まず名前と年齢、所属を言ってください。
わ、私の名前は徐ソ ・慄ユル。17歳で、[編集済み]高校に通っています。
被害者達との関係はどうなんですか。
私はあの子達からいじめられていました。
先週の夜8時から9時までどこにいましたか。
私は…
十字架にめりこんだイエスを思う。
掃除箱の中の暗い空間で私は自分だけの十字架をそこに立てる。
イエスが十字架に手足に釘を刺されて苦しみながら死んでいったなら、私は心臓に釘をさらに刺す。その一方で、苦痛を受けながら死ぬこともできず、おぼろげに深淵の中に染み込んでいく。
彼の犠牲によってキリスト教が誕生したが、私は自分の犠牲が何も変えることができないことを知りながら、犠牲を考える人生の中にある。
私をここに押し込めることで、あの子達はこの小さな社会の腐敗した頂点にいる。大人っぽくなろうと行動するが、あまりにも子供じみている。それなのに、振り回されている自分が憎い。
そう思いながら裏山の展望台まで登った。
素晴らしい景色を前にして落ちていくというロマンがあるからだろうか。ここは昔から自殺の名所だった。しかし、最近、誰かが自殺したという声が聞こえなかった。もしかしたらもう私の番だということを知らせてくれる天の声かも。
欄干に寄りかかって下を見下ろす。深い。寒い。下から吹いてくる強い風で自然に目が閉じる。先の見えない深い絶壁は、まるで手を伸ばせば誰かが握ってくれるかのようだ。そんなことを考えると、急に恐怖を感じながらも、すべてを手放したくなり、自然に手を伸ばしてみる。
手を暗闇の中で振るほどの恐怖感と飛び降りるという衝動が頭の中で争う。それでも手は吸い込まれるように闇の中へ伸びていく。その後、手が膝を越した瞬間、足も一緒に持ち上げた。まだ心を決めてないんだけど…
どっちだったかな?それはよく分からない。しかし、本能的な恐怖というものは確かにある。
生きたい。
ちょっと何かが私の胸をかすめて通り過ぎる。どんな藁をも掴もうとしたのだろうか。
どすん。
背後に土が感じられる。頭がぼうっとして気がつく。思ったより高くなかったのか。では、ここで自殺した無数の人々はどうしたのだろうか。雪の中に星や月が入ってくる。一日くらいはこんな光景を見ながら過ごしてもいいんじゃないかと思う。
ああ、この下では空がこんなに近かったのか。
いたずらにそんなことを考えて、ぐっと低く見える絶壁を見返した。上から見たのとは違って、学校の朝礼台程度の高さだ。何か変だったが、後で考えることにした。そのような状況ではない。
どこからかカラスの声が聞こえた。
何のことか気付くのに1週間、慣れるまでにはもう少し時間がかかった。
夜になると、密かに空き地へ行って距離を調節するそれなりのトレーニングをした。そして、その度に新たに明らかになった事実があれば整理を続ける。
一つ、私は一つの地点と他の地点との距離を無視できる。感覚で言えば、反対側に設定した空間が私の目の前の数センチメートル先に迫ってくる感じだ。空間を1つの線とするなら、間の空間を下に置き、始点と到着点を連結する。
二つ、他の地点の物体に影響を与える場合、空間が元に戻り、他の地点の空間に移動する。これは何も触っていない状態でも、自分の意思で行うことができる。これは一種の核心だが、この歪んだ空間の隙間を歩いているということだ。ありていに言えば、縮地法というか。
三つ、他の地点をある物体の中間部分に設定することができる。だから壁の中を支点として設定できるということだ。その場所に行くことはできないので何の役に立つのかと思うが、とにかくこういう場合もあると考えなければならない。ちなみに、この状態で反対側に行って開けたらどうなるか、空き缶で試してみたんだけど···。うーん、本当にきれいに真っ二つになった。
ざっとこの特性を知り、これに慣れた。実はこれ以上知りたくない。何の障害もなく、他のところに移動することだけでも私にとって最高のメリットだったからだ。
あの子達がこんなことに気付くのにどれくらいかかるだろう。私を休み時間に見つけて追い詰めたり、踏んだり、清掃用具室に閉じ込めてしまうのがあの子たちの日常だったからだ。しかし、わかっても私は今すぐにでもこれで逃げ出すことができるので、それが一番嬉しい。
休み時間ごとに屋上に上がって横になっていた。あの子達が見つけることのできない唯一の場所だった。あの子達が来る前に逃げる途中、角を曲がった空間だけ何度か折ってあげればよかった。そのようにして屋上で10分だけ横になってから帰ってきた。空はその時の夜空のように、いつも平和だ。たまに空に飛んでいくカラスの群れを鐘が鳴るまでぼんやりと眺める時もあった。
塾は夜8時に終わる。
単に夜の補習授業をしたくないわけではない。一人で何かをするよりは、他の人の話が聞きたいからだ。
家に帰る道では能力を使わなかった。使いすぎると、いやが応でもいつの間にか注目を浴びるようになってしまう。そうなると、またあれやこれやと面倒になる。
塾から家までは10分ほど、住宅街の迷路のような道で迷った最初は15分ほどかかった。今は何度も一人で通った道なので、そこまでかからない。
三つ目の角を曲がる。家に帰っても待っている人はいないが、それもずいぶん前のことなので、最近は電気カーペット一つで十分だった。
そのような考えで緊張が緩んだのだろうか。
角を曲がった時、首から何か感触が感じられた。何かに気付かないうちに首を掴まれて後ろに引き摺られると、それはあの3人であり、ニヤニヤしながら私を見ていた。私は連中が子供だということを忘れていた。貰えなければ駄々をこねてでも貰ってしまうような子供。
袋小路で足蹴りや拳での殴打が激しくなる。
一カ所叩かれたら、痛みを感じる前に他のところを殴られる。それゆえに正しい瞬間には苦痛が感じられないが、すべてを奪われて残された時、孤独とともに押し寄せる苦痛、それが一番恐ろしい。
しかし、それだけで終わらせるつもりはないらしい。
あの子達の一人が私の財布をポケットに入れた。私はあの子達が行くまで横になっていたが、目に映る影は去らなかった。何か不吉な感じがすると同時に、少しずつひそひそという声が聞こえる。
あの子達は呆れたことに今までの償いを望んでいたのだ。
1人が私の脇の下に腕を突っ込み、肩を縛って立ち上がった。反抗する力も、意思もない。そのような状況で虚無感が私を飲み込んでしまった。逃げることができたが、それでもいつかはもっと悪辣でより大きな報復を受けるだろうという予感があったのかも知れない。
みぞおちに拳が入ってきた。一度息が切れてから飛び出す。周囲のくすくす笑う声が聞こえる。
視界がぼやけてカラスの鳴き声が聞こえてくる。ああ、これで私は終わりなんだ。
今は悲鳴の代わりに声帯を鳴らす音がする。私を拘束する子が交代して、別の子が私を殴ろうとした。
もう、死ぬのかな。
しかし、その日以来悟ったように、本能の恐怖には強い何かがある。
死んでもただ殴られて死ぬのはいやだ。
私は拳をかわしながら、後ろにいる子を思いっきり突き飛ばした。3人は死にかけていたこいつに急に何の力が出たのかと驚いた様子だった。きっと、私が死にかけの人間だから力が出るということを知らないのだろう。
このままでは間もなく壁にぶつかるだろうことは知っている。しかし、この子が手を離してくれて初めてこの状況を解決できるような気がした。
ずっと背中で押して突進していたところ、急に脇の縛り付けがゆるんできた。その時を逃さず抜け出したが、みぞおちを打たれた衝撃のせいか、すぐにひっくり返った。
倒れたことで朦朧としていた私は、足蹴りを予測する。反抗した餌がまたひざまずいた場合、捕食者が抵抗する獲物に何をするかは明らかである。
しかし、そうではなかった。頭を上げてみると、ほかの2人は表情が真っ青になり、悲鳴を飲み込まなければならないほどパニックになっていた。
2人が後ずさりし、私がうつらうつらとしている間にドスンと音がした。注意深く振り返る。
手だ。
頭をもう少し上の方へ上げた。壁が血を流す。壁が血を…壁が、血??
しまった。
あいつを壁の中に入れてしまった。
私は2人を見た。その子らは逃げようとしていたが、私は防がなければならない。その後、私はどうするのかわからなかった。私は2人と同じようにショックを受けていたが、このまま逃がしても何も良いことはないと確信していた。
問題はそのせいで、掴もうと能力を使った時に背中の代わりに内臓が露出していることに気付かなかったことだ。
そして、私はここにいる。
2人は制服の背中から、私は制服の袖から血を流して寝ていた。違う点があるとすれば、私の手にはその穴から出た内臓があるということくらいだろう。
どうしようか。
本当に分からない。
ただずっと殴られていたとしても結果は同じだったかもしれない。私は死んでここで淋しく横になっているんだろう。
カラスの鳴き声がひときわ大きく聞こえる。はい、私が殺しました。さあ、捕まえてください。
その時、私の目にカラスが入ってきた。カラスは穴が空くほど私を見た。一通り違和感があったが、そのまま流してしまった。
カラスが人間になったのはその時だった。青白い顔と緑の目をした女だった。「誰?」と聞く前に、女は私の両手の内臓を取って、手を包み、血をふいてくれた。すると呆然としていた目の中から、何かが引き揚げてくるような気がした。
結局、私はその場で泣いてしまった。
そんなところもあるんですね。そして、あなたはそこからいらっしゃったんですか…。
いつもは色んな場所に行っているんだけどね。
私が入ってもいいんですか? あの子達を……殺したじゃないですか。
もちろん大丈夫。君が元々そんな子ではないことは分かってるから。長い間見てきたから。
そうかもしれません。しかし、私は人を殺したでしょう。殺人罪を背負って行くのは嫌です。私がそこに入ったからといってそれが消えるわけないじゃないですか。私はそんなふうには生きられません。私はあなたが知った通りのことをした、そんな人間だから。
大丈夫だって。
一体何がだっていうの!私は犯罪者になったんだけど!
私達は、そうではないようにすることができる。
この子か?
うん、見た目より強い子って言ったよね?
そうだな。ただの間抜けなガキだと思ったから。
それがこの子の前で言うことかい?
黙らないと、私帰るぞ。
あなたが黙って……あ、ごめんごめん。これが私達のやり方だから。頼り甲斐はないけど、君の問題を解決してくれる一番確実な人だよ。
乗り気じゃないけど、私が前に出るのが最善だしな。一週間くらい辛いだろうが。謝罪はちょっと延ばしてその時にはっきりさせる。どうだ? そんな間抜けなツラで見るな。この程度なら私達と一緒にしても構わないよな?
え?あ、はい。いいですよ。
OK、じゃあ少しだけ待て。
ちょっと待ってください。何をするつもりですか。
お前に警察の取調べがあるかもしれないから、嘘をつくよりも忘れた方がいいんじゃないか。
え?
一週間後に会おう。
お疲れ様でした。今日はもうお帰りになられてもいいですよ。
あ、はい、ありがとうございます。
今まで辛かったでしょうに、大変な思いをさせてすみません。
いいえ、だって殺人事件ですよね。
もしご心配でしたら、家までお送りしましょうか。
あ、いいえ。大丈夫です。
確かに、余計な噂は作らない方がいいでしょう。
それ以来、警察に何度か呼ばれた。アリバイ証明は難しいというが、こんなに難しいとは思わなかった。
3人の遺体はここから遠く離れた川の下流で発見された。2人は背中にできた穴から大量出血で、もう1人は腕を切られたが窒息死だった。死亡推定時間は8時から9時。3人の以前の行動はいくら調べても明らかにならなかった。
その時間帯がよりにもよって私の塾が終わる時間帯が重なったのだ。なのでその日のアリバイを証明しにくかった私は、あの子達の被害者だった私は犯人としての動機も十分だろうから、狂ったように呼び出された。幸い、家の近所の人が、相変わらず無表情で通りかかる私を見たと伝えてくれ、警察は私を無罪とした。
そうして事件が起きてから1週間で通常の生活に戻ることができた。幸い、一週間は残っていた余計な噂は私が警察から釈放されてから急に消えたため、今日は大変良い一日を送ることができた。
塾が終わり、自分の部屋の床に大の字に伸びた。とても大変だ。今日は静かだったが、明日またどんな噂が聞こえるか分からないと思うとでまた落ち着かない。一つの問題がいつの間にか解決されたが、私は依然として闇の中に沈んでいく。
一週間後に会おう。
一週間前から暗闇で横になるたびに耳に響く彼女の声。今日で一週間目だが結局誰も来ない。やはり、出来過ぎた話だったんだろうか。体を丸めて目を閉じ、意識を下げる。明日、私はどうやって死のうか。
ささやく声に目がさめた。
大した話ではない。平凡な騒音に聞こえるほどだ。けれども、その声は私の眼を開かせた。
あの人の声だ。
慎重に起き上がり、玄関のドアからよろめきながら歩いていった。思ったより長く寝たのか、部屋の中は一寸先も見えない。それでも歩いて行く。門の前に何か光がありそうだった。私の足首に巻かれた罠を吹き飛ばすような光が。
そっと戸を開けた。廊下の窓に寄りかかっていただれかが待っていたかのように立ち上がった。街灯の逆光で顔がよく見えなかった。肩の上にいる黒い鳥が見えた。
「私が起こしたんじゃなきゃいいけど」
街灯がまぶしすぎて目をこすった。手を離した瞬間、彼女の目から赤い光が見えた。
あ。
突然記憶の堤防が切れて脳内に流れてくる。
苦痛、恐怖、反抗、流血、死、助け、親切。慇懃な喜びとちょっとした戸惑い。
そして。
「以前の行動はいくら調べても明らかにならなかった」
「家の近所の人が、相変わらず無表情で通りかかる私を見たと伝えてくれ」
「余計な噂は私が警察から釈放されてから急に消えた」
なんてことだろう。
驚いて体のバランスが一瞬崩れた。いつのまにか人間になったカラスの女が私の腕を握ってくれた。女は笑った。あの時のように茶目っ気混じりの笑いだった。
私は彼らの抱擁を受けた。もしかすると、泣いたかも知れない。