俺の名は
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また、あの夢を見ていた。あの日の夢、俺が死んだ日の夢。
「エージェント大文字…最後にもう一度だけ説明する。君の体は長く持たない。取り付けられた人工四肢、臓器共に拒絶反応を起こしている。そもそも君が生きていることだけで奇跡だったんだ、この状態で戦闘なんて…。」
思い出に浸るのを邪魔されたくなくて、指揮官が言い終わるのを待たず俺はつぶやいた。
「どっちにしても。…俺は死ぬんだ。」
「あぁ…。お前のその体は設計通りに作った、だが失敗だ。」
「失敗じゃない。」
「…。」
「アイツの設計に失敗なんかなかった。」
悪天候の中、財団所有のV-22が東へ向かう。目標は補足していた。あの艦だ、もうすぐ全てを終わらせれる。
俺の名前は大文字、財団のエージェントだった…今は…。


「ふははははははは!大文字くん!君はこのドクター本条の手によって改造され財団人間となったのだ!」
目が覚めるとそこには両手を掲げ高笑いしている戦友の姿があった。
コイツは本条、俺たちの部隊の野戦医師、人体改造のために医学博士を取ったマッドドクターだ。
「…そうか、もうひと月経ったか。満月の晩は人を狂わせるというが、お前にはまだ伸びしろがあるんだな。」
「大文字くん、ちょっとこれを見てくれたまえよ。新しく考えた改造人間のスケッチなんだけど!」
こんなやつだがウマが合った、二人共特撮…特に昭和の特撮が好きだった、いつまでもガキな二人が職場にいれば自然と話は弾む。
SCPに対抗するためにSCPを使うのは不安定、だから人間を強化するんだ!やつの持論だったがまあ自分の行動を正当化しただけだろう。
乱雑に書きなぐられたスケッチと、反比例するように几帳面なスペックを読み込む。
「またえげつない武装だな…今度の名前はなんだ?」
「うーんと…ストームコーラー パニッシュメントでどう?」
長髪の奥から覗くメガネが不敵に輝く。
「くどい。」
「じゃあ君が名前をつけてくれたまえよ!もっといい名前があるんだろうね!!」
「え…あー…うーんと…。」
「まあすぐにとは言わないよ、君の名前だゆっくり決めたまえ。」
「はぁ!?俺は改造人間にはなれないぞ!」
「私の改造人間計画は君がいないと始まらないんだ!君が一号になるんだぞ!君のために作ったようなものだ!なんでだね!?」
「…悲しみがないから…だな。」
「…じゃあしょうがないか。」

馬鹿同士の他愛もない会話だ、でも馬鹿話はこれが最後になっちまった。

俺たちは米国財団へ一種の研修に行くはずだった。交流のための合同訓練、その程度の気楽な任務のつもりでいた。公海上にある財団所有の島の上で落ち合うことになっていた。
先んじて島に着いた俺たちは訓練前の小休止をとっていた時だった。月夜に蠢く航空機の影、米国の部隊が来たのだと思っていた。
航空機の腹が開き数十の小さな羽虫が生まれたように見えた、どことなく不気味で、その不安は当たっていた。
強化外骨格…あれは実践レベルのものだった…鉄の肉体を得たカオスインサージェンシーの強襲だった。
蹂躙としか言い様がなかった、俺の戦友たちの肉が飛び散り視界は歪み、皮膚が焼ける匂いが立ち込めた。
俺が生き残った理由はわからない、四肢がちぎれ飛び全身に火傷を負った俺は死んだものと思ったのかもしれない。あるいは暗かっただけかもしれない。なんにせよ俺は運が良かったのだろう。

俺は財団に回収された、おそらく人道的側面より情報を得るべく俺は延命された。俺には解雇される「権利」があると言われた。体中に管がつながれ人口声帯の合成音声を振り絞った。

「解雇はいらない…俺を財団の役にたててくれ。本条の遺産を俺に使え。」
「…いいのか、お前はモルモットを志願してるんだぞ。財団に対する忠誠を考えればDクラスよりはるかに信頼できる被験者だが…。」
「あぁ…だが二つ条件がある。」

承諾は意外なほどに早かった、優秀な医師であった本条の計画に実験体が欲しかったのだろうか。
ともかく俺は…あいつが言うところの財団人間になった。悲しみと共に。


意趣返しだ。今度は俺が貴様らを踏み砕く。奴らの海賊船目がけてV-22が空を切り裂く。へっ、あいつら気づいてやがったか、完全武装だ。
「大文字…財団はお前の感傷に付き合わない、あくまでお前は実験の失敗作として扱われ、最後の仕事としてこの任務を課した。だからお前の体は生死にかかわらず作戦終了と共に跡形もなく自爆する…お前の望み通りに。そして、かつてお前らの上官だった者としていうことがある…頼んだぞ。」
「あばよ…おやっさん。」
奴らの真上を飛びすぎんとする時に、俺はもう一度生まれた。

輸送機の胎から飛び出た俺の最初の仕事は糞を踏みにじることだった。両足のショックアブソーバーのおかげで激痛以外に障害もなく戦場に着地させてくれた。二本の着地痕に寄り添ういくつもの死体ももうひとつの理由かもしれない。
人間のクズどもが何かをわめきたてながら俺に鉛の雨をふらせた。ハニカム構造の皮膚が衝撃を打ち消し、強化繊維の人工筋肉と…あいつの名前が付いた合金の甲殻が弾丸を弾き返す。
手近な奴の顔面に大振りのパンチを当てる。奴らのが外骨格は鈍い、タフさには自信があるのか、それとも借り物の鎧だからか。
インパクトの瞬間肩に残った筋肉でスイッチを入れる。腕の内部で電流が流れ超伝導磁石の反発で重りが動く。「超電磁パイルバンカー」だってさ、もっと考えて名前つけろよ。
噴水のような血しぶきはもはや嵐に変わった雨に流された。仲間の凄惨な光景を前にしても、殺戮と破壊の衝動に突き動かされたカオスインサージェンシーの「戦闘員」は大文字を襲った。
雲霞の如く襲い来る敵を避けるため俺は跳んだ、太ももに仕込まれた油圧ポンプと板バネの連動で矢のように空へ駆け上った。
反転。
背面のブースターで姿勢を制御し、強烈な蹴りを叩き込む。タングステンのカカトで敵の頭骨はヘルメットごと破裂した。反動で跳ね上がった体を操り次の目標にケリを入れる。「驟雨キック」今度は凝りすぎだ。
敵方の機銃が俺を狙っている、複眼となった俺の目は弾道を予測しを避けるは当たらない。光の波をくぐり抜けブースターをフルスロットルにする。連動して右足が高速回転を始める。
生きたライフル弾となった俺は敵もろとも機銃を掘削した。
最高だ、オマエは最高だよ本条。今度会ったら抱きしめてやるぜ。

見れば奥にここの…ボスって感じの奴がいる。強化外骨格にはさらなる改修がなされ、結晶化した装甲が増している。そして肩にはうめき声をあげる生きた人間を砲身としたキャノン。何らかのSCPに関係があるのか…まあいい。
バズーカを背負った亀を思わせた。あいつの名前は決まりだ。
亀怪人は怒りに満ちた声で吠えた。
「糞が!てめぇ一体なんなんだ!」

俺の名前…ついに名前は思いつかなかった。
本条…瑠璃子…やっぱお前の案を借りるわ。
瑠璃子の下手くそなスケッチの通りに、大仰に構える。

「俺は…嵐を呼ぶ男!俺の名は…!」

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