▉月▉日 10:27
複数人の職員が食堂内のテーブルで談笑を交わしている。数分後にニケが担当している男性型アノマリーが現在収容下にない女性型アノマリーと共に現れる。アノマリー達はホットミルクと缶入りの清涼飲料水を手にテーブルに付く。女性型アノマリーはしきりに隣に座る男性型アノマリーの腕や脚について質問を投げかけ、時たま衣服を捲りあげ腕を観察するなどの接触を繰り返す。それに対し、男性型アノマリーは笑顔で対応している。
▉月▉日 20:46
夕食の時間帯を過ぎた人が疎らな食堂へ、男性型アノマリーと女性型アノマリーが現れ夕食を手にとり席につく。男性型アノマリーは女性型アノマリーへ、食事相手を自分ではなく他の職員やアノマリーにするべきだと提案するも却下。女性型アノマリーはトマトソースを取り除いたミートボールを食べ始める。
▉月▉日 9:50
男性型アノマリーが体表を毛に覆われた半獣半人型アノマリーと食堂で談笑を交わしている。半獣半人型アノマリーはポルノ雑誌を広げ男性型アノマリーに趣向を問い掛けている。内容についての詳細は不明だが男性型アノマリーは渋々と掲載されている何かを指差そうとするも、職員によって雑誌が没収される。
▉月▉日 5:19
男性型アノマリーが落ち着かない様子でメインホールで待機している。数分後、機動部隊隊員らしき人物達が疎らに現れる。隊員らを労い任務の概要について報告を聞きつつ、負傷者について執拗に問う男性型アノマリーに対して隊員は肩を叩きながら去って行く。その数分後、機動部隊の制服を着た女性型アノマリーが興奮した様子で現れる。
▉月▉日 14:05
男性型アノマリーと女性型アノマリーが食堂にて談笑を交わしている。女性型アノマリーは自身の異常性の能力と精度の向上について高揚気味に話し、男性型アノマリーはそれに相槌を打つ。異常性によって精製されたらしき花や星、コミックスのヒーローがテーブルに並んでいる。
▉月▉日 01:37
メインホールで男性型アノマリーが機動部隊隊員と女性型アノマリーを迎える。任務の概要について報告を受けた後、消沈した様子の女性型アノマリーを連れカメラ外へと消える。
▉月▉日 16:27
男性型アノマリーと女性型アノマリーが台車に乗せられた胎児型アノマリーを連れ食堂に現れる。水溶液に浸された胎児型アノマリーは接続された電子機器を用いて合唱を始める。それに対して男性型アノマリーは静かにするようジェスチャーを送るが、女性型アノマリーは合唱に加わる。
▉月▉日 21:08
メインホールで男性型アノマリーがサイト管理職員と話し合う。手にしたタブレットを険しい顔で見つめつつ何かを呟く男性型アノマリーに対し、職員は過度な心配は必要ないと伝え去る。カメラに映ったタブレットの画面にはKeterクラスオブジェクトの収容違反についての報告が示されていた。
▉月▉日 15:24
食堂の一角で男性型アノマリーと女性型アノマリーはチェスに興じている。戦歴が芳しくないのか女性型アノマリーは頭を抱えながら再戦を申し込み、男性型アノマリーはそれに笑顔で応じている。
▉月▉日 19:03
飾り付けられたメインホールで大人数の職員とアノマリー達が感謝祭を祝うパーティーを開いている。ホールの壁際で職員と話す男性型アノマリーを女性型アノマリーがダンスに誘う。男性型アノマリーは困惑しつつ、既に踊り出している職員達の中に女性型アノマリーと共に加わる。
▉月▉日 13:20
男性型アノマリーと眼鏡をかけたゴールデンレトリバーが食堂で会話を交わしている。ゴールデンレトリバーは器用に肉球でタブレットを操作し、男性型アノマリーと事務的な話をしつつ時折女性型アノマリーに関しての茶々を入れる。男性型アノマリーはそれに対して苦笑いを返す。
▉月▉日 8:30
朝食で賑わう食堂に警報が鳴り響く。職員をはじめアノマリー達も食事を切り上げ、防御隔壁が起動し始めた通路へと駆け出す。男性型アノマリーは携帯通信機を取り状況を問い合わせる。女性型アノマリーは職員達に先に行くように促しカメラ外へと消える。
──映像に乱れが発生する
同日 8:35
複数人の職員が床に倒れるメインホールへ男性型アノマリーと女性型アノマリーが現れる。侵入後、隔壁で封鎖された入口を女性型アノマリーは自身の異能で精製した光子結晶体を用い更に塞ぐ。倒れる職員の中から男性型アノマリーは生存者を探している。
──映像の乱れが悪化
──音声情報のみに切り替わる
繰り返します、こちらサイト17。サイト19、聞こえていますか?サイトが未知の事態に陥っています。収容違反または未収容オブジェクトの─…
カイン!こっちに来て!まだ、生きてる!!博士、しっかりして!!ねぇ、博士…!
…ヴァルデズ博士。あぁ、無理に動かないで下さい。
(激しく咳き込む声と不明瞭な音声)
……はい。…………はい、えぇ、分かりました。もう、無理に喋らないで。はい、大丈夫です、博士。
カイン……?博士は…?ねぇ、カイン?
博士は……。
そんな……ッ!何が、何が……起きているの?
……分かりません。博士は逃げられない、見えないとだけ言い残された……実体のない何かが来ています。サイト19とも連絡がつかないのですから、事態は深刻でしょう。とにかく、私はともかく君を助ける手段を考えなくては…
見えない何か…?現実改変者?それとももっと違う何かって事なの!?私達も、死んじゃうの…!?
それは今の状況ではどれとも言えません。オブジェクトの数は膨大です。私にバックアップを許されていない最高機密オブジェクトもあります。収容違反に巻き込まれているのか、新たな異常に襲われているのか、それとも財団外の脅威なのか……どれだとしても私達は、追い詰められているのです。落ち着いて考えるんです、レオラ。私達に出来る最善を。
(何かを叩く様な破裂音)
うん、うん……分かってる、落ち着く……落ち着くわ。私は、機動部隊α-9の、メンバーなんだもん…大丈夫。
…口を切ってるじゃないですか。ですが、その調子です。これから私が言う事を手伝って下さい。
もちろんやるわ。何かをしてないと、怖いし…
ありがとう。早速ですが彼らの死因を凡そでいいので検分して下さい。傷口があるなら形状から凶器を推測出来ますね?
……たぶん、いえ、大丈夫。出来る。前にジョナサンから習ったから。
では君は女性達を。亡くなっているとは言え…まだ温かな彼女達に触れるのは気が引けるので。私は男性職員達を見ます。
了解、任せて……
(何かを引き摺る音)
(衣擦れの音)
……全員で25名
…ねぇ、もしかして生き残ってるのは……私たち、だけ、なの…?
いえ、まだいるはずです。彼らは西棟の低収容度施設の職員達ですから、東棟の職員達はいるはずです。…もっとも、逃れられていたらの話ですが。
……っどうか、無事でいて…
今は無責任な事は言えません。ですが、ここにいる人間はみな未知を扱う財団の人間です。危機に対する備えはあるはずです。そして、覚悟も。
…うん……うん。そうね…
レオラ。悲しむのは事態が落ち着いてからにしましょう……
(鼻をすする音)
うん…分かってる。
…状況を整理しましょう。まず、第一に私達は陸の孤島と化したサイト内に取り残されています。これは過去にも類似の事案があります。第二に脅威を齎している物の正体が私達には分かりません。
いつもの事じゃない…
ええ、その通りです。財団は未知の異常を収容する機関ですから。ですが、第三に上げる点は君と私の生死に直結することです。君も遺体を見たね?彼らは皆一様に無傷で倒れていました。ですが…
目が、潰れてた。
ええ、まるで内側から破裂した様にです。
…身体の中に入ってくる何かって事?
その通りです。内部から人体を破壊する目に見えない何、か…ぐっぅっ…
どうしっ……!!
(呻き声)
(何かが倒れる音)
(荒い呼吸音)
ッ……ぅ、あっ……がっぁ、ぁ……レオ、ラ
あ゙ぁっ…ぁ、あ゙ぁ゙ぁ……!いや、いたぃ……いたっ…うぅ…げぇ!…ぁ゙っ、はっはぁ……たすけ、て…いゃ、いや゙だ
(床を這う音)
うっ……ぐぅ、ぁっ……レオラ、レオ、ラ…しっかりしろ!っ…ぐぁあ゙ぁっ……はー…はー…レオラ、私が、分かる、か…?
ぁっ……あ゙ぁっ……
……っ!レオラっ……!!私だ、カインだ…!
……ぁ、がぁっ……い、ん…
(何かを引き摺りながら床を這う音)
はぁ゙っ……はぁ、ぐぅっ…!
レオ、ラ…息をし、て……ゆっくりでいい…
レオラ…レオラ……まだ駄目だ…主よ…!主よ!!どうか、この子を……!この子を救ってくれ!!この子は、あなたの仔羊ではないのか…!
(解読不能な言語による絶叫)
……っ、ぁ゙……
レオラ……
(荒い呼吸音)
(不明瞭な音声)
……っ…………そんな、願い……私には、無理だ……
うっぐっ……ゔぅ゙……!!
(激しい嗚咽音)
──音声が途切れる
──約二週間分の無音データが続いた後、映像が回復する
──腐敗し液状化が進む遺体の山と同じく腐敗が進んだ女性型アノマリーだった物を抱き抱えたまま、黒く霞がかる程のナノマシンに群がられる男性型アノマリーが映る
──傍らには倉庫内に収納されたタブレットが沈黙している
(虫の羽音に似た音声)
(不明瞭な呻き声)
──映像が途切れる
──画面の端で明滅する日付はアンドロイドがサイトを掌握した日時を示していた