企画案2022-387: "ただ貴方の為に咲く"
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名前: リンネィ・ゼンセ

タイトル: ただ貴方の為に咲く

必要素材:

  • テラコッタの植木鉢 1つ
  • 銅製のジョウロ 1つ
  • 携帯型のエヴァーハート共鳴器 1つ
  • 拙作 "まだ見ぬ開花 " (あの初々しい白百合のつぼみは、今も貴方の手元にあるのでしょうか? )
  • 粉末状に加工した私の遺灰 (心配せずとも、手配はこちらで済ませましょう )

要旨: "ただ貴方の為に咲く"は私自身の遺灰を培養土の代わりに敷き詰めた植木鉢と、溶媒置換の奇跡論を施したジョウロからなる一対の作品です。植木鉢には私の処女作である"まだ見ぬ開花 " が植え替えられます。

エヴァーハート共鳴器を内部に組み込んだジョウロは、それを把持した人間の保有するEVEエネルギー色相に感応し、様々な液体を内部に生じさせます。具体的な例を挙げれば、悲嘆に暮れる人間からは涙液が、(あまり考えたくはないですが ) 性的抑圧を抱える人間からは精液等の発生が考えられます。そして、観覧者が生成された液体を植木鉢に注ぐことで、"まだ見ぬ開花 " は上記の色相に基づいた奇跡論的変容を見せます。この変容はジョウロで液体を注ぐ限り何度でも発生し、また同じ作品に変化することはありません。

私の遺灰には特殊なミーム処理が施されており、本作品が如何に姿を変えようとも"ただ貴方の為に咲く"として、ひいては私の残す最後の作品として尚も変わらず認識される為に、観覧者の認知的不協和を抑制する楔のような役割を果たします。

意図: 私が初めて異常芸術家アナーティストを名乗り臨んだ展覧会は、それは散々な結果に終わりました。私のブースに足を運んだ批評家は皆、口を揃えて"まだ見ぬ開花 "が如何に小手先だけの中身が無い作品なのかをつらつらと物語っていきました。きっと誰もが、哀れな女と思われたでしょう。これまで自分の生まれ持った才能を疑うことすらしなかったゆえ、あまりに無情な現実を前にして、私は放心するしか無かったのです。

そんな折に、貴方が現れました。  

剥き出しの嘲笑と無関心の渦中にあって、それでも"まだ見ぬ開花 " を手放しで誉めてくださった、たった1人の観覧者でした。あの時、私がどんなに大きな想いを抱えて、貴方の目をじつと見据えていたのか想像も付かないでしょう。

その後も、私は自信を込めて完成させた作品を幾度も展覧会に持ち込みました。その度に貴方と、貴方が引き連れた何人かの美術商だけが私の作品にポジティブな評価を与え、分相応の値段を付けては買い占めていく日々の繰り返し。隣のブースの同業者が批評家達から惜しみ無い称賛を浴びる中、それを尻目に私の心は何故か満たされていきました。

ええ、私はとても満たされてしまった。このままでも悪くはないと、そう思ってしまった。

世に名の知れたアナーティストが前に立ち、こちらを嗤う世界に向かって“Are We Cool Yet? 俺たちはクールだったろ?”と問い掛ける。そんな“We我ら”の輪の中で、ただリンネィの名が残せれば、それで私は幸せなのだろうと。

けれど最近、ふとした時に後ろを振り返ってみると、がらんとしたアトリエの陰に沿って並ぶ、売り切れた筈の彼等の姿がそこに見えるのです。他所の子達に比べたら、ひどく貧相な発想をした我が子達の影法師が。それがどうにも痛々しくて耐えられず、惨めな私は床に額を擦り付けます。ごめんなさい、ごめんなさいと、何度も独り呟きながら。

そうして夢から醒めた後、私は "ただ貴方の為に咲く" を製作しようと決めました。否が応にも私の芯から産み落とされる、この忌むべき褪せたアイディアが2度と形を成せないように。

きっと貴方は気に入るでしょう。何故なら貴方はことごとく、私と彼等の 父親パパなのですから。それにほら、彼等のような出来の悪い作品を引き取って「分かる人には分かるんだ」、なんて1人で憂いて愛でるのが、貴方の密かな楽しみなのでしょう?

もう、沢山です。

生暖かい泥濘ぬかるみに自ら進んで根を張った、救いようのない私から。 

蕾のままで、とうとう何者にも成れなかった私から。 

決別の証として、この作品を遺します。






































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