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SCP-5502発生中の民間車両。
特別収容プロトコル: 警察のハイウェイパトロール部隊に潜入している財団エージェントは、勤務中は常にSCP-5502の発生を警戒するものとします。エージェントはSCP-5502の発生に関与した全ての民間人/警察官から関連情報を全て聞き出した後、記憶処理を施すことを許可されます。
財団ウェブクローラはSCP-5502の発生を記録した全ての写真や動画を監視、除去し、対象メディアはSCP-5502を引き起こした人物の身元を特定するために調査、分析されます。これらのメディアを目撃したと断定された人物は全て記憶処理されます。
説明: SCP-5502は、自動車を運転中の人物がベースライン現実の改変能力を一時的に獲得する現象です。SCP-5502を引き起こす正確な条件は判明していませんが、以下の属性が全ての事例で確認されており、SCP-5502の発生確率を高めると断定されています。
- 現地時間が20:00から04:00の間である
- 雨が降っている
- 車両が時速160km以上で走行している
- 他の動いている車両が半径0.5km以内に存在しない
- 発生要因の人物の恋愛関係が最近終わっている
- 発生要因の人物に臨床的鬱病の病歴がある
これらの条件が1つ以上満たされなくなると、影響者は現実改変能力を失い、現実性はベースライン値まで戻ります。影響者への事案後インタビューは、大半の影響者が現実性を確実には操作できなかったことを示します。このような現実改変の無意識的制御は、全てのSCP-5502発生事例で一貫しています。
SCP-5502現象の具体的内容は、発生要因となった人物ごとに様々ですが、全ての事例に共通する要素として、明るいピンク/シアン/青の光、影響車両が直線路を走行しているかのような幻覚、そして1体のヒト型実体1の作成があります。加えて、SCP-5502現象を引き起こした全ての人物は、SCP-5502を経験した後により幸福な気分になった、より自信が出た、または精神の明快さが大きく増したと報告します。この変化が異常なものか否かは現時点では不明です。
補遺5502: 事案報告書 及び 事案後インタビュー
2021/04/02、ジェームズ・キャシディ博士 — 敵対的な要注意団体のサイト-111襲撃で右腕を失い、1ヶ月前に職務復帰を認められていた — は、シフト終了後に帰宅する途中でSCP-5502現象を引き起こしました。地元警察署への連絡を通して、エージェント マーカス・ホスが事態を把握しました。エージェント ホスは成功裏にキャシディ博士を停車させ、速やかに以下のインタビューを記録しました。
質問者: エージェント マーカス・ホス
回答者: ジェームズ・キャシディ博士
インタビュー日時: 2021/04/02
<インタビュー開始>ホス: どうも、博士。まさかあなたがスピードを出すタイプとは思いませんでした。
キャシディ: 長い1日だったからな。ただ早く家に帰りたかった。
ホス: 気持ちは分かります。今からインタビューを開始します。
キャシディ: いいだろう。
キャシディは車を降りて少し歩き、右側面にもたれかかる。
ホス: では、あなた自身の言葉で、運転中に何が起きたかを説明してください。
キャシディ: 今言ったように、私が仕事を終えて家まで車を走らせていると、多彩色の光が見えた。研究者精神に駆られて携帯を出し、全てを録画しようとしたが、ヒト型実体が現れて携帯を私から取り上げ、代わりに録画し始めた。
ホス: そのヒト型実体はどのような姿でしたか?
キャシディ: 身体は分からなかったが、顔は元ガールフレンドのL███を男性にしたように見えた。2
ホス: █████博士との昔の関係は承知しています。ついでですが、お二人が別れたのは残念に思っています。
キャシディ: もういいんだ、マーカス。私は今日ようやく乗り越えた。
ホス: 話題が逸れてしまいましたね。SCP-5502現象についてもっと聞かせてください。
キャシディ: そうだったな。私はハンドルから手を放すことができなかった。それで、無意識のうちに失くした右腕を伸ばそうとしたら、またそれが生えてきた。唖然として、腕から目が離せなくなった。触ったり振り回したりして、いつの間にか手がハンドルから離れたのにも気付かなかった。
ホス: その間、実体は何をしていましたか?
キャシディ: しばらくは何もしなかったよ。私が新しい腕を弄り回すのを見ていたのだと思う。車はその間ずっと直進し続けたが、他の車は見えなかったと思う。だから事故を起こす心配は無かった。だが… 少し経ってから、実体は私に話しかけ始めた。まだL███を愛しているのかと、そう訊ねてきた。
ホス: あなたは何と言いましたか — そもそも返答しましたか?
キャシディ: うん、自分なりの答えを出すのが本当に適切な行為だとは思わなかったが、私がそう返すと、あれは“自分に正直になれ”と言った。そして事実を持ち出した。L███が私との関係を終わらせたのは、私が腕を失ったからだとね。彼女は先に進んだ。彼女は軽薄だった。その後、あれは私にこう訊ねた。“もし彼女が怪我を切欠にして別れるような人間だとすれば、君に右腕がまだあったとしても、他にどんな浅はかな理由で別れるか知れないだろう?”
ホス: 受け入れ難かったでしょうね。
キャシディ: そうとも、だがそれは聞かなければならない事だった。心の何処かで、私はL███がまだ私を愛していると、関係が切れているのは今だけだと信じたがっていた。だがもう理解した。辛いとも、しかし理解した。そして… 分かるかい?
ホス: はい?
キャシディ: 私は過去と和解した。L███にはもっと相応しい、全力で彼女を愛せる人がいる。そして私にも。
ホスは沈黙している。
キャシディ: それから間もなく、君が私を追いかけてきたんだ。私は停車し、光は消え、私の右腕はまた消え失せ、こうして我々が今ここにいる。
ホス: 成程。さて、後は特に訊く事も無いので、これでインタビューは終了とします。
キャシディ: 分かった。この話から何か収穫があったことを願う。きっと私は、これから記憶処理を受けなければならないんだろう?
ホス: プロトコルはプロトコルです。
キャシディ: いいとも。準備はできている。
キャシディは左腕を広げる。
ホス: 随分と記憶処理に乗り気のように思えますが。
キャシディ: 頭をすっきりさせて感情を整理するのに必要なのは、夜のドライブだけという場合も時々ある。異常か否かに関わらずね。記憶処理はプロセスを完了させるだけだよ。
<インタビュー終了>