クレジット
タイトル: 多元宇宙と空想科学のアートワーク
サブタイトル: プリチャード学院大学: 国際オンデマンド開講科目『Reality I』講義「多元宇宙の物語論的基礎(森野雄太郎)」
動画・音楽・著作: ©︎hitsujikaip
作成年: 2024
緒言
物語は有限である。始まりがあり、終わりがある。その中で語られることには限りがある。
ただ語るという営みを以て物語と為すのであれば、通常我々が使う「物語」という言葉の範囲を超えて様々な物語を考えることができる。例えばフィクションの小説や映画に限らず、歴史の記述、日記、行政文書、星々の観測記録、そういった情報を並べていったものが物語論で扱う物語の現実世界での対応物である。
我々は、この講義で、それを形式的に把握、操作できるようにした理論を取り扱う。 この理論を用いて過去/未来への干渉、上位/下位次元への干渉及び自己言及と物理現象との関係を形式化、定量化することで、これらの振る舞いを予測することができる。
では、具体的にどのようにして形式化されるのだろうか。我々が普段仮定として置くものは、(1)物語の有限性、(2)行間の任意性(3)付け足しの単調性である。
物語の有限性については冒頭に述べた通りである。ここから概要の説明のために、未定義語が嵐のように飛び交うが、当然説明していないためわからなくても気にする必要は無い。
行間の任意性とは物語が指定する世界観の集合が開であることと、物語の合成によって作られた物語が、元の物語より狭い世界線の集合に対応すると言うことに現れている。この状況では、1つの物語が指定する集合は境界となる世界線を含まない。例外的な部分が除かれ、本質的に似たような世界線が同じ集まりに属するような制限と思ってもらえば良い。そして、物語が単位的なもの、つまり空の物語に近づけば近づくほど、どのような世界線でもあり得るようになる。これは言っていない事は何でもありと言う精神を体現している。
記憶が正しければ放浪者の図書館などは「1冊」の単位が開ではなく、閉なものをとっている。ここら辺はもちろん理論の作り方によって、一長一短がある。およそ言ったこと以外は何もないと言うところだろうか。
付け足しの単調性は、何かをさらに詳しく述べること、つまり重ねて述べるということで、さらに状況がspecificになると言うことである。もちろんそのような仮定なしでも考えることはできるが、「まともなもの」をまず考えなければ、我々が扱う異常なものは手も足も出ない状況である。これを物語の結合とその物語が指定する世界線の集合の包含関係によって表す。
基本的には、まず物語を記号列として考え、記号列の合成と言う操作を考える。その次に物語と世界線の集合との対応を考える。そして、その対応が記号列の合成と言う物語に対する操作と調和する場合を考えるのである。
時間の推移や過去改変といった具体的な例を視覚化してみよう。この墨流しのような絵を見て欲しい。
この図は、物語が指定する世界線の集合が、物語の演算といかにして関連しているかを模式的に表すものである。この図の中で、黒い線が世界線に対応する。線で書いてあって、しかも世界線という名前であるが、これらはあくまでも1つの点であり、これから扱う理論の範疇では、内部構造は捨象されている。
この模様の中で、上側の$a_i$で束ねられているものは、時間の推移や「重ねて語ること」を表している。下側の$b_i$で束ねられているものは、主に、特異的な過去改変といった異常を表している。これらは、本数と言う概念を捨象すれば本質的には同じだが、例えば測度等の構造をうまく入れると「世界線の本数」を数えることができ、異常な時間の経過とそうでないものを類別できる。
なんとなく見ると、時間と言う考え方の下では、左に行けば行くほど時間が進み、世界線が収束してゆくとも捉えられるが、もちろんこれはそのような意味に限らないし、この線の右左に時間の意味は無い。こういった感覚での収束を、我々は取り扱うのである。
ある与えられた物語の集合が、物語論$f$の下で世界線$w$に収束する状況を表す式を、記号の意味を説明せずに紹介しよう。
定義 5. $\Sigma^*$の部分モノイド$M$と物語論$f$について,世界線$w\in W$の近傍系$N_w$が$f$の下で$M$によって生成される蜃気楼$\mathcal{F}(M,f)$の部分集合であるとき,$M$が記述する世界線は世界線$w$に$f$-収束する($f$-convergent)という.
数及び数学における形式は、具体物に現れる性質を抽象化したものであり、非常に広範な内容を含むため、これと全く同等の内容を自然言語で表現する事は非常に困難である。しかしその困難さを乗り越えれば、$N_w \subset \mathcal{F}(M,f)$という1行の表現によって、世界線がいかにして収束するかを記述することができてしまう。
これは単に、現在から過去に至る時間的な側面の収束のみを表したものではなく、同時に物語の自己言及が安定な構造に遷移する要素の記述、もしくは幾重にも重なった言及の層における改変等の収束にも用いることができる。
メタは物語に対する言及である。これを形式化すると言う事は、物語論と言う観点を相対化し、物語に対する言及そのものを言及できるような物語について扱わなければならないということだ。超常的に実現される様々な物語効果を考えるにあたっては、その効果の法則についての適用範囲を限ると言う局所性の導入が重要である。メタや現実・過去改変といった超常現象を取り扱う場合は自然現象の法則性だけではなく、そのメタ的な適応の法則の斉一性も局所的にしか成り立たないということがこの「物語論を点として扱う」というアイデアに現れている。
具体的な方法を一つ紹介しよう。まず、$\Sigma^*$による$W$の正則物語論の集合を、以下のごとく書くことがある。
(1)この集合に以下の通り順序$\sqsubseteq$を定めれば、
(2)以下の二つはそれぞれ最小及び適当な部分集合の上限を定める。感覚的なたとえ話だが、$f \sqsubseteq g$が成り立つとき、物語論$f$は、どんな物語に対しても$g$よりもより多くの事柄を読み取る、口うるさい物語論だと言えよう。また、事実として$\mathrm{RNar}W$は上限を取る操作で閉じている。
(3)このようなことが成り立っている場合、位相構造としてScott位相が入る。それによって、(正則)物語論一つ一つを世界線、つまり点とみて、それに対する言及としての物語論、物語を考えることができるようになる。収束などの概念もそのまま普通の物語論と同様である。
記号的な物語論によって、時間、創作世界、メタと言った概念を統一的に扱うことができる。これこそが、物語理論を形式的に、記号的に扱うことのメリットであり、超常数理に関わる人々にぜひ身に付けていただきたい考え方である。もちろん、この記号的な物語論は、それ以外の異常にも適用されているし、まだ見ぬ異常に適用できるかもしれない。受講者の皆様方には積極的な参加と、各分野での応用によって物語論の新しい地平を開くことを期待している。
シラバス/Syllabus
開講科目名 /Course |
現実論I(Reality I) |
講義コード /Course Code |
ODC-INT SC-MA 1 020 L 3 |
開講所属 /Course Offered by |
数理/空想科学 |
開講区分 /semester offered |
専門基礎・大学間共通国際開講科目 |
セキュリティクリアランスレベル /Security clearance levels |
1 / 2(81NU) |
使用言語 /Languages |
英語(補助的に日本語を用いる) |
単位数 /Credits |
4 |
学年 /Year |
学部・大学院接続 |
他学科履修 /Available to students in other department |
〇 |
備考 /Notes |
ー |
主担当教員 /Main Instructor |
森野雄太郎 |
教室 /Classroom |
ー |