by stormbreath

Nx-28内の旧ホテル、現在は廃墟。
ネクサス番号: Nx-28
民間呼称: ブロークン・ヒル
人口: 562
エリアクラス: Briar
対ネクサス・プロトコル: 前哨基地-86がNx-28のコンビニエンスストア1に偽装され、その地下室に小規模な作戦施設が密かに設けられています2 — 全ての機密資料と業務は、この前哨基地-86の下半分で保管・実行されます。
前哨基地-86は、財団における訓練の最終段階、特に死後関連のアノマリーを扱う実地訓練に適した低リスクエリアに指定されています。合計6名の職員が1年交代で勤務し、配属中は現場での実地体験を積むと共に、遠隔研修を受けます。
Nx-28の町民は当地の異常な影響力を認知していません。ブロークン・ヒル鉱山は、Nx-28自治体へのロビー活動を通して1962年に閉鎖されており、今後も操業を再開する予定はありません。このため、町民たちがNx-28で異常現象に遭遇する可能性は低いと見做されています。
収容施設: 前哨基地-86
説明: Nx-28は西オーストラリア州のかつての鉱山町です。州都パースからは約537km離れており、人口希薄地帯であるアウトバックの中ほどに位置しています。1890年の設立から1914年までは、Nx-28は西オーストラリア州で最大の町の1つであり、金及び銀の主要な産出地として注目を集めていました。しかしながら、金銀の埋蔵量はすぐに枯渇し、町は放棄されました。
Nx-28はブロークン・ヒル鉱山に因んで名付けられましたが、この鉱山自体は採掘に際して地面に残された巨大な裂け目が名の由来となっています。ブロークン・ヒル鉱山はNx-28における最大の鉱山でしたが、町外れにも5ヶ所の小さな鉱山がありました。ブロークン・ヒル鉱山はこれらの中で最も長く操業を続け、1913年まで枯渇しませんでした3。現在、ブロークン・ヒル鉱山はNx-28の異常性の発生地点です。
Nx-28は現在、ブロークン・ヒル鉱山の内部で死亡した人物ら4に関連する総数348体の死後ベクター5の所在地となっています。これらの死後ベクターはブロークン・ヒル鉱山から退出することが可能ですが、通常は鉱山内に留まっています。
ブロークン・ヒル鉱山自体もユークリッド幾何学に適合しない可変性の地形を有します。閉山以来、鉱山内のトンネル網は大幅に拡張されています。鉱山内には現時点で2,000km以上の坑道があると推定されます — 物理的には不可能であるにも拘らず、これらのトンネルは全てNx-28の地下に収まっています。全ての拡張工事は死後ベクターの手で為されたものです。
補遺A: インタビューログ N-28-348.1
インタビューログ書き起こし
質問者: グレイ次席研究員
回答者: UAE-28-3486
日付: 1986年6月6日
グレイ次席研究員: こんにちは、博士、お会いできて光栄です。あなたは特に問題なく前哨基地-86に入れるのですか?
UAE-28-348: いいや、博士ではない。君は私の呼称番号をもう知っているね?
グレイ次席研究員: えー、はい、その… “UAE-28-348”です。
UAE-28-348: そう、その通り。ならばそれが今の私だよ。そう呼びたまえ。それと、私の話は後回しにしよう。最初に着手するのは、本来のアノマリーについての議論であるべきだ。
グレイ次席研究員: そうですね… ええと…
グレイ次席研究員はデスクの上の書類をガサガサと動かす。
UAE-28-348: まずは大雑把に始めよう。漠然とした質問をするだけでいい。話すのはほとんどアノマリーに任せ、必要に応じて質問するように。
グレイ次席研究員: 分かりました。では、あなたはブロークン・ヒル鉱山内にいる他の死後ベクターとの交流がありますか?
UAE-28-348: その用語を理解できるのは私だけだろうな。他の幽霊相手にその話し方ではマズいぞ。
グレイ次席研究員: あなたはブロークン・ヒル鉱山内にいる他の幽霊たちとの交流がありますか?
UAE-28-348: ああ、ある。全員、元々の鉱山で働いていた鉱夫だが、誰一人として採掘を諦めていない。皆が皆、金を掘り当てようとしている。
グレイ次席研究員: まだ採掘を続けている、と?
UAE-28-384: そうだ。トンネルは全てそうやって掘られた。
グレイ次席研究員: ですが、鉱山はもう何十年も操業していませんよ? 無駄な石材は何処へ消えたのですか?
UAE-28-384: 良い質問だね。正直なところ、私にも彼らが岩をどう片付けているかよく分からないが、とにかく決して終わらない。近々、その疑問に答えられるように、採掘作業を間近で観察してみよう。
グレイ次席研究員: そうしていただけると大変助かります。
UAE-28-384: おいおい、君は私に助言する立場だよ。
グレイ次席研究員: 何故彼らは未だに採掘を続けるのですか? 数十年前の事だというのに。
UAE-28-384: 全ては、彼らがこの町に来たそもそもの理由と関係がある。彼らはゴールドラッシュの頃、一獲千金を狙ってやって来た。しかし、ここら一帯の土地は全て鉱山が所有していたし、最初の数年が過ぎると地表ではほとんど金が取れなくなった。だから彼らは鉱山で働き始め、それで終わりだった。
グレイ次席研究員: 全員、あなたと同じように、鉱山で死んだのですか?
UAE-28-384: その通りだよ。ブロークン・ヒル鉱山はこの町にある6ヶ所の鉱山で最も死者が多かったが、私の知る限りでは、ファクトリーとの間で何らかのやり取りがあったらしい。確かなことは言えないがね — 鉱夫たちが一度か二度、話のついでに触れた程度だ。
グレイ次席研究員: どの工場ファクトリーですか?
UAE-28-384: ああ、そうか、必ずしも情報が開示されているとは限らないな。要注意団体の1つ、異常な工場だ。率直に言って、名前が示す以上の組織ではない。
グレイ次席研究員: 成程。
UAE-28-384: 死後ベクターたちが定着している理由とも繋がりがあるかもしれないが、確証はできない。私自身はファクトリーと全く関わりが無かったし、他の来訪者たちもそうだった。この世に未練があるだけなのだと思うね。
グレイ次席研究員: 他の来訪者とは、3体の外れ値ベクターでしょうか?
UAE-28-348: ああ。廃坑で金が見つかると思い込み、ここを訪れた3人の不運な連中さ。揃いも揃って、腕の良い探検家ではなかった。全員死んで、鉱夫たちの仲間入りをした。未だに掘り続けている。
グレイ次席研究員: では、あなたの未練は?
UAE-28-348: 専ら学問的なものだと思う。取り組んでいた幾つかの論文、死後アノマリーの統一理論… ああ、ここの職員の訓練もかな。
グレイ次席研究員: あっ。お引止めして申し訳ありません。
UAE-28-348: もし私が留まっている理由が君なら、そう長くうろついている必要は無さそうだね。君は私抜きでも立派に仕事をこなしている。
グレイ次席研究員: ありがとうございます。
UAE-28-348: ところで、他に訊きたいことはあるかな? 鉱山について、という意味だ。
グレイ次席研究員: あとは既に知っていることばかりです… あなたの死は触れ辛い話題ですし。
UAE-28-348: ああ、しかしこのインタビューは君のためかい、それとも財団全体のためかい?
グレイ次席研究員: そう、そうですね。あなたが死亡した際の状況を教えていただけますか?
UAE-28-348: 私は独力で鉱山を調査していたんだ。酸素は持参したとも、鉱山の下調べで必要だと分かっていた。しかし、私は入り組んだ坑道で道に迷い、酸素が尽きてしまった。そこから思い出せるのは… 自分の死体の横で目を覚ましたことだけだな。
グレイ次席研究員: 申し訳ありません。
UAE-28-348: いやいや、むしろ私が謝るべきなんだ。私の不注意でこうなってしまったのだから。
グレイ次席研究員: あなたは… 死後ベクターになっても平気なのですか?
UAE-28-348: 全体として? そんなに悪くない。Nx-28からは離れられないが、もう体調を心配する必要はない。明晰な精神を保っていれば、他のベクターたちのように発狂することもないはずだ。そのためなら、いつでもこのデーリーズ・ステーションに来られるしね。
グレイ次席研究員: 少しでもお役に立てれば嬉しいです。
UAE-28-348: 私もだ。
後記: グレイ次席研究員は1992年、UAE-28-348の支援を受けて、死後学の財団博士号を取得した。UAE-28-348は当初予想されたように消失せず、代わりに前哨基地-86に留まって、更なる財団博士号志願者の後援を続けることを選択した。