ODSS OneShot part5
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「なァ、イヴァノフさんよ。冷蔵庫に入ってる瓶の中身、実は私のもんじゃねえか? 」
 
「それを飲むのはお勧めしないね西塔君。とても旨いがとても臭いジョージアのワインだ。」

 
20██年 ██月██日 都内某所 政治局行政監督部局長代理 エージェント・イヴァノフ 
  
  
「こんばんは、イヴァノフさん。お隣、失礼しても? 」

没個性的な顔の女が形式的に質問しつつ、既にイヴァノフの隣席に座ろうとしていた。
 
都内の雑居ビル3Fに居を構える、看板のないバー。怪しげな経営方針とは裏腹に暴対法含むあらゆる犯罪と無縁な酒場。ここへ月に二回ほど顔を出すのが、エージェント・イヴァノフの習慣だった。
 
スパイや情報屋は行動を規則的にすべきでない、というのは最早一般人でも知っているセオリーである。しかし最低限のアクセスは残しておく必要がある。吉報であれ、凶報であれ――尤も後者が大半ではあるのだが──報せを受けるためのルーティンを残しておくのも、また一つの選択であった。何より彼はこの酒場で、名も知らぬ、趣味の合わない古いジャズを聞き流す時間が好きだった。
 
いつの間に注文したのか、女の前にマティーニが差し出され、店主はカウンターの反対側の端に移動し、グラスを拭き始める。
 
「ボリス・ハルコフを覚えていますか? 」
 
女は唐突に、古い知人の名を口にした。驚きを隠せたか確証が持てず、すっかりかさの減ったジンを舐めた。氷が白々しくからり、と音を立て、冷静さの表明に失敗した事を雄弁に歌った。
 
女が名刺を差し出す。伊藤 花子。確実に偽名であろう没個性的な名前の横には、「ロシア大使館」とだけ所属が記されている。
 
「あなたの今所属する組織……財団、でしたか。そちらの日本支部へロシア製兵器及び弾薬を『輸出』する担当者であり、あなたの元戦友。」
 
女は画質の悪い写真を見せる。最後に会った時より老け込んでいたが、確かにボリスのそれであった。
 
「あなたはロシア支部時代、極東へ出向していた彼と共にロシアのブラックマーケット……まあ言ってしまえば軍の横流し品から、良質な兵器弾薬を日本支部へ効率的に流すシステムを作り上げた。口の軽い人間はどこにでもいる。いつしかそれは司法、悪人、双方から『イヴァノフ・ルート』とまで呼ばれるようになる。」
 
名も知らないジャズが終わり、店主が新しいレコードに針を落とす。女がカクテルを嚥下する音が聞こえる気がした。
 
「知っての通りボリスは野心的な男です。彼の商売はとても上手く行った。中央の影響の少ない極東の警備隊、第38独立水域警備艦大隊。そこの特別顧問として所属し、資金源としての頭角を現しました。最近では一隻の商船を任され、財団との洋上での取引を行った後も公海上に停泊し、日本国内の犯罪組織と麻薬など非合法物品の取引も行っています。」
 
「何を望む。」
 
イヴァノフは無名の女に向き合い、問う。
 
「二日後、厚労省はマトリと海上保安庁混成のJTFがボリスの船を押さえます。あなたは彼らが船を押収する前に、船員を全員無力化して下さい。」
 
「こちらが得るものは。」
 
「厚労省も海保も、内部に財団職員が紛れ込んでこそいますが、財団と主要なパイプを持っているわけではない。抑えた船舶に生存者がいれば、『俺たちは財団と取引をしていただけだ』と口にする人間が必ず出ます。後始末が多少面倒なことになるでしょうね。」
 
女はマティーニのオリーブを噛みしめ、オリーブを貫いていた串を指先でくるりと弄んだ。
 
「使用火器と弾薬はこちら持ち。『ロシア人同士の仲間割れ』に見えるよう留意する。」
 
イヴァノフの言葉に、満足した様子で無名の女はうなずき、座標と、統合部隊の到達日時の書かれた紙を差し出し、一万円札をテーブルに置いて席を立った。
 
「旧友との再会を楽しんで下さい、『同志』イヴァノフ。」
 
去り際、不必要に流暢なロシア語で女が言う。
 
「君と僕は『同志』ではないよ、『知り合い』さん。良い夜を。」
 
ドアが閉まる音が返ってくる。
 
「キープボトルがまだ残っています。」
 
店主が言う。
 
「ありがとう。グラスだけ頼む。」
 
眼前に空のグラスとヴォトカの瓶がことり、と音を立てて置かれる。視線の端、腕時計の短針は1を指そうとしていた。
 


 
20██年 ██月██日 公海上 コンスタンティ・イヴァノフ
 
 
日本支部保有の民間ヘリが貨物船上にホバリングしている。ヘリからはワイヤが垂らされ、貨物船上の小型コンテナに接続される時を待っていた。
 
サーチライトを照らし轟音を立てるヘリが舞う夜の海上。海面にひとつ人影が浮上しても、気付く人間はいなかった。
何より、まずは目標の船舶とのランデブーに成功したことに、イヴァノフは安堵する。
 
海保マトリ統合部隊の襲撃時間が日本支部の物資受け渡し時間の1時間後であったのは決して偶然ではないだろう。それは財団の内部にロシアか、あるいは厚労省、海保のどれかと繋がっている内通者が存在する事を示していたが、今はそれを考えるべき時ではなかった。
 
ボンベのレギュレータを吐き出し、船尾へと泳ぐ。ボリスが私物化している小型のコンテナ船は艦橋が後方にあり、今日本支部への受け渡し作業をしているのは前方甲板だ。後部甲板に乗り込むことができれば、艦橋、そしておそらくその下部にある居住区角を制圧する足掛かりになるはずだった。
 
炭酸ガス式のフックランチャーは三回の射出に耐えるだけの性能を有していたが、幸い一度の射出でワイヤーが固定された。ほぼ垂直のワイヤを登攀するという技術の行使ははるか昔受けた山岳部での訓練以来であり、実戦で用いるのは初めてであったが、想定していたほど難儀なものではなかった。
 
イヴァノフは甲板に飛び乗りつつMP-412回転式拳銃を抜き、ハンマーを起こしつつ周囲の安全化を実施する。眼前にそびえる小さなビルのような艦橋。ちょうどその裏側。船員の死角に潜り込めたらしく、人気は無い。しかしおそらく前方甲板での作業も佳境だろう。急いで装備に取り掛かる。
 
ボンベ等のダイビング用資材を外し、海上に投棄。背負っていたバックパックを開封する。密閉は十全であったらしく、水滴一つ付いていない今夜の得物が、ありもしない光源を浴びて光ったように見えた。
 
一見してカラシニコフ小銃に見えるその銃は、実のところ散弾銃であった。
 
サイガ12。ロシアのイズマッシュ社が開発した、言うなれば「カラシニコフ式」のセミオート式散弾銃である。一般的な散弾銃の持つチューブ・マガジンではなく、カラシニコフ小銃と同じくボックスマガジン給弾を採用しており、大容量の弾倉を素早くロードすることができる。信頼性も高い。何より他のAK小銃と取り扱いが同じというのが良い。
 
イヴァノフは法執行機関向けの短銃身、直床式銃床モデルに大型の箱型サウンドサプレッサーを装着していた。民生品の10発入りロングマガジンを使用し、機関部のサイドマウントを介してEO-Tech製ホログラフィックサイトを搭載している。不測の事態を想定し、装備品はすべてロシア製であるべきだったが、ロシア軍及び政府機関の戦闘員は多くが私物の西側製光学照準器を使用しており、万が一武器が痕跡として残る事があったとしても問題は無いと思われた。銃身周りに投光器のたぐいを配置することをあまり好まなかった彼は、フォアグリップを既製品のまま使用していた。やや細身のフォアグリップはむしろ彼の大きな掌でCクランプによる保持をしやすいよう設計されているかのようであった。バックアップ用の大口径フラッシュライトはサイドマウントの側面に配置し、夜間戦闘における万一の際、目くらましとして威力を発揮するだろう。
 
サイドアームのMP-412リボルバーもホルスタに収まっていた。357マグナム弾を投射できるロシア製回転式拳銃を懐刀に選択したのはアーマーを装備した敵との交戦を想定した結果であり、また最も手に馴染んでいる火器だからでもあった。弾薬の.357実包は敢えて低質量高初速弾を選択し、使い勝手とアーマーの貫徹能を優先していた。
 
財団のヘリが傾ぎ、コンテナをぶら下げて飛び去るのを見届ける。時刻は23時の半ばを過ぎていた。後30分で、船内の元、あるいは現役ロシア軍人を掃討せねばならない。
 
艦橋の影から姿を現す。前方甲板の連中はこちらを見てぼんやりとしている。無理もない。黒いウェットスーツにチェストリグを着て散弾銃を持つタイプの船幽霊など、恐らくは今日、この怪談が初出なのだから。
 
「お化けの時間だぞぉ、坊やたち。」
 
前方甲板には5人居た。5発のバックショット弾が音もなく発射され、五個の骸が残った。
 
水密扉を開け、イヴァノフは艦橋へ入った。
 
上と下に続く階段が見える。上層が艦橋内の居住区と操舵室、下層が貨物室及び機関室と思われた。まずは上層階を制圧する。目の前の開け放たれた扉をくぐると、食堂らしき部屋に出た。複数並んだテーブルの一角で、酒を飲みながらトランプをしている三人が、三発の散弾で吹き飛んだ。
 
念のため厨房もクリアするが、人員無し。使用している形跡が見られず、保存食や冷凍食品のたぐいで食いつないでいるらしい。コック役を殺さなくていいことに若干の安堵を覚えた。
 
2階と3階は居住区角のようだった。刺客を認めた船員が敵襲を報せ、船内に警報が鳴り響いた。私物と思われる9mm拳銃、様々な口径のカラシニコフ、散弾銃を用い、船員達は最大限に抵抗して見せ、確かに現役ないし元軍人である事を戦闘技術で示していた。イヴァノフは技術で語ることができる人間には敬意をもって接するべきだと考えていた。飛来する拳銃弾には銃床の打撃で答え、壁越しのライフル弾には破片手榴弾で応じ、散弾の雨は倍の投射量の散弾で返した。
 
果敢にも骨董品の水平二連散弾銃で抵抗していた最後の水兵が倒れる。居住区角は沈黙した。
 
4階。操舵室に着いた。これまで殺害した人間の中にボリスはいなかった。彼奴がいるとしたらここである。これまでの掃討にあたり悲鳴と銃声が山ほど響いた。おそらく反撃があると見込まれるが、水密扉はこれ見よがしに開いている。
 
先手必勝。日本語のことわざのうち、彼が最も好むものであった。ロシアの格言は慎重さを重んじすぎる。きっとボリスもこのやり方を好むだろう。そう考えながらイヴァノフは閃光音響手榴弾を二つ、操舵室内に放った。投げ返してやろう、という小賢しいアイディアを封殺するため、これ見よがしに消音器の付いていないMP-412を出入り口に向けて続けざまに発砲する。
 
二つの爆発音を確認し、操舵室内に入り、伏せている人員へ生死を確認せずに散弾を打ち込む。抵抗の意志が残っているかを見極めるなどといった余計な判断にリソースを割くことは反撃を招くという事を彼は知っていた。無力化してから考えよ。
 
バシュ、バシュ、バシュ。
 
水鳥を撃つ空気銃よりも無遠慮に、サイガ散弾銃は己の自動給弾の信頼性を証明していく。
 
バシュ、バシュ、バシュ。
 
誰の為の禊なのか。何の為の汚れ仕事なのか。思案するには室内の掃討はあまりにスムーズ過ぎたようで、気付けば、艦橋内に生きている人間は二人だけだった。
 
「ボリスがいないようだ。乗船していないわけじゃあるまい。どこにいるか知っているかね、水兵。」
 
20代に見える短髪の航海士に、イヴァノフは問う。
 
「いいい言えねェ! じゃない! そう、ボスは今日は、今回の航海ではこの船に乗ってないんだ!」
 
「ふむ。そこまでボスが恐ろしいかね。尊敬と畏怖は紙一重ではある。」
 
水兵の左手首が散弾で弾けた。
 
ああ、ああ、と悲鳴も上げず狼狽える水兵の腕をイヴァノフは掴む。
 
「落ち着け。止血してやる。さて、迫りくる自身の死と上官、どちらが恐ろしいかをよく考えるんだ、青年。ボリスはどこかね。」
 
若者の上腕部に止血帯を締めながら、イヴァノフは問う。
 
「ボスは…機関部の空き部屋で寝てるんです……。そこが、そこだけが安心できるんだって。俺らも良く知らなくって……。」
 
泣きそうな声で若者は説明した。
 
「案内を頼めるか、『友人』。ゆっくりでいい。」
 
よろよろと若者は階段を下りてゆく。追従しつつイヴァノフはリボルバー拳銃をブレイクさせ、新たな弾薬を回転式弾倉に送り込み、拳銃をホルスターに収めた。艦橋1階まで下りてさらに下へ。急な階段の先に開いた水密扉の向こうは機関室のようであった。先行する青年の背中を蹴飛ばす。階段下へと転げ込んだ青年が機関室内からの銃撃を浴び、ばたりと倒れこむ。やはり待ち伏せがある。
 
睨み合いの時間を作るのは聡くない行為に思えた。イヴァノフは手持ちの破片手榴弾全てを機関室内に投げ込む。轟音が室内に爆風と破片ライナーの嵐に包まれた事を示す。機関室の中央には大型のエンジンが鎮座しており、その周りをぐるりと囲むように通路があり、概ねその四隅に4つの人影が倒れていた。機関室要員兼戦闘員と見積もられる、その一人ひとりのバイタルゾーンに射撃したのち顔を検めたが、いずれもボリスではなかった。
 
閉ざされていた最奥の水密扉のハンドルが音を立てて回り、イヴァノフは銃口を指向する。ぎしぎしと錆を撒きながら回転していたハンドルがぴたりと止まり、向こう側から蹴破られる。
 
「誰かと思えば、イヴァンじゃあないか! 俺の船へようこそ! 」
 
全身にアーマーを纏い、フルフェイスの防弾ヘルメットを被ったボリスが、腰だめにしたRPK機関銃をイヴァノフへ掃射する。イヴァノフは後退しエンジンの影に身を滑り込ませ、弾倉を交換する。
 
今まで撃ってきた通常の鹿撃ち弾ではアーマーを抜くことができない。今装填したビニールテープで印の付けられた10発入り弾倉の中身は「マグナム・フレシェット」。イヴァノフ自身がロードした特殊散弾である。強装薬によって打ち出された初速マッハ1.5の鉛弾芯フルメタルジャケットのダート弾は、GOST規格でレベル4までの防弾資材を貫通することができるという事をイヴァノフ自身がテスト済みであった。
 
イヴァノフは顔と銃のみ物陰から突き出し、機関銃を腰だめに構えたまま鈍重に歩んでくるボリスのバイタルゾーンへと全弾打ち込んだ。胴体のアーマーは6B23ボディアーマーのように見えた。防弾素材が鋼鉄のタイプとセラミックのタイプが存在したが、いずれもレベル4防弾性能以下。十分に効果があるように思われた。
 
「効かんねェ、イヴァン! 俺を犯したきゃDshKでも持ってこい! 」
 
機関銃の雨が返ってくる。防弾プレートを最新の複合素材にでも換装しているのか全く効き目がない。恐らくGOST規格レベル5以上の防弾性能の守り。手足に纏った防弾プレートも恐らく同程度のアーマーと見積もられた。何より手足の一本が飛ばされたところでこちらに突進してくるような男だ。
 
サイガ散弾銃のエジェクションポートの前方、一発だけ固定されている散弾を見やる。保険のつもりだったが、どうやらコレが必要な局面であるらしかった。
 
エンジンを挟んで対角線上にいるボリスの方から手榴弾が飛んでくる。窮地であり、好機であった。
 
エンジンを囲む手すりを足掛かりにイヴァノフはエンジンに飛び乗り、反対側のボリスの頭上に躍り出る。勢いのままイヴァノフが繰り出した蹴りで双方体勢を崩したが、わずかにイヴァノフが起き上がるのが早かった。
 
弾倉を捨ててボルトを引き、「とっておきの一発」を手動で排莢口から薬室に送り込む。フラググレネード弾。
炸薬が込められた、本来は離隔したドアをブリーチするための弾頭を、イヴァノフはボリスのLynx-Tヘルメットのフェイスガードに撃ち込んだ。
 
頭部を抱えて悶絶するボリスを見届けずに、イヴァノフは敵の懐に入り込む。RPK機関銃は担い手の人さし指の荷重に応え7.62x39mm弾を吐き出したが、イヴァノフが左手で機関部を抑えていたため、船室の壁に空しく穴を穿つのみであった。
 
イヴァノフはMP-412拳銃を抜く。アーマーの防弾板の境目、胸部と下腹部の間に銃口を密着させる。6B23アーマーは防弾部位以外もケブラーで構成されていたが、回転式弾倉に収まる357マグナム弾にとって、その装甲の貫徹は紙を穿つことと何ら変わりのないことであった。
 
全弾、6発。壁にもたれているボリスの腹部に全て撃ち込まれた。悲鳴どころかうめき声も上げない。タフな奴だ。何も変わっていない。あの戦場にいたころと。
 
「あァ、息苦しくてかなわん、こんなもん着てないほうが良い勝負ができた、そうだろ、イヴァノフ。」
 
ボリスは鋼鉄製のフルフェイスヘルメットを脱ぎ捨て、問うた。欠けた前歯、似合わないのに伸ばしている髭、ジョージアで最後に見た時と何も変わらないが、確かに年老いていたかつての戦友だった。
 
「ああ、昔のようにシャツだけ着てマチェーテを振っていれば良かったんだ。俺を三人は殺せただろう。」
 
イヴァノフは弾を全て投射し銃口から煙を吐くばかりになった拳銃を引き続きボリスに指向しつつ答えた。白髪交じりの頭髪、切れ長の目。その目じりのしわが多く、深くなっている事に、ボリスはヘルメットを取り払って初めて気が付いた。
 
「俺の部屋にグルジアのワインがある。冷蔵庫の中だ。持ってきてくれないか。」
 
イヴァノフはボリスのいた部屋に入る。錆びついた壁、錆びついた天井、錆びついた冷蔵庫。その中からワインの瓶を取り出す。傍らにあった薄汚い小柄のグラスを二つ手に取り、レザーマン製多目的ツールのペンチ部でコルクを抜き、ボリスの元へ戻る。
 
「グルジアのワインだ。全く俺らの口には合わない。そう思わないか? 」
 
イヴァノフはそう言いながら遥かなる東欧のワインを舐めた。
 
「夜の日本海はグルジアの森を思い出しつつ酒を飲むにはあまりに遠い。そう、思わないか? 」
 
イヴァノフは戦友に問いつつ、空になったグラスをワインで満ちたままのグラスの隣に置いた。
 
「さよならだ、戦友。俺も今後は口に合わないグルジアのワインを冷蔵庫にストックしておくことにするよ。」
 
立ち上がったイヴァノフの言葉が機関室に響く。近付いてくる複数の足音が、イヴァノフを「民間人の生き残り」として回収しに来たことを告げていた。


〈オフィサー、ドクター、ソルジャー、スパイ〉
幕間『真鍮の酒杯』

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