ストーカー、とかじゃないと思うんですけどね。
ちょうど大学入りたての頃だったと思います。その日はバイトがオーラスで、家路につけたのが日付変わってからでした。バイト先は寮から徒歩30分ぐらいの所で、自転車を使ってたんですけど。
漕ぎ出して何分か経って、商店街のアーケード、もう店は全部閉まって明かりも消えてる中を通ったんです。なんかトンネル潜ってるみたいだな、ってぼんやり思いながらペダル踏んで、アーケードの出口に差し掛かる所でしたね。誰かと、すれ違ったんです。すごい猫背で、アーケードに入って行くのが見えました。それと一緒に。
ずん、って。自転車に重みがかかったんです。サドルのすぐ後ろの、荷物くくったりするところ。その辺でした。2人乗り、したことあります?ゆっくり漕いでる所に、友達が巫山戯て飛び乗ってきた。そんな感じでがくん、って車体が揺れたのが分かりました。
え、って思って漕ぎながら後ろを見たんです。別に何も乗っかってないし、当然誰かが乗ってるはずもない。だけど、重いんです。ペダルが重くてうまく前に進めない。
気のせいだ、って必死に漕ぎました。何も乗ってないんだからいつも通り漕げる、もっと速く進める。そう言い聞かせて、しんどいんですけどどんどんスピードを上げて。で、曲がり角に来た時、自転車を思いっきりカーブさせました。くっ付いてるものを、遠心力で振り落とす感じで。
どしゃ、って。質量があるものが地面に転がり落ちた音が聞こえて。それと同時に、一気に自転車が軽くなりました。そこから数秒漕いだ所が寮だったんです。
自転車から降りて部屋の鍵を取り出してる間は、放心してましたね。今のは何だったんだろうと思ったんですが、やっぱり自転車には何も乗ってないんで、一先ず安心して。部屋に入って後ろ手でドアを閉めて、鍵を掛けた。
その、直後でしたね。
がちゃがちゃ、がっちゃんがっちゃんがっちゃん。って。
ドアノブが外から、何度も何度も、乱暴に回されたんです。おそらく、30秒ぐらいはずっと。
やっと静かになった玄関でへたり込みながら、思いました。部屋に入るのが、鍵を掛けるのが、その他の色んな動作が、あと1秒でも遅かったら。
多分、乗り込まれてたなって。
それからでしたね。
毎日日付が変わる頃になると、外に誰もいないのに、ドアがノックされるようになりました。
こんこん、こここここん。って。
ああ、はい。引き継ぎの話でしたよね。
すいません。これ、部屋の鍵です。