球 -Pila-
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施設の奥へと近づくにつれ、ロナルド・スティムソン博士は軽く溜息を吐いた。腕に鎖付けされたブリーフケースの重みのせいで足を踏み出すたびにしかめ面を浮かべた。更なる重みでバランスを失い、背中には痙攣が走り、幾度となく痛みに襲われた。なぜこの任務に選ばれたのか、なぜ自分だけだったのかは分からなかった。状況が不運だったんだろう、彼はそう思った。

結局のところ、彼もまた最後まで生き残った者たちの一人だった。

サイト-19の地下がこんなにも張り巡らされ、地下奥深くまで広がっているとは知らなかった。ツーンと耳鳴りがした後にエレベーターが止まった。目の前の階段は果てしなく続いているかのようだった。最後に連中が動かしてから相当な月日が流れたようであった。重々しい鉄の扉を凝視した。最終目的地だ。

扉を開けると澱んだ空気が鼻を直撃した。顔を顰める。中に入ると換気扇を回し、背後の扉を閉めた。最後はカチリと音を立てて扉が閉まる音が聞こえた。ブリーフケースをテーブルに載せると重々しく溜息を一つ、ようやく手首から分離して錠を外した。そこからファイルフォルダーを引っ張り出して、テーブルの上に置いた。

目の前に座る。手順は分かっていた。目を閉じると深く息を吐いた。恐ろしい危険性を孕んでいた。最悪の選択肢だった。それでも今、連中が選べる手段はこれしかなかったのだ。

ファイルを開き、最初のページを変化させた。

SCP-3245:生きたる嵐
オブジェクトクラス:Euclid
説明:SCP-3245は雲塊であり、その由来は….。

ファイルを閉じて、再び開いた。

SCP-3246:地獄
オブジェクトクラス:Euclid
説明:SCP-3246は我々の住む次元とは別の次元であり、唯一行き来が可能な方法は…

ファイルを閉じた。先ほどよりも深いため息を漏らし、頭を掻きむしった。「こんなの間違ってる…どうして連中はこいつが上手くいくなんて思ったんだ?」

SCP-3247:原子爆弾の幽霊
オブジェクトクラス: Keter
説明:SCP-3247は2046年に初めて観測され、それが壊滅させたのは都市ヒロシ…

叩きつけるかのようにファイルを閉じた。頭を抱えていた。「ちくしょうが!」叫び声を上げた。「知った話か!人類が勝とうが、こんなの間違ってる!出来るわけないだろ!」

投げ捨てられたファイルに目を向けた。席から立ち上がると室内を歩き回った。言わずもがなだが彼らは死んだ。今や全ての人間が死に絶えた。報告書の末尾に必ず言及があった。自分の友人を挙げた。自分の家族を挙げた。死んだ。彼が殺したも同然だった。

室内を歩き回り、こんなにも早々と地上の人間たちが滅び去ったのに驚いた。人類がどこまで生き残れるのか。目を閉じると、ちょうど呼吸の時の圧迫で痛みが走った。紙束に近づき、屈んで掴み上げ、テーブルに戻した。


SCP-4474:世界の終焉
オブジェクトクラス:Keter
説明:SCP-4474は1964年に初めて観測され、それは聖書における携拳1と信じられるイベントが…


自分自身がイヤになった。


SCP-6449:一度きりの公爵
オブジェクトクラス:Euclid
説明:SCP-6649は彼自身の全能性を認識し、自分が宇宙にとって危険であると理解した後に初めて財団に接触し….


死にたくなった。


SCP-8140:ワンダーテインメント博士
オブジェクトクラス:Safe
説明:SCP-8140は2018年に財団に拘束され、それは彼の"ミスター・終わらせ"の生産工程で引き起こされた…


自分こそがこの仕事に相応しいと合点した。いい面を考えた。いい面だけを考えた。


天井を凝視した。確信を持っていた。過去のどこかで、悲鳴を耳にしていた。世界の頂から悲鳴が上がった。いつだったか、爪を備えた腕が扉に傷痕を残した。束の間、首を絞められたかと思った。しかし彼は殆んど成し遂げていた。目を閉じて瞬きをし、今一度視界を良くすると、ファイルを閉じ、ゆっくりと開いた。

SCP-9996:お前自身
オブジェクトクラス:Keter
説明:何をしでかしたか振り返ってみな、ロナルド。みんな死んだ。みんなだ。

短文の記されたページを見つめた。幻覚を見ているに違いなかった。存在を知るだけで、正気を失わせる代物が見てきた中に含まれていたのだろうか?そいつに曝露したのだろうか?

SCP-9997:だからお前だって、ロナルド
オブジェクトクラス:Keter
説明:お前が世界を滅ぼしたんだ、ロナルド。連中が立ち上げた時だって愚かな計画で、それはお前も分かっていたハズだ。

小さく溜息を吐く。もう一度開いた。

SCP-9998:ロナルド・スティムソン
オブジェクトクラス:Keter
説明:お前が望んだんだよ。俺と殆んど同じく、お前も望んでたんだよ。お前も分かるだろ、状況は良くなったんだろう。非の打ち所がないまでに改善した。けど連中は余りにも高慢で、お前は全くの言いなりだった。さて今、何をしでかしたか振り返ってみな。お前の奥さん、お前の家族、お前が愛していた全ての人間、全ての物。礼を言うぜ、ロナルド。あんがとよ。さて、まだやり残している仕事が一つある。

ファイルを閉じて、もう一度開いた。両手が震えていた。

SCP-9999:拳銃一丁
オブジェクトクラス:Thaumiel
説明:お前の直ぐ隣にあるぜ、ロナルド。弾は装填済み。待ちな。やれ。何をすべきかは分かっているハズだ。

ファイルから目を離すと脇に置かれた回転式拳銃へ目が向いた。手を伸ばして掴み取り、撃鉄を起こす。顔から血の気が引いた。殆んど無意識のまま口に当てて引き金を引くと、一撃で惑星最後の人間の生命が最期の時を迎えた。その衝撃で紙束が彼の手から吹き飛んで足元に落ちる。最初のページが再び開かれた。

SCP-001:論文の束
オブジェクトクラス:Keter
説明...

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