オン・ザ・ガーベッジ: パートA
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1. 秘密組織が避けられないゴミ問題についての私的な要約

前提その1: 財団は非公開組織だ。

我々の存在は一般大衆に露出されていない。"SCP"の3文字から始まる世界規模の秘密結社は、公的には存在しないことになっている。これには複数の合理的な理由がある。収容下にあるオブジェクトの危険性、既知の物理法則への不審の回避、社会不安の惹起、様々な倫理上の懸念。同時にいくつかのイデオロギー上の理由もある、曰く人類は闇の中に立ち戻るべきではないとか、云々。

前提その2: 人あるところにゴミがある。

これは純粋に物理的な問題だ。人間が活動するとき、そこにはあらゆる形態のゴミが出る。最も典型的な例は食品残渣および排泄物だ。これらは我々の生命活動と不可分で、排出を止めることができず、また基本的には人数に比例して規模を増す。十分に文明化された我々のオフィスを想像するならば、メモ用紙、空き缶、大小無数の包装ビニール、ペーパータオル、クリップと付箋、掃除機のカートリッジあたりが、そこに出入りする人の数だけ通路脇のゴミ箱に放り込まれている。これらを無くすことはできない。

前提その3: ゴミ捨て場は一杯だ。

少しわかりにくい比喩かもしれない。君の生まれ故郷がもし埋立地でもスラムでもないならば、隣人の昨日の夕飯の残り滓で道端が埋め尽くされていないことは当然なので、首を傾げるのも無理はない。君の両親の捨てた野菜くずは焼却場に送られるだろう。しかし実際のところ、我々の家に収集車は来ない。

ほとんどの財団サイトに住所が割り当てられておらず、どんな回収業者も我々の存在を知らないことについて、君は真剣に考えたことがあるだろうか? この階のトイレの配管がどこに繋がっているか知っているだろうか。清掃員はクラス4バイオタイプ残渣をどこに持っていく? 君がゴミ箱に押し込んだメモ書きの上のレベル3機密はどうやって漏洩を免れていて、どうして物好きな雑誌記者やライターがサイトの入口にカメラとマイクを持って押しかけていないのだろう。

廃棄物、残骸、厨芥、塵埃、どのように換言や定義変更を試みるにしても、人間は常にゴミを出し、ゴミとともに生きている。そして財団は、およそ国家を除いては有史以来最大の人間の集合体だと言っていい。世界中の財団サイトは毎日毎夜、信じ難いほどの量と種類の廃棄物を産出し、そしてそれを可能な限り隠匿する。その規模は年々拡大している。

加えて我々は非常に多量の一般的なゴミに加え、アノマリー特殊なゴミを有している。これらは文明に寄生する知識を複写したメモであったり、人間を3重螺旋の刺胞動物に組み替えるウイルスに暴露した組織片であったり、致死的な概念に感染した水であったりする。これらをゴミ捨て場に持っていくことはできない。排水口に流すこともできない。

一見すると希望はなさそうに思える。しかしこれらの事実に反して、我々は自身の撒き散らした汚濁で窒息しておらず、またその悪臭によって存在が世間に露呈することがなく、またその毒性によって冒されることもない。

一体なぜ?

2. いつだって退屈な歴史の授業

1876年のことです。レイチェル・カーソンがあの有名な本を出版するより一世紀近く前でしたが、財団は同種の問題に突き当たりました。グレートバレーに集落を拓いたフォーティナイナーズ金採掘者たちからの報告では、彼らの同胞は突然立ち上がれなくなり、会話や食事が困難になり、最後には遠く東海岸に残してきた両親や兄弟も忘れ去って、すっかり廃人になってしまいました。

当初、これは鉱毒や劣悪な食習慣によるものだと思われていました。財団が発足して間もない頃で、この手の一見して非超常的な事象は優先度がかなり低かったわけです。長らく調査されなかった結果、"鉱山健忘症"は20年以上も北部カリフォルニアの風土病として一般に認知され続け、一時は全米医薬品年鑑にも載る始末でした。

随分長いことこの奇病の原因は不明とされており、不名誉な事実が明らかになったのは20年代の初めのことです。現在の場所に移設される前のサイト-14はシャスタ郡にあり、中部アメリカ全域に記憶処理薬を出荷していました。数種のアノマリー由来物質と鉱水沈殿物を混合したこの有害な薬液は、精製過程で出る有毒ガスを泥に吹き込んで固着させていました。汚泥の処理方法が確立されていなかったので、当時のプロトコルではどこか人目につかない場所に捨てておくことになっていました。

後のことはおわかりでしょう。数千トンもの汚泥がバケットから放たれて谷間を埋め尽くし、雨が降るたびに高濃度の向精神薬が地下水脈に染み出しました。川も、井戸も、湧き水も、下流にある全ての水源が汚染され、開拓民が口にするありとあらゆるものに、厳密には検証されていない未知の毒性が与えられたのです。1931年に旧サイトが閉鎖された際、汚泥は廃坑に埋め直され、アルツハイマーと異常薬学の因果関係が完全に確認されたのは戦争が終わった後のことでした。下流域の土壌は今でもそのままになっています。医療部門の統計は機密指定されました。被害者が何万人いたのかは不明です。

この件で財団が追求されなかったのは、単に当時の州務長官と保健局長が買収されていたからです。かつてはこういったことは日常茶飯事でした。財団は人間を食い殺すKeterクラスを市民から引き離すのに躍起になっていましたが、収容体制が安定し、当面の研究成果が得られた後のことは非常におざなりでした。収容に使われる武器や薬品の影響、それもアノマリーと関係がない一般市民への副次的な影響については、もっと無頓着でした。

ドノラ事件の報告書を読みましたか? あれは間違っても工場の煤煙のせいではありません。当時の財団は、アノマリーの吐き出す異常な毒や自分たちが作り出した異常でない毒が、サイトの床下や通風孔から人口密集地に漏れ出すことを、ただ単に見過ごしていました。

時代のせいだと言うのは簡単です。毒性物質の環境暴露についての意識は、当時一般にかなり低レベルでした。このことは財団の、最先端の技術と科学的視点を有する研究者たちが、この単純な問題に長らく気付かなかったか、気づいてもなお見ないふりを続けていたことへの言い訳にはなるでしょう。しかし論点はそこにはありません。ことは責任の問題で、ある局面では積極介入主義者である私たちが、特に自身の不調法から生じた問題について異常なほど消極的であることの矛盾を突いています。

いいですか、財団は特に何か、酷いことをしたというわけではありません。

ただ何もしていなかったのです。

3. 対策清掃(清掃対策ではない)

名称: Waste Treatment Unit対策清掃課/ WTU

所属: SCP財団管理部門 収容維持部 地域局

担当管理官: エルナド・ベーリング

任務概要: WTUの主要任務は、財団指揮下の収容施設において排出される各種廃棄物を適切な形態に扮飾し、外部処理施設への搬出を確実とし、以て収容施設の衛生環境を基準状態に保ち、また財団および財団施設の存在を一般大衆から秘匿することにある。

より具体的には、保安プロトコルに定められた各施設の偽装アイデンティティに合致しうる物品輸送の形態を定め、これに応じた方式で廃棄物を加工または擬装する。施設の安全性を確保するために、有害な物質は十分なカバーストーリーのもとで搬出され、外部の協力事業者、専用の処理機構を備えた財団施設、または無人地帯にて処分される。

設立: 1918年

統括: 北米第二管区 サイト-88

任務事例: 子供用木製玩具工場として地域住民に説明される秘匿サイトにおいて、軽微な収容違反の結果として約60トンの強酸性細胞滲出液が蓄積し、その悪臭から住民とサイト関係者の間に軋轢が生じた。WTUが介入し、工場の経営部門を装って住民向けの説明会を開催した。滲出液は新しい工業用ニスおよびタールであり、加熱と酸化により臭気が失われるため、人体に無害であると説明された。

住民代表への買収工作が成功した後、地域当局との形式的な協議が行われ、衆人環視のもとで滲出液を封入したドラム缶はサイトから運び出された。運搬および処理に関するコストの懸念から、すべての搬出物は近隣の非居住地域に投棄された。事後観察の結果、住民の財団施設に対する疑念は許容範囲に留まった。周辺地域での消化器系有病率は顕著な増大を見せたものの、本件との因果関係は認定されていない。

4. 焼却せよ

施設管理主任のリヴァーモアの元には、毎日無数の厄介事が持ち込まれる。彼はただの主任ではなく、北米第二管区、7つの州に跨る大小22箇所のサイト施設の維持に責任を負っていた。数多くの書類、いくつかの新規事業に関するブリーフィング、複雑な調整を必要とする予算申請、そういったものが彼のオフィスで待っている。

彼は多忙だった。それでも彼は今、デスクを空けて、サイト-88の主要棟から離れた場所にある古ぼけた施設の中央部に立っていた。

彼の眼前には焼却炉がある。分厚い、しかし内包する炎熱の前にはいささか心もとない隔壁にはいくつかの小さな覗き窓があり、強化ガラスを通してオレンジの光が漏れ出ている。送風ファン、圧力弁、蒸気回路が唸りを上げ、炉はごく微かに振動している。

焼却炉は彼にとって悩みの種だ。管轄下のサイト群が生み出す山のようなゴミを燃やすため、法外な額の石炭や重油が消費され、毎年の予算を圧迫している。オレゴンには2つのサイトが新たに建設されており、コロラドの永久収容エリアは拡張工事中で、バンクーバーの水中サイトは稼働間近だ。ゴミの量は増えることこそあれ、逆はない。

財団の財務諸表は通常の形式から程遠いが、何がコストであるのか読み取るのはさほど難しいことではなかった。管理部門はすべてのゴミの埋立処分を提言したことも、実際に実行してみたこともある。それはうまくいかなかった。人目のない遠隔地にゴミを持っていくのは高くついたし、事故も多発して、最終的には一部のゴミがシートを破って歩き始めた。

WTUが州兵を抑え込むために取った様々な措置と、そのための書類の末尾に記入された自分の名前について考えると、今でもリヴァーモアは脇腹に痛みを覚える。騒動の末、監督者評議会はひとまず安全なゴミとそうでないものを分け、少しでも不安定な代物をとにかく燃やすことにして、いくらかの補正予算を計上した。しかし北米第二管区は今年の割当をとっくに使い切っていて、それでもゴミは毎日運ばれてきている。

手元の書類には、搬入された様々な廃棄物の素性と排出元が長大なリストを作っている。いくつかの項目はタイプされた上から黒塗りされている。リヴァーモアは胡乱な目つきで、焼却炉の責任者にすら開示されないゴミの羅列を眺めた。彼は正体不明の何かを燃やしていた。それはもしかすると何らかのアノマリーが生産した、異常な魔法にかかった存在かもしれない。隔壁を挟んで15メートル向こうの火室にそれがあるのだ。彼には誰がどのような根拠で、それが600℃の熱によって無害化できると考えたのかを知る権利がなかった。SCL規制が導入されて以来、彼のクリアランスは3のままだった。

コスト、機密、安全。彼の仕事は常にこのトライアングルの間を揺れ動いているが、基本的には前の2つが優先される。過去の様々な教訓から、財団は収容施設の安全には殊の外気を遣っていた。しかしそれ以外ではどうだろう? 限りある予算は出現し続けるアノマリーの対処と、拡大し続ける組織の図体を日陰に収める努力に振り向けられている。リヴァーモアは自分が軽視されていると感じていた。自分と、自分の仕事が。廃棄物の管理とその処分は、本来なら施設管理主任の煩雑で膨大な業務の片手間にするようなものではなかった。誰かが責任を負わなければならないのだ。常に足元に降り積もっている数多のゴミ。埋め立てられたゴミ。燃え続けているゴミ。

振動が止まった。

リヴァーモアは焼却炉を見上げた。火室の中の様子は特に変わっていない。橙色と青紫の混在が汚れた窓の向こうに踊る。蒸気の圧力を逃しているパイプの音が弱まっているが、それだけだ。警報は鳴っていない。バルブの目盛りは正常の範囲内。何も起きていない。何も起こるべきではない。

頷き、仕事に戻ろうと踵を返したところで、部屋の扉が勢いよく開け放たれた。背中に炉の熱を感じながら、リヴァーモアは問い質そうとした。しかし現れた彼の秘書官は、蒼白になった唇を震わせて何かを言おうとし、失敗し、すぐに試みすら放棄して彼の腕を引っ張った。

不意に金属のさざめきがそこにいる全員の耳朶を打った。リヴァーモアは振り返った。配管は振動を取り戻し、それどころか脈打ち、よじれ、のたうち回って藻掻いていた。送風機のブレードが壁にぶつかって耳障りに喚く。圧力弁が悲鳴を上げている。操作室から血相を変えた作業員が何人も飛び出して、あちこちのバルブに取りついていく。警報が鳴らないことにリヴァーモアは気付いた。それは壊れていた。ずっと前から壊れていたのだ。予算がつかないので、炉の更新は先送りにされていた。この施設には消火装置すらない。

一縷の望みを込めてリヴァーモアは火室を見たが、その希望はすぐに打ち砕かれた。ひび割れて歪んだガラスの向こうでおどろおどろしい影が立ち上がっていた。それは炎を踏みつけにしていた。それは炎を食っていた。青紫のフレアを吸い込むたび、影は拡大し、熱を増していた。それは踊り、歌い、身体が伸び縮みするたびに配管のあちこちから蒸気が吹き出した。アノマリーの生産物? 魔法にかかった存在? それどころではなかった。リヴァーモアは確信した。あれはアノマリーそのものだ──誰かが間違えたのだ。

複数の、節くれだった腕、そうとしか形容できない部位が、壁の方に伸ばされるのを彼は見た。隔壁は少しだけ抵抗した。それからマットグレーの表面塗装がふつふつと煮えたぎり、その下から赤熱した金属の地肌と、それをバターのように掻き分ける、意思持つ何か邪悪な存在の末端が、陽炎のように滲み出してきた。

リヴァーモアは走り出した。

5. Decommissioning兵器解体

仮設サイト-226がグライエアルプス山脈の只中に建設されたとき、そこに収容されているアノマリーは3つだけだった。いずれも人工の、しかし完全に制御を失った存在で、熱力学第二法則に完全に違反しており、何もないところから物質を取り出していた。科学者たちは5年間を目処にこれらのアノマリーの研究を一段落させ、より安全な場所に移動させる計画を立てていた。彼らの探求を妨げた要因のひとつは、それらが敗戦国の軍用装備であったことにあり、オブスクラ軍団から奪取した兵器の扱いを巡って、連合国と財団の間で複雑な駆け引きが繰り広げられた。

結局、終戦から10年が経ち、人々の頭上で起こる緊迫した政治対立に「Cold War冷戦」の名前が与えられた後もこのサイトは稼働し続けており、遠隔で研究されているものを含めれば、収容対象のオブジェクトは40を超えていた。

ディラン・セルカークは物理学者だった。少なくとも博士号を取得するまではそのつもりでいた。財団に雇用された後、今後進むことができるキャリアを検討するためのセミナーで、彼は外部エントロピーと名付けられたばかりの新しい概念と出会い、そのことが彼の人生設計と科学観をめちゃくちゃにしてしまった。結果として、彼は人里離れた山奥の、トーチカによく似た構造の研究施設に何年も引き篭もり、宇宙の法則と目の前の現実になんとか折り合いをつけようとしていた。

ルビアノ・ガルチがドアを叩いたとき、ディランは小さな装置と格闘していた。見た目はごちゃついた大砲と、そこに繋がった圧搾機のように見える。それはあくまで模造品に過ぎず、本物はザルツブルクの地下にあった。海上封鎖を縫ってトラックの燃料を確保するためにナチの研究者たちが行った努力の結果、問題の装置は接続されたタンクの中に起源不明の低質油を大量に出現させる能力を得たが、それが齎したものは圧倒的に害の方が大きかった。

「また食事を取っていなかったのかね?」

ルビアノが声をかけ、ディランは振り向いて会釈した。クリームで固められたいささか古風な口ひげを持つこの細身の男は仮設サイトの責任者の一人ということになっていたが、予算折衝や各種交渉のまとめ役としての期待によるものが大きく、研究者としての彼の実績はさほど華々しいものではなかった。本人もそれを自覚しており、また肯定的に捉えている。彼に言わせれば、自前の研究プロジェクトを持つことになれば、世界の安寧に貢献している同僚たちのために新しいフィルムやペーパークリップを買い与えるべく様々な申請書を作成することが難しくなるので、論文の引用数が少ないことには良い側面もあるのだった。

「おはよう、Kaiser陛下」口ひげに因んだ愛称にルビアノは肩を竦め、ディランは装置のリモコン部分をドライバーの先で軽くつついた。「今日の食堂のメニューは何だった? またあの缶詰じゃないのか?」

「あと一ヶ月はそうかもしれないな」ルビアノは言った。

「勘弁してくれ」

ディランは首を振った。SCP-3554はかなり昔から知られているアノマリーで、ソビエト連邦と財団の微妙な緊張関係の中で、その見かけ上の安全性にもかかわらずほとんど研究されていなかった。そして、226が外部エントロピー研究の拠点としてその立ち位置を確立した後、この古い缶詰工場(の上に建てられた、新しい缶詰工場に偽装されている財団サイト)からアルプスの山中へ、無作為抽出された缶詰のロットが定期便で空輸されてくるようになった。今のところ、工場が生産するボルシチ缶はすべて非異常だ。容器が錆びついていることと中身のカブが常にふやけていて酷い味がすることを除き、特筆すべき点は何もなかった。予算削減に悩む会計担当者が、食堂とは名ばかりの加熱調理室のストックヤードに古いボルシチ缶を加えたのは、それほど驚くべき帰結ではない。

「あれはふやけた紙を食べてるような感じがする。できるだけ口に入れたくない……それにまだこっちの問題が未解決なんだ」

「ベルリンかね? オレンブルグ、カーソンシティ、メドウ湖、それともオーストラリア?」

「ザルツブルク」ディランは頭を掻いた。

「やっぱり本物だと思う。どれだけ記録を漁っても、本体構造を研究しても、反証が見つからないんだ。どこかから物質を転送したり、元になる何かを変換や複製や拡大したり、何か形而上の存在と取引を行って対価を支払った形跡がない。これは純粋に……」彼はその言葉を発するとき、無意識に声を潜めた。「純粋に、無から出現している」

「驚異的だね」ルビアノは口ひげをつねった。

「そのような現象が何の理論的な裏付けもなく起きるとは。しかも地上の街を火の海にする寸前だったんだろう?」

「今は街の地下で留まってるけどね」

二人は苦笑した。アーネンエルベの技術者とオーストリアの錬金術師が開発したこの装置は、開発者の誰も自分たちのシステムがどのように動作するのか理解していないことで悪名高かった。戦争の末期、劣勢の戦局を一変させうる兵器の開発は20種類以上のラインが並行で動いていて、パラテクの素養に欠ける指導者たちは結果が出せない技術者を次々に別の者と入れ替えたので、そのうち計画の全容を知るものは皆無になった。ザルツブルク・オブジェクトは元々無限に発射できる固定式の大砲だったはずが、砲身の設計で早々に行き詰まり、砲弾と火薬を無から入手する方法を研究しているうちに連合国の海上封鎖が始まって燃料補給のプロジェクトにすり替わった。

だからこれほどお粗末な結果に終わったのだろう──低質油の供給にブレーキを掛ける安全装置が機能せず、装置はポンプの先に繋がった金属缶ではなく、装置本体が安置されていた地下シェルターとその先の下水道すべてを満たすべきタンク空間と認識した。連合国軍が爆撃を行っていたさなか、街の地下は油で完全に満たされていた。進駐した米軍は、完全に機能しなくなった下水道と、危険な可燃性ガスが充満する防空壕を復旧するために多大な犠牲を払う羽目になった。数十万トンの油の供給を断ち切るために財団は街の一部を陥没させて"タンク"を小さくし、郊外にパイプラインを引き、10年掛けて安全に大部分の油と、不幸にも溺死したドイツ人兵士たちのよく保存された死体を排出した。

「酷い兵器だ」装置のレプリカを放り出してディランは呻いた。「欠陥品だよ。どれもそうだ。このサイトで扱ってる物はまともじゃない。油を垂れ流す大砲、落ちる先のわからないテレポート爆弾、無性生殖する戦車、それから8種類の自動生産される人間兵器」

兵器化人間というべきだろう」ルビアノが指摘した。「それに兵器じゃないものもある。もっと以前から収容されているものも」

「糖蜜災害を引き起こす人形とか? 確かにあれはどちらかというと骨董品だ」

肩をすくめ、ルビアノはディランの側に歩み寄ると、彼の前の作業机にトレーを置いた。堅パンとサラダに川魚のフライ、そしてまだ湯気の立っているボルシチ。部下の縋るような視線を敢えて無視して、彼は足元のレプリカを拾い上げ、油汚れのついたサイドテーブルの脇に立って研究チームが溜め込んでいる大量のメモ書きと申請書の束に目を通した。背後で諦めたような溜め息と、続いて食事に齧りつく音が聞こえてくるまで、彼はずっとそうしていた。

「解体手段が見つからないんだ」

不意にディランが呟いた。ルビアノが振り返ると、彼の若い友人はボルシチに浸した堅パンの欠片を頬張っていたが、瞳だけがこちらを捉えていた。そこには不安が色濃く現れていた。

「現実的な収容手順の策定は可能だ。ほとんどのアノマリーは兵器として、少なくとも計画時点では、人間による操作を受ける必要があった。製作意図が推測できる以上、収容難易度は低い。ランダムな現象よりはよほど制御できる。でもそれはアノマリーを構成する要素を損なわずに保存する場合なんだ。システムを破損した場合に、問題が起きないことを保証できない。脅威を取り除くことができないんだ」

「そう思い詰めることはないさ」ルビアノは宥めた。

「委員会は間もなく解散する。いつかのジョークの通り、あちらが先に解体されるんだ。君は気にしなくていい」

「だけど──僕は彼らに共感してる。確かにアノマリーは保護すべきかもしれない。しかし安全に破壊できるなら、あれらは兵器で、しかも制御不可能なんだから、武装解除が必要だ。そうじゃないか?」

ルビアノは何も言わなかった。連合国超常兵器無効化特別委員会、通称Decommissioning Commission解体委員会に財団はオブザーバーとして参加し、いくつかの些細で短絡的な超常兵器システムを無力化するか、その脅威を低減させ、可能な限り収容下に置いてきた。財団の理念を参照すれば、アノマリーの無力化は最善の選択肢とは言えない。それでも世界大戦の後始末において、すべてのジャンク品を収容しきれるほど財団の懐が広くないことを監督者評議会は認識していたし、その認識を上級職員が共有するための啓蒙努力を欠かさなかった。

『我々の焼却炉には空きがない』というのが彼らの決まり文句だった。ルビアノにとってもこれは妥当な結論だった。彼はまだ湯気を立てているボルシチを見た──缶詰工場は毎日8万個のボルシチ缶詰を製造し、これはおおよそ40トンの高含水有機質と12トンの金属屑になる。毎日毎晩の52トン。スープに有毒物質が入っておらず、それどころか完全に分解可能な有機物のみで構成されているのは奇跡的だった。いざとなれば下水や川に流すか、缶ごと地中に埋めることもできる。ほとんどの外部エントロピーはそうではない。

ルビアノのクリアランスで確認できる範囲だけでも、3554と同規模かそれ以上の物質製造を行うアノマリーは両手両足の指では利かないほど発見されていた。戦争、それも近代の総力戦を戦うために、それらは兵器として、戦争システムの中核となることを企図して設計されていた。戦争が終わり、停止ボタンのない不良品の生産システムだけが残った今、これらは概ね同じ単語で言い表せる。無際限の、有害な、処理を必要とする、ゴミ山。解体できず、根絶できず、焼却できず、放置すればいずれ地上に溢れ出す。

「どうすればいいんだ?」ディランが呟いた。

「こいつらはいずれ僕らを食いつぶす。だが安全な処理手段がない。当面の秘匿と暴走する危険の排除、これしかできることがない。今すぐに人類を滅ぼすような問題じゃないが、間違いなくこれは異常で、脅威だ。解体するべきだ。もし可能ならば」

「もし可能ならば」ルビアノも後を追った。「確かにそうだな」

歩き出したルビアノを、彼の部下は不安げに見つめた。口ひげを弄り回しながら、彼はここまでの会話を反芻した。彼は部屋の中を見渡した──プロジェクトチームが書き残したメモ、"不可能"と走り書きされた申請書の写し、そこら中に貼り付けられた付箋。サイドテーブルに載せられた、精密なレプリカが彼の目に留まった。最後に彼はもう一度部下の方を見た。トレーの上の昼食はほとんど食べ尽くされており、最後に残ったボルシチを、ディランは不味そうに啜っていた。

彼は大きく頷いた。

「どうするつもりなんだ?」大股で部屋を出ていこうとするルビアノにディランが質問した。「あんたはいつも僕らのために頑張ってくれる。そのことを皆がよく知ってる。だがこの件は、このサイトにいる誰の手にも負えない。誰にもだ。もしかすると地球上の誰にだって」

「勿論だとも」彼は振り返り、上品に微笑んだ。「私に大砲をどうにかすることはできない。私はただ、当面の規則を少し変更して、ちょっとした資産運用を上司に提案するつもりなのさ。この問題を解決するための期限を、多少先延ばしにするためにね」

「それはまさか──」

「私は研究者として優秀とはいえない」彼はドアを開けた。「だが提案書を書くのは得意なのでね」

6. 誰が玄妙除却について知っているのか

その会議室は誰も知らない場所にあった。正確には、そこに会議室があり、そこで何かが決められていると誰も思わないような場所に。そこにはサマルカンド・クラブ、13人の理事によって構成される、財団の枢要たる監督者評議会がいた。

長い討議の終盤だった。誰もが疲弊し、次の議題に移る前の短時間の休憩などではない、正真正銘の休息を欲していた。多くの職員が思い描く姿とは異なり、O5評議会の会議は優雅でも、苛烈でも、冷淡でもない。それらはある程度淡々としており、同時にある程度人間的であり、そして単純に、ひどく重労働だった。

「それで?」O5-3が困惑した調子で手元の資料の束を小突いた。なめらかなマホガニーの表面は、注目を集めるための緩やかな衝撃を滞りなく吸収した。「誰がこの計画を認可したんだ。アノマリー生産物の大規模転用、再生、市場創出? 一体何を考えてるんだ?」

「前任者の最後の仕事だったと記憶しています」O5-11が手を挙げた。「挑戦的な取り組みでしたね」

「敢えてここでナンセンスと言い張るべきなのかどうか測りかねている」O5-3は怒っているわけではなかったが、その表情は納得しているとも言い難かった。「資料を見る限り、安全評価に今のところ問題がないことは認めよう。理念についても理解できないわけではない。アノマリー生産物の処分コスト、半永久的な固定負担は確かに財政リスクだ──だが評価システムの運用費、この桁は何だ? 当初の目的に見合うものと言えるのか?」

「まだ結果は出ていないでしょう」イレブンは肩を竦めた。

「長い目で見る必要があります。アノマリーの中枢理論が解明され、抜本的かつ安定な解体手段が開発されるまでは、我々は事実上永遠にこれらの生成物を処理し続けなければならない。ヴェールを維持しながらね。秘匿原則が現場にかなりの無理、特に鼻持ちならない額の費用負担を強いることをご存知でしょう。安全性評価と再生活用システムの現地市場への組み込みには、長くて10年程度しかかからない。プラン次第ではありますが、全体としての採算は悪くないと考えることもできます。50年も稼働すれば回収できる」

「いささか好意的に過ぎる推論だ。市場経済とアノマリーの生産能力が結びついた場合、何が起きるのかは想像に容易い」

「価格破壊による市場の混乱、それに伴う当局との関係悪化。関係職員の汚職リスク。未知の異常性が露見した場合の回収コストの際限ない増加」O5-7が椅子を揺らした。「あるいはその全て。どちらにしろ、ごく一部のアノマリーについて十分な試験を行うならば、再利用の提言は悪くない水準にあると思います」

「そう上手くいけばいいがな」

スリーは鼻を鳴らしたが、それ以上の指摘はなかった。提案書はよくできていて、評議会の議題に上るまでの間に、既に上級委員会で幾度もの討論とリスク評価に晒されていた。過去数年間の間に試験されたアノマリー由来産物のリストに対し、評価システム室は今後少なくとも10年間、それらを市場において使用されるだろうあらゆる環境に暴露させ、異常な効果を発しないことを確認するよう要請している。財務部門の強力な後押しと倫理委員会の要請の間で、管理部門は複雑怪奇な官僚的ロジックに立ち向かっていた。

「では、評価システム運用のための5ヶ年予算については可決ということで」それまで黙っていたO5-13が議論をまとめた。この長い長い新規プロジェクトへの最終予算審議において、まだ年若いサーティーンは持ち回りの円卓のホストという重責を担っている。彼女のグラスの脇には胃薬の入ったピルケースがあり、中身は半分になっていた。

「次だ」スリーが呟き、秘書官が入室して全員に新たな書類の束を手渡し、滑らかに退席した。

「先の議論に関連する話でもある。我々の素晴らしきゴミの山と、新設される焼却炉についてだ」

Disporsal Division廃棄物取扱局の新設」O5-4は団子鼻の上の老眼鏡を軽く持ち上げ、確認するように読み上げた。「対策清掃課の格上げ。研究ポストの新設と予算充当。専任機動部隊の配備」

「前々から議論の俎上にはあった件です」イレブンが頷いた。

「WTUの業務は拡大し続けています。何せ今では北米のすべての州に我々のサイトがある。中核サイトに限っても17箇所。ヨーロッパ、北東アジア、北アフリカでも我々は根を張った。100人以上の職員を抱えるサイトがこれだけ存在します。これまで彼らは全部を焼いて埋めていましたが、現在の体制では限界が来ました。サイト内で処理するにせよ、外部の業者に委託するにせよ、我々は適切なカバーストーリーを維持しながら、毎週1万リットルのゴミ箱を空にしなければならない」

「都市化と環境規制の問題もあります」O5-7が補足した。「多くのサイトの周辺で宅地開発が始まっています。10年後には街ができ、ハイウェイが通る。じきに工場排煙に規制が入ります。私たちは大気清浄法の妨害に失敗したんです。もう40年代とは違う。なんでもかんでも谷底に放り落として済ませるわけにはいかない」

「州議会へのロビーである程度の遅延は可能だろうな」O5-5が首を振った。「フロント企業による提訴も考えられる。だが本質的な対策ではない。住居政策への介入を行うには20年遅かった。これから地価変更を誘導するためにどれだけのコストを払えるかは未知数だ。そのうちサイト-19の周辺は高級住宅地になるだろう」

「結局、我々には処分場を内製するか、事業者をまるごと抱き込むしか道がないわけです。焼却炉、還元炉、下水処理場に埋立地、全てに我々の手をかける。それか秘匿原則を破棄するか」O5-11は上目遣いでテーブルを見た。「ゴミ処理とヴェールです。これが密接に関係する事象だとは、正直言ってこの席に座るまで私は全く考えていなかった。しかし実際、我々が無遠慮に収容室から出る食べ滓やら糞便やらを垂れ流している限り、早晩ヴェールは崩壊する。そういった意味では、我々は完全な収容にまだ達していない。ほとんどのサイトの下水管は未だに近隣の河川に繋がっています。家庭用配管は5年後にはほとんどのサイト近隣に辿り着くでしょうが、大抵は民間の営利事業者です。それでは収容違反が増えるだけだ」

うめき声と溜め息が会議室に広がったが、それは必ずしも暗いトーンではなかった。監督者評議会ではこういった事はよくある。対策のために必要なのが天文学的な額の費用と長い時間、それから多数の優秀な組織人が払う大規模な努力であるとしたら、彼らにとっては幸運なことだった。挽回できない危機、薄布一枚の向こう側に広がる人類全体への未知なる脅威に比べれば、ここにいる13人が率いる官僚組織は大抵の困難なプロジェクトに耐えられる。

「格上げの意義については了解した」O5-3は頷いたが、彼の丸々と肥えた指先はまだ書類をなぞっていた。

「だが結局、彼らが処理できるのは通常の形態の廃棄物だけだろう。食品残渣、排泄物、業務上廃棄物、非異常のアノマリー産物。それ以外はどうする? WTUについて、これまで幾度も事故の報告があった。彼らの業務から分離された毒性残滓の研究はどうなっている?」

「サイト-43に研究グループがあったはずですね」O5-4が上品に指摘した。「エイトの管轄だったのでは」

「その件についてですが」O5-8は溜め息をつき、豪奢な指輪をいくつも嵌めた細い指が細かく震えて、眉間に現れたシワを隠すように揉んだ。彼がこの件について言及したくないことは明らかで、彼は何度か言い淀んだが、最終的には口を開いた。

「サイト-43の毒性物質研究グループは事実上の機能停止状態にあります。玄妙除却の指導者は半年前に失踪しました。彼のオフィスの地下には巨大な地下空洞があり、彼はそこで今も働いている可能性がある。精神状態にも明白な問題が見受けられた。私は……」彼はまた言い淀んだ。「私は責任を取らなければならない。つい先日、彼と彼の新しいオフィスをアノマリーに指定する文書にサインしました」

さざ波のように困惑が広がり、複数のささやき声が響いた。

「それは困るな」イレブンの額には汗が浮かんでおり、彼がこの情報を知らなかったのは明らかだった。

DD廃棄物取扱局の通常装備で対処できない深妙廃棄物は、サイト-43に投げる予定だったんだ。彼らの研究のもと、廃棄可能か永久保管かを決定する。対策清掃課の業務は隠蔽に傾いているから、アノマリー由来産物の廃棄方法の調査は大本の研究チームに依存している。新しく専門の技術者を育成する準備はできているが、少なくとも数年かかるだろう」

「拡充を延期するか?」スリーが尋ねた。

「難しいな。特に北米サイトの状況は芳しくありません。制度自体が疲労している。現在の権限で職務に当たっていれば、近いうちにWTUは致命的な収容違反を起こすでしょう。既に補正予算も人員も限界まで手当している。猶予はないと思っていただかなくては」

何人かが互いに目配せをし、最終的にその行き先は腕組みをしたO5-9に行き着いた。浅黒い肌の大男は首を傾げ、評議会で暗黙のうちに遠慮されている、互いの職掌に踏み込んだ発言をするためのささやかな心の用意をした。

「資料によれば」咳払いとともに彼は話し始めた。「エイトのいう、玄妙……何だ。この研究グループは、長く務めたトップにそれほど依存する組織ではないようだ。混乱があるにしても、日々の業務を滞りなくこなせているように思う。相互の組織が独立したまま協力関係にあったのは、互いの管轄が異なるからだろう」

O5-8は顔を上げ、彼の前髪は汗を吸って垂れ下がっていた。神経質な白人とナインの間に、マホガニーのテーブルだけが横たわり、その視線の行き交うさまに、他の全員が注目していた。

「どうだろう、DDとこのグループを、より密接に……関係させては」エイトの瞳に映る危険な色合いを反映して、ナインは鮮やかに言葉遣いを修正した。「遺憾ながら、アノマリーに指定された財団研究者に、我々は多くの心当たりがある。この件について我々が責任を追求しても仕方がない。少なくとも私は、君と君の部下を糾弾しないと約束できる。どうかな? ホットラインを結び、2つの組織の緊密な連携に期待するのは?」

それは助け舟に他ならなかった。エイトは目を丸くし、イレブンは大きく頷いた。サーティーンは相変わらず何も言わなかった。彼女は既に長すぎる予算協議に疲弊し尽くして、これ以上一言だって口を開きたくなかったのだ。代わりに机全体を見渡して、彼女はこれまでずっと黙っていた、最も権威ある人物に目を向けた。

「O5-1」サーティーンは尋ねた。「議論について、何かありますか?」

「エイトが納得するならば、それが最善だ」白髪の老人は肩をすくめた。

皆の視線がO5-8に集中した。いくらかの逡巡の後、彼は頷いて椅子に寄りかかった。皆が同じようにした。誰もが疲れ切っていた。

「最後に一つだけいいだろうか」ワンが唐突に言った。

「何か?」

「いったいぜんたい、Acroamatic Abatement玄妙除却とは何だ?」彼は聞いた。「何を意味する?」

誰も何も答えない。

7. 消えない火種を沈める帰結

ドアが控えめにノックされた時、グリーリー博士はちょうど椅子から立ち上がったところだった。15年前にひどい火傷を負って以来、彼の左足は言うことを聞いた試しがない。彼は少しだけ悩み、オフィスの時計を見上げた。19時37分。退勤時間をとっくに過ぎていて、仕事の依頼を断って文句を言われる筋合いはない。

「入ってくれ」彼は言った。

機動部隊補佐官のピーターホフが、書類綴を抱えて早足で入室した。グリーリーが椅子に座り直すのと同時に、彼はデスクの脇に回り込み、手慣れた調子で数枚の書類を引き出すと、順番に並べて整理した。

「要点は?」博士が聞いた。

「17時間前、処分エリア-66前哨拠点からの連絡が途絶しました。各種計測機器への反応なし。異常発生の報告なし。地殻変動、ならびに水温水圧の変化なし。上位サイトへの警告が発されています」

「なぜ報告にこれほど時間がかかった?」

「近接する財団船舶が状況を確認できませんでした」ピーターホフは簡潔に説明した。「ノヴェンバー級であります」

「ああ……」グリーリーは溜め息を付いた。

冷戦の発起以来、ソビエト連邦の赤い影の下にあるいくつかの機関は財団に大きな関心を寄せていた。処分エリア-66はその数多く存在する焦点のひとつだ。ミクロネシア沖合にある海中処分場。廃棄物取扱局は、一般人の目に晒すことのできない破壊不可能な廃棄物を半永久的に処分するために世界中の隔地を調査した。米英仏の核実験の結果として色濃く残った汚染により、地元の漁師を除くほとんどの船舶が接近を避ける航法上の無人地帯は、水没によって拡散することのない物質を投棄するにはうってつけの場所だと思われていた。

だが、ソ連海軍の原子力潜水艦が不定期に接近するようになると、この土地は俄に政治的な色を帯びた。エスカレーションを避けるために、財団は米国を牽制しつつ事態を隠蔽しなくてはならなかった。フィリピンとグアムのちょうど中間地点に原潜が進出することは、たとえ核ミサイルが積まれていなかったとしても、関連するすべての勢力にとって恐ろしく刺激的な出来事だ。

ロシア人が何に興味を持っているのかは特定されていない。霊体が焼き付いたメトカーフの銀盤か? それともスクラントン現実錨の飽和した触媒? 最初期型のSRAが耐用期間終了後も周囲の現実を不安定化させ続けることがわかると、O5評議会はこれを太平洋に文字通り沈めることにした。海水が現実性を中和してくれるわけではない。単にそこが世界中の人口密集地から最も遠い場所だったからだ。

財団の視点では、エリア-66にはゴミしかない。コンクリートと複合樹脂のパレットの中に埋め込まれた、危険だが再利用できるほどの価値も安定性もなく、毒を拡散させることもない、ただ有害なだけのゴミだ。しかしそれに意義を見出すものもいる。何にせよ、ソ連海軍に偵察を止めさせるのは並大抵のことではなかった。彼らはアメリカ人も同じことをしていると反論するだろう──南シベリアで財団とソ連が共同作戦を行った後、サイト-43に運び込まれた変異した赤軍兵の肉体の一部は、間違いなくCIAによって盗難された。そうでなくともこの危険な感染組織は幾度となく漏洩を引き起こしていたが、この件は感染力を維持したサンプルが完全に行方不明になったという点で極めつけだ。保安部門はラングレーのエージェントを名指しで抗議したが、効力があったかは定かではない。

いずれにしても、事態は発生した。対処しなければならないことをグリーリーは痛感していた。ことはひょっとすると核戦争を引き起こしかねない。残念ながら、この程度の危機は毎月のように発生していた。

「船は出ているのだろう?」グリーリーは聞いた。「連絡がつくのか?」

「衛星通信は可能ですが、時間がかかります」

「写真はどうだ?」

「事態の発生と同時に衛星画像を手配しました。取り寄せているところで」ピーターホフが言い切るより前に、ドアが猛烈な勢いで開け放たれた。内勤のリヴァーモア技官が肩で息をしながら立っていた。挨拶すら忘れて彼女は封筒を差し出し、ピーターホフは流れるようにそこから写真を抜き取って机に並べた。

二人が写真を覗き込み、一人が少し遅れて続いた。現像されたばかりで僅かに湿り、酢酸の臭いがするそれは、粗い画質のモノクロ画像をさらに引き伸ばしたもので、しかし確かに何かが写っていた。その場にいる誰もが、そこに映るものについて正しく理解できないでいた──画像の問題ではなく、意味の問題だ。

そこに何かがいた。

それは巨大だった。なぜ理解できるのかといえば、比較対象があったからだ。17時間前、昼下がりの太平洋を写したその画像には、たった3つのものしかなかった。背景に広がる黒黒とした海と、波の反射による差し色じみた白。中央から折れた潜水艦の船殻。今まさに写真の中で円筒形を引き千切った、巨大な何かの、銀色に光る影。

それは背鰭のように見えた。

「あの、博士」リヴァーモア技官が息も絶え絶えに言った。「これは……これは一体、何でしょう」

グリーリーは静かに息を吐いた。その質問の答えを彼は持ち合わせていなかった。40年を数える職務の中で、これほどの事態が彼に襲いかかってきたことは一度もない。彼は左足を撫でた。鈍い痛みがそれに応えた。

「わからん」率直にグリーリーは言った。

「だが、間違いなく言えることがある。何か大きなことが起きた」

彼は受話器に手を伸ばし、ピーターホフは息を呑んだ。サイト管理官やそれに類する職責を持つ上級職員のオフィスに設置されている一体型の電話機には、赤と黒の二種類の受話器が存在した。黒は通常の番号だ。赤は上級司令部に繋がっている。ひょっとすると、この電話はO5に繋がることすらある。グリーリーが一度たりともこの受話器を使ったことがないとピーターホフは知っていた。彼は上司の腕を見た。いつも疲労に震えている細い腕を。

彼は震えていない。

彼は迷わず受話器を取った。

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