忘れゆく人に捧ぐ詩

ある文書は宣言した。

「愛を決して忘れません」

忘れないなど、出来やしないのに。

忘れゆく人に捧ぐ詩

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終わる世界で誰かが綴った。

我々を忘れないでくれ、と。

 

ウツボの元で博士は言った。

最後には忘れ去られるのだと。

 

青い空は雄弁に告げる。

我等が一度忘れたことを。

 

放送室の少女は泣いた。

忘却を止められずに泣いた。

 

不明な記録は理解を拒んだ。

理解したとて忘れるだろう。

 

最後の部門は冷たく告げた。

記憶は頼るに値しないと。

 

記録官は明日を信じた。

けれど昨日も思い出せない。

 

財団は長く頼りにしていた。

異常な全てを忘れる術を。

 
 

彼等は我らに伝えてくれた。

 
 

全ては薄れ、消え去っていく

 
 

忘れないことを誓うのならば。

 

それは無知で自分勝手な──

──傲慢、でしかない。


 

それでも、

 
 

終わる世界で誰かが叫ぶ。

「忘れられて、たまるものか」と。

 

さきがけハービンジャーは受け継ぎ飛び立つ。

さいごを忘れさせないように。

 

青い空を見上げて返す。

忘れきっているわけではないと。

 

酩酊の民はただ愛をこめて。

忘れ、行き着けば、受け入れるだろう。

 

ピエトロ・ウィルソンはただ記録する。

確かなことを覚えていなくても。

 

反ミーム部門はそれでも在った。

忘れられても負けずにあれた。

 
ガラスペンはインクを遺す。

忘れられると知るからこそ。

 

僕等はずっと歩み続ける。

世界の全てを描き続ける。

 
 

彼等もいつかは忘れ去られる。
 

それでも確かに力をくれた。

 

だから。

 
 

今ここでこの詩を捧ぐ。

忘れないなど出来やしない。

 

忘れないなど僕等が誓えば、

 

自分勝手な傲慢だ。

 

けれど愛したい傲慢だ。

 

忘れられたい人もいる。

 

忘れた方がいいこともある

 

忘れないなんて綺麗事だ。

 

だけど僕等は忘れたくない。

 

それでいいと胸を張れ。

 

去り行く全ての人達と、

 

既に僕等が忘れた人達

 

そんな全てを「忘れない」と、

 

根拠などなくそう誓いたい、

 

そんな思いを抱えた全ての、

 

忘れゆく人に捧ぐ詩。

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