企画案2024-003
名前: アレイヤ・パーセン
タイトル: 全世界的オイディプス、もしくは「ガイアファック」
必要素材:
- ギリシャ、ヴィコス峡谷1渓(無断使用)
- 確率改変能力アレアキネシスを発揮する術者1人以上(所有済み)
- 遠隔地の映像を中継するための機材と撮影スタッフ一式
- 審美的に古代オベリスク1を模した、高さ120m以上の方尖柱1本
- 旧プロメテウス社製の携帯型ポータル生成装置2台(所有済み、修理が必要)
要旨: “ガイアファック”はヴィコス峡谷の任意の地点を舞台に実行されるライブ型インスタレーション・アートだ。観客たちは会場に中継された大型モニター映像でこの様子を視聴するか、希望次第で峡谷の両岸に用意された特別現地席を選ぶこともできる。2024年のAWCY万国展覧会の会場は残念ながらヴィコス峡谷からかなり離れているので、恐らくは前者を選択する方が多いだろう。
あらかじめ会場の屋外展示スペースには特注のオベリスクをそびえ立たせておく。一般的なオベリスクの高さは30m前後であるため、120m以上に特注されたそれは、その並外れた大きさから古代の神々に対する畏敬を自然と観客たちに与えることになるだろう。所定の時間が経過するまで、このオベリスクの作成意図は一切説明されないまま展示され、周囲には「神聖にして触れるべからず」などといった文言のプラカードが目につきやすい位置に立てられている。
やがて時間が来ると、会場の任意の観客1名がこのオベリスクに近づく。この観客は仕込みではなく、無作為に選択された一般客である必要がある。確率改変能力の影響下に置かれたこの客は、"偶然"オベリスクに目を留め、表面に彫り込まれた精緻なエジプト文様を見るために近づくと、"たまたま"落ちていた小石につまづき、よろけた体を支えるため"うっかり"オベリスクに手を付いてしまう。
その結果オベリスクを支えていたロープは"不運にも"外れ、巨大な柱が会場を破壊するように倒れはじめる。事情を知らない観客たちが慌てふためく中、倒れこむ先には"運良く"ポータルが展開されており、オベリスクを一瞬にしてヴィコス峡谷へと転移させる。するとオベリスクは先端を下に向けたまま峡谷へ落下し、轟音と粉塵とともに谷底へと突き刺さることになる。このスペクタクルな様子は大型モニターで中継され、現地席を選んだ観客であればその光景を肌に風がかかる間近で体験することもできるだろう。
作者であるおれはオベリスクを倒してしまって青い顔の観客を「神殺し」として激賞し、展覧会からヴィコス峡谷直通の永続ポータルを設置した後、最後に会場に残った「神聖にして触れるべからず」の立て看板を元あった場所で上下逆向きに刺し直しておく。これで上演は終了となる。
逆さに突き立ったオベリスクはインスタレーション作品としてそのまま展示され、観客は自由に触れたり撮影することができる。希望者にはハンマーを手渡し、オベリスクを砕いて土産物として持って帰ることも許可する予定だ。
意図: おれがこの企画に込めたい意図は全くシンプルで、以下の一文に要約できる。
"神々よ、くたばり給え"。
当然この敵意にはわけがある。しばらく前、おれの支援者パトロンはある企業だった。エトルリア神話の運命と確率の女神ノルティアだったかを崇拝するカルト企業で、一般の投資信託会社を装って、裏ではノルティアの権能により幸運の神託で莫大な利益を得ているってのが奴らの強みだ。おれは節税対策の文化活動支援という形で、まあ少なからずその恩恵にあずかっていた。
で、今はその企業は存在しない。ある日トリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーションとかいう奴ら 自分たちをエジプト神話のトートとギリシャ神話のヘルメスだと名乗るふざけた連中がやってきて、会議室で一席ぶち始めたらしい。
曰く「現状この組織でいかにノルティア神の力が活かされておらず、我々が提示するスキームに従って権能を使用した場合将来的にどれだけの信徒を獲得することができるか」とかかんとか。プレゼンテーターの嘴がやっと閉じたころには、ノルティアは古馴染みの信奉者一族をあっさり見限ってやがった。幸運の秘儀を失った企業はあれよあれよという間に左前となりぶっつぶれ、同時におれも一番のパトロンを失った。
この出来事はおれを半ば逆上させ、憤然と復讐へと立ち上がらせた。といって、おれはパルテノン神殿を丸ごとダイナマイト化&火付けしたり、スフィンクスの眼から真っ赤なレーザー光線を出せるよう改造して「これがおれの復讐なのだ。けけけけけ」などとのたまう気はありやしない。急遽制作予定を変更し、今回の展覧会に向けたこの企画を新たに考案した。メインテーマは神々への挑発と冒涜だ。
この作品の中で、神とは実にチンケな存在だ。それらを神々しく見せているのはただ馬鹿でかいだけの神殿と、立て看板にも劣る迷信じみた伝説だけ。パフォーマンス全体の流れは、「機会を揃えてやるだけで人間はたった一人の手で神を打倒することができる」という尊大さを挑発的に表現している。
次に冒涜。当然神話に則った礼儀作法で行うべきだ。拝借するのはオイディプスの伝説に登場する最も穢れた罪深き行為 自らの父を殺し、母を犯す。
一説に、オベリスクはエジプト神話の冥界の神オシリスの男根を象ったものであるとも言われている。神話によればオシリスは妻イシスの魔力により殺されても蘇ることができたが、体をバラバラに切り刻まれ川に撒かれたことで男根を魚に呑まれ失ってしまい、現世に留まることができずに冥界の神となったという。
ヴィコス峡谷はその幅に比べて世界で最も深い峡谷として知られている。ギリシャ神話の原初の女神であるガイアは大地そのものの象徴であり、大地の巨大な裂け目である峡谷はそのまま、ガイアの体に空いた開口部、秘裂として見なせるのだ。
このパフォーマンスの最も重要な場面は、根元から倒されたオベリスクをこのヴィコス峡谷にぶち込むフィナーレだ。
すなわちこの作品で、おれは地母神をファックする。
To: アレイヤ・パーセン
From: 学芸員キュレーター
件名: 全世界的オイディプス以下略について
日付: 2024/08/13
やぁ、パーセン!
私は批評家クリティックじゃないから君の作品にはとやかく注文をつけない。その上で、君の企画を見たときの感想を率直に言うと「バカげてる」だった。観客を喜ばせられるならどんなものでも出展作品として受け入れるのが私のポリシーだが、今回ばかりは不安だったね。客の反応も、君の正気も。
けれど、少なくとも前者に関しては杞憂だったようだ。元からああなることを予想してはいなかったのだろうけど……いや全く、結果としてはかなり見物だった!
君は今回の結果に満足してはいないと思うから、次の"神格ファック"企画にも期待しているよ。このメールを見ているかどうかわからないが、ぜひ私にサポートさせてほしい。
ただ、これの後始末は君だけでやってくれよな。
Trip Through the BackDoor
Step On Through
バックドア・ソーホー | 2024年 8月12日 月曜日 | 5¢ - 返金不可 |
UIU EXTRADITE ANARTIST TO GREEK?
UIU、ギリシャ政府に異常芸術家を引き渡すか
文責: ユーディ・ユング
連邦捜査局異常事件課(FBI UIU)は今日12日、異常芸術家であるアレイヤ・パーセン氏をアートテロリズムの実行犯として逮捕したことを発表した。ギリシャの警察当局は、超常国際刑事警察機構(PANGEAネットワーク)に基づきパーセン氏の身柄引き渡しを要請している。
2024/08/11の午前、パーセン氏はAWCY?の万国展覧会でのパフォーマンスとして、会場から約120mのオベリスク柱をギリシャ共和国ヴィコス峡谷へと転移させ、谷底へと落下させた。この結果オベリスクは砕け散るものと思われていたが、その時いくつかの神秘的な現象が起こった。
観客の話によれば、なんと峡谷に流れる川の表面から峡谷を越える巨大なサイズのナイルパーチが跳ね上がり、オベリスクを丸ごと呑み込んでしまったのだという。巨大な魚はそのあと姿を消し、パーセン氏はこの出来事に対する衝撃と落胆のあまり、通報を受けて現場に到着したUIUに無抵抗で逮捕された。
更にこの出来事について、神々の連合企業として知られるトリスメギストス・トランスレーション&トランスポーテーション(TTT)社の代表ヘルメス氏が自身のVoidアカウントにて、氏の父親でもあるギリシャ神話の天空神、ゼウス氏がパーセン氏の企画に乗じてオベリスクへと変身し同じくギリシャの地母神であるガイア氏に乱暴を働こうとしていたため、副代表のトート氏と協力して「お仕置きした」のだと発表した。
専門家は「もしオベリスクの破片が飛び散っていれば間違いなくヴィコス周辺の貴重な自然環境に悪影響を及ぼしていたであろうだけに、動機はどうあれヘルメス氏の行動は素晴らしかった」と語る。
なお、パーセン氏により計画されていたアートテロについて、ヘルメス氏は「ヴィコス峡谷は彼女(ガイア氏)の毛穴一つ程度。それこそ毛ほども感じなかっただろうね」「次はもっと頑張ってほしい」と、寛大にもパーセン氏の再挑戦にエールを送った。
パーセン氏への本紙独占インタビューは…