首を窄めてまどろんでいた鳥がふと目を覚ました。
そっと立ち上がり、今まで抱いていた卵が内側から崩されていくのを見守る。
やがて、世界に七羽の雛が生まれた。
小さな嘴を限界まで開いて世話を強請る子らに母鳥は親としての喜びを知った。
我先にと奪い合う子らの為に、多くの餌が必要だった。
だが七度目の夜、親鳥は帰ってこなかった。
一番目の雛は最も大人びていた。
彼は巣から飛び立ち、戻らなかった。
その産毛は空を飛ぶにはまだ幼すぎた。
二番目の雛は最も長く鳴いていた。
喉が張り裂けんばかりに母を呼んでいたが、夜の内に嘴を閉ざした。
その声は最後まで兄弟以外に届く事はなかった。
三番目の雛は最も優しかった。
兄弟達に餌を探しに行くと言って巣を降りようとした。
その脚は体を支えるのには脆弱すぎた。
四番目の雛は最も小さかった。
力を温存するために眠り、そのまま目を覚ます事はなかった。
その体は卵の中にいた頃のように丸められていた。
五番目の雛は最も勇敢だった。
這い寄る図書館の蛇に飛び掛り、共に巣から落ちていった。
その爪は己の体を掴む手に届かなかった。
六番目の雛は最も賢かった。
彼は巣を降りる事に成功したが、猿の足の下敷きになった。
その頭は愚かな大動物には自分が見えていないと気づいていなかった。
七番目の雛は最も運が良かった。
他の兄弟の後を追おうとしていた時、巣に餌が落ちてきた。
その目が閉じきる前に彼は餌を喉の奥に詰め込んだ。
それから七ヵ月。雛は母に似た姿になっていた。
あの日以来、生きる為の糧が充分に得られるようになった。
実りの季節に感謝して巣の縁に立つ。
遥か彼方に猿の群れが見えた。
帰らぬ母の分まで、亡くなった兄弟の分まで生きなければならない。
抜け落ちた産毛の代わりに生えた羽根を大きく広げる。
日毎記憶を反芻しては真似た親鳥のように強く巣を蹴り飛び出した。
雛は緋色の翼を羽ばたかせ、夕焼けよりも赤い空を飛んでいった。