手元が激しく光る。マーフィーは目を閉じ、強襲に備え防御の姿勢を取る。その腕が柔らかい何かに触れる。

ナレーター

おかしい、そんなものが俺の胸にあるはずがない。少なくとも今朝、バスルームの中では存在しなかった。 — 待て、相手は何と名乗っていた? 確か、TSおじさん、と。

マーフィーは目を開き、彼の前に立つニヤケ面のより先に自らに起きた異変を確かめる。

ナレーター

腰のあたりまで髪が伸びている。全身の筋肉が僅かに減り、細身になっている — そして何よりも、胸がある。筋肉ではなく脂肪でできている、女の胸になっている。脳は理解を拒んでいたが、事実だけは俺へ冷水を浴びせていた。

マーフィー

(銃を抜きながら)

俺を女にしてどうする気だ? Hentai男。

(微笑む)

間に合ったようだな。

マーフィーの銃から二つの音が響く。筋力が落ちているのか跳ね上がった銃弾は大きくそれる。

(微笑みながら銃弾を避ける)

私はTSおじさん。TSとはTransSexualの意味を持つ、性転換を意味する創作ジャンルの一種だ。私の場合、ファンタジー的な要素が強いからTSFおじさんと呼ばれるべきかもしれないがね。私はこの能力を元に様々な相手を性転換させているのさ。

マーフィー

あんたの定義は聞いてない。何度も同じ話をするのは嫌いなんだ。俺を女にしてどうする気だ? - お前の目的はなんだ?

TSおじさん

目的、強いて言うなら単純なことだよ、ミスタ・ロゥ。…いや、今はミス・ロゥと呼ぶべきかな?

ナレーター

男の口が耳元まで開く。自分を悪党だと認識している相手はいつだってその悪事を誰かに語りたくて仕方がない — チンケな掏摸であろうと、世界を狂わせる異常な実体だろうと。

男、TSおじさんの口元が大きく歪み、哄笑をあらわにする。

TSおじさん

強い男が女の子になって自分の身体と精神にギャップを起こして恥じらう姿を見て笑うのが趣味だからさ! どうだい? 感覚は、感情は、感動は!?

ナレーター

なるほど、敵はどうやら故障している — ことのほか解決策は単純らしい

マーフィー目掛け、44口径マグナムを躊躇なく発砲する。2発の弾丸がの白衣を切り裂いた。常なら心臓を射止める3発目は、慣れない身体の反動によって放たれないまま残っている。

マーフィー

他人が巻き込まれるコメディは嫌いじゃないが、なるべくポップコーン片手にスクリーンで見るに限る。映画の後はとっとと帰って夜まで寝るべきだろ?

TSおじさん

ふふふ、ミス・ロゥ。私が何も策を用意してないと思ったのかね?

ナレーター

どんな策があろうと、昨日なら撃ち抜く自信があった。だがこんな細腕ではどうか。 — 俺はどうやら、ヤツの言う通りになっていることを認めざるを得ないようだった。

が静かに胸元へ手を入れる。マーフィーがもう一回銃声を響かせようと引き金に指をかける。— が窓に跳んだ。

ガラス窓の割れる音。

TSおじさん

逃げる!

事務所のガラス窓を全身で破り、は外へと飛び出していく。ゴロゴロと埃っぽい道路を転がり、奇異の目を気にすることもなくは立ち上がると走り出す。

ナレーター

俺を置き去りにして去っていく埃まみれの背中はまさしくコメディアンだ。いいだろう、そっちがその気なら即興劇を踊ってやる。俺の名はマーフィー・ロゥ。…起こり得る災いが現実になった時、呼ばれる男。…男だ。

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私立探偵マーフィー・ロゥ — 今回のマーフィー・ロゥは美少女でお送りします

フェードアウト。




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【前章までのあらすじ】
私立探偵マーフィー・ロゥ。起こり得る災いが現実になった時呼ばれる男である彼は、事務所へ突然飛び込んできた異常実体"TSおじさん"のTS波を浴び、美少女探偵マーフィー・ロゥに変化してしまった! 逃げるTSおじさんを追いかけるマーフィー・ロゥ。しかしその世界は既に彼のいたパルプ・フィクション、ハードボイルの世界では無くなっていた! 徐々に心までもが女の子になっていくマーフィー・ロゥ、彼女は最後まで自らを保てるのか!? TSおじさんの目的は、そして、この世界の行方は一体! 『美少女探偵マーフィー・ロゥ』、二章開演!

事務所の外に飛び出した俺を襲うのは、焼き付けるような日差しではなく気が狂いそうなほど穏やかで暖かな空気。その中にいるだけで弛緩し、俺のいるべき場所ではないという悪寒だけが全身を走る。街を歩いている人間はコミックじみた容姿に変わり、それを全く気にすることはない。イカレている、この世界も、俺自身も。そしてついにナレーターまで俺の手から離れていく。必死に掬った砂がこぼれていくように。

「まだまだ言葉のセンスが気取っているぞ! 自分に慣れていないようだなミス・ロゥ!」
「TSおじさん! よくもまあ…」
「おっと! 三点リーダは二つだ! 常識だろう、ミス・ロゥ?」

前を走るTSおじさん……、忌々しいことに言語野も徐々に侵されていく。おそらく敵の正体は。

「気づいているかミス・ロゥ! 君は既に私をその不名誉な名前で呼ぶことに気づいていたか!?」

世界すらも侵略するフィクションだ。

「フフフ、ミス・ロゥ! 君は既にこの世の理に囚われている! ナレーター!」

私、マーフィー・ロゥはTSおじさんを追いかけるこの世界がすっかり変わっていることに気が付いていた。空にはまるでドラゴンのような影が飛び、その背に乗る御者は私に気付くと憐れんだ様な目とサムズアップを返す。そんな奇妙な世界で私は徐々に自分が変わっていく感覚に怯えていた。煙草よりもスイーツを、それもたっぷりクリームが乗っているのに低脂肪乳という言い訳を与えてくれるタイプのスイーツを脳が求めている。

「ゴミのような情報が頭の中に流れ込んでくるッ!!!」
「君はこの世界においてトラブルを解決する美少女名探偵、その陳腐かつ単純なお約束の前に君は敗北する!」

そう、それこそがこの世界のやり口なのだろう。なら、探偵である私がやることは単純だ。太ももに備えたホルスターから、種類も分からない拳銃という機能だけが求められた武器を取り出す。

「だというのなら、俺はそれを利用すればいい、お前をトラブルと認識すれば、解決可能だろう!」

性能も何も分からない、ただ美少女が持っているのにふさわしくない、という意味だけを与えられた銃が火を噴く。

「ああ、ダメだ、ダメなのだよ、ミス・ロゥ。その方法では」

だが、TSおじさんの手元が再度光ると、周囲の景色が歪む。撃ったはずの銃弾は虚空に消え、私の手にはいつの間にかギターが握られ、周りには真っ黒な書き割りが現れていた。熱気が私の血潮を沸かす。

「私は倒せないのだよ! このTSおじさんは!!!」

書き割りは徐々に私と同年代の少女に変わっていく。手にはベース、ドラム、そしてギター。気が付けば周囲は魔法とファンタジーの世界ではなく狭く薄暗いステージの上。学生服の群衆が私たちを見つめステージの始まりを今か今かと待っている。側に立つ親友がじっとりと汗の滲む俺の手を握り頷いた。そうだ、私が男に戻るためにも、この学園祭のステージだけは成功させなくちゃいけない。何を弱気になっているんだ、私は。

「TSの主目的とは、然るにそのギャップにある! これまでにない器官が身体に表出し、これまでにない知覚が生まれうる! それは読者、そしてキャラクター共に未知であるべきなのだよ!」

スティックがリズムを刻む、— 待て! 違う! 私は! 体育館の壁にもたれ腕組みをしたTSおじさんの手元が光る。下校時の夕陽が友人の顔を染める、ああ、男のときはそんなこと思っていなかったのに、コイツの笑顔は、なんだか、見ているだけで、やめろ、それじゃあまるで私は。

「さあ、君はどうだミス・ロゥ! 君の本質は、身体か、それとも魂か!」

友人がゆっくりと俺に、— 違う! 手元が光る。私は剣を持って、緑の怪物に立ち向かう、だが怪物は私の弱さを笑い、一瞬で私の手から剣を奪い取る。このままでは私は…… — 違う!

「目覚めろ、目覚めるんだ、ミス・ロゥ! 君は気づけるはずだ! 自らの中にあるものに!」
「わ、私は、美少女探偵……、マーフ」

そう、今の私はいつか男に戻るため、この手に銃を握る美少女探偵。男に戻るためにも、この世界を暴かなくては。

「そうだ! 君は、何である!?」
「私は、美少女」

私は、美少女探偵、男に戻るために。

「さあ! 応えろ!」
「私は……」

私は、男に戻るために……。

それが、マーフィー・ロゥか?

美少女探偵マーフィー「…違う」

TSおじさん「何が違う!」

私立探偵マーフィー:違う、私は、…俺は

そして、マーフィーは銃口を向ける。……いったい誰へ?

マーフィー

俺の名はマーフィー・ロゥ

その銃口が指す先は

マーフィー

起こり得る災いが現実になった時、呼ばれる男だ。

マーフィー

たとえ女だとしても。

銃口が指す先は。

ナレーター?

だ。




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暗転。

マーフィー

その役割は変えられない。

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