それは宇宙の深淵を幾千年も漂う、大陸のごとき質量を持った不活性な未知の物質。恐るべき可能性に満ち満ちていた。奴らの標的は高度に発達した知性を持った頭足類の種、おそらくは、その矮小さ以外に見栄えのない太陽の、青緑色をした第三惑星に住まう。これを作った存在は、触手を持った民の慎み深い心を引き裂こうとしていた。だが奴らは致命的なエラーを残したのだ。奴らの大いなる知性はゼラチン質のイカの始祖プロト・イカをただ選んだ。いずれ地上の支配者となる、鼠に似た地を這う毛むくじゃらの小型ほ乳類の代わりに……
今や惑星の大気の最外殻に軌道取り、兵器はテクニカラーに耀く。そして不幸な世界は抹殺エネルギーの雨に吹き飛ばされた。数十億のイカが一瞬にして死に絶えた。だが……二足歩行で惑星の表面に群がる哺乳類は死滅していなかった。彼らは空の巨大な機械に口を開けて見とれていた、そして殺人エネルギーは彼らの思考を消し去り…… Click.。
ここは地球の地下深く、僅か13人だけが知る機密の場所。筋骨逞しいO5-1は葉巻を吹かすと、素肌の上を覆う焔模様の破れ破れのマントを整えた。
「諸君。」
O5-1は大きく吠えた。
「もう諸君は承知しているに相違ないな。そう、オブジェクト-……。」
まるで帳が降りるように長いブロンドの髪の、ムチムチの軍服一式を着たO5-7は笑みを見せた。
「知っているでしょ。それは燃え盛る情熱のソウルッ!それが私たちを、ジャマするなんてできないんだからっ!」
その通りだッ、と会議は轟く。O5-1はガバッと立ち上がると、会議室の大理石の机にメリケンサックを喰らわせ、まんまるの穴をあけた。
「ハイジャックされたのだ……トイ・メイカーにな。」
会議は驚きのあまりざわめいた。
太古の兵器は小さなブライトカラーの宇宙船が外殻に掛け金を降ろしたのに気が付いた。あまりにも遅かった……。小さな船のエアロックが開き、紫色の宇宙服を着た小さな活発な女性が、たおやかに兵器の上をスキップした。大げさに、彼女は'W'マークのついたピンストライプの学生カバンを振り回すと、恐ろしく気まぐれに点滅するリモコンのような小さい装置を取り出した。彼女はそれを高々と掲げると、ボタンを一つ押した。彼女の下で装置が身震いした。そして火器発砲プロトコルは彼女の自由自在となった。
「いいんじゃない♪!」
ワンダーテインメント博士は特に誰も居ないのに高笑いをした。
「5000年前の武器はアタシのモノ!地球征服の時間よ!!」
緑気味のショッキングな髪色のO5-2は、憤怒に歯を食いしばり、激怒でモニターを焦がさんばかりであった。
「ありえんッ!ワンダーテインメントだって、あの力を扱えるものか!」
テーブルの奥の方、見えない風になびく巨大なオーバーコートを纏ったO5-12は、グローブをした手の一つを差し出して、
「全財団の総力を挙げて航空及び宇宙の全ての資産を発進させなさい!正義の鉄槌をくれてあげるのがよくってよ!」
と怒鳴り上げた。
「馬鹿野郎!」
O5-1は怒鳴り返した。
「あの程度の武器が、あの力に敵うと思うのかね!」
イナズマのような紅と蒼の瞳、鋭い緑のサングラスを付けたO5-4は、ぶち切れてカタナの柄をテーブルに叩き付けた。
「じゃあ、アタイ達は何が出来るっていうのさ!」
と彼女は泣き叫んだ。
「我々は"あの"プロトコルが使えるじゃありませんか。」
と甘い声が快刀乱麻を断った。沈黙が訪れた。そして、テーブルの果ての細い灯りに照らされた場所へ全視線が向かう。ミラーグラスに光を反射させ、手袋をはめた鋭い指のO5-13の姿を全員は見た。
O5-1は葉巻を口から落とし、
「つまり……どういうことだね?」
「待って!あれは禁じられた手段よっ!」
O5-7の顔は青ざめた。
「その手しか残されてないのです!」
O5-13は声を張り上げる。
「我々は命令を下さねばならないのです……GATTAI──合体──プロトコル実行を……」
ディスプレイが揺らめき、"GATTAI PROTOCOL"の戦術表示が延々と繰り返された。機械の柱が蒸気を上げて部屋の中央から競り上がる。その滑らかな表面には、12の鍵穴と、プレキシガラス・カバー。その下にただ一つ赤いボタンがあった。
「全員承認でしょうか?」
O5-13は穏やかに言った。
承認ッ!の声のコーラスが地響きをたてる。13を除いて、O5は暗闇の中、立ち上がった。熱き血がたぎる、猛々し者達は鍵を引き抜き、一つ一つ鍵をまわした。O5-12は震える手で鍵を取り出した。彼女は少し興奮しながら鍵を回すと、ボタンが赤く光った。
「準備完了しました。」
O5-13は言った。
「いつでも実行できます。」
全視線はO5-1に向けられた。彼は新しいタバコを取り出すと、親指でマッチを擦った。深く息を吸って、柱の前に立つと拳を上げた。
「秘奥儀!収容禁術ッ!ファウンデーション・プロトコル……ッ!」
一瞬の休止。期待が高まる。して、彼は拳を振り下ろしプレキシガラスを粉砕した。
「GATTAI!」
ブライト博士は、サイト-19で二年次コスチューム・パーティーをするという事を知っていた。何もかも普通だ、きっと。けれども、かれはレドリット廊下で突然後ろから張り倒された。緊急警報がけたたましく鳴る。彼は殴られるより他仕方なかった。……何者かが向こう側から向かって来た。いつもと違って何か妙な服を着ていた。一例としては、髪の毛。サイト-19の服飾規定は相当緩いものであったが、黒紫の髪の毛に、ゴールドのスパイクヘアまでは網羅していなかった。また、例えばケープ。今日は、全く殆どがケープを羽織っていた。凝った多分ドラゴンの意匠を付けたヘルメットをかぶったセキュリティもいた。腰の武器に加え、剣を装備しているようであった。
それでも、非常事態だった。彼は何も伝えられていなかった訳では無い。心配だった。彼は、腰を丸出しにしたベルトを少なくとも15本は巻き付けている若い女性研究員を追い抜き、開いたエレベーターまであわてて走った。まだ誰か他の人が入れるというのに、彼は「閉」のボタンを叩いた。彼がサイト-19セントラル・コマンド・ハブへのボタンを叩くと、エレベーターに備え付けられた平坦な小さいモニターにパチッと人が映し出された。スクリーンに映し出された顔を見ると、彼は目を輝かせた。
「アガサ!ああ神に感謝だね!一体何が起こって、おおおぁあああああアア?」
通常、テレビスクリーンにはライツ博士が映し出され、彼を慰めてくれるはずだった。しかし今回、彼女は裸の様で、青色のヌメヌメのタンクの中を漂っていた。彼女の髪は(いつも長い髪だったかしらん?)彼女の禁漁区を保護していた、それでも何とも滑稽な眺めだった。彼女は微笑んで、唇を動かす事無く、エレベーターのスピーカーから声を伝えた。機械じみた鋭さがあって、ブライトを深く恐れさせた。
「ブライト!あぁ女神さま、彼を見つけてくれてありがとう!GATTAIプロトコルが実行されたわ!サイト-19には、貴方が必要なの!」
「ほえ?」
「あらあら、メモを受け取っていないの?今言っているように、サイトが"メカ"モードに変形しているのよ!」
「ハァ!?」
ライツはくすくす嗤い、まるでライツじゃないように見えた。彼が何か言う前に、エレベーターはウィンウィンいいだした。闇へ、ドアが開かれ、何者かが彼の足を引っ張った。彼はもがいたが、無駄だった。体はピッチピチのスーツにくるまれて、ジェット機のコックピットのような小さなチェンバーの中に閉じ込められた。操縦桿の代わりに4つのジョイスティック(2つは両足にそれぞれ、そして彼の前に現れた)、そして窓の代わりに巨大な全方位コンピューターディスプレイがあった。スクリーンは虹色のグルグル以外何も表示されていなかった。(神よ、そなたは何を召されるのか。このスパンデックスだっていうのか)なんて思いながら、ためらいがちに手を伸ばし、ハンドルに触れると、ディスプレイは明滅し、サイト-19の周囲360°の景色が映し出された。ディスプレイの角の一つにライツの顔が映し出され、彼女の声が耳に反響した。
「ドクター・ブライト配置完了。全財団職員注意!GATTAIプロトコル準備完了。」
けたたましい彼女の声が……もう殆どO5-1の声じゃねーか!
「ライツ、5人の研究員を集められたかね?」
「イェッサー!パイロットサウンドオフ!」
「おいっ、何……」
彼は抗議したが、切断され、四人の顔がディスプレイに表示された。おお神よ、彼はこの顔を知っている。この最初のひげ面は……
「天を貫け!──グランド・バタフライ・ナイト──『コンドラキ』!」
次はギアーズ……わ…笑ってる!?
「天才頭脳『ギアーズ』でアリマス。ミッション成功率:99%でアリマス。推奨策戦:徹底破壊でアリマス。」
ストレルニコフは真っピンクの服。……とリボン。
「──Прекрасныйプリィクラースニヒ ・ Волшебныйボウシェブニ ・ Солдатソウダト ──ステキ魔法戦士『ディミトリくん』!祖国に代わっておっ仕置きよ!」
クレフを見ると……まぁ普通だ。ヘルメットを除いてだが。そんでスープ。
「チャウダー・レンジャー『クレフ』:正義をお届けしにきました……熱ッ!」
クレフの膝の上のゴールデンレトリバーが吠えた。
「ケイン?」
ブライトは頭が痛くなった。
「何だこれ?あんたもかよ?」
クロウは、何だろう犬用のレオタードを着て、楽しげに吠えていた。そして眼鏡を直した。
「ああ、僕は至って正常だよ、ブライト。こいつがなんであれ影響するのは人間だけらしいからね。だけどこの瞬間に僕たちができる事は大してなさそうだね。」
「何言ってんだよ!XKのデッドラインは間近に迫ってるんだぜ!」
「正直、ワーーーーイ!!!めっちゃ楽しい!やってやって!!ヴーーーゥッ!」
ライツがまた話し出した。
「プロトコルGATTAIは第二段階に突入しました。全パイロットはシンクロニゼーション──同期──の準備をして下さい。」
全惑星におよぶほど、財団の施設が地面を揺らした。(明らかに空を飛ぶような形に設計されていないのに)、馬鹿でかいロケットブースターで地から裂けるように離れ、有り得ない速度でサイト-19上空に急上昇し、地表一キロ以上は浮遊した。近づくに連れて、色々な無人飛行機がライツの心休まる声に絞られた。
「サイト-15,17,06到着しました!胴体連結中!ジェネレーターコイル・エネルギー充填125%、更に上昇!コンバイナーシステム・オンライン!」
サイトとサイトは有り得ないぐらい滑らかに噛み合って、財団の中からゴチャついた機械が出てくると互いに結束してキツく引き合った。
「サイト28!36!38!左腕に変形せよ!」
最初、オブジェクトは曖昧な輪郭をしているに過ぎなかった。
「サイト66!73!76!右腕に変形せよ!」
徐々に形になり始めた。
「サイト77!103!104!脚に変形せよ!」
日光の中で輝いて。
「エリア02!12!14!179!ロケットパックに変形せよ!」
それは有り得ない程、巨大な腕を掲げた。クロムホワイトのアーマー。金と黒のデザインが煌めく。
「そしてサイト-19……ヘッドに変形せよ!」
巨大なマシンが完成した。ロボット。馬鹿げた事に大型ヒューマノイド・ロボット。その顔には断固たる自信に満ちあふれている。
ライツは勝利の雄叫びを上げる!財団職員全員も一斉に叫ぶ!もちろんブライトは除くが……
「GATTAIプロトコル完了!ビッグオー・ファイヴ!!!ショーターイム!!」
遥かカナタ高く。ワンダーテインメントは得意そうに笑った。
「だーかーら?」
彼女はせせら笑った。
「そんな小ちゃいアクション・フィギュアでアタシを倒せると思っちゃってるのー?ねぇジェレミー、アイツらにホントのおもちゃ屋の力を見せてあげちゃって!」
遥かカナタ下、小さな犬が巨大なロボットの足下で吠えていた。ワンダーテインメントは小さなカラフルなステッキを学生カバンから取り出すと。
「ワンダーテインメント博士ティーえむっの、『アブラカダブラ・スーパー・プレイタイム・ワンドティーえむっ』、私のコーギーを大・き・くして頂戴!」
突然、ブライトのスクリーンは犬でいっぱいになった。彼はびっくりしてウッキー。後ろの方を引っ掻き回すと、ロボットは手を上げて、ヨダレをたらす可愛いらしいケダモノの巨大なアゴに対して防御した。彼以外は……あんまり驚かなかった。
「セキュリティ……キィィィィッッック!」
「コンテインメント……パーウンチ!」
「プロテクター……スラアアアアアーーーーム! 」
彼がコックピットの中で振り回されているうちに、犬は既に爆発四散。
「あ……ア?なんだよクソッ!」
彼はぼやいた。そして思わず、
「あれは……おっぱいっ!マジありえねーじゃねーか!。」
ロボットはよろめくと、同時に彼に痛みが押し寄せた。彼は歯を食いしばって、両の手、足でコントロールレバーを握りしめた。
「一体どうなっていやがるんだ?」
「それが……それが私の心を攻撃しているのっ!」
ライツは叫んだ。
「警告!警告!」
ギアーズは宣言した。
「破壊的エネルギーが接近しているでアリマス。システム障害に要注意デス。」
ストレルニコフはロシア語で宣誓しているうちは、何とか煌めいていた。
「な……何これしき……舌をクラムチャウダーで焼き焦がすよりもマシさ!」
クレフは歯ぎしりした。
「ワンダーテインメント!アンタには、俺らを止める事なんて出来ないぜ!」
コンドラキは声を張り上げた。
「あ…あの女アマ…グエェ……いい仕事しやがる!」
ブライトは言い返した。
「な…何か、この攻撃を”収容”しなきゃ……くたばっちまう!」
「収容!?それだ!!」
コンドラキは息を振り絞った。
クレフは親指を立てると、ギアーズが頷いた。
「お前って天才だね!ブライト”クン”!」
ストレルニコフは甲高い声で笑った。顔に傷を負ったスラブ人中年男性が出せるような声では断じて無かった。痛みが消え始めた。
「エネルギー効果は低減しているでアリマス。シールド強度が向上していマス。」
「何でよー!?ありえなーい!どうしてアタシのパワーに抵抗できるのようっ!行けっ、行けっアタシの武器!あんなヤツラ粉々にしちゃって!」
コンドラキは立ち上がって腕を組んだ。
「ワンダーテインメント!アンタお馬鹿さんだぜ!アンタは財団を傷つけ!害し!封じ込めることさえできた!だがアンタにゃ封じ込められない……。」
ブライトも一緒になって声を合わせた。彼は何を言えばいいのか知らなかった、しかし言った。
「お前に人間の意志の力を封じ込めることはできないッ!」
サルは普段言わないような事を言い出した。彼の心に火がついたのだ。
「4人のこの手が真っ赤に燃える! お前を倒せと[編集済]が轟叫ぶ! 喰らえ! 我がSafeを! 我がEuclidを! そして我がKeterの全てを!」
「タウミエル-級XK奥義! 正義ジャスティス の・オブ・ 収容コンテイメント 違反ブリーチ!」
彼は最後の言葉を叫んだ。首に血筋がコードのように走っていた。
「ファイヤー!!!!!」
有り得ないまでの刹那、数千のSCPオブジェクトが亜光速で封じ込めを破った。それらがワンダーテインメントの元へ殺到すると、彼女は怒りと恐怖の入り交じった負け犬遠吠えを放った。そしてそのまま、コンビネーション・エネルギーが彼女を吹き飛ばした。
「ぜっっったい覚えてなさいよね!SCP財団!ぜったい次は負けないんだからねえええええぇぇぇぇぇぇ…………!」
ブライトはニヤッと笑った。もう彼は自分の身長が6フィートぐらい高くなったことを驚くそぶりも無く、また言語に絶するまでにもの凄いスカーフを首に巻き付けていた。
「お前はもう終わっているDecommissioned。」