おれはパセリ…….
が嫌いってわけじゃない。
だからって、こんな仕打ちはうんざりだ。
端的に言えば、俺は今、ウサギだ。
その前はニンジンだったか。それより前は記憶がない。
この状態が何かはわからないが、一つ良いことがある。
こんな姿をしてても喋れるのさ、俺は。ついでに言えば、ニンジンの時も喋れた。
ただ厄介なのは"おれはパセリ……"としか言えない、ってことかな。
要するにこれは何も喋れないのと同義なのだが。
まあ、これは致命的なことだな。
結果的に、俺はAnomalousアイテムに指定されちまった。
俺だって財団職員だったから、こうなるのは予想ついてたさ。
ただ昨日まで、一緒にアノマリーを管理してた仲間に管理されてるんだぜ?
ニンジンの時は目が見えなかった。当たり前か。
とりあえず、葉が有機物っぽい物に触れれば手当たり次第に助けを求めた。"おれはパセリ……"ってな。
これが効果的だったのかはわからないし、葉に触れてるモノが人間かも定かじゃなかった。
まあこんなんはどうでもいいさ。問題は今の仕打ちだ。
いつかは忘れたが、自分の体が自由になっていたことに気がついた。
目の前が見える。少し眩しい。手足も思い通りだし、目鼻もよく利く。
そして、言葉も話せる。"おれはパセリ……"ってな。
結局、最初に話した通り、俺はAnomalous指定されちまった。
思えばニンジンの時もそのクソ指定を受けてたかもな。
今じゃ、誰も俺に寄り付かねえ。
理由がわかるか?可愛くないからだってよ。
そりゃそうだろうな。良いセンスしてるよ。
もしかしたら、おれはパセリなのかもしれない。
景色が変わった。いや、これは身体が変わったのか?
やっと目が覚めたみたいだ。
言葉もちゃんと喋れる。""パセリ""以外も。
どうやら夢だったようだな。あのクソパセリは。
いや、ちょっと待て。
念のため、記録を調べておこう。
夢にちょっかい出しやがるアノマリーなんてうんざりするほどあるだろ?
結論を言えば、あった。
次にやることはもう決まってるな?
手近な研究員でも、エージェントでも、誰でも良いから報告できる職員を探す必要がある。
程なくして、顔見知りの研究員を見つけた。
「あ、ちょっといいか?」
声をかけた研究員は知っている顔だが、何やら様子がおかしい。
こいつはふざけているんじゃないか?いや、何というか、明らかに遊び感覚のように見える。
「何か用すか」
「あ、ああ。とりあえず、これを見てくれ」
先のAnomalous記録の載ったタブレットを差し出した。
「ああ、これですか。これ面白いですよね。パセリね」
やつの無自覚な挑発に拳を締めるが、それでも落ち着いて説明しようとした。
「まあ、そうだな。それでなんだが、おれはパセリ……」
おい、なんでそこで止まるんだよ。
まずい。何も思い浮かばねえ。とにかく落ち着いて話そう。落ち着くんだ。
「すまない、今のは無しだ。その、さっきまで、おれはパセリ……」
半ば諦め気味になったところで同僚の顔を見ると、やつはまるでおもちゃでも見つけたような顔をして俺の腕を引っ張りやがった。
説明:不定期に低い声で「おれはパセリ……」と呟く男性の財団職員。
回収日:20██/██/██
回収場所:サイト-8181
現状:財団に勤務。