Next Newcomer!
rating: +20+x
blank.png

太田氏、今回の消照闇子も非常に良かった。特に何が良かったと言えば、やはりあの教室から田中先生と共に飛び立つシーンだな。これまでの鬱々としたイメージがあのシーンで闇子嬢の内面を打ち破るカタルシスに繋がったのは、作家としての構成の妙を感じさせられる。"闇子 on Animation 3rd"の散々たる出来もあったことで、前々巻からの不穏な気配に思わず世界を滅ぼし永久の凍土で包もうかとも思ったが、麻中央先生を信じた甲斐があるというもの。これがもしかの御大の作品であれば…、いや、御大の作品は人が生き抜いたうえでの輝きというものであって、単純な鬱作品などという評価は本来値しないのだよ。表面しか見えない愚かな人間共はそのようなレッテルを張り、御大の作品であればやれ鬱展開だメンタルブレイクだのと騒ぐが、吾輩からしてみれば一笑の下に付すべきで…。

ああ、すまない、少し熱が入りすぎてしまった。とどのつまり、やはり闇子嬢は素晴らしいということであって、もう、なんというか、ヤバくて、こう…。

すまない、しばらく待たせた。だがな、太田氏、最近吾輩ちょっと寂しく思うことがあってだな。いや何、闇子嬢の展開は喜ばしい。今度はチャンネルまで開くというではないか、もちろん魂とガワという都合はあれど…。待て待て、また話し込むところであった。違うのだ、何を思っているかというと、今まで展開してきた闇子嬢の作品群だがな? 吾輩全作品を網羅しているが故の…、その、公式への文句とかそういうのではなくてだな? ただ、一消費者の意見として聞いてもらえたら嬉しいのだが…。

闇子嬢は何故1人なのだろうな?

いや、もちろんこれまでも多くのキャラクターに助けられ時には共闘もした。しかし、最終的に闇子嬢の傍に立つ仲間はおらずいわばゲストキャラに過ぎぬ。…ああ、言いたいことは分かる。それらのキャラは基本的に実在の人間をモチーフにしていると聞く、故にその者の肖像権等々が関わってくるのであろう? それは分かるが…、しかし、ならばなぜオリジナルのキャラを持ち込まぬのだと考えてしまってな。
例えば友人であるとか同胞であるとか…。そういったものの介入が必要ない、そうだな、"消照闇子、暁の戦線 ~終わらぬカタストロフ~"のような軍事STGであればともかく…、あれはグラがよかったな、近年の3Dモデルにはないドットの味わいと戦略性の高さ、種類が非常に楽しめた。苦行と名高いおまけCG集めも吾輩にとっては…。すまぬ、また話が逸れた。ともかく、そういう作品でないのに闇子嬢は結果として孤独であるという設定が多い。もちろんそれが彼女の魅力である。だが関係性とは1つの性格を十にも二十にも変えて見せる。すばらしきカレイドスコープなのだよ。と、そういう話であってな。

要するに…、公式にこの意見を届けてはくれまいか? ということなのだ、太田氏。


「と、いうことなんです」
「そうか、俺は聞かなかったことにしたいんだがいいか?」
「よくないですよ」

とある"お願い"によって設けられた会議の場。"キャラクターが1人なのは寂しいからお友達作ってほしい"という小学生女児のようなコメントに渋面を作る異常確保のプロフェッショナル集団。しかし会議の場は真剣そのもので、故にほぼ全員が軽く頭痛を覚えている。

SCP-835-JP、通称消照闇子。財団職員を襲う怪現象"だった"ものにして今では陳腐なキャラクター。しかしそれに好意、より正しく言えばオタク的ファン気質を持つ悪魔の王、SCP-835-JP-J。かつて一つのサイトを壊滅せしめたその"お願い"は、もはや"恫喝"に等しい。それらが踊る会議の中心にあった。

誰も口を開けない空気を察してか、義足の男、屋敷信正がひどく嫌そうに口火を切った。

「つまり、SCP-835-JPに? 友達を作らないと? SCP-835-JP-Jが文句垂れてキレる可能性があると?」
「そういうことになります」
「収容違反の可能性があるというのであれば、…無視できない案件ではありますね」

屋敷の後を引き継いだエージェント・マオは資料をめくり眉を下げる。プロトコル・アイドルにおいて消照闇子をキャラクターへ貶めるための創作チームにとっても、このお願いは耳の痛い話だった。自分たちの創作が収容に寄与しているという自信がそれを強めている。しばらく資料をめくり、マオは会議の中心にいる男へ視線を向けた。

小鈴谷収容スペシャリスト。プロトコル・アイドルに架空の人物を使用しない、という点について、修正は可能だと考えますかね?」
「プロトコル考案者の屋敷博士と協議しましたが、それはやはり」

特別収容プロトコル立案及び施行のプロ、収容スペシャリストである小鈴谷は一瞬目を細め。

「危険であろうという結論に達しています」

当然の結果を答えた。屋敷が苛立ったようにプロジェクターを操作し、プロトコルの説明を行う。

「それだけ言うのにもったいぶらないでください、アンタに任せてたら話が長くなるから俺が引き取りますよ、手元の資料と画面を見てくれ」

アニメのスクリーンショットと思わしき一場面。黒いセーラー服の少女が包丁を片手に跳躍している。その画面を見ることなく屋敷は滔々と説明を行っていく。

「プロトコル・アイドルってのは基本的に835-JPへ陳腐なキャラクターを与えることによるものだということはご存じの通り。これは"設定"と呼んでも問題ない。この"設定"は現在容姿や過去程度に留まっている。理由は簡単だな、新しい"設定"を付け加えれば、それが異常性になる可能性があるからだ」
「だからこそ…、835-JPの情報は自由でありつつ徹底的に統制され、必要以上の設定が発生しないようにする。これも」

小鈴谷が薄く笑いながら。

「プロトコル・アイドルの一環なのです」

屋敷はそれを半ば無視し、次のスライドへ繋げる。そこには漫画調となった闇子と巫女服に白衣の女性職員、全身黒づくめのエージェントが見て取れる。それらが誰であるかは知っている人間が見れば一目瞭然。スライドを指しながら屋敷が解説を加えていく。

「これまで、835-JP関連の著作物に出てくるキャラクターが既存の職員をモチーフにし、さらに過度の干渉を避けているのもこれによる。少なくとも存在を俺たちの認識以外に担保されている連中なら、835-JPの干渉する余地は少なくなるからな。だからこそ先年のライブ騒ぎは大問題になりかけたわけだが…。まあ、それは置いておこう。そんなわけで敵や一話限りのゲストキャラとしてならばともかく、架空のキャラクターとの関係性を持たせた場合、その架空のキャラクターが存在するという設定になる可能性があり、それによって起こる事象への予想がつかん」
「つまり、架空のキャラクターを参入させてしまうのは現在の収容プロトコル的に許容できない不確定要素なのです。少なくとも収容スペシャリストからの意見としては、架空のキャラクター関係を加えてしまうのは避けた方がいいと」
「実在の職員を使うにしても、関係性の構築には不安が残りますしね。去年の変質も物語の付与によるものですし。まあ、そこまでの強制性があるかどうかも不明とはいえ、避けるに越したことはないか」

屋敷と小鈴谷の説明にマオははあ、とため息を吐く。

「そこらへんは創作チームもかなり気を使ってるんですけどね。それで面白いもの作ってるんだからこの要望はなあ。太田君、何とか言い聞かせられないの?」
「出来ないことはないと思いますけど…、安定した収容にはならないんじゃないかと思います。彼、かなりヒステリックな時ありますし」

確かに、とマオは頷いた。835-JP-Jは普段こそ泰然と構えているが、割と直情的であり、癇癪持ちである。一番近くで語り合った太田がそう評すのであればその方法は危うい。

「現在のプロトコル835-JP-J-FANも暫定的なものではありますが、危険度は格段に上がるでしょうね。無視できれば良いのですが、835-JP-Jは危険な存在です。無理やり押し込め、どこかで爆発した場合、その被害は…」
「想像したくはないなあ。かといって職員を巻き込みすぎるわけにもいかないし、架空のキャラクターはまた危険か。やっぱり方向性を逸らすしかないですかね」
「だけどそれはそれで…」

全員がうなり声をあげる。降って湧いたまさしく"厄介ごと"。しかし、それを放置することは巨大な爆弾を放置するようなものだ。喧々諤々、おおよそ一時間も話しただろうか、結論は出ずの堂々巡り。それも議題がどうやってオタク趣味の方向性を逸らすかというものであれば猶更だろう。マオが降参というように両手をあげ、同じく疲労の色濃い顔の屋敷へ水を向ける。

「屋敷博士、どうにかなりません? プロトコル・アイデアの立役者として」
「どうにかと言われてもどうにかできるか。どっちかを取ればどっちかが危うくなる、質の悪い天秤だ。最初の結論に戻るがどうにか835-JP-Jに諦めてもらう手段を考える方が有意義だな」
「やはりそうなりますか。こっちの創作チームでもどうにかその方向で満足させることができないか考えてみます」
「一番重要なのは僕ですよね…」

肩を落とす太田に屋敷が意地の悪い笑みを向け、肩を叩く。

「どうしても嫌ならお前が835-JPの影響を受けても問題なく、そのうえ俺たちで制御できる架空の存在かつ、それを研究者が許す存在とかいう、十徳ナイフみたいな都合のいいものを探して来いって話だ。それがあるにこしたことはないがそんなもんがあるわけが」

屋敷の声を遮るように一本の手が上がった。小鈴谷が屋敷を止め、その主を指名する。グレーのスーツを着た男は集まる視線を気にもしないように口を開く。

「初めまして、先週服毒死した兄の引継ぎで参りました。神山長平蔵です。その十徳ナイフですが……」

会議は止まる。水を打ったかのごとく静まり返る。

「仮定段階ですが一つ、心当たりがあります」

スライドでは闇子が下手糞なウインクを見せていた。


太田氏、太田氏、今回の消照闇子を読んだか!? 読んだのだな!? ちょっと待ってくれ、助けてくれ太田氏。この感情を表す術を吾輩は主に教えられていない…。マジでしんどい…、無理…、これはもう無理…。分かってくれるか太田氏…、吾輩もな、こんな陳腐なバベル以後の言葉に頼るのは避けたかったのだが、こう叫ぶより外にあるまい。
 

入灯日出いりびひので、尊い………。

 
日出嬢の何が尊いって今回、ついに闇子嬢にな? ああ、皆まで言うな、そうだとも、ついに"ライバル"ができたのだ! しかも何だこのデザインは! 男装の麗人だと!? あざとい! しかしそれがいい! 製作者の魂胆が透けて見えるが、このキャラ造詣がまた良いのだ。まず一人称"私"! 男装の麗人でありながら安易なボクっ娘ではない。精神性は女性でありながらも、自己表現の手段として男装を選んでいることが言葉の端々に見て取れる。作劇の都合ではなくここにはまさしく"入灯日出"が生きている!

男装自体のセンスもいい、分かりやすい記号としての男性服である軍装や礼装に頼らず、これまで闇子嬢の作品群で示された男子生徒の服装を取りつつ、ネクタイの色だけを変えることで、世界への参入を可能にし、かつ彼女の個性を表しているのだ。これは単純にウケを狙っただけではない、製作者の気概が感じられる。

それだけではない。彼女の能力もまた魅力的だ、もちろん闇の対義で光というのもあるが、あの中性的な容貌からは想像もできないほどの力と醜悪なその本質! 光の属性を持ちながらも、それにより自らを蝕むという二律背反的能力! 近頃少なくなってきたベタなやり口だがそれが彼女自らに対する不信と不安の暗喩であると気づいたとき、吾輩思わず読破3度目でありながら叫んでしまった。

そして何より、何よりだよ太田氏、君にも分かると思うが、この闇子嬢との、この、最後の絡みが、もう…。言葉で表すのも…、烏滸がましい…。180°違うキャラクター性を持たせながらもその本質、源は同じ見えないものの具現であるという、同族嫌悪とも呼べるその形が、ここ、このページの、このイラストで表されているのだよ。これはもう実質[編集済み]では!? いや、吾輩闇子嬢に惚れ込んではいるためそれはそれ、これはこれだが、この関係性はあまりにも、あまりにも、…完成、されている。

ああ、吾輩はこの世界の全てに感謝しよう。大地、大空、海原、生きとし生けるもの全てと悠久に刻まれる時に。

闇子嬢と日出嬢にありがとう。2人の関係性にありがとう。この世界にありがとう。


小清水は静かに扉を開き、特殊遮光ガラスの向こう、無機質な収容ユニットの中心にいる"それ"へ声をかける。"それ"の容貌は中性的、花のような笑みを浮かべ、洗練された動きは西洋の騎士を思わせる。しかし、その正体は百鬼の具現。容すら定まらぬはずの人々の恐怖。本来は───

「調子はどうですか、SCP-267-JP
「ああ、大丈夫だよ。全て覚えてる、先生も元気かな? 少し顔色が悪いようだけど」

忘れ去られるべきもの。そのままでは消滅し、無力化するもの、財団の理念に沿わぬもの。

「それと、その名前で呼ばれるのは嫌だな。私はこれでも女の子だから」
「では、入灯日出さん」

しかし、それには無理やりに容が作られた。いや、作られてしまったか。
あくまでも仮説ではあった存在そのものを捻じ曲げる悪徳は、成功してしまった。
曖昧とした概念を既存の怪しきものに当てはめ、それを自覚させ、そのうえで1つの概念を与えた。

「ああ、私は入灯日出。百鬼夜行の曖昧模糊、本質を持たない概念であり、消照闇子のパートナー兼ライバルだ」

陳腐なキャラクター。男装の麗人にして女子高生。消照闇子のライバル、入灯日出。
この財団はこにわでしか成立しえぬ、歪な恐怖、いとも簡単に消える泡沫。
財団の記憶なくしては成立しえぬ、外部の意匠抽出ユニット失くしては成立しえぬ、架空の現実。

日出は悠然と微笑む。小清水は居心地の悪さを感じながら定期チェックを行っていく。

「文句はないよ。これまでにも私たちは様々な形を与えられた、今回はそれが"入灯日出"だったというだけさ」
「記憶の方はどうでしょうか」
「笑わせるね。私の記憶も君たちが設定したものだろう? 私は実体なき百鬼の意思。闇より出でて光の下に現れたモノ。少なくとも君たちが想定しているSCP-267-JPではなくなった。それを望んではいなかったのだろうけどご愁傷様。新たなナンバリングをお勧めするさ」

自分の冗談が気に入ったのか日出はくすくすと面白そうに笑う。
女でさえも見惚れてしまうようなその仕草に小清水はできるかぎり無機質な目を向けた。

「SCP-835-JPからの浸食は?」
「闇子からの干渉は感じているよ。だけどそれだけ、私と闇子はきっと隔絶してる」
「そうですか。現状に不満は?」

日出は口元に手を当てる。その表現を行うことが入灯日出であるということだ、ということなのだろうかという考えが小清水の脳裏をよぎる。

「強いて言うならもう少し部屋を整えたいな。ほら、こんなシンプルなベッドだと女子高生らしくないというか、私の好みじゃない。闇子にも見せられないよ」
「分かりました。可能な範囲で調度を用意します」
「あ、いいんだね」
「どういうことでしょう?」
「いや、素直に受け止められるとは思ってなかったから。うん、ありがとう、それじゃあよろしく、先生」

 
 

小清水が退出したのを見届けると、日出はベッドの上に膝を丸めて座り込んだ。
その姿には異常なものなど一片たりとも感じられない。それこそがもはや日出の意義であった。

「皮肉なものだね、光の中で消えるはずの私が光の持ち手に"入灯日出"を与えられた。それは君にも言えるのかな、闇子」

日出の体が解けていく。少しずつ、少しずつ、自分の在り方に疑問も恐怖もない。
どのような形であれ、人々が自分を思い浮かべなくなった時の恐怖が勝る。

それが無くなれば、と日出は考える。それはきっと、ヒトと私の区別がなくなった時だと。
私が怖いのは、私が死にたくないと願ったのは。それが怖いのだ。
恐怖が恐怖を恐れているのだ。

「君はもっと源に近いのだろうけどね、でも同じだろう?」

目を瞑ると忌々し気な闇が広がっている。おそらくは同じものだ。私たちは恐怖を糧に生み出された。
その恐怖はこの箱の中だけで制御されるものだとしても。

「ワカラナイ コワイ …死にたくない、なーんて、ね。………おやすみ」

私たちは光の中では眠れないのに、もう一度日出に戻るまで。


「…? あれ? なんだか強烈な定義が…」


太田氏、そんな驚いた顔をするな。いや、あまりにも前回の消照闇子が良すぎてな。布教のつもりはなかったのだがとりあえずこの気持ちを共有せんがため、また、新鮮な感想を聞きたいがために、とこいつを呼び寄せたのだが…。
奴め見事に沼に嵌りおった。フッフッフ、吾輩としても闇子宇宙の魅力を語り合える新たな同士が加わったこと、非常に喜ばしい。それ、読み直しもそろそろ五周目であろう、簡単で良い、自己紹介をせんか。

やあやあ、紹介に預かり恐悦至極。小生も悪魔界の七大王の1人でして、彼の紹介を受けまあサル共が自らを堕落せしめんと作った猥雑なものと馬鹿にしておりましたが、小生、考えを改めましたぞ。特にこの入灯日出嬢が良いですな! 女としての仮の姿に精神性が引っ張られ、本質である怪物の部分を見失うシーンなど…、あれ、太田氏? 太田氏───!?

 
 

事案報告835-JP-J ████/██/██: ████/██/██、SCP-835-JP-Jの収容ユニットに新たなオブジェクトが出現しました。オブジェクトは悪魔界の七大王を自称し───

特に指定がない限り、このサイトのすべてのコンテンツはクリエイティブ・コモンズ 表示 - 継承3.0ライセンス の元で利用可能です。