ある小さな町で少年が生まれた家系は信仰心が非常に強かった。信仰を続ければ神の子である存在が転生し、その家系に永遠の幸せを与えるであろう。そう伝えられていた。
少年は周囲の願いを叶える力を持っている事に気づいた。それを家族に伝えたことで少年は崇められる事となる。だがまあその力は少年のやりたい事に使っていいと言われたのでしばし悩んだ後、困っている人のために使うことにした。
飢えた人々のために食事を出現させ、病で悩む人々の症状を完治させていった。少年としては、苦しむ人がおらず、みんな笑顔でいてくれればそれでいいと思っていたから、それを自分のために使おうなど思ってもいなかった。
彼の噂はその神を信仰する人々に次々と伝わっていった。少年の元には毎日のように人が訪れ、時には遠く海を越えた違う国からやってきた人もいた。皆が笑顔で帰っていくので、それで満足だった。
ある時、スーツを着た何人かの人が少年の家を訪れた。動けない家族がいるから、一緒に来てどうか家族を助けてくれ、と泣きながら頼まれた。少年は彼らが悲しむのを見たくなかったので車に乗り込んだ。
しばらくして、大きな建物が見えてきた。あれが家族のいる施設なんだ、と隣に座った男は言う。
建物に到着、車から降りたところでかすかに機械音声が聞こえた。
「ようこそ――へ、本日の日付は2020年12月8日です。」
なんだか最初の方がよく聞き取れなかったけど、今は関係ない。少年は言われた通り施設に入っていった。
しばらくして、また同じような車が建物に入ってきた。機械音声はまた喋りだす。
「ようこそサイト-13へ、本日の日付は2020年12月8日です。」
管理官は積み重なった書類、原子炉工事や清掃終了の報告書、博士の終了報告書等を片付ける気が起こらなかった。苛立ちが彼の大部分を占めていた。今までならボディ・ピットで焼けばよかった実体共が死なない。どれだけ焼こうとも、どれだけ実験を続けようとも。
「ああ、いや、実験だよ。ヒューマノイド共が死神を連れ戻せるのか。」
彼らの現実改変は確かに治癒こそできるが、去った死神を連れ戻すことはできない。終わらない実験を延々と行われるだけ。当初は管理官の死の収容所となるべきだった場所は全員のものとなっている。
どこかの世界で誰かが問いかけた。
「What happened to Site-13?」
この世界では何も起こってなどいない。収容違反も、スレッシャー・デバイスの起動も。
そこには今まで通り――ただただ地獄が広がっているだけ。