神罰 Part3
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前回までのネクサス:
神罰 Part2

タダオ・アカイは狭い部屋の中で給金を得るために仕事をしていた。それすなわち、監視モニターを見つめていた。犀賀派にはもっと刺激的な仕事があったが、誰か1人はこの仕事をやらなければならないし、今のところ彼は文句を言っていなかった。少なくともここにいれば脳を十分に休めることができるのだ。ちょうど今、彼の目線はどこからともなく現れた少女を閉じ込めた部屋のカメラフィードをさまよっていた。彼がそうして見ている間ずっとマサヒト氏がカメラに映り続けていた。タダオはマサヒトが直前に行った動作を繰り返していることに気が付き、彼と連絡を取ろうとした。暫くして彼は動作を繰り返した。そしてもう一度。
文字通り目からウロコが落ちるのがわかった。

「それじゃあ、ちゃんと全部理解できるようにもう一回言うけど」クロエはディーンに手首を掴まれながら施設の廊下を歩き始めた。「私は別宇宙に投げ出されて、犀賀派の施設にいるのね?」
「そうだとも」
「武器として使われるはずの神様の部屋に着いた」
「そうだな」
「それからこれはとても稀な現象らしくて、私が神様のせいでこの宇宙に縛られちゃってるから、私を外に出すためにあなたとエリが来た」
「その通り」
ディーンとの会話がかなり一方的であることにクロエは気が付いた。
「それからもう1つ興味があるんだけど。犀賀派って実際何なの?」
「奴らは数多の宇宙に広がっている組織の1つだ。奴らは他の現実を破壊から救済したいと思っている。見ての通りの素人だが。例えばここは奴らが占領した、放棄された地下施設だ。奴らのものなど1つもない。適切な掃除さえしていない」
「彼らは世界の救世主なのに、どうして私を閉じ込めたの?」
「奴らは全ての宇宙を救いたいわけではないからだ。必要な犠牲だった、ということだ。恐らくお前はそんな必要な犠牲の産物か、単に奴らが危険を冒したくなかっただけだ」
「あぁ」
彼らの前を歩いていたエリはバッグから引っ張り出した黒いボトルの中身を一口飲んだ。
「にゃに――ごめんなさい。兵器利用できるなら、犀賀派がクーの力で何をするかっていう恐ろしい考えが浮かんだの。彼は前触れもなく星系全体を消滅させた神格よ」
「何て? どうして?」クロエは尋ねた。
「多分本人にしか分からないわ。もともとは彼は非常に慈悲深い神でした。平和の神ね。信者のために実際に何かをやる神様よ。でも最後には彼の子羊たちは平和の神のために戦争に行ってしまったので、どこかでうんざりしちゃったんでしょう。私には山火事と戦うために放火しているように思えるわ…。とにかく、彼はそう感じたらしいの」
彼女はさらにもう一口飲んだ。
「あなたは何を飲んでいるんですか?」クロエは尋ねた。
「シュナップス」短く明確な答えに思えた。「自家製です。君じゃあ手に入らないですけど!」
エリは守るように手を飲み物にかざした。
「エリ、彼女はたったの13歳だ」ディーンは言った。「それに誰もあんたの酒を欲しがらない。その代物は19の惑星で兵器に分類されている。それにそれはスプーンを溶かす…」
クロエはここで、何かがおかしいことに気が付いた…。
「待って、ここから出ようとしている間ずっとあなたは酔ってるんですか?」彼女は不信感を抱いた。
「いいえ」エリはなだめるように言った。「もうここに到着した時には酔ってたわ」
実際、クロエはかなり前からエリが少しよろめいているように見えていた。それに彼女は絶えず微笑んでいた。
クロエは不安になったが、ディーンは落ち着くほど真面目で、その上落ち着くほど素面だった。
突然ノイズの入ったサイレンが遠くで鳴り始めた。
「注意、全スタッフに告ぐ」近くのスピーカーからそれは繰り返された。「マサヒト氏が対象デルタのセル内で意識を失った状態で発見されました。対象と共に――」
「それじゃあ私たちが既にここにいるってバレてるみたいね」エリはコメントした。「走りましょう」
ディーンがクロエを消防夫搬送の体勢で肩の上へと容易く投げ上げたせいで、彼女は走ることができなかった。彼女はこの時こっそりと、彼の骨が尖っているらしいことに気が付いた。遠くでは既に雷鳴のようなコンクリートの上を走る靴音が大きくなっていた。
彼らの左手のドアが突然開き、比較的若い男2人が恐らく避難するために駆け出してきた。エリはすぐに進路を変えると避難者に突っ込んで、部屋に押し戻した。ディーンは駆け足でそれに続いた。
「いい反応だ、エリ」ディーンは肩から不安定なクロエを下ろしてドアを閉めながら称賛した。それから未だに混乱しているぶつかられた2人の背中に手を回して地面に押し付けた。
「いっつ…何が"いい反応"なのよ? 私は2人の脇をすり抜けたかったの、全くぶつかりたくなんてなかった…」エリは再び足をふらつかせてうめいた。
「飲酒を止めるべきだったな」
「忘れなさい。私は――あぁ、ハロー…」
エリは今はっきりとどの部屋にいるのかわかった。クロエにはその部屋が未来的な宇宙船の司令室のように見えていた。コンピュータ部品のセールで手に入れたお土産で組まれたものではあるが。
「ジャックポット!」エリは歓声を上げ、メインフレームらしきものにすぐに駆け寄った。
「おい、おい! 何をしている?!」ディーンにヘッドロックをかけられている犀賀派メンバーの1人が背後で叫んだ。
「ねぇ、何をしてるの?」クロエも質問した。
「えーっとぉー」エリはニヤリと笑った。「これは、モニターの表示が嘘をついていないなら、この建物のネットワークにアクセスできる端末ですね。はい、2人とも、頭を振って確認するだけね」
エリは少しバッグを探すとネコの装飾がされたUSBメモリーを引っ張り出した。これは間違いなくUSBメモリー用に設計されていないポートにすぐに差し込まれた。
「ユニバーサルポートメモリーだ」ディーンはクロエの疑問ありげな表情に対して説明した。「接続している限りどのコンピュータにも適合する。500ヨタバイトのストレージと15EFLOPSを備えたマイクロプロセッサを持つ」
クロエはぽかんとして彼を見た。ディーンがその表情を正しく読み取るまでに暫くかかった。
「このメモリーはお前の世界にある最新のコンピュータより高い性能を持っている」彼は最終的にそう説明した。
「えっと…それで、それを使って何をしたいの?」クロエは質問した。
「私はハッキングが好きじゃないの」エリは答えた。「だからこのメモリーに人工知能を入れてやらせているの。私はやりたいことを伝えるだけ」
彼女は数多くのスクリーンを素早く見やった。
「へへ、ハッカー対策プロトコル、子供騙しね……おお?」
エリはちょうど送られてきたファイルを開いた。
「110F、本当ね。クロエ、破壊者を見つけました。ここからそのセルにアクセスできます」
クロエは近づいた。スクリーンの1つが彼女が引っ張り出されたチャンバーの監視映像を映していた。
「かなり抜け目ないわね」クロエに全く何も伝えずに、様々な画像と図表を調べながらエリはコメントした。「この装置は彼のエネルギーを奪って大人しくさせるだけじゃない。それを使ってここの人たちが、言ってみれば、大砲に彼を積み込む時にその力を制御しやすくなります。独創的な施設ね、本当。抑止に関する兵器を建造したいなら最適よ。多分あなたたちもそう思ってるでしょうね。でも私に言わせれば、この管理をメインネットワークに接続するのは結構おバカなアイデアよ。典型的な素人…何かできるか見てみましょう」
エリの手が活発すぎる2人のキーボードの上で踊るタップダンサーのような2つの影に見えて、クロエはめまいがした。
ドアの方から突然、数人からなるお馴染みの足音が響いた。
「ちゃんとしたハッキング対策はないけど、破損警告が…どれほど予測できる…」
ドアが開けられた時にエリは再度メモリーを引き抜いた。戦術装備らしきものを着た数名が室内に押し入ってきた。多数の銃身が3人に向けられた。ディーンは捕らえていた人を解放すると、エリの前に立ってクロエを後ろに引っ張った。
「投降しろ、お前たちは包囲されている!」明らかに怒っている、とりわけ逞しい男が怒鳴った。
エリはディーンの後ろからニヤけ面を突き出した。
「絶対私たちが投降しなければならないの?」
「ご婦人、必要ならば我々にはあなたとそのお仲間を撃つ許可が出ている。我々は貴女の記述を犀賀派の全データベースで照合した」
「それじゃあ、貴方たちは戦術の天才ですね。まだそれをやってなかったんだもの」
「貴女はあの人たちに何をしたの?」クロエは混乱して尋ねた。
「長い話になるわ」
「今から3まで数える。手を挙げて投降しなければ、貴女を射殺し、再度その少女を拘束する。さて、1…」
床が振動した。
「彼らが極めて愚かなことをする前に、私が今やったことを彼らに知らせた方がいいわね」エリは宣言した。「貴方たちが捕らえている神は、非常に巧妙に力を絶たれて弱体化されています。でも私はエネルギーの流れをたった今逆転させました。クーは今この瞬間自分自身のエネルギーで満たされています。彼が脱走するまでセキュリティ対策はどれくらい保つでしょう?」
「な――」警備隊の指揮官はどもった。「そんなことが起こったら、我々は殺される! 全員だ。お前たちもだぞ!」
「何て?」クロエはわずかに硬直した…。
誰も彼女に注意を払わなかった。
「私たちの視点から全体を見なさいよ。貴方が私たちを直ぐに殺さなかったら、私と仲間は一生閉じ込められるんですよ。それに貴方たちが私の友人に何をするつもりなのか分からないし。でも、この地球の道徳観や小さなヴィンターちゃんへやったことを思い出せば、多分本当に面白いことじゃないわ。真面目に、ここじゃ駐車違反で指の爪が剥がされるし…。どうして私たちは迅速で痛みがほとんどない死を好まないんでしょうね? ああ、私や貴方たち2人のインテリな頭に問題の解決を強要する必要はありません。全ての遠隔操作を奪取しました。ここからだけじゃなくて、他の端末からのアクセスもできません」
エリは威厳のある責任者のような笑顔を浮かべた。
「…何がしたいんだ?」
「手始めに、武器を全部下げて私たちをクーのセルに連れて行ってください。そこからケーブル数本を再接続したら、エネルギー供給を元に戻せます」
「何故他の者を対処に送りこまない?」
「素晴らしい、あなたは昇進に値しますね。私はシステムパラメータを少し変更しました。さあエネルギーの流れが巨大な結び目だと想像してください。そこを何の知識もない人が引っ張ったら、建物が爆発します。そして多分私たちのいる大陸の大部分が…」
床が再び振動した。
「早く考えてください」エリは満足げに持ち掛けた。「システムは口火を切りましたが、私が見た限りまだ約15分あります」
少し時間がかかったが、指揮官は警備員が武器を下ろすことに賛同した。
「一緒に来い…」

「貴女はこれを計画してたの?」12名の警備員を連れて110F室の方向へと歩きながらクロエは尋ねた。彼女は話している間自分の翻訳ステッカーを押していた。誰も聞くことができないように一時的にそれを無効化したのだと、エリは彼女に説明した。エリも同じことをした。
「ええとね、本当は途中で捕まるだけだと思っていたんですけどねぇ、結果は同じですよ」
彼女のドイツ語は、クロエには分からない奇妙な効果があった。
「それで今から何をするの? 貴女が神様をまた弱らせたら、私たちは牢屋に連れていかれる!」
「神がそれを邪魔しない限りはね」エリはウィンクして言った。「彼は君がセルに着いた時に殺さず、逆に君を引き留めるために最善を尽くしました。彼が君をどれほど気にかけているか見てみましょう。運がよかったら私たちは彼にただ尋ねるだけでいいわ。それからエネルギー抽出システムを再起動して、私たちは姿を消します」
「おい、わかるように話せ!」警備員の1人が怒鳴った。
「わかったわよ」
警備隊は入口のすぐ前で止まり、ゆっくりと開いた。
「それであなたが間違った場合はどうなるの?」
「それならそこでおしまいです」短い返答だった。
アは今では全員通過することができるほどに広く開いていた。
「ワオ、現物だとさらに印象的に見えますね。電子機器や容器の廃棄品で全部作ったんですか?」
「こいつらがここで何をしている?」
クロエを尋問したがっていた研究員のマサヒト氏は、自分の仕事を憤りながら調べていた。恐らくそれは彼がエネルギー供給に関する問題の解決方法を発見するためだ。
「マサヒトさん、あの、この女がクーのエネルギー供給をもう一度逆にできると言っています」そう警備隊指揮官は説明した。
「それで信じるなんてお前はバカなのか? もし彼女がここに破壊者を解放するために――そこで何をしている!?」
エリはこっそりと離れてのんびりと配線作業をしていた。
「何をしているように見えますか?」彼女は尋ねた。「爆弾を飲み込んだことを思い出しなさい」
「私は既にアレが原料ガラスだったことを知っている、騙されんぞ!」マサヒトは歩き出した。そして警備隊へと向かった。「何故お前たちは彼女を止めない?」
男も女も虐待された犬のように身をすくめ、勇敢な警備員が何か言葉を話すまで少々口ごもっていた。
「えっと、我々が彼女を止めたら、絶対に我々はバラバラになりますが、その…」
「マサヒト、貴方がここで専門家と作業をしていないことに関しては本当に用心しなければならないわ。それにもう終わりました」
エリはショーガールが全ての声援に応えるようなポーズを取った。
「ところで、あなたは正直者でしたね。1のナンバーのドアの後ろには何が隠されていますか?」
地面が衝撃波で揺れ、2本の大きな手が内側からコンテナを押し上げた。クーは外に出るとその全身を震わせて立ち上がった。そして増大しているようだった。
叫び声が響いて銃撃が行われた。クーは衝撃を受けて怯むと同時に唸り声を上げた。別々の原子に分解されたように感じたクロエを除いて、誰も傷つけられたようには見えなかった。
「あぁ、何が――」エリは恐怖に駆られた。「クロエ、君はアレがもう永くはないと言わなかった! アレはもうほとんど生ける屍じゃない!」
「何が? 何で?」エリとディーンが混乱に乗じて駆け寄った時、クロエは痛いほどに息切れしていた。
「アレはもう荒れ狂う獣に過ぎず、私が予想したような自然の力ではないの。彼は新たにエネルギーを得たけれど、ただの銃撃で対処できる! 待ってて、音に何か対策するから、ちょっと即席で作らなきゃいけないか。形而上学的耳栓よ!」
クロエはそのアイテムを耳に押し込まれた。彼女には未だにクーの唸り声が聞こえていたが、今ではそれは彼女の耳へと制限されているようだった。さらに彼女はまだクーの本当の姿を捕らえることはできなかったが、クーがどこにいるのかを正確に言うことができた。
実際にエリが予見していたように、クーは猛攻に倒れた。彼は攻撃者を腕で払いのけて周囲の壁へ叩きつけたが、それは攻撃を止めさせるほどではなかった。彼は既に多数の傷から出血していた。
「クソ女が!」マサヒトは2名の警備員とエリへ攻撃を仕掛けながら叫んだ。「10年の仕事がパーだ! 覚えてろよ!」
警備員が発砲した。エリは落ち着いてボトルから一口含むと攻撃者に対して吹き掛けた。この液体が何であろうが、それはどうやら非常に反応性の高い霧のようなもので、即座に発火した。彼女は即席で火炎放射器を作ったのだった。
警備員に火が付いて、炎を消そうと急いで後退した。
「私の邪魔をするために、どちらにせよ貴方たちは私たちを殺していたでしょう。武器が何であれね。貴方は今自分でそれを破壊しているのよ」
エリは自信ありげに科学者へと近づいた。
「今から私が殺されても、私の勝ちよ。神さえ死ねば計画は頓挫して少女は自由になる。ディーン、ドアへ!」
ディーンはクロエを連れて言われた通りにした。その間にエリの不気味なネクサスへのポータルが入口に開いた。
「警備員! 奴らを止めろ!」未だに消火をしている雇われ警備員2人の内1人のベルトから銃を抜き取りながらマサヒトは大声を出した。
クーは未だ反撃していたため、チームの一部の人間のみが反応した。逃げるディーンに幾つかの銃口が向けられた。
エリはそれをちょうど待っていたようだった。
すなわち、今しがた無慈悲にもクーは有利になった。
彼を撃ち続けていた者はすぐに薙ぎ払われ、クロエとディーンへ狙いを定めていた者に投げつけられた。しかしこの力が大き過ぎたがために、この両者とも吹き飛ばされて壁にぶつかった。
ディーンもだ。
この2人の不幸な人間と彼は、同じく不愉快な壁友になった。衝突時に聞き取れるほどの音が鳴った。クロエは驚いて固まった。
クーは遂に床に崩れ落ち、彼女の元へと這い始めた。遅くはあったが、止まることはない。
「クロエ!」エリはバッグを急いでひっかき回しながら叫んだ…。
そして彼女はマサヒトに腰を撃たれた。
「最高だな」彼が唸り、彼女は呻きながらバランスを取ろうとした。
クロエは恐怖で凍りついた。彼女は動けず、だがクーは黒い血の海を残しながら向かってきていた。そして終に彼女の周囲をその手が囲んだ。
そしてクロエは神と1つになった…。

クーはかつて平和の神でした。知恵と生命の神でした。しかし彼以前の他の多くの神々とは異なり、彼は自分にとって意味のあることをするのではなく、彼を信じて頼る人々を助けることを目標としました。それは共生でした。彼への信仰がますます強くなるほどにクーは更に強大になり、より大きな奇跡を成し遂げることができたからです。
しかし平和が永遠に続くなんて聞いたことがありません。嫉妬と強欲に駆られた人々はクーの信者の住む土地を侵略したのです。彼らは寺院を破壊し、彼を敬う人間を奴隷にし、彼を悪魔と呼びました。
クーは平和の神の称号を返上することを余儀なくされ、攻撃者に自然の力を振るいました。洪水は彼らの土地に流れ込み、地震は彼らの軍と都市を滅ぼす裂け目を開き、疫病はクーの庇護を受けている者を悪としたい者たちを殺しました。
クーは最早平和の神ではありませんでしたが、今では信奉されている国の守護者ではありました。しかし嫉妬、強欲、愚かさは広く蔓延るものであり、クー自身の信者でさえそれに関する免疫がなく、彼らの神のために戦おうと動きました。そして彼らを保護する義務によってクーは共に移動しました。文明がかつてないほどの高度さに達成した時、彼の世界全体、その後に太陽系、銀河、そして最終的には全てが戦争によって破滅しました。
恐ろしいことでした。彼は騒々しい破壊の前に何処へ行けばいいのかわかりませんでした。
ある日まで、ある惑星の小綺麗な廃墟で彼は泣き声を聞いていました。
それは両親の遺体の上で泣いている子供のものでした。
そしてクーは人々の中に戦争をもたらす誰かが存在する限り、決して平和は訪れないことを悟りました。
そして彼はその力を信じない全ての生命を奪い、その指を弾いて銀河を破壊できるほどに強力になりました。
しかし彼が信者を探すにつれて、彼らも自分の犠牲になっていたことに気が付きました。宇宙を占領し始めて以来、ある時彼らは彼を信じることを止めました。彼らは彼を普通の存在でもありませんが当然のものだと見なしたために、そうして彼は全ての力を奪われました。それでも、彼を信じていた人々の単なる道具となりました。そして非常に多くの無辜の人々を殺しました…。
この事実による何千年にもわたる抑えきれない悲しみの中で、今では知的生命体の住む宇宙のある全世界を彼は破壊しました。別宇宙の訪問者に気が付かず、区別なく彼らを殺しました。こうしてクーは破壊者という名を与えられ、多元宇宙の脅威とされました。そしてそうなる可能性も…。
彼は次第に意識を回復させると、新たな敵に直面しました。今度は宇宙全てを消し去れる彼の力を利用したい人々です。
クーは果敢に防戦しましたが、彼はあまりにも強力になり過ぎて、その存在の存続を許せない程の罪悪感を持つようになったことに気が付きました。しかし彼は死ぬことができませんでした。彼を信じられない人間が世界にはもう誰もいなかったからです。そうして彼は全ての力をできるだけ絶ち、できるだけ脆くなり、彼が発見することができる最も無能な敵を探しました。それは傷を負う代わりにその力を浪費させることを望んでのことでした。そして彼らが殺してくれることも。
しかし彼は間違えました。彼は喜んで捕らえられましたが、犀賀派は何処にでも目と耳を持っていました。彼らは素人で心優しいように思えましたが、そのノウハウは本物であり、道徳的に曖昧でした。だからクーは抑止兵器となるはずでした。それは彼が心から拒絶する運命でした。犀賀派が彼に施した方法のせいで、その全ての力を奪われて未だに死んだまま存在していることを彼は思い出しました。マサヒトはあまりにも巧妙で、ただ彼を消滅させることはしませんでした。彼はクーのエネルギーを生成する新たな方法を発見するでしょう。
彼は弱った状態で人間の体に逃げ込まなければならないと分かっていました。人間の体の中では、彼は思考でしかなかったからです。そうして忘れられた記憶のように、彼はその心の中に落ちて消えて行くだけでした。そうすれば彼はもう誰も傷つけることはありません。
しかし何処で手に入れられるのでしょう?
だからクーは空虚に耳を傾け、終に不幸な偶然で落ちてきた人を発見しました。
不幸な人間を連れてきてここに留めておくのに、吸収装置のせいで多大な力が必要でした。しかしながら切羽詰まって、クーは2つのことを見落としていました。第一に彼の存在と声は常に強力すぎて常人は捉えることができず、第二に警備員を完全に度外視していました。
彼が統一プロセスを開始する直前に、彼の最後の希望は奪われました。
今この瞬間まで。
クロエの頭に以上の内容が流れ込んだ。その間彼女は情報の洪水の中で必死に、エリとディーンを忘れないようにした。彼女はこの存在の悲嘆を感じた。その後悔と最後には消滅したいという願いを。
クーをどれ程怖く思っていたとしても、彼女は彼を哀れに思った。その全ては混じりけのない絶望から起こっていたからだ。
そしてクーが話した。

「私を助けてはくれないか?」

クロエは見たものが何だったのかを長らく考える必要はなかった。失くした靴やその注意力不足のような彼女の苦悩は、この存在が経験しなければならなかったことには比べようもなかった。最早この神の逃げ場がないことを彼女は理解していた。たとえ逃げ出したとしても、クーがかつてそうだったように、彼は永遠にその負の感情の牢獄に囚われるのだろう。
「いいよ」結果的に彼女はそう答えた。
そしてクロエはクーの知覚で世界を捉えることができた。それは彼女が全て説明できない奇妙な印象のある、真実の宇宙であった。
彼女は気を確かに持った。時間を無駄にし過ぎた!
クーの目を通して彼女は抜け出そうとして壁にぶつかったディーンを見た。そしてエリはその時、額に銃口を押し当てられていた。
「でもその前に彼らを助けて」

「わかってるさ」

クロエは目の前が真っ黒になった。最後に見えたのはクーか彼女の姿だったか? 最後の力が籠った手がマサヒトに猛然と迫り、ハエのように押しつぶし…。

クロエは目を覚ました。ゆっくりと、まるでその体が心地の良い無力感で彼女を包みたかったかのように。
彼女の触覚によると、馴染みのあるベッドに横たわっていた…。
クロエは目を開けた。
彼女は白い天井に出迎えられていた。犀賀派の宇宙を離れ去ったことを感じ取った。
彼女はゆっくりと頭を回した。感謝を込めて笑うエリと感情を表に出さない強面のディーンが視野に入った。両者ともクロエの横たわるベッドの傍に立ち、もうコートは着ていなかった。
「とっても…すごかったわ!」彼女は称賛された。
クロエはその女性が何を言っているのか本当に分からなかった。
「何が…あれから何が起こったの?」
「君は神を吸収したのよ!」エリは熱狂的に説明した。「それからあの警備隊をズタボロにした! クーにどうやってそれをやらせたの? 彼はほぼほぼ死んでいたけど、人間が吸収するなんて簡単にはできないはず」
「彼は…彼は私に吸収されたかったの、最初から…」
そしてクロエはクーが本当は何だったのかを説明した。エリとディーンは注意深く静観して聞き、話し終わってから彼女は尋ねた。「それでこれから私はどうなるの?」
エリは肩をすくめた。
「君が物を吸収する時と常に同じことが起こっているわ。君の体はそれを処理して必要のないものを分解してるの。心配しないで、神は毒じゃない。多分君に起こりうる最悪は神格化だけど、まだ誰も傷つけてない…最低でも直接はね…。それで体が何かしらのショックを持ち続けるかもしれないけど、影響はないはず」
クロエは安堵して溜め息をついた。
「で、ここはどこなの?」
エリはにやけ始めた。
「心当たりはない?」
クロエは辺りを見回して、自分の部屋であることにぼんやりと気が付いた。
「ほら、君が飛ばされてからたったの一時間半。それでここにいるんだから最高ね」エリはコメントした。「君の毛布、気に入ったわ」
クロエは何と答えればいいのか分からなかった。
「どうやって見つけたの?」
「君のポータルジャンプを記録していて、そのデータを使って侵入点を発見できたの。特に表札を確認してね。ところで、地面に灰があったわ。ディーンが掃除したけど」
クロエは理解したことを示すために少し頷いた。
「それでこれからどうするの? ここに泊まる?」
「いや、ネクサスに戻るわ。とにかく君はもう十分よ。それに壁の時間割をちゃんと読めてるなら、明日の朝学校に行かなくちゃならないし」
クロエはエリが学校のような平凡なものを心配することに少し驚いた。その時その女性はディーンを連れてクロエのクローゼットへと向かった。ドアが不気味な軋みを立てて開かれると、その後ろはラックの代わりに黒しかなかった。ネクサスの入口だ。
「じゃあ、頑張って」
「またいつか会える?」クロエは尋ねた。
「きっとね、実は一回君とあんまり危険じゃない冒険をやってみたいって本当に思っているの。戸棚が軋む音を立てたら準備しておいて。その間翻訳ステッカーは持っておいてもいいわ。でも覚えておいて、言語を理解するだけで、他の人に対しては理解させ続けることができることを。君は実際に話せないの。それで外国語のテストでズルしようとしてる場合に備えてね」
エリはウインクをした。
「絶対そんなことしないよ!」クロエは正直に怒りながら答えた。
「へへ、私もそうだと思ってたわよ」
「いいや、違うだろ、あんたは俺と10ドル賭けている」そうディーンは否定すると、エリは苛立たし気に目を寄せた。「また今度。幸運を祈っている」
ディーンは黒に踏み込んだ。エリは気取ったような歩きで続くと、完全にネクサスへと姿を消す直前に、手を振るためにまた振り返った。
「アディオス!」
そしてエリはその言葉を言いながら仲間を追うためにクローゼットのドアを閉めた。クロエはまた開くためにすぐクローゼットへと駆け寄りましたが、そこにはきちんと中に置かれた服しかなかった。
彼らは行ってしまった…。
クロエはあの身の毛のよだつ出来事を回想した。彼女はほぼ死にかけていたが、今までに感じたことのないものを感じていた。本物のスリルと、彼女が望んでいた場所に確かにいるという感覚。今日あまりに疲れていたとしても、彼女はもう既にエリとディーンとの次の出会いを楽しみにしていた。

エリが軋みを上げる革張りのソファでくつろいでいると、眉をひそめてボトルが空であることに気が付いた。当然のように容器の質量に影響を与えることなく100リットル以上がそこに収まっている。
「あんたがそうやってボトルに頼るなら…」ディーンは言った。「そのせいで困ることになるぞ。あんたのことは把握しているんだ」
「ボトルに頼るってどういう意味よ?」
「あんたは上の空の状態で5分で飲み干した。その体にその量のアルコールがすっかり入るのには未だに驚きだよ。どうしたんだ?」
「それについては話したくないの…」
ディーンはソファの彼女の隣に腰を下ろし、無表情な瞳で彼女を観察した。
「少女のせいか? 俺はあんたが彼女に嘘を吐いたことを知っている。何故だ?」
「どうしたらよかったの?」エリは怒りを込めて答えた。「彼女に『あら、ごめんなさい、君はもう1年しか生きられないの、もう少し長ければいい方ね』って言えって?」
「彼女を助けられないのか?」
エリは全く冗談じみた様子なく静かに笑った。
「彼女は神を取り込んだのよ、ディーン。人の体ではそれに耐えられない。それに私はただ彼女に薬を与えるだけなんてできないの、全てが申し分ないわ。問題は彼女の体にあるだけではなく、彼女の存在全てにある。それにはクーのものも入っている。それらが崩壊し始め、彼女の体でも崩壊が起こる。こういったものには全く何もできないの。それにもう私はそれを知るために十分な世界を渡り歩いたわ。クーは多分それを知っていたけど、切羽詰まっていたから言わなかった…。あの惨めなロクデナシめ…」
エリは更なるアルコールを求めて部屋中探し始めた。
「それで、あんたは旅に末期患者を連れて行きたいのか?」ディーンはそう話を畳むと首を傾げた。「何故だ? 危険になった場合、彼女を緊急時の生贄の羊とするのか? お前にはもっと期待していたんだが」
エリは彼に哀れむような微笑みを向けた。
「貴方はまだ多くのことを学ばなきゃね、ディーン。クロエは私が守ることができる限り、どんな状況でも犠牲になったり死んだりしないわ」
「だが、それなら何故だ? あんたは俺みたいに彼女を完全な助手にはできない。そのための十分な時間がない」
「あんまりにも永く生き過ぎた1人の女の同情だと思いなさい。クロエの人生に量が足りないのなら、私が質を与えるわ。速くに生き、若くして死ぬ、それがあなたに分かる?」
ディーンは頭を振った。
「あんまり」
「それならちょっとは考えなさい。で、先週買っておいたスコットランドのシングルモルトウイスキーを持ってきてよね」
頭を振り続けながらディーンは立ち上がった。
「あんたは自分とクロエを最期に不幸にするだけだぞ」ディーンはそう予期した。
エリは座るとディーンが部屋から出て行くのを見ていた。
「そのうち分かるわ。誰かを救う方法は1つだけじゃないの、覚えておきなさい」

次回のネクサス:
より良い人間とは? Part1

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