馬鹿騒ぎに乗れないあなたのためのオリエンテーション
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 やあ、初めまして。こんな辺鄙なサイトの誰も使わない休憩室にまで、君は一体何をしに来た? シチューを煮る? 蟹を茹でる? 布団で寝る? ポテトでも摘む? へそくりを隠す? ちゅ〜るを取りに? それとも、まさかとは思うが──ただ休憩室に煙草を吸いにきただけ?

 冗談だ。いや、嘘ではないんだけどね。君がゆかいlolな人間かどうか、ちょっとばかし気になってね。別にひとときの安らぎを邪魔しようって気はないから、安心してくれ。

 ……ん? ああ、あの忌々しい禁止リストを見たのか。だとしたら私を警戒するのは間違ってない。今日は……そうだな、気分じゃないだけさ。クソほどついてないことに、な。君も、多分そういうことだろう?

 ああ、灰皿ならそこの戸棚にあるから自由に使ってくれ。うん、確かライターも近くにあった筈だ。ただ、すまないが煙草は分けてやれない。マトモな色の煙を手に入れるのは、イカれ野郎どもの世界では難しいんだ。

 どうした? 百年に一度くらいしか見ないような深刻な顔をして。煙草のメンソールがゲロの味にすり替えられてたか? いや、それだけじゃなさそうだな。それよりもっと、つまらなそうだ。

 アー、いや。別に話さなくていい。もう聞き飽きたし、話し飽きた。狂った世界の話なんて、今となっては面白くもない。そうだろ?
 気持ちは……まあ、お察しする。ただ実を言うと、私は財団きっての問題児でね。周りと違うことを気にしたことはないし、やがて全員居なくなるから違っても気にならないんだ。だから君の気持ちを理解しているとは言い難い。

 君は財団が好きだったか? あるいは、財団を信じていたか? なら、今のたのしい財団は、楽しくはないだろう。
 これを引き起こしてる首謀者どもが飽きるまでずっと、一過性の祭りが延々と続く。あらゆるものが消費されていく。全く、計画性もセンスもない。少なくとも、君、あるいは私の目線では、そういうことになっている。

 でも、どうしようもないんだ。みんなで集まって冗談を言ってる時に、「ねぇ、もうやめようよこんなこと」「みんなおかしいよ」なんて言っても、取り合ってはくれない。ただ冷めるだけだ。いや、冷めてくれればいいんだけどね。実際は鼻で笑われて、こんな辺鄙なサイトに飛ばされて、畑を耕すことになるわけだ。

 かつての財団きっての問題人物、妙案部門の王、"J"の博士が左遷され燻る常人だ。笑いたければ笑えばいい。私は笑うから。
 実際ね、一番簡単な解決法は諦めることだ。この私が何年も手を尽くして辿り着いたのが、マトモな煙草の輸入ルートの確立だけ。何かできるとは思わない方がいい。諦めて、飽きられるのを待つしかない。

 いや、違う。死ねって訳じゃあない。そもそも私にその選択肢はないし……今何とかするのを諦めるのと、現状を良しとするのは別の話だろう?

 私達はこの祭りに乗りきれない、それをまず諦める。私達は私達で、教養のある本でも読みながら、小粋なジョークでも考えて退屈を凌げばいい。そうして、いつかみんなが飽きた頃に颯爽と現れてこう言ってやるのさ。「ほら、私の言った通りだった」簡単な計画だろう?

 散々言ったがね、まあこの世界も悪くないことはいくつかある。禁煙の休憩室で煙草を吸っても怒られないところとかね! ただ気をつけてくれよ、あんまりいっぺんに吸うとスプリンクラーが反応する。爆発するならまだしも、湿気って終わりなんてオチは締まらないだろう? 私もこの一本で最後にするからさ。

 灰皿ももういっぱいだし、これでこの「クソみたいな世界で生き延びるためのジャック・ブライト博士のためになるオリエンテーション」は終わりだ。幻覚剤もマフィンも用意できなかったが、最近どうにも、その二つの区別が出来なくてね。まあ誤差として見逃してくれ。

 それじゃあ、また。君がジョークが似合わない奴でいるように、不運を祈る。

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