パンとウィットロックは技師の部屋の前を静かに移動した。千人の人間がいる船の上、別の乗組員への暴力行為の犯人を見つけ出すことに全員が興味を持つことは簡単なことだろう。最悪の場合、1時間程度の遅れでも故郷へ帰る緊急ポッドが調整されるためには十分となる。
ジェリマはスペアの洗濯カートを手にし、見張りのために通路に立った。マヌはセキュリティ・カメラに入り、トラブルの兆候があった場合にオペレーションを中止する準備をした。イヤフォンを素早くタップすると、パンは進めのサインを受け取った。彼はオーバーライド機構をドアのキースロットに差し込んだ。8秒後、ソフトウェアがブルート・フォースにセキュリティを破り、ドアスライドが開く。
急遽作られた計画ではこれを10秒で行う必要があった。この計画は20分前、マヌの受動的モニタリングが定期動作時間外の重装備室への不規則なアクセスを検出したときに作られたものである。クロスチェックによりエンリケスとパンの見た奇妙な技師が注目され、その人物は歯車仕掛正教の工作員の可能性があるとされた5名の中の1人であった。クマランは即座に指示を下した。
パンとウィットロックはIRヴィジョンに切り替えると中へ急いだ。ホワイエは空であり、すぐに彼らはベッドルームへと向かった。目的人物はベッドにはおらず、部屋の隅の壁にぶつかりながらそれに向かって歩こうとしているようであり、小声で不明瞭な言葉をつぶやいていた。
混乱している時間はなかった。パンは部屋を飛び越え、技師の口を手で塞ぎながらもう一方の手で首を絞めた。ウィットロックは鎮静銃を準備し、押さえつける手の間にできる小さな頸動脈のすき間から技師の血管へと適量のエントロフィンを直接注入した。銃から小さな空気音が発っせられ、一瞬くぐもった叫びが上がり、そして沈黙が訪れる。技師はパンの中で完全に力を失う。呼吸と心拍を確かめる時間は後にあるだろう。
パンは再度イヤフォンをタップした。ジェリマは合図を送り返した。パンは意識を失った技師を持ち上げ、ファイヤーマンズキャリーの形で肩に担ぐと、ウィットロックが戻り道を先導した。急いで通路へと戻ると、そこでジェリマが待機していた。技師は素早く洗濯カートの中へ入れられ、見られることの無いように余分なシーツが被せられた。パンはもう一度オーバーライド機構をキースロットへ挿入した。ドアスライドは閉まった。ジェリマはすでにカートを次の地点へと押していくために視界から消えていた。パンとウィットロックはすぐに別の方向へと進み、顔のマスクを取り外して戻っていく。
パンは腕時計を見た。28秒。
彼はそのオペレーション後、10分間カウントした。その後になってようやく、彼は通常どおりにベッドルームのクローゼットにある通気口のカバーを思い切って外した。
目に見えないアルコーブの暗がりの中、発明者スプラインは天井にある通気口の側面を握り、1つの滑らかな動きで真鍮でできた彼の骨格を船の通気システムの中へと放り上げた。
彼の計算は、外骨格スーツに利用可能にしたスペアエネルギーの残量で、コンフィキーまで行くために十分であることを確かめていた。そこへ着いてしまえば、エネルギーの残量はもはや問題にならないことを彼は確信していた。
スプラインは静かに彼の肉に最後の別れを告げ、重装備室に向かって一定の、機械的な匍匐前進を開始した。