異業種間交流: ニューヨークにて
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おはよう、皆さん。今日も酷い雨でした。

テキストはまだ鞄に仕舞っておいてください。これから話す内容は、皆さんの組織の教義と相容れないことが明確であるため、公的な書面に残されることはありません。私の説明をメモまたは録音し、適宜質問するように。

よろしいですか? 始めましょう。

1780年代のいずれかの時期に、人類は信仰をエネルギー化するための基本的な定式を確立しました。これを実現したのはシチリア生まれの錬金術師で、後世の風聞から考えると、偉大な詐欺師と表現するのが適切でしょう。彼は人生のあらゆる時期において様々ないかさまを働きましたが、その最終的な段階として、人類の集合的な信仰意識というひとつの束から、ほんの少しのEVEを引き剥がすやり方を編み出したのです。

怒りに燃える教会が彼を投獄したのはごくありふれた帰結でしたが、残念なことに彼の死後も、この詐欺の手法は連綿と受け継がれていました。イギリス人神秘主義者のサロンがインド占星術とヘルメス思想を用いていかに伝統主義カトリックを冒涜していたか、皆さんはよくご存知だと思います。古今東西のあらゆる思想と信仰の良いとこ取りが可能だと本気で考えていた彼らは、その驚くべき軽率さによって、ある魔術霊装を創作しました。

そう、神聖動力炉です。

この演壇からは皆さんの顔がよく見えます。この名称が不愉快なものであることは承知していますが、そう眉をひそめずに。この言葉に慣れておいてください。厳然たる事実として、我々が許容している各種のコミュニティにおいて、これは非常に一般的な呼び方です。

多くの例と同じように、霊装は不完全でした。最初の装置はパリで行方不明になり、2番めの装置は解体されました。3番めは? そうですね。ブライスロードの地下5000mに装置は落下し、破孔を上ってきたマグマはロンドンに噴き出しました。バックラッシュによって一帯のおよそ70平方キロメートルが呪いを浴びました。ブラックウッド教会はこれを中和するために建設され、今もなおその任務を果たしています。献身的な先駆者のために、Amen。

これは最も古典的な一例であり、少数のオカルト主義者たちの意図しない行為が多数の一般市民を犠牲にした最初期の記録であり、我々がここにいる理由です。

スライドを見てください。

近代における2度のオカルト大戦は、それまでの5度の戦争に数倍する霊的撹乱としてはたらきました。各地のレイラインはずたずたに寸断され、多くの信仰基盤が軽はずみな挑戦によって崩壊しました。

そうです、レイランド。1945年のイタリア半島は信仰を濫用することの副作用が顕在化した史上最大の現場でした。人々の頭上にが落下し、偽りの喇叭が吹かれた日。皆さんにとっても我々にとっても、唾棄すべき汚点です。

しかしながら、この一件は歴史の始まりの数頁に過ぎなかったでしょう。当時、ランダルのマルチバース理論は一般的な知見とはいえませんでしたし、重大なバックラッシュを制御できる整流子機構は最低でも3トンの重量と大量の電力、定期的な家畜の生贄を必要としました。したがって、宗教遺物を異常な兵器に加工し、かつ妨害を避けてそれらを隠蔽するためには、準国家規模の予算と技術が用いられなければなりませんでした。

では、現在は?

はい。残念なことに、少数の熟達した奇跡論工学者が安全なマルチバースに腰を据え、数千ドルの資金と数ヶ月の時間、それから年月を経た聖堂のステンドグラスがあれば、容易に現実の街ひとつを異界化可能なエネルギーを抽出できます。根本たる信仰という概念に対する理解がほとんど進まないままに、無法者たちは物理法則への挑戦を繰り返し、マルチバースを拡張し、一般社会と超常コミュニティの境界を破壊しています。

98年にプロメテウス研究所が崩壊した折には、事態はもう取り返しのつかないところまで来ていました。致命的な技術拡散は数年来のうちにヴェール政策、皆さんがいうところの"神秘の帳"を打ち砕くと考えられていました。だからこそ協定が結ばれ、皆さんは遥々ニューヨークまで飛行機を乗り継いできたわけです。

個人の欲望によって引き起こされる世界の破滅、それは一夜にしてシュトゥットガルトが地図から消えることでもあり、あらゆるドル-人民元建て債が債務不履行に陥ることでもあり、あるいは月の神を信仰するすべての民族に起きる不可逆な外的性転換であったでしょう。

これらはすべて実際に企まれた陰謀の一例でした。2度行われることを、我々は決して望みません。

皆さんは各々の宗派から、我々のやり方を理解して戻ることを期待されていることでしょう。誤解のないように言っておくと、破壊の5原則はかなり以前に撤回されました。現在では、我々は制御可能な異常を手元に留め、そうでないものを解析するか、破壊するか選択しています。

重要なことは、市民の安全な生活を守りながら、いかにして脅威をコントロールし、ヴェールの内側に留めておくかということです。そのために、我々はひどく涜神的な行為でも、実用的であれば採用します。聖典をハンマーに括り付けるやり方では必ずしも事態が解決しないことを我々は知っています──もちろん、聖別された弾丸と剣が勝る場合もありますが、それについて皆さんに教える必要はないはずです。

纏めましょう。

皆さんの神と信仰に対する観念を、我々は十分に尊重するとお約束します。しかしながら、我々は常にそれらの観念に反しています。我々は悪魔の実在を認め、天使の図柄を焼き、神の子を名乗る能力者たちを年に何十人と殺しています。価値あることが明白な聖遺物でさえ、幾度となく破壊してきました。それら全ては必要性を確信するがゆえのことであり、未来永劫にわたってこの方針が撤回されることはないでしょう。

しかし同時に、我々と皆さんは共存することができます。なぜならば、この世界に脅威が存在し続け、市民が危険に晒され続ける限り、たったひとつの共通の信念のもとに、私たちは同じ場所に立つからです。

市民を守れ。純粋なる者たちを、人類の脅威から守り抜け。

ようこそ、皆さん。世界オカルト連合は、Project Malleus鉄槌計画を歓迎します。

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