オネイロマンサーのリ・オリエンテーション
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"オネイロマンサー"とは

オネイロマンサー(Oneiromancer) - 一般的には"夢判断家/夢占い師"を表す単語ですが、幾つかの大規模なコレクティブにおいては、非常に稀有な公式役職名の1つとしても用いられています。

彼/彼女らは個人の潜在意識内を独自に調査・査定し、その性質や構造・風土・夢界生態系・潜伏安定性等、多様な面から評価/レビューを行います。この評価はコレクティブによる都市開発計画の指針として利用される他、各オネイロイたちにとっても治安の良し悪しや潜伏心地を計る目安・判断材料として活用されています。

高評価を得た領域は、多くの場合で集団の活動中心地として活用されることになります。反対に、低評価の烙印を押された領域は、その低評価の一要因となったであろうホストの精神的不安定さや脆弱性も手伝い、最終的には誰も寄り付かない廃れた過疎地帯、あるいは立入禁止区域と成り果てることがほとんどです。

しかしながら、████時代の都市建設バブル期を最後に、オネイロマンサーの役職を担うオネイロイの総数は減少の一途にあります。その大きな要因としては、現職者の(主に飽きを原因とした)相次ぐ退職と、次世代の後継者へのノウハウ伝達不足、そして雀の涙程度しかない報酬制度の存在が挙げられます。この現状に対してオネイロイ・ウエストは、今後も新たな役職希望者を半永続的に募集している、と告知を行っています。もっとも、その宣伝による成果は──








おっと、すぐに気が付かず、申し訳ない。いやいや、時間通りさ。問題ないよ。そろそろ休憩にしようと思っていたところだったからね。それより、忙しいところ、わざわざ時間を取ってくれて感謝するよ。まあ、とにかく、適当な所に座ってくれないか。

ん? ああ、これか。またいつもと同じような"資料"の作成を頼まれてね。いやはや、やはり自分が務める役職を自ら扱き下ろすというのは、あまり楽しいものじゃないな。おっと失礼、話が脇道に逸れてしまった。

本題に入ろうか。早速だが、君は今の仕事や報酬に満足しているかい? 確か、私が覚えている限りでは、君がオネイロマンサーの役職に就いてから、10数年くらいが経っていたと思うのだが。うん? 合っていた? そうか、記憶違いでなくて何よりだ。

それで、だ。この10年で君が得た報酬は何だった? 出張で滅多に帰って来れない賃貸物件の半額保障制度? オネイロイ・ウエスト内のネットワークへの接続経費? 非肉体者向けの理想的夢見のサービス優待? ああ、仕事を終えた後の充足感や達成感とか、概念的要素もついでに加えておかないと。

まあ結局のところ、現状では、ほとんどボランティアみたいなものだ。人様の潜在意識を勝手にレビューして回ることを趣味にしていたら、いつの間にかコレクティブから最下級公務員としての身分と、後は心ばかりのサービスを貰えるようになった次第。

ああ、いや、誤解しないでくれ。私はこのオネイロマンサーという役職を素晴らしいモノだと考えて日々仕事をしているし、コレクティブの政策に対して反感を持っているわけでもないよ。ましてや、君の心情や仕事への態度を否定するつもりなんて毛頭ないんだ。

ん? いやいや、そうじゃない。どうやら行き違いがあるようだ。そもそも私は、君を別の役職や部署にヘッドハンティングしようとしているわけじゃない。大体、私にそんな権限がないことくらい、君も知っているだろう? ふむ、どうも話が見えて来ていないようだね。

単刀直入に言おうか。私はただ、オネイロマンサーという役職でより"多くの報酬"を得る術を君に教えてあげたいんだ。何、簡単なことだよ。君はこれまでと同じように、自らの仕事を続けてくれるだけでいい。

ただ、私が指定する特定領域の査定評価を、極めて"低く"見積もってくれれば、それでね。

おい、落ち着いてくれ。話を最後まで聞くんだ。さあ、もう一度座って。

良く聞くんだ。いいかな、これは非常に重要な役目に他ならないんだ。ああ、偽証を働くのが嫌? 大丈夫、この偽証は誰も傷付けたりはしない。それどころか、君の大切な者を守るためにも繋がるかもしれない。無論、守秘義務は守って貰わねばならないがね。

おいおい、理由なんて聞かないでくれ。私がそれを説明できる立場にあると思うのかい? ただ君は、大きな報酬と引き換えに、書類を少し"書き直して"くれるだけで構わないんだ。難しいことじゃない。それに報酬は、君の家族にだって同等に齎されるはずさ。

強張らないで。ここからが君にとって、本当に重要な話だから。ああ、それと、記録装置は置いて。このやり取りはログに残らない。

君が現実で死亡してから、早15年が経った。つまり、君のお孫さんも今年で19歳になったわけだ。知っているかな? とても頭の良い子で、周囲や家族 — つまりは君の娘と義息子だが — からも将来を嘱望されている。彼女、ロー・スクールを目指して日夜勉強に励んでいるらしい。ああ、実に素晴らしいことだ。

おやおや、そんなモノを私に向けないでくれ。危ないから、怪我をしてしまう前に下すんだ。

下せ。

ああ、どうも、ありがとう。

話を戻そう。だが悲しいことに、君が家族に残したのはプラスの遺産だけではなかった。無論、こちらへと降下した後も、君がそれを悔いていたことは知っている。だが、それを今、君は清算できる機会を得ているんだよ。何も難しいことを考える必要はない。君が協力するという一言で、"我々"は現実に残された君の負債を全て帳消しにできるんだ。

ん? ハハハ、"メン・イン・ブラック"も"ファウンデーション"も単なる都市伝説の1つに過ぎない。実在しないよ。そうだろう?

さあ、選んでくれ。君と、君の家族の未来を。







ああ、私だ。また新たに1人、ウエスト所属のオネイロマンサーを"再雇用"した。

そうだ。通例通り、彼に対して、件のファウンデーション・コレクティブ管轄領域を査察地域に割り振ってくれ。

数日は必要だが、低評価レビューが出回れば、████氏の潜在意識下にもオネイロイが寄り付かなくなるだろう。

確か、第██夢界研究棟を建設予定だったか。まあ、後のことに興味はない。都市開発部門に任せて、仕事に戻るよ。

潜入工作員の身とはいえ、何だかんだ私も、このオネイロマンサーの仕事が気に入っているものでね。

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