研究所破り
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ある所に、武甕槌神タケミカヅチノカミ御坐おわすと伝えある霊験れいげんあらたかな霊山があった。武神の裾元とあれば、加護にあやかり武を極める者の修練場となる事は当然であった。研鑽に時を費やし、修練を見守る山と武神に感謝の拳を振るうその者達は「犀賀」と名乗った。彼等は各地を巡礼した末に、この地で研究所を構えたのだった。

ある日、1人の漢がその門を叩いた。

「共振パンチッ!」

救済とまで言わしめた犀賀流を打ち砕かんとする一撃に、研究所内で組手を行なっていた犀賀六巳と構成員達は動きを止めた。共振パンチにより瓦礫となった研究所の門を犀賀達はただ静観していた。瓦礫の山の上で白い道着に身を包んだ漢が、仁王立ちしている事に構成員達は気付いた。1人の構成員が道着の漢に問う。

「貴様、何者だ!」
「ここの師範は誰だ? 私は研究所破りに来た!」

構成員達は犀賀流の構えを取る。しかし、犀賀六巳がそれを手で遮った。

「私が師範の犀賀六巳だ。受けて立とう」

その言葉を聞いた構成員達は犀賀六巳に一礼して、研究所の中へと姿を晦ました。周囲を確認した後、犀賀六巳は犀賀流直伝の構えを取る。荘厳な趣きさえ感じる緊張した雰囲気の中で、1枚の木の葉が相対する2人の間で舞っていた。やがて、木の葉が地に触れた途端、火蓋が切って落ちる。

透かさず犀賀六巳は犀賀流奥義が1つ、多次元理論を駆使した空間干渉で瞬間移動を可能にした「犀賀多次元縮地」を行い、一気に距離を詰めた。続いて、同様の理論で任意の空間座標に真空を発生させる奥義「犀賀宙空凄舞」を行う事で勝負を決める……その筈だった。

犀賀六巳が奥義を発動する前に、漢は一瞬で財団神拳秘伝「天殺・認識災害の構え」を行い、犀賀六巳に特定の眼球運動を強制させる事で麻痺性の認識災害を起こしていたのだった。よって、漢の幻影を見ていたに過ぎない犀賀六巳は亜光速で繰り出される「真・共振パンチ」によって急所を突かれた。

しかし、犀賀六巳は敗北を認めず、不敵に笑う。

「最初の私を倒した様に、他の私も倒せるかな…?」

その声を合図に倒れた犀賀六巳の傍らから空間を裂いて3人の新手が現れた。彼らは研究所で控えている構成員を呼び寄せると、側で倒れ伏している犀賀六巳を背負わせて研究所内に退かせた。漢は倒れた犀賀六巳が最後にこちらを試す様な言葉を放っていた事が気にかかっていた。恐らく同じ技は通用しないという事を漢は本能で理解した。

それぞれ体格も気迫も違う3人の内で、最も屈強そうな者から口を開いた。

「私は力の救済、犀賀六巳!」
「俺は技の救済、犀賀六巳!」
「某は思想の救済、犀賀六巳!」
「我ら犀賀3人衆!」

力の救済と名乗る新手は誰から相手になるか漢に問うた。

「纏めてかかって来ると良い」

覚悟と熱が籠る漢の返答を聞いて誠心誠意の拳で救済するべき強者と確信した犀賀3人衆は、犀賀流「救済闘法・龍の構え」で受けて立つ。犀賀流の構えを見た漢は、透かさず財団神拳奥義「神速・韋駄天の呼吸」を行い、特殊な構えで行う呼吸法によって空気の摩擦から独自の生態電流を体内で発生させた。これを脚部に作用させる事で筋繊維の超人的な肥大化と筋収縮を助け、高速移動を可能にしたのだった。

そして、漢は手に入れた韋駄天の如き速さで人数差を埋め、「共振遠当て」で牽制しつつ距離を取りながら隙を伺った。しかし、「救済闘法・龍の構え」が齎した強大な身体能力を発揮する犀賀六巳達に対して決定打を見出せず、力の救済が繰り出す力技と技の救済が使う巧みな体術によって翻弄され、漢は徐々に消耗していくのだった。

現状を打破する為に漢が搦め手を狙えば即時、思想の救済が筋肉の緊張や発汗から動きを見破り、精神を惑わせる「犀賀演舞・功羅伊魔くらいま」を行う事で漢の呼吸を乱した。恐るべきは犀賀流。無駄の無い武により、救済せんと拳を振るう。とうとう、漢は消耗の中で生じた自分の隙に気づきながらも防御が間に合わず、3度の正拳突きを受けてしまった。

このままでは負ける、と膝をついた漢は感じていた。動きを止めた漢の弱る闘志を見透かしたのか、犀賀3人衆は止めの一撃を放つ構えを取った。

「財団神拳伝承者よ…良き戦士であった。安心召されよ。我ら3人衆の拳が必ずや救済しよう」

止めの一撃が漢に振るわれんとしたその時、強く空気が震えた。膝をついた漢の拳が共振している事に3人衆は気付いた。そのまま、漢は正拳突きを始めながら立ち上がる。

右、左、右、左。

交互に行われる正拳突きは徐々に加速し、空気中の物質を共振させ、周囲の温度を少しづつ上昇させていく。やがて、陽炎が揺らめき始めた。この時、犀賀3人衆は陽炎の奥にぼんやりとした数人の見知らぬ姿を見た。その姿は徐々に濃くなり、漢の傍らで佇んでいる。

漢は膝をついて居た時、敗北を悟り、闘志を弱らせた訳では無かった。勝利する手掛かりを掴む為、今までの研鑽を反芻して居たのだ。そして、漢は財団神拳で最も最初に会得した共振パンチせいけんづきを選んだ。何故、共振パンチを選んだのかは漢自身にも分からない。ただ本能だった。だが、共振パンチを振るう事が漢に勝利を掴む手掛かりとなった事は間違い無い。

漢にとって共振パンチは最初に会得した技であり、格闘家としてのルーツになる。漢だけでは無い。財団神拳を継ぐ者は同じく共振パンチをルーツとして来た。

故に奇跡が起きた。

限界まで武術の頂きに近付いた漢が極限状態で振るう共振パンチが、空気を共振させ、次元を共振させ、量子を共振させ、パラドックスを覆して財団神拳の歴史に名を刻む歴代伝承者達を呼び出したのだった。

「敵ながら見事なり!」
「行くぞ、犀賀3人衆!私達、財団神拳が必ず打ち倒す!」
「来い、財団神拳!」

伝承者達は一斉に拳の振動を同調させると犀賀3人衆に向けて共振パンチを放った。

「相伝、真・共振パンチ!」

凄まじい衝撃波を生んだ一撃に犀賀3人衆は為す術が無い。地面を引き裂き、周囲の木々さえ吹き飛ばす。犀賀3人衆は地に伏して敗北を悟り、この勝負は財団神拳の勝ちとなった。

「ありがとう!先代の財団神拳伝承者達よ!」
「財団神拳を受け継いだ者よ。神髄を得るまで研鑽を続けるのだ」

その一言を残して、先代の財団神拳伝承者達は元の時代へと帰った。そして、勝負の結果を受け入れた犀賀六巳達は、漢に名と真の目的を問うた。

「名は捨てた。そして、私の真の目的は各地の拳法を訪ね、財団神拳の真髄を得る事だ。でなくては現在の財団を救えない」

漢には真の目的がある。
現在、財団は真の財団神拳伝承者を名乗るカオス・インサージェンシーとの激しい戦いにより、数々の収容対象を奪われ、崩壊寸前であった。奪われた収容対象の回収と戦いに決着をつける為、漢は修行の旅に出たのだった。

「この研究所が最後だ。奪われた収容対象を奴等は各地にばら撒いている。そして、その収容対象を君達は遺物と呼称し、この研究所内部の収容房に格納していた。再収容させて貰おう」

カオス・インサージェンシーはわざと痕跡を残す様に奪った収容対象を各地にばら撒き、それによって痕跡を辿る財団関係者を各地の強者と対峙させ、財団神拳の真髄に目覚めさせる手引きをしている。つまり、奴らは真髄に辿り着いた財団神拳を真向まっこうから完膚無きまでに下し、徹底した決着を着ける算段なのだろうと漢は敵の意図に気付いていた。

こうして、また1つ再収容を成し遂げた漢は真髄に近付く事が出来た。
カオス・インサージェンシーとの決着は直ぐそこまで迫っている。
戦え財団神拳!打ち勝て財団神拳!全てを取り戻す為に!

 


申請書: 以上は私が趣味で執筆した原稿から抜粋した文書です。これを元にした映像作品の製作を申請します。好評であれば様々なグッズの商品展開を購買で行い、売り上げを研究費に充てたいのですが可能ですか?—██研究員

Re: 却下します。現実に即した内容では無いからです。—O5評議会

Re: テーマがお嫌いでしたか?—██研究員

Re: いいえ、趣味嗜好の範疇の話ではありません。現実に即していない内容は誤解を与える可能性があります。なので、██研究員は第██ホールに来て下さい。本物の財団神拳を見せて差し上げましょう。—O5評議会

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