この一生の間どこのどんな子供も受けないような厚いご恩をいただきながら、いつも我ままでお心に背きとうとうこんなことになりました。
今生で万分一もついにお返しできませんでした。
ご恩はきっと次の生又その次の生でご報じいたしたいとそれのみを念願いたします。
どうかご信仰というのではなくてもお題目で私をお呼びだしください。
そのお題目で絶えずおわび申しあげお答えいたします。
宮沢賢治の遺書
「終わり」の時だ。
人類は、思う。いや、人類はもう存在していない。彼らの意識は、遥か昔に統合されてしまった。
ああ、彼らは為すべきことを為した。気の遠くなるような時間をかけて、少しずつ。約束された滅びの時を待ち続けていた。
宇宙の隅で、ただ一つの意識は思う。我々は正しいことをしただろうかと。
かつて意識が持っていた三つの信条を意識は覚えていた。それに従い、意識は異常をかき集め、閉じ込め、ほかの意識から守り、そしてほかの意識を守っていた。
異常は時とともに解明され、いつしか溶けてなくなってしまった。ああ、彼らは為すべきことを為した。
宇宙に存在する知的生命体の意識が統合されたのは、いつだっただろうか。
意識は、思う。まどろみの中で、思う。ただ、思う。
暗い宇宙で、ただぷかぷか浮かぶ意識。その形を知る者はいない。
意識は、思う。まどろみの中で、思う。ただ、思う。
「これで、よかったのだ」「これが、よかったのだ」
ああ、彼らは為すべきことを、ただ為した。
「終わり」の時だ。
グランド・フィナーレは、あまりにもあっけなかった。
空間は重力により正常に圧縮され、意識は光の環を見た。
ある一点に「ぜんぶ」が向かう。外には「なにもない」がある。
点に大きさがなくなったころ、とける意識の最後の思索。