「ふむ、奇妙な本が届く、と」
「ええ。しかも特定の日に、いつの間にか届いているって話です」
「編集長は現物を確認されたんですか?」
「ええ、確かに奇妙でした。先生の自作自演を疑うほど」
#ありがとう──
編集長が机に出した写真には、本が映っていた。表紙の絵などから見る限り、かつて連載されていた人気漫画の単行本のようだった。最終回が掲載された雑誌は飛ぶように売れ、Twitterのトレンドはその話題で持ちきりだったのを彼は覚えている。
「中身も読んだんですが、絵柄もストーリーも先生が考えて書いたような内容でして、ただ本人は違うって言ってるんです。」
「送ってくる人物に心当たりもない、と」
「先日、その来るだろうという日に家の前で張り込んだことがあったんです。ただ誰も現れず、朝ポストを確認するとその本が入っていたんですよ」
「流石にこうなると警察よりも財団そちらに任せたほうが良いな、という私の判断で今日は来ました」
「わかりました。これはこちらで調べることにします」
#先生の次回作に期待
数日後。分析のために輸送したサイトから届いたメールには「異常性なし」の文字。男は低く唸ると、類似した案件がないかデータベースを探し始めた。ただ男よりも早く、サイトからもう一通のメールが届いた。
「突然死した漫画家の幻の……?」
ある漫画家の部屋から、物語の続きが本として発見された、という記事だった。いったい何の意図でこのメールが送られてきたのか、と考えて、その本のタイトルがキーであることに気づいた。編集長から受け取った本は、確かに絵柄もストーリーも作品とそっくりであった。ただそのタイトルだけは改変されていて、そこが引っかかる点だった。
#終わらない英雄譚
ああ、そうか。少し考えて、一つの考えにたどり着く。
二件に共通したのは、物語が終わったという点だ。作者が意図しているかいないかは関係なく。左下に加えられた「物語はまだまだ続いていく」という一言で、登場人物たちの今後が全て纏められる。だからこれは、物語の中からの反逆だ。彼らが「もう満足だ」となるまで、この物語は続いていく。
「あの終わり方だから良かったんだけどな」
ただ立場を自分に置き換えれば、その感情はわからなくもない。所詮「奇麗に終わった」と考えるのは私たちの勝手な考えだからだ。まあ、打ち切られたとしても悔いの残らないような人生はそう難しいよな。
そんなことを考えながら、未だ手を付けていなかった月締めの報告書を書き始めた。