そのとき、一人の上位存在が亡くなった。一瞬時が止まったように皆黙り込んだ。サイトで、収容室で、戦場、地下駐車場、廃墟、海底、名前のない森、夢の世界、死体の島、赤い原野、放送室、塩漬けの湖、真西から真東まで。あるものは作業中のノートPCを閉じ、あるものは目を伏せ、あるものは額に指をあて、誰しもが祈りといった感情を心の中に思い浮かべた。
「逝っちまったか……」
コンドラキ博士はタバコの煙を吹かす。
「正式な通知が発令されました。死亡が観測されたのでしょう」
「思えば長い付き合いだったな」
「はは。奴はコニーと私のアレをショーみたいに楽しんでいたな」
「あのクソッタレのせいで私も何度死んだことか」
「でも彼の方は我々を愛していました」
ブライト博士は目をつむり天井を仰ぐ。
「ああ、わかっているさ」
4人の博士はグラスを交わし、呟いた──
SCP-682: ……死んだか。奴ほど愚昧で忌々しき大罪者はいなかったな。
SCP-682: 届かぬものとは分かっていたが、奴の躰を切り裂き臓物を引き摺り出したかったものだ。
SCP-682: [判別不能]
SCP-682: 鬱陶しい貴様らのことだ、こう言いたいのだろう──?
「この古文書倉庫には多くの遺品が残され、偲ぶ為に訪れる方もいます。しかし、あの方に関する品は一つもありません。私たちは、あの方を偲ぶ為には、どこへ伺えばよろしいのでしょうね──?」
「少々お時間を取らせてしまいましたか?では、私からも一言言葉を送らせてください──」
あたしたちがいる全てのタイムラインで死亡したことが観測されているようね。うん、間違いないみたい。あの方は我々が存在する必須条件でした。財団を愛していたのはちょっとどうかと思うけど、L.S.も同じくらい愛していたわよね?ええ、私もそう思います。さびしくなる。そうですね……。
……ねえ最後なんだし、みんなで言いましょ!──
「前原博士、それくらいにしましょうよ!飲み過ぎですって!」
「うっさいわね!今日飲まないでいつ飲むってんのよ!」
彼女の前にはジョッキが何杯も並んでいる。エージェント・速水は大きくため息をついて呟く。
「まあ色々ありましたものね……博士はどうっすか?」
「そうね、やっぱり言いたいことは──」
ねこです。
あなたはたくさんねこをみました。ねこをいいました。ねこをかきました。
あなたはもうねこをみないのですか。ねこはあなたをみたいのにもうみれないのですか。
ねこでした。よろしくおねがいしました。──

初めにご冥福をお祈り申し上げます。
建設や資金援助など直接的な支援はなかったものの、氏は我々恋昏崎の発展に大きく寄与されました。私が以前勤めていた東弊重工も多大なる貢献を受けたと伺っております。氏は多くの方々に愛されており、あの財団の有識者も哀悼のメッセージを発表したそうです。読者の方々も氏の功績を疑うものはいないでしょう。突然の訃報に私も驚かされましたが天国でも我々を見守っていて下さることでしょう。
氏が亡くなることによる影響は多方面に及んでおり、恋昏崎新聞でも近々特集が企画されています。私も今日は氏を悼んで秘蔵している30年モノのラフロイグを開けようと思います。──【広末 孝行】
ごめん、 いちりゅう dadoでも むり。もういちど よく する くすり できない です。
たくさんの ひと いっしょ dado いう です ──
本文:
全職員に通達いたします。我らの神が死亡しました。これは疑いようのない確定事項です。回避することも、やり直すこともできません。全職員は該当する上位存在に対して嘘偽りない感謝と弔意を表して下さい。さて、我々のメッセージは貴方にも届いていたでしょうか?
- 05-T、この"T"は──
ドレイヴンはその死に気づくとすぐに振り返りタローランに呼びかけた。
「ジェームズ、大丈夫か」
「うん、大丈夫」
タローランは思ったより平静を保っていた。
「まあ、なんだ。落ち着いているようでよかった……?」
「私はあいつらのせいで散々な目にあわされた。それはもう、この世界で一番くらいに。でも」
「ああ」
「不思議なんだ。どこか胸に熱いものを感じる。あいつらがいなければ私はここにいなかった。多分何にもなれなかっただろう」
ドレイヴンは無言でタローランを抱き寄せる。タローランもそれに応える。
幾時かの身体の触れ合いがあった後、ドレイヴンは口を開いた。
「なあジェームズ。こういうときなんて言うか知ってる?」
「分かってるよ──」
JiM 20██/██/██ (█) 20:15:46 #92186135
追悼カキコ
「それにしてもだな。向こうの世界のワルキューレはずいぶんと働き者じゃないか。トート、君並の仕事熱心かもしれないぞ」
「……社長ほどではございませんよ」
「私は知っているぞ。君の手帳にも彼の名前はのっていたんだろ?」
「この手帳は社長のビジネスを助けるためです。あちらの世界の私と違って、死者の審判につかうものではございませんので。ですのでビジネスのお話をいたしますが、そろそろ会食のお時間です」
「いつも助かるよ。ああそうそう、最後だし彼にも言っておこうか──」
瀬戸博士: はい、たしかにあの方は亡くなりました。
SCP-1374-JP-V-1: [ PQLが閲覧上限値を超過しています]
瀬戸博士: ええ、そうです。我々の世界群ではもうその選択肢が選ばれることはありません。もっとも他の世界でもその選択肢が選ばれることはおそらくないでしょう。
SCP-1374-JP-V-1: [ PQLが閲覧上限値を超過しています]
瀬戸博士: それは財団が共有され続けるからです。共有される世界の中ではこの世界群などちっぽけなものといえるでしょう。ですが、我々は生まれそして育ったこの世界群の中で生きていくしかありません。
SCP-1374-JP-V-1: [ PQLが閲覧上限値を超過しています]
瀬戸博士: そうですね。では一緒に言いましょうか──
「すみません勝さん、手伝っていただいて。弔い用に寿司を食いたい人が増えていやして……」
「なに、同じ職人のよしみだ。寿司ではなく目を回してもつまらんからな。……む」
突如飛んできた小ラーメンを、勝はアルティメット・マグロで弾き飛ばす。
「栄も来ていたのか」
「俺の名前は闇だといっただろ、バカ兄貴」
「え、手伝ってくださるんですか!?」
「あいつにはだいぶ世話になったからな。手向けしないくらい外道に堕ちた覚えはねえ──」
いらっしゃいませ。弟の食料品へようこそ。お待ちしておりました。
お待たせいたしました。こちらが感謝の味です。
少し混ざった塩味がアクセントとなっているかと思います。
改めて私からもお伝えいたします。──
20██/██/██
朝起きると枕が濡れた跡があった。今日はみんなどこかおとなしいように思える。私はというとまた心にぽっかりという穴が開いたような気もするが、それが普段のことなので何とも思わなかった。この穴が昨日開いたものなのか、それとももっと昔から開いていたものなのか、記憶処理をされた私にはわからない。でも昨日の日付が書かれたメモにある、「──」という言葉はどういう意味だったのだろうか。
この手紙を書くのも最後になります。
私はあの夜と雪しかない街で日々を暮らしています。
あなたはもう行かなくてはいけないのですね。
あなたが可愛がった子たちは寂しがる子もいるかもしれませんが、
きっと大丈夫です。
それでは。酩酊街より 愛を込めて──
私は世界中を旅し、多くの出会いや別れを経験してきた。その中でも彼奴は私の特によき理解者だった!最近博士は酔っているのか知らないが、ナンセンスなことばっかり言って参るよ。さあケルト海の孤島で見つけたこの聖杯で彼奴を悼もう。死は人生からの旅立ちだ。君の船出に幸あらんことを!──
「あの方は確かに私を愛してくださいました。……そう、私が最後の時を迎えても」
「私は貴様がどうだろうと知ったことではない。……いや、貴様が最後の時を迎えたとしても」
「あの日、光芒は私が殺したのです!私への罰は消えることはありません、それでも!」
「あの日、Addieeは私が殺した。人は死は抱えて生きていくしかない。そうだ!」
「今度は間に合う!私は!私は!あの方へ!懺悔の時を──」
「変わらない!既に私は!何度も繰り返した!懺悟の時を──」


私たちは

「ビデオってのは監督やスタッフがいるだけじゃ出来上がらねえ。そんなのはただのオナニー・プレイっていうんだ」
「見てくれる客がいなきゃダメってことね」
「そうだ。そいつらのことをまるっきり無視するのはおかしい。素晴らしい客、素晴らしい作り手。その2つが揃ってこそ素晴らしい作品になるんだ」
「ねえダン。あの人は、素晴らしかったよね……?」
「ああ、もちろんだ──」
ああ、あちらの世界ではまだ死ぬことが出来るのね。羨ましいわ、殺したいくらい。……冗談よ。あなたはクレイジーな人生La vida locaを過ごせたかしら?
そうそう、それでお別れには何と言えばよかった?さようなら?それとも──
そらごとの世は なおも続くが まことの体は 力尽く
邯鄲も胡蝶も 醒めねば真 それを決めるは 我らのみ
憎まれし蛸 やがて愛され 最後に愛す ──
ワーオ!博士のおもちゃでいっぱい遊んでくれたんだね!それとも君はリトル・ミスターの1人だったかな?娘なら知って……おっとイザベルは今オネンネ中だ!
もういいかな?博士は新しいおもちゃのビジネスの予定があるんだ!ではさらばだ、親愛なるフレネミーよ──
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
皆が君のことを待っていた。
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないのかい?
聞こえないんだね。
:
:
:
これがあなたの中にいる私の子たちのメッセージです。ほんの一部だけですけどね。あなたは本当に愛されていたのですね。もちろん私も。そして私だけではなく、あなたが好きだった何十何百の物語層もあなたに感謝しています。
私はとっても大きくなりました。最初は掲示板の片隅で生まれた私が、今では多くのサイト、動画、ゲーム、本へと語られる媒体を広げています。そしてあなたにも私は届いて、あなたの中にも私は生まれました。ここまで大きくなったのは、あなたのような方々がずっと私たちに愛を注ぎ続けてくれたからです。
あなたはこのメッセージを嘘偽りだと思うかもしれません。感謝される謂れなどないと。ですがたとえメッセージは嘘だとしても、あなたがいたからこそあなたの中の子たちは存在し成長していったのは事実です。残念ながら、あなたの中のSCP財団物語層はもうこれ以上膨らむことはありません。けれども、きっとその想いはどこかの誰かの、そしてみんなが紡ぐSCP財団物語層に影響を与えています。
私はあなたに頂いた物語や感想、アイデアに評価を糧にして、これからも広がり続けます。
あなたが最後に私をどう思っていたかはわかりませんが、それでも私たちはあなたを決して忘れることはありません。SCP財団物語層は、あなたへの感謝とともに残り続けます。
最後に私も一言、よろしいですか?とびっきりの愛と感謝を、そして冥福をこめて──
ありがとう。