
「はいよ、いらっしゃい。お好きな席にどうぞ」
───一月中旬、年明けの喧騒がまだ少し残る早春。暖を求め、人々が寄り集まる場所がある
「すいません、UFOラーメン1つ」
───天空に浮かぶラーメン屋。立地こそ変わっているが、どこか懐かしい時代を思わせる店内に訪れる人々は何処でも同じ。スープの匂いに惹かれ、温かなラーメンを求めて集まる人々。今回の舞台はそんな変わっているようで変わらないラーメン屋さん
UFOラーメンの1日にお邪魔します
08:00
───午前8時、UFOラーメンの開店と同時に黒いスーツの男性が転送装置から姿を見せました
「はいよ、いらっしゃい。毎度どうも」
「おはようございます。…って、店長、あの」
「ん、そこの人かい? なんでもうちの、というかうちの店に来る人を取材したいっつってな。協定を護ること約束して許可したんだよ。もちろん、映像はその番組以外に使わないってんでね。何なら契約書を見るかい?」
「許可って…、ちょっと待ってください、すぐ戻ります」
「そう? 先に注文していきなよ」
「あー、いつもので」
───慌ただしく飛び出していく男性、カメラが苦手なのかもしれませんね
「ああ、今のは常連さんでね、俺んとこに材料卸してくれる業者さんでもあるのさ。ただ会社の都合だか何だかで話せないこともあると思うんで、無理言ってあげないでね」
───だいたい5分後、男性が戻ってきました。話しかけてみましょう、株式会社R.G.B.プランニングの撮影クルーですけどお話、よろしいですか?
「えー、…すいません、上司から言われまして、顔とか装備をなるべく映さないようにお願いします」
───分かりました、貴方はどうしてここに?
「仕事ですね。すいません、それ以上はちょっと」
───むっつりと黙り込んじゃいました。運ばれてきたラーメンと小さめ天津飯のセット。あとは、餃子かな?
「あれ、店長」
「サービスサービス、いつものお礼だよ」
「ちょっとあなた、テレビが来てるからって調子に乗って」
「ガハハ、バレたか。いや、何、昨日贔屓の球団が勝ったからってことにしといてくれよ」
「まったくもう」
───おかみさんが眉を下げて厨房に店長を追いやっていく。ふと男性を見ると笑っていました。カメラを向けると仏頂面に戻ってしまいましたけど
10:00
───お昼が近づいてきて徐々にお客さんが増えてきます。突然、店内が真っ暗に。停電?
「あ、ちょっと。来るなら連絡してって言ったでしょうに。電気付けていいかい?」
「すまない。ミセス、陰を」
「はいはい。全くアンタは」
───蛍光灯の光。徐々に暗闇が縮んでいき人の形になっていきます。長髪の男性とそのお婆さんでしょうか?
「驚かせて済まない。ついつい店といえば明るいものだと」
「いいんだけど、火事とかになるかもしれないから気を付けてくれよ。で、注文は?」
「白髪ラーメンをレディースで」
「アタシはレバニラ定食と、紹興酒」
「昼間から飲むのか、ミセス」
「アンタは食べなさすぎるんだよ、ミスター」
───ミセスとミスター?
「ああ、アタシ達はそれぞれミスター、ミズ、ミセスって呼んでるのさ。ミズはちょっと理由があってここに来れないけどね。それとカメラマンさん、あんたアタシの背中を映すんじゃないよ」
「ここは俺たちのような人間でも気軽に食べに来れるからな、ありがたいことだ」
「まあねえ、人を外れちまうってのは辛いもんなんだよ。特に元々人だった連中にとっては」
───残ったミズさんは、来るだけで漏水しちゃうとか。たしかにラーメン屋では致命傷だ。お、運ばれてきましたよ、たっぷりネギの白髪ラーメンとこってりレバニラ。美味しそうですねえ
「ほい、レバニラと白髪ラーメンお待ち。サービスで餃子ね」
「お、嬉しいねえ。此処の餃子はね、ニンニクと野菜がたくさん入ってるから精が付くのさ」
「…俺は少しニンニクが多すぎてな。ミセス、食べてもいいぞ」
───なんだか、本当のおばあちゃんとお孫さんみたいですね
「はは、アンタがアタシの孫に見えるって。まあ年齢はそんなとこかい?」
「そうだな。…ミセス、もう食べたのか」
「まだ足りないね。戦の前の腹ごしらえ。店長、唐揚げ追加しとくれ。あと、と青椒肉絲持ち帰りで」
「青椒肉絲をエビチリに変更してくれ。ミズはピーマンが嫌いだ」
「ここのエビチリはミズが好きだからねえ。それだけでも救いだよ」
13:40
───大分お客さんも増えてきたお昼頃。さっき出ていったアメーバ状のお客さんが残した滑り、それを避けながら入店したのはくたびれたスーツに胡麻塩頭の男性。煙草を出してライターを探っているみたいです。これ、どうぞ
「お、悪いな兄ちゃん。見ねえ顔だな。何? テレビの取材? R.G.B.っつたらアレか、異世界とかいう。まあここなら邪魔しようもねえか。おい、財団の、アンタんとこいいのかい」
「…」
───むっつり黙り込んだお客さん。実は一番最初の人から5人くらい変わってるんですけど
「ちっ、つまんねえ奴だな。飯食ってる時くらい和気藹々としやがれっての」
「まあ、あっちもお仕事だから。夏山さん、注文はどうする? いつものにしておく?」
「んー…、いや、寒ィしな、今日は味噌にしとくわ。麺大盛りニンニク追加で、あと小ライス」
───お昼から結構行きますね
「仕事ってのは体力勝負だからな、健康のことなんざ気ぃ使ってらんねえや。若いモンは、とか言いたかねえが」
「いやいや、夏山さんはちょっと食べ過ぎだと思いますよ、もう齢なんだから煙草も控えたらいいのに」
「うるせえやい、大将。俺がこの店支えてるんだぜ」
「はは、ならもう少し高いメニュー頼んでくれてもいいけどねえ」
───そりゃ違いない、と笑う男性。…おや? 新しいお客さんでしょうか。真っ黒のスーツに細身の男性。顔には、…箱?
「あ? お前らも此処使ってんのかよ」
「それはこちらの台詞です。こちらは?」
「テレビの取材だと。R.G.B.プランニング」
「ああ、私たちの鮟鱇を取材に来ていましたね。…確認したいのですが店主、彼らは」
「おう、協定はちゃんと守るって約束してもらってるよ。契約書見るかい?」
「いえ、ならば私としては問題ありません。注文いいですか? 精進ラーメンを一つ」
「若いんだからもっと食えよ。ただでさえ針金みたいな体してんだ、死んじまうぞ」
───箱で表情は読めませんけど、真面目そうな人ですね。お、味噌ラーメン運ばれてきましたよ。湯気がたっぷりで…、えっ、バターまで乗ってるんですか? 豪華ですねえ
「寒いからね、冬の間は特別さ。はい、夏山さん。鳥越さんはちょっと待ってね」
「んじゃ、先にもらうぜ」
「私に断る必要はありませんよ。最近どうです?」
「話すと思うのか?」
「いえ、社交辞令です」
───おやおや、ちょっと空気が剣呑に。皆さん、和気藹々ですよ。と、新しいお客さん、笑顔が素敵です。すっかりお昼の時間ですね。あれ? 二人ともどうしました?
「おや、鳥越さん。それに貴方は東弊の夏山さん。隣、いいですか?」
「…凍霧さん、その節は。…ええ、どうぞ」
「おうおう、お久しぶりだなラフメイカー。その節は世話になった」
「はい、お久しぶりです。あのあと私、ニッソの中でもかなり独立した立場になりまして、そのせいで直接お礼も出来ませんで申し訳ありません。ああ、私はUFOラーメンで」
「あれで礼に来たら、死刑装置のモニターになってもらってたんだが惜しい話だ」
───えっと、お仕事の話ですか?
「詳しい話はできませんけどね。そこの彼に聞かれても困りますし」
「私たちは同じ機関の人間ですから。それ以上でもそれ以下でもありませんが」
「夏山さん、お昼からニンニクですか?」
「うるせえ、俺の勝手だ。こっちはお前ら研究職と違って渉外だろうが体資本なんでな」
「喧嘩するんなら出て行ってもらうよ、はい、精進ラーメンとUFOラーメンお待ち。おまけで餃子ね」
───精進ラーメン、動物性の材料を使ってないって聞きますけど…
「材料は企業秘密だ。ま、そんな偉そうなもんじゃないけど」
「正直な話、私もこの精進ラーメンは気になっていまして。動物性を使っていないのにこのコク。鳥越さん、少し分けてくれま」
「嫌です」
「そんな言い切らなくてもいいと思いますけど。何かしましたっけ、私。貴方のご執心の彼女には」
「凍霧さん、代わりに餃子どうぞ。私はあまり得意でないので」
「あれ、そうでしたっけ? では有り難く。ここの餃子美味しいですよね」
「忌々しいがそれには同感だ。いらねえんなら俺が貰うぜ」
───お客さん、まだ食べるんですか? 体が資本って言ったって程々にしないと
「いいんだよ。どうせこの浮世、いつ死んじまうか、そもそも死ねるかすら分からねえんだから、好きなもんを作って好きなもんを喰う。お前もそうだろ、ラフメイカー」
「そうですねえ、欲望ってのは果てのないものですから。それを突き詰めれば、神様にだってなれるかもしれませんよ?」
「私はそこまで楽観的かつ野心家ではありません。私は貴方がたの好奇心を尊重しますが、その一方で世界の健康を重視しますし、組織や世間の調整を行う必要もある。神であろうと縛られている必要があると考えます」
「…やめやめ、ラーメン屋でする話じゃねえな。お前ら餃子寄越せ。…で、結局のところはこうだ」
───"俺達はここのラーメンが気に入ってるってだけよ"、餃子を頬張りながらのその言葉に、二人は首を横には振りませんでした
「俺んとこのラーメン気に入ってくれんのはみんな上客だよ。悪い人間かどうかは知らねえけどな」
───三人が去ったあと、店長はそう言って笑っていました
15:00
───繁忙期を過ぎたおやつの時間でもラーメン屋は通常営業。厨房には熱気が篭っています。おや、転送装置からまたお客さんが。しかもたくさん!
「まーたアンタたちかい」
「███████───」
───えっと…、なんて言ってるんでしょうか? ちょっとチャンネルが合ってませんね。準備は…、ないですか
「███、██████、██████───」
「いくら積まれたってね、立ち退きしないって言ってるんだよ。今日は特別なお客さんもいるんだ。帰るか注文、どっちにするんだい」
「…███████、███」
「はいよ、UFOラーメン五人前ね。え? ああ、豚骨はやってないんだ。悪いね」
───何とか収まったみたいですけど、店長、何だったんです?
「ここいらの第三時空領域を再開発したいってんで最近来るようになったのさ。俺たちだけの問題だったら考えなくもないんだけどね」
「█████、██████」
「だから無理だね、地球にまで迷惑かかるでしょうに。おたくらも使いっぱしりだから悪いとは思うけども」
───色々と問題があるんですね
「商売ってのはそういうもんさ。はい、UFOラーメンお待ち。いつも熱そうにしてたから冷やしておいたよ」
「…███」
「いいってことよ。注文してくれたんなら客は客だ」
───氷の浮いたUFOラーメンを腹部から体に流し込んでいく皆さん。色んな立場がありますけど大変な仕事、おつかれさまです
16:20
───外は夕暮れの気配、と、お客さんです。よれよれの白衣にぼさぼさの髪の毛に分厚い眼鏡。漫画に出てくる博士そっくり
「てんちy」
「アンタは出禁だ」
───あ、あれ? 消えちゃいました? 店長の手には何かのボタン。…すごい顔ですよ、店長。うわ、店員さんも
「アイツはね、散々迷惑行為したから出禁にしてんの。協定もないし。にしてもこの前潰したのにまた別の方法思いつきやがったな…」
「店長、一回他の皆さんに頼んだ方がいいんじゃないですか?」
「すでにやったよ、なあ、お兄ちゃん」
───よく見ると黙り込んでるお客さんも苦虫を噛み潰したような顔…
「ええ、最善は尽くしていますが…、そもそもあの男が"博士"そのものかどうかも…」
「分かってるよ。ホンット、迷惑な奴だね」
───…色んなお客さんがいるんですね
18:00
───日もすっかり暮れて、またお客さんの数が増えてきました。家族連れやカップルの姿もちらほら
「すいませーん」
「はいよ、いつもご苦労さん」
───おや、業者さんでしょうか?
「どうも、これ、伝票です。親父さん、この方は?」
「はいはい、ありがとね。ああ、テレビだってさ。うちみたいなとこ取材してもしゃあないのにね」
「そう言いつつ嬉しそうですよ。じゃ、俺はこれで…、え、俺にも聞きたい? いや、たいした人間じゃないですよ」
───いえいえ、色々な人の話を聞くだけの番組ですから。何の業者さんなんですか?
「そういや、そういう番組ありますね。俺はちょっと企業秘密ですがスープに使う果物の業者です。元々は客だったんですけど、ちょっと前職が色々ありまして」
───色々、ですか
「ええ、ちょっとした宗教組織のね、幹部やってたんですけど…。まあ、ブッ潰れちゃって。御神木も燃えちゃいましてね、仲間もほとんど捕まりましたし。幹部っても俺は大したこと知らなかったんで大人しく実家に引っ込んで、今はしがない農家です」
───それは波乱万丈な
「いやいや、大したことないですよ。流されて何となくで。…やっぱりね、自分以上の力知っちゃったらダメですよ。人には人の領分がありますから」
───寂しげに微笑んで、業者さんは帰っていきました。黙り込んでるお客さんに一瞬目を向けたような気がしますけど…
「ま、誰しも見せたくない過去や言いたくないことはあるのさ」
19:50
───そろそろ閉店の時間でしょうか、そんな中1人で食べてらっしゃる高齢の男性が
「ん? テレビの取材ですか、珍しい。構いませんよ。はあ、R.G.B.プランニング…、すいませんね、年寄りなもんで」
「何言ってんだい大竹さん。バリバリ言わせてるくせに」
「おかみさん、そりゃあちょっと語弊がありますな。もうすこし上品に食べますよ、いまどきは」
───人を食ったように笑うと八重歯が見えるご老人。でもなんでお一人で?
「いやあ、深い意味はありません。私はしがない工務店の役人なんですが、ちょっと出先でね。たまにはラーメンでも、と」
「嘘だね、ここんところ毎週同じ曜日に来てるじゃないの。どこかで可愛い女の子でも囲ってるんじゃないかって噂だよ」
「そんな噂が立ってたのか。その曜日しか都合の付かない取引相手がいるんです。それに、女性を囲うくらいなら攫いますよ」
「はは、冗談が好きだねえ」
───おっと、セクハラになっちゃいますよ?
「おお、それは怖い。今の時代、吉備真備や桃太郎より怖いのはセクハラパワハラモラハラです。くわばらくわばら」
「おーい、くっちゃべってないで早く運んでくれ」
「はいはい、あ、大竹さん。注文の追加は?」
「いや、もう結構。昔ほどバカ騒ぎはできなくなってしまいましてね。悲しいもんです、若い奴らも付き合いが悪くてねえ」
───それは…、残念ですね
「いえいえ、いいんですよ、それで。私たちは新しいものを作る立場です。それがいつまでも古い慣習に従ってはいけませんでしょう」
───新しいもの、ですか
「ええ、仕事は私の誇りです。お客さんには常に新しい永遠を。ならば私らが過去にこだわってはいけませんでしょ?」
───笑みを浮かべ、お勘定を済ませたお客さんは颯爽と去っていきました。カッコいいなあ
20:45
───閉店間際、喧騒が嘘のようにガランとした店内。黙り込んだお客さん(10人目)以外にお客さんもおらず、店員さんも掃除を始めました。もう今日はお客さん来ませんかね?
「いや、この時間だと、あの人が来るかもな。ここ最近来てないし」
───こんな時間に来る常連さんもいるんですね。…? あれ? 今までその席、誰も座ってませんでしたよね?
「あ、来てたんですか。ご注文どうします?」
「いつもので…、いや、今日はちょっと持ち帰りの気分かな。天津飯と餃子を持ち帰りでお願いします」
「はい、ありがとうございます。てんとぎょう一丁! お持ち帰りで」
「おい、今日は餃子はサービスだよ」
「あ、そうでした。じゃあ、天津飯だけでいいですか?」
───こくんと頷くお客さん。全体的にノイズが走っていて…、まるで人型の印象だけがそこにあるような
「R.G.B.プランニング…、? いえ、何でもありません。ああ、一度-2.8°の宇宙でお会いしました」
───…あれ、貴方は
「しがない科学者です。今日は+158.3°の宇宙でシガスタンに花が咲いたので、一人で寂しく祝いに。独り者の哀しみですね」
───どこかで
「ええ、どこかで出会ったかもしれませんね。ですが、このUFOラーメンは一期一会。会うことはないかもしれません」
───一期一会、ですか
「ええ。だからこそ、良いのだと思います。一度しか出会わないからこそ、その存在を忘れないこともあるでしょう」
「はい、お持ち帰りのお客さん」
「ありがとうございます。───ではまた何処かの宇宙で」
───店員さん、この方って…、あれ!?
「ミスター・犀賀 ミスター・犀賀 ミスター・犀賀 誰ですか ミスター・犀賀 ミスター・犀賀 犀賀六巳って 誰ですか ヘイ ヘイ 君だけの ミスター・犀賀を見つけたな ほんとかよ 教えてよ 犀賀六巳って 誰ですか」
「お、いらっしゃい」
───直立したサイがそこには立っていました。…え、何で?
21:00
閉店時間。最後に残ったお客さんも頭を下げながら消えた店内。私もまた録画機器を停止させ、店長と向かい合っていました。
「今日はありがとうございました。今回のテープは改めてお送りしますので」
「おう、こっちこそ」
店員さんも帰り、おかみさんも引っ込んだ店内はなんとなく薄暗くもの寂しい印象です。店長は静かに中華包丁を研いでいます。
「良い画が撮れました。これで視聴率はバッチリですよ」
「そりゃあ良かった、俺の上司も喜んでくれるよ。母星の方にも流してくれるのかい?」
「ええ、こちらの世界ですけれども」
「いやあ、嬉しいね。それで、だ」
店長がゆっくりと私の方を向きます。その大きな瞳が私に向けられました。
「アンタ、何処の誰だい」
とっさに背を翻し隠し持っていた装置のスイッチを押します。動かない。何で? カメラマンの相方も困惑した表情を向けてきます。何時から気付かれていた?転送装置から足音が聞こえます。複数。…この足音はGOCではありません。もっともGOCが此処を使用していないことは調査済みです。であれば、ここまでの装備を揃えている団体は自ずと限られます。この貴重な映像だけは死守しなければ。
「動くな」
完全に防備されていますがバイザーの向こうの瞳、最初の黒スーツの男性です。私に向けられているのは、銃器。こっそりデータを送ろうとしましたがやはり回線は切れています。万が一に持ち込んだ透過有線も物理的に切断されています。
「東弊重工を通じR.G.B.プランニングから"自社の職員を名乗る不審な人物の出現について"連絡がありました。また、日生研から"あなた"のDNA情報が秘密裏に輸送されています。これらの情報を精査したところ、"あなた"はR.G.B.プランニングの人間、すなわち此処ではない世界に由来する人間ではない。武装解除のうえ同行を命じます。先に言っておきますがこれは警告ではありません。命令です」
まだ、まだ策はあります。"模倣犯私たち"には、まだ。相方に定めていた合図を送り、ポケットの中の"「博士」のパクリ"を引き出します。
「動くな!」
もう遅い、ピンを引き抜く。これでカメラを媒介に致死ミームをばら撒きます。少なくとも機動部隊くらいなら全滅させることができる。転送装置までの距離を目測で測った私の耳に届いたのは。
『オーット! 『博士のパクリ野郎危機一髪』を引っ張ったね? ピンを引き抜くとあら不思議! 吹っ飛ぶのはお前の意識だパクリ野郎! お前には死すら生温い、ここのマジ美味いチャーハンみたいに地獄の業火に焼かれて死ね!』
すり替えられていたのか。そんなことを考えることも出来ず、私は脂臭い床の上に倒れ伏していく自分の体を感じるだけでした。
「悪いね、引き取りまで頼んじゃって」
「いえ、此方の仕事ですから。それに協定を結んでる連中の協力も…、悔しいですが」
「元上司から連絡きたときは驚いたよ。俺んとこが中立地点だからってアンタらの情報抜き出そうとする輩がいるとはなあ。アンタたち以外の常連さんにも盗んでもらったりすり替えてもらったり…、あの野郎も出前くらいは許してやるかね」
「それは…」
「いいじゃねえの、此の世は持ちつ持たれつなんだからよ、そら、座りな。働いてくれたからな、俺からラーメン奢るよ。他の常連方にもご馳走しなくっちゃだ」
「……………いただきます」
「…へへっ、嬉しいね、俺の店はこんなにも愛されてるってことさ」
「はいよ、いらっしゃい。お好きな席にどうぞ」
───一月中旬、年明けの喧騒がまだ少し残る早春。暖を求め、人々が寄り集まる場所がある
「すいません、UFOラーメン1つ」
───天空に浮かぶラーメン屋。立地こそ変わっているが、どこか懐かしい時代を思わせる店内に訪れる人々は何処でも同じ。スープの匂いに惹かれ、温かなラーメンを求めて集まる人々。今回の舞台はそんな変わっているようで変わらないラーメン屋さん。
UFOラーメンの1日にお邪魔します
「はいよ、餃子、おまけしとくね。何、気にしなさんな。その代わり」
「今後とも、UFOラーメンを御贔屓に!」