概説
〈オヤクニン、ダイセンセイ、サムライ、シノビ〉カノンは、幕府とその機関、朝廷、諸大名・商人らが、太平の世の中の陰でその自らの利を狙い争い合う政治劇です。
第二次オオサカ戦争以後、将軍家や朝廷・諸大名その他の諸勢力が様々な超常機関を持ち、国政を動かし続けてきました。太平の世の守護者を自称する将軍配下の諸幕府組織は、絶大な存在感を持っています。幕府は多数の奉行などの機関を連携させ、将軍家の揺るがぬ権力維持を図っています。しかしその構造は諸大名や旗本・御家人の意志が絡み合って複雑であり、将軍や老中すらすべてを把握することはできていません。諸大名も幕府には劣るものの、各地の統治者としての優位と幕府内での地位を活かし、それぞれ複雑な組織構造を作り上げています。
朝廷は予算・人員・能力のすべてにおいて幕府組織に劣りますが、権威上の統治者としての立場を使いうまく立ち回っています。大名や有力商人たちを敵に回す行動を取る際には、彼らは幕府に同調していますし、その逆もしかりです。幕府と朝廷は名目・実力上相反する従属関係にありますが、ときにお互いを利用し合っています。
幕府と朝廷は、日本における二大統治者の扱いを受けています。すくなくとも互いの方針や訴えに対してはその権力勾配はともかく異論を唱えることができますし、二大組織間で対立があった場合には(少なくとも表面上は)合議が行われています。ここに諸大名や商人・寺社、或いは豊臣家の残党や海外勢力が付け入ることもあり、密約が結ばれることもあるでしょう。
各組織は互いに、自らの利権獲得と維持を狙おうとしています。しかし過去の反省によって、彼らは政局をみだりに乱し天下を荒廃させることに警戒感を覚えています。彼らはいつでも互いを出し抜こうとしており、自らの存在感を増すためのあらゆる方策を練っている一方で、太平の世の中を破局させることは避けようとしているのです。
各組織に属するサムライ・シノビたちは、この大いなるゲームに翻弄されながら自らの任務を果たそうとしています。それはときに書類を集めて叩きつける政治劇であり、剣戟が響く時代劇のようでもあります。世界を滅ぼしうる妖鬼の類もこの場においては一つの駒として扱われ、その奇妙さは取引材料としての価値を高めるに過ぎません。
無数の組織と人物、そしてそれらをつなぐ複雑な無数繋がりが、いかに手をつなぎそして切るのか。〈オヤクニン、ダイセンセイ、サムライ、シノビ〉の世界は薄暗いけれども、ときに派手な見世物オオブタイにもなりうる、さまざまな可能性を秘めたカノンです。
年表
1690年代末 |
東西対立が激化 |
1600年 |
セキガハラ戦争による徳川家の勝利 |
1602年 |
徳川家による異常存在研究調査活動が活発化 |
1603年 |
幕府の成立 |
1605年 |
秀忠の即位 |
1608年 |
幕府・朝廷が密約を起草 |
1609年 |
密約の決定、イノクマ・インシデントの解決。 |
1615年 |
第二次オオサカ戦争、豊臣氏の滅亡。禁中並公家諸法度の発表。 |
1643年 |
[編集済] |
1███年 |
A.西塔、出島へ赴く |
1███年 12月 |
東海道奉行与力殺人事件 |
1███年 1月 |
幕府、夜鷹への捜査を開始 |
1███年 2月 |
星鳥事件 |
年の瀬が迫る江戸。突如として忍びにもたらされた情報は、ある奉行が何者かによって殺害された可能性があるというものだった。海野と西塔は調査を開始するが、それは不可解な事件の始まりだった──。謎の密告。事件の背後で暗躍する唐人。謎を抱えたまま、事件は意外な方向へと展開していく。
〈オヤクニン、ダイセンセイ、サムライ、シノビ〉シリーズの幕が、ここに上がる。
これは幕間の物語だ、モスクワに戻り新たな任務に就くはずだったイワノフは日本への渡航を命じられる。一方、西塔は二日酔いの最中かつて長崎出島で行った研鑽の日々を思い出す。どうやら縁というのは思いもよらぬ場所で繋がっているらしい。
事件はまだ終わっていない。公武合議で秘密組織『夜鷹』の無法を示すべく、海野たちがふたたび招集される。謎がさらに深さを増してゆく中、それぞれの思惑が交錯し絡まり合う。事件はやがて天下を巻き込む謀略へとつながっていくが──。
これは「星鳥」の後日譚だ。五行結社から離脱した謀反人を追う、追討軍。だが上層部の思惑により、事態は思わぬ行き詰まりを見せる。窮地に追い込まれた道策と御蔵。二人の現場指揮官は状況を打開すべく、ギリギリの賭けに出る。それは、呪術・神異技術・スピードを駆使した死闘の幕開けだった。そのさなか、道策が掴み取った真実とは──。
公武合議の再編に伴い再始動した幕府神異方、そこに某藩より奇妙な協力要請が寄せられる。信州の小虚を喰らった現実改変者の確保、公家より持ち込まれた冗談じみた依頼は再び動き出したばかりの神異方をいかなる方向へと連れだすのか?
朝廷は自らの失態を幕府に押し付け再編されつつある公武合議での優位を得ようとしている。改宗し国外逃亡を望む現実改変者はそう語った。実権なき公使として日本への使節団を指揮する羽目になったイワノフはこれを利用する為、海野達に彼の護送を依頼するが……。
ちょっと息抜きをしよう。これはODSSの世界を生きる登場人物たちの日常を切り取った一節だ。発端は一つの瓦版だった。その報せは出不精な大江戸の学者や役人、その他の人々を沸かせる事となった。そこから始まる奇妙な騒動など誰も予想せずに……。そしてここに、出前に浮かれて人の金を使う侍が一人。
ちょっと疲れたら、ここで一服。だがしかし、時にはそれがままならない時もある。高らかに「禁煙令」が宣告されたのだ。肺の健康と引き換えに得るは、ほんの些細な快楽。だが、吸わなきゃやっていられない。悲鳴を上げる喫煙者達を尻目に、西塔は不敵な笑みを浮かべる。彼らの運命やいかに?圧倒的紫煙幕でお送りする、ODSS 斬、其二。
用語集(単語編)
作中でさらっと出てくる専門的な用語について解説
公武合議
幕府と朝廷の合議の場。
神異物
異常物品や異常存在の異称として用いられた。
神異方
江戸幕府の超常機関。旧称: 鬼神改役
御城
東京都千代田区に現在皇居として存在する江戸城。この中に幕府の諸機関が所在するため、幕府の通称となっている。また、公武合議も対面の場合基本的にここで行われるため、朝廷では公武合議を指す通称としても用いられる場合がある。
「番頭隠密」
隠密において、協力者を運用して情報収集を行う役割の人間。
「斬忍」
隠密における実働部隊。暗殺者。
「隠れ蓑」
隠れ笠とも。神異方や蒐集院など超常機関や諜報機関の構成員が表向きの顔や住居として使用できるよう、整備されている。庶民の中に紛れることも多い。
「膠」
組織や部門の間に立って連絡や調整を行う役割のこと。作中では、公武合議伝奏取次や、幕府が組織内で運用している用人リエゾンなどが登場する。
「ツァーリの賢人団」
ロシア帝国皇帝を補佐する組織。ロシア帝国が有する諜報機関の一つであり異常存在に関する知識を有する秘密部署である。作中においてはイワノフの所属元であるとともに極東におけるロシアの国益を拡大するため日本国内外で暗躍する。
用語集(世界観編)
当カノンの根幹を成す用語 / 設定について解説
「老中合議」
幕府の意思決定機関である老中らからなる組織です。わかりやすく言うならば、現実の内閣に近い存在です。幕府は官僚組織によって構成されており、各部門の長官には旗本が任命されます。各部門における局長などの幹部は「奉行」などと呼ばれ、大きな影響力を及ぼしうる高級官僚として扱われています。老中や若年寄は諸奉行の頂点に存在してこれらを統括し、合議制によって幕政を動かします。老中や若年寄、寺社奉行といった役職には譜代大名が任命されるのが普通です。
カノンにたびたび登場する神異方は当初寺社奉行の下に置かれましたが、現在は若年寄の麾下にあります。
江戸幕府
事実上の統治者として、日本に君臨しています。代官と大名を各国に置いて日本を統治しており、その頂点にいるのは将軍です。将軍は譜代大名出身の幕閣らからなる合議体制を置き、幕政を行っています。幕府は常に朝廷に対して優位に立ち、現状にはほとんど不満がありません。しかし、可能であれば幕府の意に反する公家や大名、学者らの排除をためらいません。
- 神異方与力(出向)。
- 幕府隠密。
- 後、裏御側御用取次。
- 東北某藩出身の武士。昌平坂学問所子弟。
- 後、幕府隠密。
- 書物奉行同心。軽い対人恐怖症。
- 神異方同心。
- 陰中間目付。
菓子岡 仔鹿
- 神異方別当。男。小柄。派手を好む。
- 徒目付の阿形と出世を争う。
阿形 仁人
- 徒目付。男。偉丈夫。質実剛健を良しとする男。
- 菓子岡と共に将来を嘱望される存在。
- 御中間。なにかあるとすぐに応援要員として派遣される男。
- 幕府隠密。“星鳥事件”の対応のため招集された。
- 外見は火車。
- 神異方与力。“星鳥事件”により招集。
- 自称・幕府最速の男。騎馬の腕前は超一流。
- 神異方与力。“星鳥事件”により招集。卓越した危機察知能力を持つ。
- 大抵は赤い羽織袴に眼鏡という傾奇いた服装。
朝廷
幕府に並ぶ権威として、日本に君臨しています。彼らは主に幕府に対するカウンターであり、軍事・実力組織としての幕府に対し、権威として振舞います。幕府に隷属しつつ、儀式儀礼を行うことが主だった役割です。しかしときには、公武合議を介して幕府に反対したり折衝を試みることもあります。朝廷は形式上幕府や諸藩に対して優位に立っていますが、現状ほとんど実権がありません。しかし、伝統的な超常組織を介して異常に当たることもあります。
“曲水”
“オモダル”
- 「五行結社」麾下「土軍」総帥。
- 結社からの離脱者という形で朝廷・幕府に刺客を放ち、天下の秩序に挑戦する好戦的な存在。
- 多くの妖術者・超常存在・そして数多くの人間を使役する。
“御蔵”
- 陰陽寮の“尾宿”、混成部隊“円”指揮官。質実剛健さと教養を兼ね備える。キレると何をするか分からない男。
混成部隊“円”
- 陰陽寮・蒐集院・神異方らによる混成部隊。隊長は“御蔵”であり、道策がそれをサポートした。
- “星鳥事件”の後処理の際、多くの人間が死亡。現在は神異物案件処理部隊として再編中。
- 分隊の生存者は以下。
“蛍雪”
- 陰陽寮より参加。弓術に優れ、青白い顔をした女性。命令に忠実。
- 戦闘の際、心臓に損傷を受ける。横田より心臓移植を受け、生還。
横田
- 神異方より参加。弓術に優れる。戦闘の際に負傷、片足を失う。
- 自身の心臓を“蛍雪”に移植し、自らは幽霊心臓で生き延びる。失った足はからくりの義足に置き換わっている。
“大蚊”
- 蒐集院より参加、担当は船頭及び式神操作。
- 戦闘の際に串刺しにされ致命傷を負うが生還。現在は体のほとんどがからくりに置き換わっている。
“二口”
- 蒐集院より参加、諜報担当。戦闘の際に重傷を負うが生還。
- 真言を暗唱できる。口の減らない男。
傘置
- 神異方より参加、分隊員。戦闘の際に重傷を負うが生還。
- 儒学をよくする。“二口”にやり込められる事が多い。
諸士
幕府と朝廷以外のすべての人々であり、当カノンにおいてもっとも混沌としています。日本という国家自体が一枚岩で動くことは極めてまれで、その内部にある大小の組織が各々の目的のために行動しています。一部の藩や志士は幕府や朝廷の力を借りて何か改革を為さしめようとしている一方、それに対する抵抗勢力も存在します。また国外勢力も極東の島国へ関心を示しており、屡々関与を試みています。彼らの役回りは、事件を起こすことです。
細谷 幸史
山川 犀治
敷島 巧
宮部 武揚
駈戸 晋平
- 某藩藩士。舶来の神異物を収集するため、抜け目なく立ち回る。
- ツァーリの賢人団エージェント
- ロシア使節団団長(公使)
公武合議
公武合議は幕府と朝廷が折衝を行うため行う合議体制ですが、しばしば合議に携わる公家や武士は独立性を高め、自らの利益を追求するようになっています。彼らは公武の対立や天下の問題を巧みに利用してきました。
専用CSSテーマ
〈オヤクニン、ダイセンセイ、サムライ、シノビ〉参加作品は、以下のコードを導入することで専用のCSSテーマを適用することができます。このクールなCSSは、
7happy7,
shu_yabiyabiの二名によって作られた〈ODSS〉テーマを
Misharyが改変しました
[[module css]]
@import url('http://msr-arc.wikidot.com/odss-jp-theme/code/1');
[[/module]]
Author:
Mishary CC BY-SA 3.0
執筆の心構え
当カノンの舞台は江戸時代の日本ですが、その構造は現実のそれとは大きく異なります。幕府と朝廷が並び立ち、諸藩や諸志士がそれぞれに動き、またトヨトミ残党や海外勢力が蠢いています。
ただし、これらは絶対的な条件というわけではありません。少なくとも当カノン追加に必要そうな条件は、神異方と公武合議を作品中で取り扱っているという一点です(しかし、その作品がたしかに時代劇なのであれば、神異方や公武合議は必ずしも必要ないでしょう)。
このカノンに底流するのは、時代劇の白黒がかったイメージです。異常存在のホラーやロマンは、この世界において無機質な政治的懸案として処理されていきます。ド派手な剣劇が行われるのは最後であり、基本的には畳の上の議論や諜報活動、江戸の街がメインです。そこにヒロイズムを見出すこともできるでしょうが、形式と群像会話劇にこそ光を当てましょう。
もし現場に血が流れるならば、それは盛大かつ緻密にやりましょう──火の海に沈む江戸は、このカノンにとってなくてはならないワンシーンになるはずです。これはどの作品についても言えることですが、ただ剣をぶつけるシーンのみが重要なのではありません。このカノンのテーマ、時代劇はその前後も重要視します。
謀反や一揆が起きるならば、その実行者たちの動機について考えを巡らせましょう。そして事件は単純ではありません──彼らの背後関係や怨恨は? 裏で糸を引いているのはトヨトミ残党? 諸藩? 朝廷? それとも幕府自身? この事件を手がけたのは?
それはほかでもないあなたです。カノンは、あなたの手で紡がれる物語に委ねられています。
もしあなたが、自らの政治的主張や歴史認識をこのカノン内で──それも直接的な方法により──表現しようとしているのならば、それはあまりよい結果に終わらないであろうことを予告しておきます。なぜなら、愛国心やリベラリズム、そして憎悪は、それ自体にはなんの芸術性も備わっていないからです。
文芸作品の多くはその出発点に主義主張を持っているものですが、それらは芸術の域まで高められ、あるいは希釈され、圧延されたことで読まれうるのです。テーマを持って創作することは素晴らしいことです。ぜひそれを作品へと仕上げましょう。
〈オヤクニン、ダイセンセイ、サムライ、シノビ〉は各Taleを三種に分類しています。テキストカテゴリーはその名の通り、このカノンを語るうえで予備資料となりうる設定資料集などが分類されるものです。そして残りの二つは時代ごとに区分され、三代記と当代記の二種が存在します。少なくとも当代記については〈ODSS: 遠き道を行く〉というメインタイムラインのシリーズが進行中であり、作品が執筆されています。
もしかすると、セキガハラ戦争以前の江戸幕府成立以前にも世界観は広がっていくかもしれません。そうなれば新たな時代区分が設けられ、そしてタイムラインが構築されていくでしょう。このカノンは現状が完成形なのではありません。執筆者の手によって無限に広がり続けるものなのです。