財団連絡係のデクスター・アダムスは銀行地下室の残骸に入るなり、チームがいまだに部屋のほとんどを占めている巨大な金属のドアを開けようと挑戦しているのに気づいて唸った。彼はチームが働いているのを眺めている2人のUIUエージェントを見、彼らに近づいていった。「我々はまだ地下金庫に入れないのか?」
「融けちゃってるのよ、アダムス、」クインが言った。「FBIは大量の鉄を掘削することしか出来ないわ。」
「なんだってこの銀行は馬鹿でかい金庫を持ってるんだ?」アダムスは眉をひそめた。
「的を射ているな、」ダーネルが、コーヒーのカップをアダムスに差し出しながら言った。「この銀行はおそらく1000人から2000人の顧客がいる。それにここはかなりローカルなやつだ。」
「ローカル?」アダムスがコーヒーを飲み、チャーバックスコーヒーの味にむせないように気をつけながら尋ねた。
「6つの支店しかなく、そのどれもが2つの郡にまたがって位置している。巨大な銀行によって所有されているのはもちろんだが、しかし…」
彼らはドリルの音が突然止まったことに困惑した。アダムスは悪態をつき、チームを見た。「今のは何だ?」
「…障害物に当たっています。金庫室のドアの内部のようですが…」
「何だ。」
「チタンで出来ているようです。」
アダムスは呻いた。「くそったれ…そりゃ…彼らはそこに何をしまってるんだ?」
「ええ、それは…」クインは指を軽く叩き合わせた。「思いがけないものよ。私たちは今何をしてるの?」
「今我々は非実在のプラズマカノンを入手しそれを開けようとしている。」
クインはアダムスを見つめ、それから銀行の金庫を見た。「それの実在は"ビッグフットくらいありえない"か"ビッグバン理論にまつわる良いエピソードくらいありえない"んじゃないの?」
「前者だ。君のギャグは実在している、もちろん。」
「もちろん。」彼女は顔をこすりため息をついた。「ここにプラズマカノンが無いと期待できるのはいつかしら?」
「昨日はここに無かった、そして今日もここには無いだろう。」アダムスは顔をしかめた。「それは愛の-このやりとりを止めてもいいだろうか?」
「ごめん、ごめん」クインは笑い、なだめるために手を上げながら言った。「シンシナティにいる私たちの連絡係はエージェント・コリンズと言うのだけれど、同じことを私たちにしたわ。」
「知っている、」アダムスは眉を寄せた。「彼女は私の妻だ。」
「…わお。」
非実在のプラズマカノンは、実際とても巨大で、加熱されたガスの極度に集中したビームを発射する強力なプラズマカッターであること、小さな湖を気化させた可能性があることが明らかになった。しかし、それがチャージされるには少し時間があった。
なので、クインとダーネルはまともな人間が夜中にするだろうことをした。夜の9時に朝食を出してくれる24時間レストランに行ったのだ。アダムすは作業の監視のためにその場に残った。
クインはパンケーキを食べる気分ではなく、代わりに、少し眉をひそめながら自分のスマートフォンを見ていた。ダーネルは少ししてから彼女を見つめた。「どうかしたのか?」
「ここに着いたとき、ハーレーにスカイプするって約束したの。」彼女はため息をついた。「昨日電話した以外、彼女にコンタクトをとってないわ。」
「ハーレーは元気でやってるよ、クイン、」ダーネルがため息混じりに言った。「彼女は詮索しない…わかってるだろ…」
「子供っぽいことはしないで、ダーネル。彼女は偏執的なの、私が去-」彼女はせきこみ、突然言葉を切り上げた。彼女は声のコードが麻痺したように感じた。秘密協定の言葉が彼女の頭の中で作動したのだ。「くそっ…禁止令ね…」
「文字通りのものとは思ってなかったよ、」ダーネルは心の中で言い、ワッフルを少し食べた。「…彼女はその家の誰かについて、君が嘘をついていると思ってるのか?」
「ええ、」クインは喉を触りながら言った。「私の昔なじみ。私は…」彼女は柔らかくせきをしたが、何とか言い終えることが出来た。「毎年彼女を訪ねに行っているの。」
「…紹介するべきなんじゃないか?何回かスカイプして、ハーレーの不安を落ち着かせてやれよ。」
「言うのはやるより簡単よね、私は怖いの。」彼女は唾を飲み込んで深く息を吸い、食べ物をつまんだ。「知っての通り、コリンズはかつて私に言ったわ、私が結婚したら禁止令はどうしても配偶者まで延長せざるを得ないって。」彼女はベーコンを切り取って噛み、フォークの代わりにキャンディバーのように食べた。「でもオハイオや合衆国の間抜けの憲法が、私が自分の妻にそう出来ないって言ってるじゃないかしら?」
ダーネルはため息をついた。「前にもそのわめき散らしは聞いたよ、だろ?」
「ええ、ええ…」彼女は指にはめられた指輪をいじくった。「官僚主義の財団がそういったのよ、私が、私たちは一緒だって宣言している実際の文書を入手しない限り、そう出来ないって…でしょ…」
ダーネルは顔をこすった。「クイン…」
「ごめん、ごめん。」彼女は深く息を吐くとパンケーキをつつき、時折、彼女の端末から中央陰謀委員会のウェブサイトを見た。それは中西部の超常現象ニュースの最良の情報ソースであり、彼女はそこから目を離さず、彼女の仕事と関連する情報を逃さないようにした。
10分後、夕食は電話によって中断された。クインは電話番号が"ハワードアンドブレーク出版"、スキッパーが使っている名前のものと気づいた。「とうとう奴らも'SCP'って文字より独創性のあるものを使うようになったわね、」彼女は言った。彼女は"通話"ボタンを押し、電話を耳に当てた。「マックアリスター。」
「…銀行に戻れ。たった今金庫を破った。」
クインは顔をしかめた。「了解。勘定を払ったらすぐ行くわ。」彼女は通話を切り、ダーネルに状況を説明した。それから彼らは支払いに行った。
レジ係はクインの結婚指輪に気づき、なぜダーネルはつけていないのかと聞いた。これは彼らが任務に出たとき驚くほどよくある出来事だった。
クインは銀行まで車を出し、ここ何日か止まっている車両と、銀行地下室の入り口に集まっている人々を見た。クインはFBIバッジを見せながら、右後方にいるダーネルとともに彼らを押し退けた。
銀行の金庫のドアは融けてなくなっていた。中はアパートの一室のように見え、さらにその後ろではニューヨークの高層ビル街を映し出す窓があった。クインは眉を寄せた。「…いいわ、そう。金庫の中で生きている人々がいた…」
エージェント・アダムスは金庫の正面からクインを見つめた。「これはとても単純だ。」彼は2人に近寄るよう合図し、金庫の中をのぞき込んだ。「我々が知る限りでは、この穴はブルックリンのどこかにあるアパートと繋がっている。」
「…ブルックリン、ニューヨーク」ダーネルの声は信じがたいと言うようだった。
「そのようだ。」
「誰か送り込むか?」
「ドローンを準備した。不安定なようなのでな。」
クインは困惑した。「どうしてオハイオのサンダスキーの銀行金庫が、ニューヨークのアパートビルに繋がってるわけ?」
「ケリガン博士はニューヨークの貧民街出身だ、」アダムスは財団の技術者の脇へと踏み出しながら言った。技術者はレゴがくっついたような小さなドローンを降ろしていた。「おそらく彼らはそこに本部を置かれいたんじゃないか?」
ドローンが穴から送られ、2人のUIUエージェントは映像スクリーンの方へ向かいだした。それはとても低いアングルからだったが、よくあるアパートに見えた。周囲を動き、エージェントたちはリビングがあらゆる種類の地図や文書で散らかっているのを見た。まるで誰かが何かを探し、彼が求めていたものでなかったファイルを床に投げ捨てていったようだった。
「どうしてポータルを破壊しないの?」クインは不思議そうに大声で言った。「どうしてその…これを開けたままにしているの?」
ダーネルは少し考え、答えた。「ケースファイル・1991-23。ポータルの巨大なネットワークがEMPによって一時的に途絶させられた。おそらくそこにいたミセス・ライトニング・ロッドがパルスによって閉めようとしたんじゃないか?」
「そして金庫はファラデーの箱のように振る舞い、周囲に爆発をもたらした。」クインは興奮したように動き、思考の結果を外に出した。「でも何が彼女をその過程で殺したのかしら?」
「わかんねえよ、」ダーネルはため息をつき、首の後ろをこすってモニターを見た。「カメラを周囲に回して、いくつかの文書を見ることは出来ないか?」
「やってみましょう、」技術者が言い、ドローンを注意深く前方に向かって動かした。そのときはわずかに開いた戸口が見えるだけで、後は暗闇しか見えなかった。一度彼は床のフォルダを1つ手に入れ、小さな、ロボットの腕で文書を掴んだ、それを技術者がのぞき込んだ。「…スミロドン計画?」
アダムスの目が大きく飛び出した。「今何と言った?」
「CIAのもののようです。最重要機密、でしょうか?」技術者はスクリーンを指した。「スミロドン計画。これはなんです、ウルトラですか?」
クインは眉を上げた。「そんなの聞いたこと-」
その時、ビデオの中でドアが開いた。アジア系の男-クインは中国人と推測したが、ダーネルとアダムスは韓国人だと思った-が別の側から歩み出た。彼の血管は白く輝いていた。彼は背中に金属のバックパックを背負い、そこから出ているワイヤーは彼の手にはめられた金属のグローブに繋がっていた。
男はグローブを観測カメラの方向に向けた。
一瞬の閃光の後、緑色で"信号途絶"と書かれた文字がスクリーンに表示された。
「何なの?!」クインはスクリーンから飛び退き、金属の扉を凝視した。アパートのイメージがぶれ、輝き、そして消え、銀行金庫の中と言われてたいていの人間が予測するもの、すなわち何千ドルもの価値がある金銭が現れた。
アダムスがしかめ面をした。「今すぐ司令部に電話しろ、そして優先事項レッド、ブルックリンASAPを1チーム派遣する必要があると伝えろ。」
「アダムス、」ダーネルが困惑しながらもしっかりとした態度で言った。「一体何が起きている?」
「…テロ組織が超常現象についての10年来の研究をたった今手に入れた。これはコード・レッドの状況だ。」
「…思うに、」クインはうめいた。「私たちは禁止令を更新する必要があるわね。」
「ああ。」
長い一夜が開けて…
「ここにサインを、」アダムスがクインとダーネルにそれぞれクリップボードを渡しながら言った。
クインはため息をつき、契約書を見渡した。クインは出来る限りじっくりとそれを見たが、テキストの下に埋め込まれたフラクタル模様しか見えなかった。一部分だけ不完全なところがあった。署名欄だ。
10年前でさえ、彼らは記憶消去されシンシナティのオフィスに置き去りにされることはなかった。しかし、状況は変わり、ほとんど独断的な人々によって運営される非政府組織はその間に科学的な大発見をした。したがって、禁止令が存在する。
根負けし、クインはサインし、目から禁止令が効果を及ぼす際の少し強い衝動を感じた。「ねえ。スミロドンって何?」
「スミロドン計画は1950年代のCIAの秘密プロジェクトであり、1960年代には-」
「言い換えると、カートとカンのMK-ウルトラか?」ダーネルが言った。
アダムスは眉をつり上げた。「…どうしてわかった?」
「そうだな、文書が見つかったとき、あんたのところの技術者がそれについていたCIAのエンブレムの話をした。俺たちは、スプレー缶を持ったオーストラリア人のチンピラの一味に見える超常テロリスト組織に出くわしたばかりだ。1足す1は…」
クインは意見が一致した。「オーストラリア人"地域"のスプレー缶を持ったチンピラよ、ダーネル。違いは彼らのうち何人かが塗料の代わりに天然痘を持っていることだけ。」
「にもかかわらず、キリストマンはそれを手に入れた。スミロドン計画は東欧圏に潜入するための特殊工作員を超常的に改良する取り組みだ。不可視化、マインドコントロール、そういった才能を。」
「そして今これらを…グラスルーツの人々が手に入れた。」クインは顔をしかめた。「どうやったのかしら?」
「それは無関係だ。今…我々は君たちに新しい仕事を用意した。」彼は眼鏡を鼻に押しつけた。
「君たちは我々が銀行で発見した彫刻をシンシナティまで輸送する必要がある。我々はそこに、そういった種類のものを分析する研究所を持っている。」
「…じゃあ、言い換えれば、私たちは運び屋ってわけね。」
「率直に言えば、そうだ。」
クインはため息をつき、それを否決した。「いつ発つ?」