「死体を分けてくれないか」、私にエージェント・ヤマトモがそのような声をかけてきたのは今から丁度1週間ほど前だったように思います。当時私は溢れかえる豚……失礼、大和博士の死体の処理にてんてこ舞いでしたので、彼が分けてほしいというのはその死体だろうというところに思い至りました。が、何故このような死体を分けてほしいというのか私には理解ができませんでした。その点を問い詰めようかとも思いましたが、当時は一つ処理したと思えば死体が新たに二つ見つかるような、そんな忙しさでしたから、手伝ってくれる人間が増えるのであればそれでいいと大和博士の死体を渡してしまったのです。その後手の空いた時に質問してみましたが、彼は「ちょっとな」と言うばかりで多くは語りませんでした。
そして話は先日の事件に繋がるのです。暫くの間私は大和博士の死体をエージェント・ヤマトモにある程度渡してきた訳なのですが、やはりあれほどの死体を分け与えてほしいなど怪しいと思い、ついにかのエージェントの後をついていったのでございます。何かあったときの護身のため、イトクリよろしく金槌を懐に忍ばせて。エージェント・ヤマトモが死体を持ってたどり着いたのは彼が財団に所属する前に用いていたと聞いたことのある拠点でした。私は用心しながら彼に続いてその拠点へと入っていきました。鍵はかかっていませんでしたので、恐らくは私の追跡に気付いた上でおびき寄せたのだと今は考えています。もしかすると私はその時すでに"例のアレ"の効果にやられていたのかもしれません。
エージェント・ヤマトモの姿を見つけることは容易でした。彼は居間において、ソレの世話をしていたのです。見た目は小さな石のようでしたが、人間のような大きな口のついた……SCP-617でしたか、ソレに大和博士の死体を細かく切り刻んだモノをエサとして与えていたのでございます。室内は血の臭いで充満していましたが、その時エサにしていたモノの他に死体は見当たりませんでした。……暫くするとエージェント・ヤマトモはこちらを向き、大きく口で弧を描きながら私を呼び寄せました。不用心なことですが私はソレに応じ、彼に近寄ったのでございます。彼は誇らしそうにそのオブジェクトを自慢しておりました。「俺に似て可愛いだろう」、などとおっしゃっていたように思います。それに合わせるように石が一言呟き、それを聞いて私は……
彼の頭を隠し持っていた金槌で殴ったのでございます。Pクラス記憶処理を施すときのような手加減は一切加えず、何度も何度も彼の頭を殴り続けました。……気が付いたときにはすでに彼は息絶えておりました。頭の形は元の形状を保っておりませんでした。その死体を見て、私はエサやりをしなければ、と思ったのでございます。私はエージェント・ヤマトモの死体をSCP-617にエサとして与えてしまったのです。とは言うものの、彼の四肢は義手義足でございましたから、オブジェクトは決して満足してはおらぬようでした。私は続いて残っていた豚の死体をソレに与えました。そしてそれも無くなってしまうと……今度は私の四肢を奴に与えたのです。外科手術はイトクリの専門分野でございますが、私もなぜか出来たものですから、彼が死体を切り分けていた刃物を用いて右脚、左脚、左腕、右腕と、次々にエサとして与えてしまいました。エージェント・ヤマトモの義手義足がその場に残っていましたので、それを適宜私の体に取り付けながら。
そして後は、皆様の知る通り、私は駆けつけた機動部隊員によって取り押さえられました。イトクリが財団に残っていたのは不幸中の幸いといったところでしょうか。彼が私の影響を受けておかしくなっていなければ、私は今頃何をしていたことか……私が語ることが出来るのはこのくらいでございます。後は如何様にも。宜しくお願い致します。
オダマキ納棺師およびイトクリ外科医はSCP-617の影響に曝されたことを鑑み、少なくとも3年の拘束、その間Eクラスに降格処分とする。 -吹上人事官