SCP-2966(記録用:Backbone of the Community/地域社会の屋台骨)
アイテム番号: SCP-2966
オブジェクトクラス: Safe
特別収容プロトコル: その巨大さと異常な影響力ゆえに、SCP-2966の完全収容は予算の関係上、現実味がありません。代わりに財団は、周辺地域の住民が異常な影響を受けるのを阻止することに焦点を置いています。SCP-2966の半径20km圏内(以後このエリアを“サイト-2966”とする)にある全ての道路は転換、または恒久的に封鎖されます。サイト-2966を囲んで1.5kmごとに設置されたチェックポイントに駐留している保安職員は、道路以外から接近してきた全ての侵入者を追い返し、クラスB記憶処理を施します。
サイト-2966に最も近い財団施設に駐留しているフィールドエージェントは、影響半径内の人口密集地を毎週訪問し、SCP-2966へのヒトの長期曝露影響について記録してください。財団職員が一回の訪問でサイト-2966に6時間以上留まることがあってはなりません。
説明: SCP-2966はカナダのアルバータ州西部に位置する、不明な動物種の脊柱と胸郭です。地上に露出しているのはSCP-2966の全長のおよそ13%であり、大部分は地下に埋もれています。SCP-2966は頸部から仙骨端まで約10.5km離れていますが、正確な全長は分かっていません。SCP-2966の各椎骨の直径は、仙骨端の40cmから中心に近い位置の3.75mまでの範囲で異なります。SCP-2966の肋骨の中でも、完全に露出している最大のものは長さおよそ10mです。
位置する地層を基に考えると、SCP-2966は約6600万年前のものです。しかしながら、SCP-2966は有機的な骨で構成されており、分解や化石化の様子を見せていません。加えて、動物学的な相互参照の結果、SCP-2966の椎構造が最も類似しているのは3800万年前までは発展しなかった分類群であるヒゲクジラ(ヒゲクジラ亜目)であることが判明しています。
SCP-2966の異常特性は、人間の対象者がサイト-2966に入ることによって発現します。対象者は3段階に分かれて進行する長期的な心理的変化を受けることになります。
- ステージI. 対象者の中でサイト-2966とそこの人口集団に対する感謝と愛情の気持ちが高まりを見せます。彼らは外部の責任者から命じられればサイト-2966を離れる事が出来ますが、影響半径の外では臨床的鬱病を思わせる症状を示します。サイト-2966に連続的に約6時間留まると発生します。
- ステージII. 対象者はステージIの症状に加え、短期および長期記憶を喪失し始めます。殆どの記録された例において、対象者はまず個人的なアイデンティティを、次いでSCP-2966に影響されていない家族や友人の思い出を失います。ステージIIの対象者は記憶喪失に対して苦痛反応を示しておらず、ここには他の影響者たちが対象者を地域社会に統合して新たなアイデンティティを与えるという形で支援を提供しているのが部分的な理由でもあります。対象者はサイト-2966の外部へ自身を連れ出そうとする者には敵対的な反応を見せます。サイト-2966に連続的に約12時間留まると発生します。
- ステージIII. 対象者はSCP-2966の異常特性に曝露する以前の記憶を全て喪失し、地域社会のニーズに応じて新たなアイデンティティを発展させます。また、対象者は新たなアイデンティティに関わる偽りの記憶を形成し始め、その人格に想定される完全に個人的な人生物語を確立させます。この物語は常に、対象者がサイト-2966の内部で誕生したという始まり方をします。サイト-2966に連続的に約48時間留まると発生します。
変化の進行は対象者がサイト-2966から連れ出されると停止しますが、これまでのところ、記憶処理・セラピー・心理的再調整によって効果を逆転させることには成功していません。
SCP-2966の異常特性は、互いの距離に関わらず、SCP-2966の全ての構成要素に均等に表れます。SCP-2966から分離された椎骨は半径20km圏内のヒトに異常な影響を及ぼします。このため、SCP-2966やそのパーツの移送は固く禁止されています。
キングズバックのメインストリート。20██/08/20撮影。
サイト-2966には、住民から"キングズバック(Kingsback)"と呼ばれている人口密集地が存在します。住民たちの証言に基づくと、キングズバックの町は元々、17世紀後半にカナダ・アルバータ州の最初期の入植者によって設立されました。この町はそれ以来、スペイン領ルイジアナへの入植(1762-1802)、カナダ太平洋鉄道の敷設(1881-1885)、ユーコン・ゴールドラッシュ(1896-1899)など、人間の大移動を伴う数々の歴史的な出来事の結果として、幾度となく部外者を人口集団内に受け入れています。キングズバックの住民たちが保有する歴史的遺物や文書はこの証言を裏付けています。
キングズバックのイラスト、1920年付の地元新聞をスキャンしたもの。現物はキングズバック住民のJ████・エリオットが所有している。
キングズバックの住民たちはサイト-2966を去ることに不本意であるため、キングズバックは完全に自給自足的なコミュニティとして確立されており、外部の支援なしに食糧、衣類、その他全ての生活必需品を賄うことが可能です。伝統的な地方自治体のシステムは存在せず、相互対人援助を主体とするリーダーを持たないコミューン風の統治が成されています。サイト-2966の位置が外部のコミュニティから隔絶されており、より近代的なテクノロジーがキングズバックに大量流入することを妨げてきたため、キングズバックの技術レベルは概ね19世紀のそれと似通っています。財団が行った最新の調査によると現在の人口は2124名ですが、統計的分析はこの人口が時間とともに徐々に増大する見通しを示しています。外部からサイト-2966に入り込んでSCP-2966の異常特性に屈する人間の数は、財団の収容によって現在は無視できる程度ですが、サイト-2966の出生率と死亡率から、住民たちの移転に対する不本意さと合わさって、今後人口が僅かに増加するだろうという予測が立てられています。
発見: SCP-2966は20██年、SCP-████を新たな収容サイトへ移送していた財団の偽装車両が、後日サイト-2966に指定される領域へ侵入したことによって財団の注意を集めました。車両は予定の時刻になっても到着せず、乗車していたエージェントは全員、接触の試みに応答しませんでした。居場所が特定され別動隊が回収のために派遣された時点で、エージェントたちはSCP-2966の異常特性による変化がステージIIまで進行しており、サイト-2966を離れるように説得することができませんでした。SCP-2966の性質が確認され、SCP-████が安全に回収されるまでに追加で██名の財団エージェントが影響を被りました。影響を受けた財団エージェントは全員ステージIIIまで進行し、問題なくキングズバックのコミュニティに組み込まれました。
SCP-2966の収容に続き、サイト-2966境界の検問にて、キングズバックの全住民を対象とするインタビューが実施されました。これらのインタビューの転写が幾つか以下に掲載されています。全てのサイト-2966住民インタビューの転写は、レベル3以上の職員であれば閲覧が可能です。
転写: サイト-2966住民インタビュー#0056
日付: 20██/06/14
質問者: C████・ンクルマ研究員
回答者: サイト-2966住民、D████・ローランド
<転写開始>
ンクルマ: どうも、こんにちは。
ローランド: おう、どうもな。
ンクルマ: お名前をお聞かせいただけますか?
ローランド: D████・ローランドだが。なんでだ? 何か俺、悪い事でもしたか?
ンクルマ: いえいえ、ローランドさん。私たちはただ単に、貴方がたの町のような、アルバータ州にある小規模な町や村の調査を実施しているだけですよ。貴方のコミュニティについて幾つか質問したくて来たんです。
ローランド: ああ、いいとも、そういう事なら。
ンクルマ: まず、誕生日と出生地を教えてください。
ローランド: 19██年12月12日、カナダのアルバータ州キングズバック。
ンクルマ: という事は、今までずっと此処で暮らしてきたわけですか?
ローランド: まぁな。一度も外に出たことが無いんだ。
ンクルマ: 大変その事を誇りに思ってらっしゃるようですね。
ローランド: 地球上にキングズバックより良いとこなんかありゃしないさ、奥さん。動かしがたい事実ってやつだ。
ンクルマ: 本当ですか? 私自身も小さな町の生まれですけれど、いつも窮屈な思いをしていたものです。大きくなっている間、町を出るのが待ちきれませんでした。
ローランド: ふーん。俺はそういう感じ方をしたことは今まで無かったな。
ンクルマ: 何故だと思いますか?
ローランド: ここの連中が俺を必要としてる。町には俺が要るんだ。
ンクルマ: キングズバックでは何をしてらっしゃるんですか?
ローランド: 小麦農家だよ。
ンクルマ: 確かにとても重要な仕事ですね。
ローランド: 勿論だ。人は食わなきゃな。
ンクルマ: しかし、もし貴方が町を出ることにしても、きっと別な人が小麦農家として働いていけると思いますよ。
ローランド: いや。こいつは俺の仕事だ、俺がやらなきゃいかん。それとはまた別に、俺は必要とされてる。
ンクルマ: 誰にですか? 農場に?
ローランド: いや、町だよ。俺はその重要な一部って感じがしてるのさ、なぁ? 離れることなんかできやしない。
ンクルマ: 何故です?
ローランド: ただ俺がそう感じてるってだけだよ。朝、目が覚めて畑に出るだろ、そんで立って草原の上に太陽が昇んのを見ると、それがもうご褒美みたいに感じるんだ。俺が此処でこうしてんのを町が感謝してるみたいにさ。
ンクルマ: 興味深いですね。
ローランド: 俺たち皆がそういう感じがするんだよ。聞いてみな、誰もここを離れようなんてしてないからさ。俺たちは皆、この場所を心底から愛してる。
ンクルマ: 心に留めておきます、ローランドさん。以上になります、お時間をいただき有難うございます。
<転写終了>
転写: サイト-2966住民インタビュー#0991
日付: 20██/06/17
質問者: D██████・カーク研究員
回答者: 元フィールドエージェント J████・紅(ホン)
注記: フィールドエージェント紅は、SCP-████の回収試行中にSCP-2966の影響を受けており、このインタビューが行われた時点でSCP-2966の心理的影響はステージIIまで進行していた。
<転写開始>
カーク: 名前をどうぞ。
紅: モニカ・ウィリアムズ。
カーク: 成程。誕生日は?
紅: [編集済] (注: 述べられた日付は、財団の雇用記録に記載されているフィールドエージェント紅の誕生日と一致する。)
カーク: 生まれた場所は?
紅: カナダ、アルバータ州、キングズバック。
カーク: ずっと此処で暮らしてきた、という訳ですか?
紅: ええ。うちの一家は、1882年に靖宜(ジンギ)ひい祖父さんが鉄道の敷設工事で来て以来、ずっとキングズバックに住んでるの。
カーク: 興味深いですね。彼はどんな感じでした?
紅: どういう意味?
カーク: つまり、貴方はひい爺さんについてどんなことを知っていますか? 彼はどんな人物でした?
紅: よく分からないわ。両親はひい爺さんのことをあまり話さなかった、というより、少なくとも私は、彼についての話をあまり覚えてない。それに写真は一枚も持ってないし。
カーク: それは残念。
紅: ええ。
カーク: それに多分、少しばかり奇妙です。
紅: どうして?
カーク: 貴方の両親は、ひい爺さんのいた証しを何も残してこなかったんですか?
紅: 分からない。さっきも言ったけど、両親はひい爺さんの話をあまりしてこなかったわ。きっと、中国系のご先祖様との関わりは絶ってしまいたかったんじゃないかと思う。もっとカナダ人らしく見られたかったとか。
カーク: では、貴方の両親はどういう内容の話ならしてくれましたか?
紅: それは…分からない。
カーク: 貴方の両親についてはどんなことが話せますか?
紅: 両親は…その…死んだわ。私がまだ若い頃。
カーク: どういう状況で?
紅: それは…
カーク: 貴方の両親はどういう名前ですか、ウィリアムズさん?
紅: (沈黙)
カーク: これで以上です、ウィリアムズさん。
<転写終了>
補遺: 財団の科学者たちが心理状態の逆転に失敗した事に加え、サイト-2966から引き離されたことによってメンタルヘルスが着実に悪化し始めたことから、フィールドエージェント紅はキングズバックへと返された。彼女は現在SCP-2966の心理的影響度がステージIIIまで進行しており、キングズバックのコミュニティに完全に同化している。
転写: サイト-2966住民インタビュー#2039
日付: 20██/06/21
質問者: B██████・ヘラー研究員
回答者: サイト-2966住民、T█████・モロー
<転写開始>
ヘラー: どうもこんにちは。お名前をどうぞ?
モロー: T█████・モローじゃ。
ヘラー: 住所と—
モロー: お前さんの質問に答える気はない。
ヘラー: あら、何故です?
モロー: どういうつもりで儂らの町をこうして嗅ぎ回っとるんじゃ? 儂らがお前さん方の要らんお節介を招くようなことを何かやったか?
ヘラー: 私たちはただ日常的なアンケートを実施しているだけですよ、モローさん。調査が終われば次の町へ移ります。
モロー: 戯けたことを。小さい町では噂はすぐ広がるもんじゃよ、嬢ちゃん。お前さんが皆に尋ねとることを儂が知らんとでも思ったか。「どうして貴方は此処に留まるのですか?」「どうして町を出ようとはしないのですか?」
ヘラー: 他の参加者の方々にも全員同じことを尋ねていますよ。済みませんが、そこに座って—
モロー: お前さんのような気取り屋の都会もんのことは分かっとるわい。いつでも象牙の塔から儂らのような町住まいを見下してきよる。儂らを皆ここから立ち退かせて、全員をお前さん方と同じようにしたいんじゃろう。
ヘラー: 済みませ—
モロー: お前さん、キングズバックに儂らが住みたがるのは何かおかしいと思っとるな。のう、言わせてもらおうか。儂らがキングズバックに住むのはな、大都会が怖い田舎っぺの集まりだからとは違うぞ。儂らがキングズバックに留まるのは、この町を愛しておるからじゃよ。それを取り巻く土地が好きだからじゃ。もしも口が利けるなら、この土地もまた儂らのことを愛しておると言うじゃろう。
ヘラー: 了解しました、モローさん。しかし済みません、もし協力して頂けないようであれば、警備の者を呼ぶことになりますよ。
モロー: 脅すつもりか? 儂は確かに年寄りかもしれんがな、大人しく横になってくたばるつもりはないぞ! 思い知らせてやるわい!
ヘラー: 警備員!
(くぐもった声と叫びの中、警備員が室内に入る)
«転写終了»
注記: モロー氏は財団保安職員によって強制的にサイト-2966へ戻された。サイト-2966で行われた最近の直接観察(20██/12/01)においては、モロー氏は反財団感情を示し続けているものの、財団職員を傷つけようと試みる様子は見せていない。