それでも無情に花は咲く
満開の桜の下、僕等は手を繋ぎベンチに座っていた。
綺麗な黒髪を揺らして、彼女はこちらを向く。
「ねえ、覚えてる?私たちが初めて会ったのもこの公園なの」
彼女の淡い唇を見ながら、僕は答える。
「忘れるわけないでしょ、僕から声をかけたんだから」
彼女の細く、でも艶のある手を握り直す。
「あの時はびっくりしたよ、急に話しかけてきたからナンパかと思ったら、すっごいどもりながら『お茶でもどうですか』なんて言うんだもん」
「し、仕方ないだろ!?可愛かったからつい声かけたけど、それまで女の人となんて話したことなかったし……」
恥ずかしくて目を逸らす。彼女は落ち着く声色で、揶揄ったことを詫びる。
「あの時は、君と結婚するなんて思わなかったなぁ」
僕の左手薬指、輝く指輪を爪で弄りながら彼女はそんなことを零す。
「人生、何があるかわからないってことだよ」
「ふふ、そうだね」
僕の言葉に彼女は笑いながら、彼女の左手で自分の膨らんだ腹を撫でる。
「子供まで出来ちゃうんだもんね」
僕はそのお腹を見て、少し、ほんの少しだけ感極まって、上を向く。
「あれ?泣いてる?」
「うっさい、桜見てるだけだよ」
左手で目を擦って、彼女に向き直る。柔らかく、しかし確かな鋭さのある眼で彼女はこちらを見つめる。
「それで、さ。この子の名前、どうしようか」
「女の子だっけ?そうだね、決めてあげないと。そうだな……」
僕は上を、そこに咲き誇る満開の桜を見ながら、彼女に名前を告げた。
彼女は安直だなぁ、なんて文句を言いながらも、頷いてくれた。
そんな僕らを、辺りに咲く満開の桜と
ページリビジョン: 4, 最終更新: 10 Jan 2021 18:23