オープンゲーム
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警備の男は身震いした。冷気はナイロンもフリースもウールもポリエステルも通り抜け、骨にまで染み込んでくる。風はごうごうと吹きつけ、雪や枝、土を巻き上げて、彼にみぞれを叩きつけた。体を動かすと、凍った装備にヒビが入る音が聞こえた。武器からは小さなつららが垂れ下がっている。腕時計を確認するため腕を持ち上げようとしたが、力を振り絞ることができなかった。

どれくらいの間このテラスに立っているだろうか? 数時間、もしかしたら数日かもしれない。しかし数時間ここにいるとしたら、交代はいつなのか? ここに取り残されてしまったのか? 世界の底のこのテラスで凍え死ぬ運命なのか?

バチンという大きな音がして、彼の頭から痛みが走った。彼の視界は不鮮明になり、そして暗転した。

二人の女が彼の死体を見下ろしていた。「クソ!」シスターは怒鳴った。「一体何が起こったんだ? ここはどこだよ?」

「ちょっと静かにしていなさい」クイーンは言った。彼女はひざまずいて雪を掘り始め、すぐに金属製の羽目板に突き当たった。その下にはトンネルが伸び、はしごがあった。彼女は一人目の女の方に合図した。「凍死する前に入りなさい」

シスターは頷いて這うように降りていった。二人目の女がそれに続く。数分進むと、彼女らはコンクリートの廊下に出た。天井には三列の蛍光灯が走り、一方の壁には安全基準の推進をうたう三枚のポスターが貼られている。その反対側には大きな地図があった。

「マジメな話、アタシたちはどこにいるんだ? あの男は殺してないよな?」シスターが言った。彼女は背が高く、薄い顔に長い鼻をしていた。彼女の黒髪はきついポニーテールにまとめ上げられている。三本の銀のリングが下唇から飛び出て、赤いタトゥーがシャツから首の後ろまで走っていた。彼女は当て布に覆われた革のジャケットに、ジーンズ、バンドTシャツを着ていた。

「シスター、そんなに本当のことを知りたいのなら、もっと暴力に慣れてもらわないと」クイーンが言った。彼女の顔は一人目の女とほとんどそっくりだった。髪は肩の高さで短く切られ、ストリートファッションではなくハイキング装備をして大きなリュックサックを背負っていた。その下には肩のホルスターの膨らみが見えている。右目の端から首筋まで傷痕が走っていた。「ここがどこかといえば……南極大陸よ」

シスターは息を呑んだ。「そんな、南極かよ。そんで……まだ地球にはいるんだよな? アタシの地球にさ?」

「いいえ」二人目の女は言った。彼女は歩き始めた。「ここはあなたの故郷からおよそ三百の宇宙ほど離れたところ。ついてきなさい」

シスターは追いつくために小走りした。「おい……これがアンタの見せたいものなのか? こんなのを南極に建てるなんて、一体どんなヤツだよ?」彼女は一瞬考えた。「ホントのところ、この建物が何なのかも分かってないんだ」

「我慢しなさい」クイーンは言った。「そんなにたくさん質問しないで。観察することを学びなさい。そちらの方が役に立つ」彼女は腕時計のボタンを押して話しかけた。「ヒル、こちらクイーン。準備はどう?」

ノイズが走り、声が聞こえた。「万端です、マム。どれくらいで到着しますか?」

「五分」クイーンがそれだけ言い、彼女らは歩き続けた。廊下は何度か枝分かれしていたが、二人はまっすぐ進んだ。そして、彼女らは金属製のドアにたどり着いた。

「着いたわ」クイーンが腕時計に向かって言うと、ドアがスライドして開いた。

彼女らは円形の広い部屋に足を踏み入れた。壁にはモニターが並べられていたが、どれも起動していない。部屋の中央は高くなっていて手すりで囲まれ、その中心には空白のスクリーンがある。その前に一人の男が立っていた。

「お久しぶりです、マム」横から声がした。白衣を着た男が身体の前で手を握って立っていた。「再会できて嬉しいです」

「私もだ、ウェイン」クイーンは言った。「お嬢さんの調子はどうだ?」

ウェインは頷いた。「良好です、マム。しばらく危ない状態でしたが、峠は越えました」

クイーンは頷いた。「素晴らしい。リンダによろしく伝えてくれ」彼女は高くなっている場所に上り、シスターは後を追った。

「どうも、マム」スクリーンの前にいる男が振り返って言った。「旅は順調でしたか?」彼の視線はシスターに注がれていた。

「ああ」彼女は上着からプラスチックのディスクケースを取り出した。「必要なものはこれで全部のはずだ」

彼は頷いた。「それでこちらがあなたの……ええと……仲間ということですね?」

「そうだ」

「でしたら、全ての準備は整っているはずです」スクリーンに向き直り、彼はわきのボタンを押した。細い溝が開き、ディスクをその中に押し込んだ。「マム、すぐにこれを終える自信がおありなのですか? データを送信してからロックダウンが始まるまで、15分はかかると申し上げましたが」

彼女は彼を見つめた。

彼は目をそらした。「申し訳ありません。何か言おうとしたのではなく」

「これを送信したら何が起こるかは正確に把握している」彼女は言った。「どれだけの間計画してきたと思っているんだ?」

彼は赤面した。「何か反対しようとしたわけではないのです、マム。ただ……つまり……」

「もういい。これ以上話しても何にもならない。送信してくれ」

彼は頷いた。いくつかボタンを素早く押すと、スクリーンが点灯した。赤い鎌と槌が画面の中央でまたたき、キリル文字のコマンドがいくつも重なって表示された。

「オーケイ」シスターは言った。「今何が起こってるかさっぱり分からないんだけど」

「観察を学べと言ったでしょう?」クイーンは答えた。彼女は腕を組んでスクリーンを見つめ、その目は素早くコードを追っていた。「これは宇宙を移動する装置よ。私が使っていたものよりもはるかに強力。これがあれば、私たちは作戦を大幅に拡張できる」

「ああ、なるほど。で、そいつを使って何をしてるんだ?」

「見ていなさい。わかるわ」クイーンは前に進んでキーボードにいくつか数字を打ち込んだ。スクリーン上のコマンドは停止し、消えた。代わって赤い輪郭の四角形が現れ、その上に「0%」と表示された。数秒後、それは点滅して「1%」に変わる。

「完了には少なくとも⸺」ウェインが言ったとき、部屋に銃声が響いた。クイーンがぐるっと周囲を見渡す。黒いライオットスーツを着た四人の男が部屋の奥に立ち、アサルトライフルを掲げていた。そのうちの一人が、ロシア語のような何かで叫んだ。

クイーンとウェインが両手を上げ、シスターは彼らを真似た。「合図をしたら、」クイーンが言った。「スクリーンの後ろに走りなさい」そして彼女はロシア語で男たちに答えた。

男は一歩前に進み、大声で何かを命令した。ウェインがひざまずこうとしたが、クイーンは手を振ってそれを止めた。彼女は呆然とした顔で何か言い、その視線はヒルへ向かった。

彼の顔が曇った。「申し訳ありません、マム。私の娘が……私はどうしても娘を……ここに案内すれば娘を返してもらえると……」

「黙りなさい」彼女は言った。「どうってことない。シスター、奴らは私たちを撃ってくる」

え?

「今!」クイーンは叫び、反対側へ跳んだ。彼女はスクリーンの後ろへ駆け込み、シスターも夢中でついていった。発砲が始まると同時に彼女は陰に身を隠した。ガラスが割れ、人が崩れ落ちる音が聞こえる。スクリーンの反対側ではウェインが苦痛にうめいていた。

彼女らの隠れた方にもスクリーンがあった。赤いバーが点滅し、「15%」と表示される。

反対側でロシア語の低い声が聞こえる。誰かが叫んだ。足音が向こうへ走っていく。口論、そして二発の銃声、ヒルが悲鳴を上げた。

20%

誰かが二人に向かってロシア語で叫んでいる。

「100%になったら何が起こるんだ?」シスターは言った。

「設定した目的地に転送される」クイーンは答えた。

「オーケイ、いいね。100%になるにはどれくらいかかるんだ?」

「二分。でもそんなこと今は問題じゃない」

「どういうことだ?」

「目的地の入力が終わっていないのよ。今起動すれば、どこに飛ばされるか分からない」

27%

足音が近づいてくる。

「人を殺したことはある?」クイーンは言った。

シスターは青ざめた。「ええと、一回だけ」

「分かった」クイーンは上着を開いて二本のピストルを引っ張り出し、一本をシスターに握らせた。「使い方は分かる?」

「……ああ」

「奴らを殺さなきゃならない」

35%

「アイツらが一体どんなヤツなのかも知らないんだ! アイツらは何がしたいんだ?」

「おそらく、警備が殺されたことと技術が盗まれかけたことへの報復」クイーンは弾倉をシスターに手渡し、一つを自分の銃に押し込んだ。「奴らとの争いは昔からだから、それでも最近の出来事だけだが。すぐそこまで来ている。準備はいい? 私は最後の座標を打ち込む。近づいてきた奴を食い止めてくれ」

40%

クイーンはわきのパネルに少しずつ進み、座標を打ち始めた。そうすると、スクリーンの下部に数字が表示された。シスターは肩越しにスクリーンの反対側を見た。誰もいない。しかし、かすかに足音が聞こえる。

46%

クイーンは入力を続けている。シスターはクイーンのいる辺りをよく観察した。何か動いていないか、何か気配が⸺

「動くな!」彼女の後ろで声が聞こえた。彼女は振り向き、ピストルを上げる。遅かった。男が彼女に向かってライフルを構え、引き金に指をかけている。その隣の男はクイーンへ武器を向けている。クイーンはため息をつき、キーボードから体を起こして両手を上げた。

58%

さらに二人の男が反対側から現れた。彼らはクイーンとシスターの背後をとるように立った。

クイーンはロシア語で話しかけたが、男たちは返答しない。一人がシスターに向かって立ち上がるよう指示した。シスターは立ち上がる。男は、彼女には分からないことを喋った。クイーンが彼を見ずに返答した。シスターの顔には玉のような汗が出てきた。

64%

「お……終わったのか?」シスターは言った。

クイーンは頭を振った。「ほとんど」

「今度は何をするんだ?」

「黙れ」彼女らの後ろにいる男が言った。彼は武器を肩にかけ、シスターに近づいた。ベルトから手錠を取ると、シスターの両腕をつかんで背中へねじった。手首に巻きつく冷たい鉄の感触にシスターは身震いする。膝に痛みが走り、彼女は崩れ落ちた。

73%

「悪かった」シスターは言った。「しまったな、こんなこと⸺」男は前に進んで彼女の胃腸のあたりを蹴った。貫くような痛みに彼女はあえぎ、空気を吸い込もうとしたができなかった。

クイーンは彼を見つめ、ロシア語で言った。「もう一度やってみろ」

「やったらどうなるんだ?」男は答える。

彼女はスクリーンの方に目をやった。

79%

「頭の上に手を置いて、ひざまずけ」

彼女は動かない。

「ことをややこしくしたくないんだ。お前を殺す気はないが、必要とあらば撃つぞ」

彼女は立ったままだ。その目は点滅する数字を見つめている。

男はため息をつき、銃を下ろしてシスターに照準を合わせた。「こいつを撃ったっていい。どうだ?」

85%

クイーンは歯ぎしりした。彼女は腕を下ろし、頭の後ろで手を組んだ。しかし立ったままなのは変わらない。

「早くしろ」男は言った。

「彼女に触れたら」クイーンは男の方を見ずに言った。「私はお前の死体すら残さないわ」

男はくすくす笑った。「脅しができる立場だと思っているのか?」

93%

彼は唾を吐いて敵意を見せた。「お前は自分が賢くて、何年も俺たちをちょろまかしてきたと思ってる。嘘をつき、盗み、俺たちを馬鹿にしてきたと。いつまでもそう上手くいくと思ったか? お前は自分が俺たちよりもずっと優れていて、ずっと頭が切れると信じていた。今から分からせてやる⸺」

99%

彼女は手をまっすぐ伸ばした。キーボードを素早く叩き、五つのキーを押す。スクリーンの下部が白く光った。

100%

世界が暗転した。





























II





























飛んでいる?

シスターは自分が飛んでいるような感覚を覚えた。空を切って落下している。胃の辺りに、馴染みのある落ちる感覚。岩棚から足を踏み外して、重力によって地表へと引っ張られるような感覚。彼女は目を開けた。ただ暗闇が広がっていたので、もう一度目を開けようとした。左を向くと、クイーンとあの男がいた。暗闇の中で浮かんでいる。見えない床の上に立っているかのようだ。彼らの後ろに、ぼんやりとスクリーンが現れた。スクリーンは何度も赤く点滅している。男は銃を持ち上げ、クイーンの頭に照準を合わせた。彼は撃とうとしたが、引き金を引いても何も起こらない。

クイーンは彼のヘルメットにピストルを当てた。彼女は何も言わず、ただ男の目をまっすぐ覗き込んでいる。シスターは背後を見た。他の男たちが武器を持ち上げている。彼らも発砲しようとしているが、銃は反応しない。一人が踏み込むように足を前に出したが、それは空を切るだけだった。彼はつまずいて転び、見えない床につんのめった。

シスターは立ちあがろうとしたが、踏み込むべき床が見つからない。息を吸おうとしたが、空気がない。声を出そうと口を開いたが、音が出てこない。ただ落下の感覚と、周囲の人影だけが存在した。

現実が彼女を大きなハンマーのように殴った。一瞬の暗闇。次の瞬間、緑、茶、橙の光が爆発した。巨大な指で地面に押しつけられているような痛みが彼女を襲った。彼女は叫び、その声の向こうで銃声が聞こえた。数分後、痛みが和らいで目を開けると、クイーンが彼女に覆い被さるように立っていた。

「な……何が起こったんだ?」彼女は脇腹を抱えて立ち上がった。肋骨が一本折れているようだ。彼女らは森の中にいた。木々は数十メートルの高さで二人の上にそびえ、地面は落ち葉で覆われ、鳥は頭上の枝でさえずっている。数メートル先では、毛むくじゃらの六本足の動物がまばたきもしない灰色の目で彼女らを見ていた。毛皮の下から枝や蔓が伸び、その体を包み込んでいた。彼女らの隣に、スクリーンが地面から現れていた。「成功したのか」

クイーンは頷いた。

シスターが周囲を見渡すと、四人の男が横たわっていた。彼らの周りの葉には血が飛び散っている。「アンタがやったのか?」

「言ったように、私は何ヶ月も準備してきた。宇宙の膜の間を移動するのにどれくらいかかるかも正確に把握している。奴らはそうじゃなかった。私はここに来るために心構えができていたんだ」

「なるほどね」シスターは言った。彼女は前に踏み出そうとして転んだ。クイーンはさっと歩み寄り、シスターを抱えて起こした。「気分が悪くて」

「これまで経験したことのない距離を跳躍してきたんだ」クイーンは言った。「その負担に体がまだ慣れていない。数分すれば気分は良くなるだろう。それまでここにいよう」

「クソ」シスターは言った。「タバコ持ってくるんだった」彼女は動物のいた場所を見渡したが、もうどこかに行ってしまっていた。


彼女らは黙ったまま、木に寄りかかって座って数時間過ごした。クイーンが再び動いたときには夜になっていた。森は沈黙している。「気分はどう?」

シスターは頷いた。「良くなった。サンキュ」

「かなりの距離を歩くことになる」クイーンは立って服の汚れを払い落とし、金の腕時計を軽く叩いた。「目的地まで三日、そこから三日かけて戻る」

シスターは立ち上がった。「今出発するのか?」

「夜の方が移動しやすいんだ。日中だと暑すぎる」クイーンはリュックサックのベルトをしめた。

「で、どこに行くんだ?」シスターは腕を組んで立っている。

「着いたら分かる」

シスターは何も言わない。

クイーンは彼女を見つめた。「何か問題が?」

「ああ」シスターは地面を見つめながら言った。「こんなことは予想してなかった。撃たれて、森でキャンプして。アタシがパパを見つけるのを手伝うって言ってたじゃねえか」

「言った。今やっているところだ」クイーンは言った。彼女は、下を向いたままのシスターに近づいた。「危険が伴うと言ったでしょう。困難なことになるから、自分の決断を後悔するでしょうとも。それでも行きたいと言ったのはあなた」

シスターは唾を飲み込んだ。手は汗でベタついている。「ああ、そうだ。でもこんなのメチャクチャだ。アタシたちが何をしていて、どこにいて、その理由も何もかも、アンタは教えちゃくれない! 別の宇宙にまで連れてきて、それでも何が起こってるのかさえ教えてくれないのか? こんなことからアタシが一体何を学ぶと思ってるんだよ?」彼女の声はどんどん荒くなる。「いいさ! アンタが望むところには喜んでついてってやる。でも、一体何が起こってるのか言ってくれたっていいだろ! アタシはアンタの道具じゃない!」もう叫んでいるも同然だった。「アタシに何か説明してくれよ! ただ引っ張り回されて撃たれて殴られて、こんなどうでもいい世界にまで連れてこられるなんてこりごりだ!」

クイーンは後ずさりした。彼女は手をシスターの肩に置くかのように持ち上げたが、下ろしてしまった。「わかった」彼女は言った。振り返り、木にリュックサックをもたれさせていた場所まで歩いていってその中を探し始めた。

リュックの中身を半分ほど引っ張り出した後、クイーンは、黒いノートを握ってシスターの元へ戻ってきた。彼女はそれをシスターに押しつけた。「あげる。歩きながら読みなさい」

シスターはクイーンからノートへ視線を移した。彼女の手は震えている。「これは?」

「私のノートの一部。何年もかけて明らかにしてきた基本的な情報が集まっている。道中に読んで、気になることがあれば何でも聞きなさい」彼女は目を閉じてため息をついた。「あなたにつらくあたってきたのは申し訳なかった。昔情報を共有したとき……厄介なことになったものだから」

まだそっぽを向いたまま、シスターは頷いた。「オーケイ。いいね。で、何でアタシたちはここにいるんだ? ここに何があるんだ?」

クイーンは背中にリュックをしょった。「父を殺すんだ」

シスターは目を丸くした。「パパ? パパがここにいるの?」

頷きながらクイーンはベルトをきつくした。「彼の別バージョンがね。彼は危険なんだ、シスター。すぐに止めなければ、宇宙全体を破壊してしまう。しかも、それだけにとどまらないかもしれない」

「どうやって? ソイツは何をしているんだ?」

クイーンは首を振った。「それは自分の目で見た方がいい」


ハイキングは簡単だった。シスターにはお手のものだった。少女時代はよくハイキングをした。友達付き合いもせずに家の裏の森を歩き回っていた。父親がいなくなってからは、本と、母親の何十年も前のキャンプ用品といっしょに見つけた缶詰だけを持って森の中で何日も過ごした。心の落ち着く素敵な時間だった。

今回は違った。この場所にあるもの全てに、説明できない不快感があった。風が葉の間を通り抜ける音で、背筋に悪寒が走った。枝が不気味にしげり曲がりくねっている様子は、自分たちが気の狂った木造の監獄の独房にいるかのように錯覚させた。野生動物たちは動物というよりもモンスターに近かった。彼らはみんな皮膚から木を生やしていて、動き方も奇妙だった。彼らはいつまでも木に体を叩きつけ、地面に突進し、宙に向かって吠えたりうめいたりしていた。

気を紛らわせるため、シスターはあのノートを読んだ。一日目の終わりには最後まで読み通してしまった。二日目の終わりには全ページに注を書き込んでいた。三日目になって自分の記録と比較し、自分が知っていたことはほとんど全て間違いだったと理解し始めた。

「クソ」彼女は歩きながら言った。「いつからこのノートつけてきたんだ?」

クイーンは枝の下にかがんだ。「六年前から。財団を見つける前も含めれば九年前」

「チクショウ。そうだ、アンタ、自分の年齢も言わなかったな」彼女はノートから顔を上げ、枝の位置を確認してその下をくぐった。

「あなたと同い年」クイーンは言った。「24歳。私の方が早くこの世界に引きずり込まれただけ」

「へえ」シスターは言った。「どうやって?」

「また今度ね」クイーンは言った。彼女は腕時計を確認するのをやめ、やや右に針路をとって歩き始めた。シスターはついていきながら、ノートに注意を戻した。

そこに記録されているのは驚くべき内容だった。数十の世界と二十の超常に関わる組織の説明に、三十の異常物品のリストとそれらが様々な宇宙でどのような姿形をしているか(シスターが自分の宇宙で見たものもいくつか含まれていた)が記されていた。ノートの後半は全て、チャールズ・ギアーズが占めていた。彼女が見つけたあらゆる宇宙での彼の行動パターン、振る舞い方、忠誠のあり方が追跡されていた。雑然とした情報の中で、ある一つの考えが繰り返され目立っていた。

あるメモ曰く、理由は様々だが、家族を捨てたチャールズ・ギアーズにほとんど必ず共通していることがある。その人生のどこかで、彼の感情に関わる能力が失われる出来事が起こるのだ。純粋に心理学的なもの、つまり彼が日常的に直面する場面に対処するための心理学的な退行の場合もある。強力な宇宙存在との遭遇といった、精神的な影響の場合もある。原因が何であれ、著しく異質な状況による例外を除き、それは必ず存在する。

そして少し後にこう続く。このような反社会的性質は、結びついたものが何であれそれに忠誠を捧げる彼の特性と組み合わさり、チャールズ・ギアーズを現実に対する危険存在へと仕立て上げるのである。


シスターはノートから顔を上げた。何か音が聞こえる。すぐ前方、木々の間から漏れるゆっくりとした小さな音だ。クイーンは気づいていない、少なくとも気にしていないらしい。彼女はやぶの間を歩き続けている。シスターは歩みを止め耳をそばだてた。水の音のようだ。

「アレ、聞こえる?」彼女は言った。

クイーンは頷いた。「目的地に近づいているんだ。ほら」彼女らは広大な森林限界にたどり着いていた。クイーンは立ち止まりもせず、ただそこを通り過ぎた。木によるこすり傷や切り傷など考える価値もないようだ。シスターはため息をつき、頭を両手で覆って急いで歩いた。彼女は一分ほど走った。枝が服に引っかかりトゲが肌を裂く中で走り続け、ついに反対側へ飛び出た。

日の光が当たって彼女は後ずさりした。これまでは木々がほとんどの光を遮り、森の中はずっと薄暗かった。今、目がくらむほどのまぶしい光だ。シスターは何とか目を細く開き、息をのんだ。森を抜けていた。河岸に立っている。その幅は三十メートル近くあるだろうか。水は青く澄んで、川底では木でできたカニのような小さな生き物が岩を駆け抜けていた。川床からは木が生えている。その長い葉はつるのようで、水中をはためき、その間を魚が泳いでいた。水面には届かない高さの木がほとんどだが、いくつかは河から飛び出て空へ伸びていた。

向こう岸に、白い毛の大きな動物が三体立っていた。バッファローによく似ているが、毛は短く角が長い。角は後ろに曲がり、うなじに当たりそうだ。腹部の毛皮から短い枝が生えていた。二体はシスターに注意を向けず、何も気づかずに川の水を飲んでいた。三体目が彼女をじっと見つめている。それから少しして、低い唸り声を上げた。他の二体も彼女の方を見上げる。彼らは低く鳴き、背を向けて歩き去っていった。

川の向こうには、平原が地平線まで広がっていた。遠くで、あのバッファローのような動物の群れが見えた。数百メートルごとに、枝のない巨大な木の幹が地面から伸び、森の中のどの木よりも高く太く生長していた。

シスターの後ろで枝の折れる音がして、彼女はそちらを向いた。木々の間からクイーンが出てきた。特に傷などはないようだ。彼女は数枚の葉を払い落とし、リュックのベルトを調節した。

「きれい」シスターは言った。

「違う」クイーンは言った。「昔はきれいだったんだ。今は退廃している」彼女は上流の方を向いた。「行くぞ。目的地までまだ数時間ある」


森の中はほとんどの場所がなだらかだった。それは良かった。上り坂は最悪だ。太陽は天頂に近く、森の外の暑さは耐えがたい。シスターはジャケットを脱いで腰に巻いたが、意味はなかった。クイーンは歩き続け、汗もかいていない。

先に何かが見えた。近づきながら、シスターはそれがただの丘の露頭だと思っていた。しかし、それは、建物の大きさの絡み合った枝だった。あの河(もう小川のような細さになっているが)は中央の裂け目から流れていた。近づくと、クイーンが手を上げてシスターを止めた。

「ここよ」クイーンは言った。

「ついにか」シスターは言った。「入るんだな?」

クイーンは頷いた。「まずいくつか聞きたいことがある」

「ああ、いいぜ。いい気分転換だ」

クイーンは腕を組んだ。シスターは彼女の目を見て身震いした。何か違和感がある。人間味に欠けた、雷雨のような厳しい目だ。「父親を見つけたら、彼と何をしようと考えている?」

「え?」なぜそのようなことを尋ねる必要があるのだろうか。「家に連れて帰る。他に何があるんだ? 財団がパパに何をしてても、パパを元通りにしてみせる」

「なるほどね」クイーンは唇を結んだ。

「何だよ、問題でもあるのか?」

彼女はため息をつき、首を振って、枝のからまりの隙間に足を踏み入れた。「『父親』を殺すのはこれで十六人目になる。これで終わりでもないだろう」

シスターは後を追った。洞窟は暗く、明かりはクイーンの懐中電灯だけだ。二人はまだ入り口に立って、お互いを見つめていた。

「ほんの十年前までは、この世界はあなたの世界とよく似ていた」クイーンが言った。「あなたの父がここを破壊したの。彼はいつだって、最後には世界を破壊してしまう。今回は、彼はたまたま森の神と結合して、森の神が全世界に広がるために必要なつながりを与えてしまった。だが、神はまだ満足していない。いずれ太陽系全体に広がる。そして宇宙全体にまで。最後には、他の宇宙への『道』を見つけてしまう。そうしたら、神を止められるものは何もない。ここで破壊しなければならない。その源から」

彼女はシスターに小さな銀色の爆弾を渡した。「父親を殺すために必要なことは何だと思う?」

シスターは爆弾からクイーンへ視線を移した。唇を噛む。「ええと……ソイツはアタシの本当のパパじゃないんだろ? パパに似てるだけだ」

「ああ。だがそれはあまり意味がない。心の動きは奇妙なもので、築いた関係にしがみつこうとするんだ」クイーンは腕を組んだ。「それでもできるか?」

シスターは手の中で爆弾を転がし、指をすべらせた。「わからない」彼女は言った。静かな声だった。「ソイツ、感覚はあるのか?」

「彼は今もう何も感じない」クイーンは言った。「神の燃料にすぎないから」

シスターはため息をついた。「たぶん。たぶんできる。やってみる」

クイーンは頷いた。「わかった、ついてきなさい」

彼女らは入り口から先に進んでいった。二人とも喋らない。数分歩くと、地面は下方に傾斜していった。からまった枝は外からは小学校くらいの大きさに見えたが、それよりもはるかに長い距離を歩いている。シスターは後ろを振り返ったが、外の光は消えてしまっていた。トンネルは真っ暗だ。心を落ち着かせようと、壁に手を当ててクイーンの足音を聞いた。

地面は柔らかく湿っていた。足を踏み出すと少しめり込む。昆虫が音を立てて二人の周りを飛び回っていた。腐った果実のような不快な甘い匂いがした。歩くうちに空気が冷たくなっていき、すぐにシスターは震え始めた。

どれだけ歩いたか定かではなかった。一時間ほどのように感じられるが、もっと長く歩いているかもしれないし、それほど歩いていないかもしれなかった。彼女にわかるのは、たった数百メートルしか進んでいないということだ。だが、どうしても一時間は経ったように感じられた。二人の前に、細い緑の光が差し込んできた。前進すると光は大きくなる。まもなく、クイーンのシルエットと洞窟のでこぼこした壁が見えるようになった。壁は細いつると花で覆われている。ついに、彼女らは小さな洞窟の入り口にたどり着いた。

枝とねばねばしたつるが重なって壁を覆い隠していた。地面はきれいで滑らかな石でできていた。そこから小さな低木が伸び、青い果実が生っている。その中心に、透き通った水がたまっていた。底は見えなかったが、いくつかの魚の群れが水面のすぐ下を泳いでいた。その水からたった数センチメートル離れたところに、ギアーズ博士が吊るされていた。

数百本のつるが彼を天井から吊り下げ、腕は横に伸び、足はぶら下がっていた。彼の皮膚からは葉や小枝、花が生え、その身体を縛っていた。それらは彼をほとんど完全に覆ってしまっていて、見えるのは数センチメートルのむき出しの胴体と頭だけだ。目は開いていたが、死体のそれのようにうつろに見えた。

シスターは息をのんだ。話そうとしたが、できない。これだ。これが彼女が15年間待ち続けてきたものだ。パパにもう一度会うこと。動きたかった。何でもいいから何か言いたかった。そして彼が気づくかどうか確かめたかった。自分のことを知っているかどうか、動きさえするかどうか。しかし彼女は何もできなかった。ただその顔を見つめるだけだった。少し疲れていて、少ししわが増えているが、それでも彼女が覚えている通りの顔を。

「大丈夫か?」クイーンが前に進み出た。彼女は唇を薄くして、シスターを見つめている。

「ア……」シスターは口を開いた。動け、彼女は考えた。言え。言うんだ。「アタシは大丈夫」

「これはあなたの父親じゃない」と言ってクイーンは沈黙した。彼女はギアーズからシスターへ視線を移した。「自分でそう言ったでしょう。彼は人生であなたを見たことはない」彼女は地面から小石を拾い上げ、ギアーズに向かって投げた。小石は彼の額に勢いよく当たったが、彼は反応しない。「今となっては、彼を人間と見なすことさえできない。彼の記憶、彼の望み、彼の恐怖、それらはすべて破壊されてしまった。根絶えた神によって完全に消されてしまった」

シスターは頷いたが、彼から目を離すことはできなかった。胸がつかえるようだった。解放されようとする動物のように、何かが彼女の喉の中で飛び跳ねた。

「やりたくなければやらなくてもいい」クイーンは言った。「しかしこれはあなたにとって貴重な経験になると思う。私たちのやろうとしていることをもっと理解するために」

何か言え。シスターは考えた。ただ突っ立ってるんじゃなくて。アタシはそんなんじゃないだろ。「それは……いや」シスターは言った。彼女の声はかすれていた。喉はコンクリートのようだった。「アタシがやってもやらなくても起こることだ、そうだろ?」彼女は息を吸い込み、クイーンに手を差し出した。「やれるよ」

クイーンは頷いてシスターに爆弾を渡した。それはシスターの予想していたよりも重かった。レンガのようだ。彼女は爆弾を手の中で転がした。「使い方は簡単」クイーンが言った。「壁の下に置いて、ふたを引いて、走る」

シスターは頷いた。「すぐに終わるのか?」

クイーンは首を振った。「いや。しかし彼は何も感じないだろう。彼にとってこちらの方が良いと約束する」

「そうだな」シスターは洞窟の反対側へ歩いていき、爆弾を置いた。クイーンは入り口に立ったまま見ている。シスターは爆弾に手をかけた。天井から吊るされた彼を振り返った。ああ、彼がなんとシスターの父親に似ていることか。彼女の体は、彼が父親に違いないと全身で叫んでいる。しかし彼女は知っていた。彼は父親ではない。本当の父親は別の宇宙で連合のところにいて、こんなふうに囚われてはいない。それでも、彼女の手は震えていた。「やるんだ」彼女は自分にささやいた。「やらなきゃ」しかしその手は動こうとしない。

彼女はこれまでの二週間のことを考えた。クイーンと出会い、連合から命からがら逃げ出した。別の世界に飛ばされて、そこは凍った荒れ地で、また殺されかけた。何日も山の中を歩いた。人が死ぬのを見た。何のために? この瞬間のために。クイーンの要求でこの男を殺すために。違う、彼女は考えた。コイツはもう人間じゃない。ひと目見ればそれは明らかだった。

彼女の手は汗でびっしょり濡れていた。胃はでんぐり返しをしているかのようだった。喉元に昨晩の食事の味がした。爆弾のピンは指の間に挟まったままで、引き抜かれてその中の火を放つのを待っていた。自分はこのようなことをやりたくないのだ、ということに彼女は気がついた。なぜここに来たのか? なぜこのようなことをやると言ってしまったのか?

シスターはクイーンの方を振り返った。自分でやらなくてもいいと彼女は言っていたが、それが嘘であることはわかっていた。クイーンは彼女がこうなることを予想していたのだ。クイーンはシスターに何だってしてやれたが、まずはシスターが勇気を示す番だった。爆弾を握りしめた。やるんだ、頭の中の声がささやいた。そうすればパパに会える。本当のパパに。

彼女は額の汗を拭った。そう。彼は彼女の父ではない。本当の父は離れた宇宙で彼女を待っている。このピンを抜けば、彼に会える。

三。

二。

一。

目を閉じて手を後ろに引っ張り、爆弾からピンを引き抜いた。シューという音がして、爆弾のふたが赤い光に包まれて爆発した。彼女は跳び上がり、洞窟の入り口へ走って戻った。シューという音は大きくなっていく。

クイーンはシスターの肩をつかんだ。シスターが会ってから初めて、クイーンの顔に笑顔が広がった。「素晴らしい。最高だ。さあ、急ごう。火の回りは速いよ」

シスターは頷いた。彼女は前に一歩踏み出して、止まった。これではだめだった。このまま離れることはできなかった。見なければならなかった。振り返って、洞窟の中を見つめる。そして、動けなくなってしまった。

クイーンはシスターを振り返った。「何かあった?」

クイーンはシスターを揺さぶった。「いや。その……大丈夫。行かなきゃだよな」二人は走った。

彼女たちが洞窟から飛び出し、日光と風が二人の顔に当たると、シスターは壁へ向き直って胃の中のものを吐き出した。クイーンは彼女を見下ろし、かなり気遣っている様子で立っていた。「最初はきついよね」彼女は言った。

「いや、別に」シスターは言って、口を拭った。「アタシは大丈夫」

しかし彼女の考えは洞窟の中に囚われていた。彼女がそこで見たものに。振り返ったとき、確かにギアーズが彼女を見ていた。ギアーズは間違いなく彼女を認識していた。そして彼はある言葉を口にした。彼女の名前。「アリソン」と。

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