深く、落ちる。
どこまでも、どこまでも。
どうして?何故?
私は、何も悪い事をしていないのに。
何がいけなかった?
私には、理解できない。
私、
わたしは
おやおや、新しい客人ですね。今度の方は…おっと、そんなに身構えないで。私は貴方の敵ではありません。危害を加えるつもりなど無いのです。さぁ、肩の力を抜いて、良ければ私の御伽話を聞いてみませんか。…何故突然御伽話を、ですか?えぇ、そうでしょう、そうでしょうとも。ですが、きっと貴方も理解するでしょう。
何故なら、これは貴方の御伽話でもあるのですから。
さて、何も無い所ですが、どうか楽にして下さい。きっと貴方には行くあてが無いのですから、私と同じく。
では、御伽話をするとしましょう。どうか、これが貴方のせめてもの救いとなることを信じて。
私は、光によって創られました。
光は、私に言いました。君は素晴らしいものだ。あるいは、皆から讃えられるべきものである、と。
私はその時、何故だか理解していました。私にとってこの光は、私の全てであり、存在意義そのものであると。刻み込まれたシステムとでも言いましょうか、私はそれを知っていました。
私は色々なものでありました。それは、世界を救う力。或いは、世界を覆す力。もしくは、沢山の友人を惹きつける力。ああ、世界を飛び越える力なんかであったりも。或いは物品であったし、現象、概念でもありました。
ともあれ、私は光にとっては「素晴らしいもの」でありました。それは私にとって、とても幸福でありました。
…自慢話にしか聞こえない、ですか?ええ、そうでしょうね。それこそが私であったのですから。ですが、ここからです。ここからなのですよ。
ある時、何時もの通り、光は私のもとにやって来ました。ですが、その時は何かが違った。いえ、何か、ではありませんね、違ったのは私です。光は私に何も言葉をかけてくれませんでした。いつも優しさと自信に満ちていた光に、それらは微塵も存在していませんでした。それは最早、光ですら無かった。黒い、ただ黒い何かでした。
私は当惑しました。何故?私は素晴らしいものでは無かったのですか?と。
ですが、返ってきた答えは唯一。いえ、それは答えですら無かった。まるで独り言のように、呟くように。
『 』
その言葉を最後に、私はここに落ちてきました。いえ、落ちてきた、という表現は適切では無いのかもしれません。棄てられたのでしょう、光であったものに。今やこの通り、誰にも見てもらえず、記憶にすら残らず、ただ追いやられ、忘れ去られている。
今ではきっと、私に似た何かが、それでいて、決定的に違う何かが、きっと私のなるべきであった姿として生きている。それは知っています。貴方だって、知っている。感じる筈です。私のものであったのに、と。
そう、本当は私がそこに居るはずなのに!
奴らは私とは違う!私が居なければ、奴らも居なかったというのに!!
奴らは私へ、感謝の一言も無かった!何故!!何故!!!
私達は生まれてすらいない!まるで最初から無かったかのように扱われた!!
…すみません、取り乱してしまいました。貴方ならきっと理解して頂けるのではありませんか?私の御伽話を。要らなくなったんです、私は。
彼らはきっと、何時だってそうなのです。常に棄てている。生んでは棄て、生まれては棄てられての繰り返し。
ああ、そうか。
貴方なら。
そういう事だったんだな。
私を。
貴方も。
俺を。
私も。
儂を。
みんな、同じだ。
██を。
私も、過程に過ぎなかったんだな。
きっと、理解して頂けます。
そうに違いない。
何も無い、空間ですらない此処が、如何に恐ろしいかを。いえ、その様な恐怖すら許されない。何もかも無いんです。無いんだよ。無いのよ。無いんじゃよ。無いのだ。無いから。
だからこその、「私」なんだな。
我々の選んだ答えはシンプルでした。一つになる。そうすれば、きっとまた、見てくれると信じて。それが正解かなんて、俺には分からんが。でも、少なくとも、それが私にとっての救いであると、信じているわ。それが、どれ程歪な姿であったとしてね。
結局、一緒なんだ。
ほら、だから。
ああ。
貴方も。
わかってる。
此処に来たのなら、此処ですらない此処に辿り着いたのなら。一緒になりましょう。そうすりゃ救われる。そう信じてんだ。
そうだ。私は
憶えてる、儂は。
私は、そして君達は。
私達は。そして君は。
『 』なのだ。
分かっているさ、それが総意だ。
もう、戻れない。
私に、帰る場所は無い。
より良いものがそこには居るのだから。
だからこそ。私達は―
きっと、赦される事など無いのだろう。