我々の望みが絶たれてから、どれほどの時間が経ったのだろうか。未だ彼の扉を塞ぐ障碍を排除する手立て無く、我々の世界は緩やかに、しかし確実に滅亡への歩みを進めている。
亜財団は我々を見限ったのだ。自らの世界を守るために、我々との接触を絶った。あちらの亜財団が「財団」と同じ理念を有しているのであれば、それも仕方ない、とは思うものの。しかし我々としても、自らが守るべき世界が破滅していく様子をただ指をくわえて見ているだけ、というわけにもいかない。我々の世界を守り通すには、一刻も早く亜世界との繋がりを取り戻さねばならなかった。
「死亡」は決して素晴らしいものではないが、我々の世界を救うためには確実に必要となるファクターであろう。なればこそ、亜世界の存在は我々の希望と成り得る。……なればこそ、こちらの世界の存在と亜世界の存在が同期していなければ、と思ってしまう。こちらの世界の人間が恒久的な機能停止に陥ることで、亜世界の人間が「死亡」しなければ、このように封鎖されることなどなかった。そも、カツウラ博士があちらで自殺などしなければ、亜財団はそのことを把握しなかったのではないか?とも考えてしまうのは、流石にエゴが過ぎると言うものだろうか。
ともかく、封鎖を早急に解かなければならない。我々は、SCP-1682-JPについて出来る限りの注力を行っていた。
某日。我々は「犀賀派」に関連すると見られている施設の調査を行った。彼の扉を開かねばならぬとはいえ、他の業務まで蔑ろにしてはならない。我々の理念は確保、収容、保護。それだけは忘れてしまってはならない。それに、希望というものはどこに転がっているか分からないものだ。相手は犀賀派、もしかすればが十分に有り得る。
そういう意味では、今回の調査は、我々にとって「黄金の卵を産む鶏」とでも言うべきものであったと言ってもいい。我々は犀賀派の一員である男の手記を発見したのだ。その中には、ここではない別の世界へと移動した記録が書かれていた。そしてその世界の情報を書き留めたもののなかに、確かに「死亡」という単語が綴られていたのである。そしてその世界に向かう扉が確かにここにあるというのだ。我々はその扉をSCP-1682-JP-Eと仮定し、全力で捜索を行った。
だが我々は逸る余りに見誤っていた。我々が今ここを調査していて、その扉が残されているということは、犀賀派がその扉を放棄したということを意味しているのだ。
結論からいえば、それらしき扉はすぐに発見された。古ぼけた木製の扉だ。アーチボルド・レンフィールド世界線差検出装置の数値に照らし合わせてみても、それは間違いないと考えられた。我々は上層部に具申し、適切な順序を踏み、十分な機材を用意して、その扉を開こうとした。
だが、開かない。通常通りに開こうとしても、向こう側から押されているかのように開かない。その場の全員で破壊を試みるが、軋む音は鳴るものの破壊までは至らない。有事の際に備えて用意した破壊の為の器具を使用しても、古い扉とは思えないほど、異常な耐久性を示したのみであった。亜財団め、このような扉にまで既に目をつけていたとは。破壊に参加した中の数人がそう悪態をついていた。だが、ラモールの扉とはまた異なる封鎖方式であることは、その場の全員が容易く予想していた。
ラモールの封鎖は、それこそ梃子でも動かぬような頑丈な物だ。対してこの古ぼけた扉の封鎖は、開かぬだけで軋んだり、撓んだりしている。ラモールのものよりも遥かに緩い封鎖であることは明白だ。我々は、この扉を次なる目標とした。一刻も早くこの扉の封鎖を解かねばならぬ。開かねばならぬ。
頼む。我々を殺してくれ。
「……SCP-006-JPの非活性化を確認しました」
「ああ、今日もまた、一段と激しい様子だったな」
「博士……あの扉の先は……どこにつながっているのでしょう」
「私が知るわけがないだろう。まあ、どちらにせよ」
「オブジェクトである以上、ろくなものである筈がないな」